第109話 マジで勘弁して欲しいぞ その5

 となると、残ったテニス部はどうしてクラスイベントに人を出せたのだろうか・・・あの部は人数が少ないからかなり厳しい筈なのは俺にも分かるが・・・。

「あのー、テニス部の場合はどうなんですか?もしかして柔道部と同じような事があったから2年F組とG組のクラスイベントに人を回せたんですか?上野先輩たちが知ってる事があったら教えてもらえないでしょうか?」

と俺は控えめに聞いたつもりだった。

 だが、その瞬間、相沢先輩と藤本先輩がため息をついた

「あー、それは・・・真姫、あれを話してもいいのかなあ・・・」

「・・・みさきち、どうせ明日にはバレるんだから、この場で言ってもいいんじゃあないか?」

 おいおい、何でテニス部の話をした途端、どうしてこの二人がため息をつくんだ?

 何故か折茂先輩もため息をついているし、上野先輩だけはニコニコしている。

 俺と唯、舞は何のことだからさっぱり分からないが、ここで舞が「あっ」と声を上げた。

「あのー、先輩たち・・・もしかして、あの噂・・・松岡先生と伊達先生の話は本当だったんですか?」

 舞が恐る恐ると言った感じで相沢先輩や上野先輩に尋ねた。

 再び相沢先輩がため息をつくと、首を縦に振った。

 折茂先輩が上野先輩を見ながらため息をついたかと思うと、いきなり

「どう見たって俺たちの方が不利じゃあないか・・・勘弁して欲しいぞ」

 と言って立ち上がった。だけど上野先輩はニコニコしながら

「えー、どうみても私たちの方が有利でしょ?」

 と言って折茂先輩の肩を叩きながら立ち上がり、理由は分からないけど折茂先輩と上野先輩が口論を始めた。

「いいや、俺たちの方が不利だ」

「有利よ!」

「不利だ!」

「有利!」

「不利!」

 でも、俺には何故口論をしているのか全然意味が分からないし、それに何故か相沢先輩と藤本先輩も口論を止めようとしない。それどころか二人共渋い顔をしたままだ。

 仕方ないから俺が折茂先輩と上野先輩の間に無理矢理入って口論を止めさせ、同時に

「あのー、もしよかったら事情を説明して貰えませんか?」

 と上野先輩に恐る恐る言った。

 それに対し、藤本先輩が「あー、その話は私がしてもいいかなあ」と言い、上野先輩も折茂先輩も「任せる」と言って着席したので、藤本先輩が苦虫を噛み潰したような顔をして話し出した。

「実は・・・男子テニス部の顧問であり3年A組担任の松岡先生と、女子テニス部顧問であり3年G組、つまり折茂と上野の担任でもある伊達だて君子きみこ先生は、はっきり言って二人共テニス馬鹿だ。それに元々テニス部は男女とも年々部員が減少していて、とうとう今年は同好会になる寸前にまで減っているんだ。それで今週の月曜の朝、松岡先生が話題作りという訳の分からん理由で伊達先生に勝負を持ち掛け、伊達先生もやる気満々で、こともあろうかトキコー祭当日にテニス対決する事になったんだ」

「「「えーっ!マジですかあ!!」」」

「土曜日の午後に松岡先生と伊達先生のシングル、日曜日の午後には松岡先生と男子テニス部の部長である綿織、伊達先生と女子テニス部の部長である杉山のダブルスの試合を、どちらも2セット取った方が勝ちという条件でやる事になったので、審判役として何人かは駆り出されるけど結果的にそれ以外の時間は男女とも展示の留守番役の一人だけって事になってトータル的に人数が減ったのさ。ところが、3年A組もG組もそのあおりを受けて非常に迷惑してるんだ・・・」

 そう言うと、相沢先輩も藤本先輩も、さらには折茂先輩もため息をついた。

 上野先輩だけはニコニコ顔で藤本先輩の代わりに話しを続けた。

「松岡先生はA組もG組も数学を担当しているし、伊達先生はA組もG組も英語を担当してるわ。だから、シングルで松岡先生が勝ったらG組の数学が、伊達先生が勝ったらA組の英語が、トキコー祭が終わった後に1週間課題を通常の倍にするという生徒を巻き込んだ勝負になってるのよ。これは松岡先生が「自分のクラスの生徒の声援を受けられるから」という理由で言い出したんだけど、伊達先生だけでなく校長先生も教頭先生も了承しているわ。因みにダブルスで負けた方の部は、夏休みの合宿終了後に焼き肉バイキングの費用を負担する事になってるから、綿織君も杉山さんもハッキリ言って迷惑だってボヤいてたわよ。でも、当然男女同じ条件だと伊達先生が絶対負けるから、ハンデとして松岡先生と綿織君はサーブが1回だけという条件になってるし、さらに松岡先生はシングルの時はダブルスの広さでやる事になってるのよ。だから普通に考えたら伊達先生の圧勝よ。絶対にA組の英語の課題が増やされるのは確実だから折茂君も安心しなさい」

 そう言って上野先輩は折茂先輩の背中をバシッと叩いた。

 だけど折茂先輩は再びため息をつきながら

「だーかーら、絶対に松岡先生の方が有利だって何度も言ってるだろ?たしかに学生時代の成績はほぼ同じ位だけど、松岡先生はガチで部員のシングルの練習相手をするくらいの体力があるし、年齢だって松岡先生の方が5歳も下だぞ。だいたい伊達先生は出産で2年もブランクがあったんだ。たしかに今年に入ってからテニスを再開したけど、どう考えたって松岡先生有利だから俺たちG組の数学の課題が増やされるのは目に見えてる。伊達先生は山口先生に匹敵する程のプロポーションを出産した今でも維持しているから「テニスウァアを着てコートで汗を流す伊達先生の姿を卒業までに是非見たい」とか訳の分からん事をクラスの馬鹿共が男女問わず寄ってたかって言ったから伊達先生も妙に乗り気になって、こんなアホな試合をする事になったんだぜ。しかも最初は校長先生も教頭先生も反対したけど、理事長のクラーク博士が「面白い」とか言い出して逆に説得しちゃったから、もう誰にも止められない状況だ。俺は数学は超がつく程に嫌いだからマジで勘弁して欲しいぞ」

と言って、再びため息をついた。

 おいおい、たしか今朝の東西線の車内で俺は内山と中村から噂をちょっとだけ聞いたけど、まさか本当の話だとは思ってなかったぞ。しかもシングルは内山たち藍派は松岡先生、中村たち唯派は伊達先生が勝つ方に賭けていて、負けた方は勝った方にトキコー祭が終わってから2週間、購買でペットボトルのお茶を買ってやるという話をしてた。ダブルスはシングルとは逆で藍派が伊達先生に、唯派が松岡先生に賭けていた筈だ。

 唯は知らないのも無理ないが、俺も舞も、それに藍も本当の話だと思ってなかったから三人で笑い飛ばしてたけど、やるっていうなら藍派と唯派の代理戦争じゃあないか!うちのクラスも他人事じゃあないって事だから、俺だってボヤきたくなってきぞ!

 だが、この松岡先生と伊達先生の計らい(?)で2年F組とG組が救われたのも事実だから、一概に悪だとも決めつけられない。まったく、松岡先生も伊達先生も善人なのか悪人なのか分からんぞ!?

 マジで勘弁して欲しいぞ!!

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