第108話 内情

 でも、俺たちが笑っている最中に生徒会室の扉をノックする音が聞こえた。相沢先輩がドアを開けると、そこにはトキコー指定ジャージを着た上野先輩が立っていた。ジャージを着ているという事は、多分柔道部の練習中に藤本先輩が呼びにきたので柔道着を脱いでジャージでここに来たのだろう。

「みさきー、何か用なのー」

 上野先輩は屈託ない笑顔で相沢先輩に話しかけた。たしかこの二人は中学の同級生だったはずだ。その上野先輩に話しかけられた相沢先輩は

「うーん、ちょっとねえ。まあ、とりあえず座って。もうすぐ折茂君も来るわよ」

「なにい!折茂君も来るなんて聞いてないわよ。藤本の奴、どうしてそれを言わなかったのよ!そうと分かってたらジャージなんて着てないわ、くっそー、折角のチャンスを棒に振ったわ」

 とか言って口を尖らせながら席に座った。俺も舞もそんな上野先輩を見て少し笑ったが、上野先輩が俺の方をジロッと見たので俺も舞も笑うのをやめて超がつく程の真面目な顔になった。

 その後は上野先輩と相沢先輩が二人だけでトークをしていたけど、2~3分経ってから生徒会室をノックする音が聞こえ、ドアが開いた。そこには藤本先輩とトキコーバスケ部のジャージを着た折茂先輩が立っていた。ジャージの下には男子バスケ部専用の練習着を着ているので、こちらも藤本先輩が呼びに来たので練習途中に抜け出してきたというのが分かる。

 相沢先輩が「折茂君、空いてる席に座ってね」と言ったので折茂先輩は黙って俺の左に座った。でも上野先輩は折茂先輩が座った途端、さっきまでの態度とはガラリと変わり、明らかにガチガチになっている。これはこれで笑いたかったが上野先輩からまた睨まれるのが嫌なので俺は努めて平静を保った。基本的に折茂先輩はバスケに関しては熱血漢だがそれ以外では寡黙の人だ。上野先輩は逆に普段は超がつく程の明るい性格で風紀委員会随一の能天気女とまで言われる程だが、柔道着を着ると人が変わったかのように闘志を内に秘めた鋭い目をした、まさに格闘家に変わる。まさに正反対の男女が並んで座っているのだから、俺がここにいるのは場違いのような気がしないでもない。

「・・・すみません、真姫に頼んでお二人に来てもらったのは、少しお聞きしたい事があった為です」

 そう相沢先輩は口火を切って、2年F組とG組から提案のあったトキコー祭での共催について簡単に説明した。そして、特に2年G組の窮状を説明し、生徒会としても何とかしてやりたいと思っていると話した。

 それに対し折茂先輩はウンウンと2、3回頷くと

「・・・その話についてはうちのバスケ部員から少しだけ聞いている。あいつはG組所属でクラスの悲惨な状況を知ってるから、俺に直接相談を持ち掛けて来たんだ。だから俺は部の方はいいからクラスに行けって言ってやったよ。先生から話がきたのはその後だけど、女子バスケ部は先生から話があってからあれこれやってたみたいだったけど、最終的に女子バスケ部の部長の大神が俺の方に相談してきて、元々男女別にイベントをやるつもりだった所を互いに融通しあう事、つまり共催にする事でどの時間帯も人を減らす事にしたんだ。多分だけど、俺たちバスケ部の対応をヒントにしてF組とG組の共催を思いついたんじゃあないのかなあ」

と言い、同時に剣道部も男女別でやる予定の所をバスケ部同様に男女剣道部共催にする方向で、明日の実行委員会に両部共に修正提案すると説明した。

 折茂先輩が言ってたが、下級生は上級生に対して意見を言い辛いので、折茂先輩が部長になってからはバスケ部は風通しをよくする為、先輩自身が2年生、1年生の輪の中に入っていって色々と話しを聞いてやる事で不満解消に努めているらしい。バスケ部と剣道部が男女共同開催にして人数を減らすのは事実だが、基本的にその減らした人員は1年生、2年生に振り向ける事で顧問の先生とも同意して既に配置予定表も顧問の先生に提出済との事だった。「修正前と後の予定表を見れば3年生の数は変わらず2年生、1年生の数が減っているのが分かる筈だから確認してくれ」と言ってたので、相沢先輩は後で顧問の先生に確認しますと答えた。

 ただ、男女共催にした事で準備にかかる費用が少し軽減できたので「浮いた費用は剣道部もバスケ部も女子連中が場違いな衣装のレンタル代に回すみたいだけど、そこは会長も風紀委員長も目を瞑ってやってくれないかなあ」とも言って頭を下げた。さすがの藤本先輩もそれを咎める気はないらしく「そうかあ、楽しみだなあ」と言ってニコッとした。

 だが、上野先輩の柔道部は別の事情だったようだ。

「いやー、美咲には申し訳ないが、柔道部の場合、3年生の一部にとんでもない奴がいて、それで1年生、2年生に迷惑を掛けていたんだ。それが分かったから柔道部の担当を見直して2年F組とG組はクラスの方だけに行かせる事にしたんだ」

と、申し訳なさそうに説明した。

 当然、相沢先輩たちは意味が分からないから上野先輩に説明を求めたが、そうしたら上野先輩は渋い顔をしながら答えた。

「うーん、個人名は伏せておくけど、そいつら、自分のクラスには「柔道部の方で参加します」と言っておきながら、部には「クラスの方で参加します」とか言ってて、本当は実質2日間どっちにも参加しない、もしくは殆ど参加しない奴がいたんだ。たまたま男子柔道部の顧問でもある斎藤先生が2年G組の話を持ってきた時に各人の予定を先生自身が聞き取りしたんだ。そうしたら斎藤先生のクラスである3年D組の奴が嘘を言ってた事が分かったんだ。それで男女柔道部の全員の予定を斎藤先生自ら調べ上げた結果、男女合わせて6人も嘘をついてた奴がいた事が分かって、当然斎藤先生だけでなく女子柔道部顧問の谷村亮子先生も大激怒でみっちり搾り上げられたよ。私も部長として部員の不正を見逃していた事には違いないから、立場上、2年F組とG組の実行委員と担任に謝りに行ってきたけど、当然私も本人にも説教してやったさ」

 上野先輩はサバサバした表情で言ってたけど、内心は結構怒ってたようにも感じた。たしかに上野先輩が言う通り、上級生がこんな事をしていたら下級生としてはそのツケを払わされるのだからたまったものではないというのが分かる。こんな事をする奴が他にいない事を祈りたい。

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