第104話 ゴチになります
これを読んで俺は真っ青になった。
今朝、俺は藍と腕を組んで歩いている時に「放課後も一緒に帰りましょう。唯さんは車で帰るけど、私は文芸部の方へ行くからと言って車に乗らないから教室か図書室で待っててね」と言われていたのをすっかり忘れていたのだ。
俺は慌てて列から離れ、店の外に出て電話を始めた。
『・・・もしもし!どういう意味なの!!』
「スマン!忘れてた」
『はあ?どういう事?それに今、どこにいるの?』
「泰介と歩美ちゃんと一緒に大通りの地下街にあるWcDの前だ」
『そこで何をしてるの?』
「色々あって、ちょっとここで飲み食いしてから帰る事になった。ただ、注文はこれからだ」
『じゃあ、私もそこに行っていいかしら?当然、会計は拓真君持ちよ!』
「わーかったって。じゃあ、泰介たちには俺から言っておくけど先に食べてていいか?」
『いいわよー』
そう言って藍からの電話は切れた。
はー・・・どう見ても藍はご機嫌斜めだよな。多分、泰介たちがいる間は絶対に本性を見せないけど、その後が地獄だぞ。
仕方ないから俺は泰介たちに「藍からメールが入ったけど、あいつもここに来るみたいだけどいいよな」と事情を話し、俺たち三人は先に注文して待ってる事にした。本当は俺もチーズダブルバーガーセットにしたかったのだが、経費節減のため、やむを得ずポテトのSサイズとコーヒーだけにした。
「あれ?たくまー、お前はこれでいいのか?」
「ああ、俺はこれでいい。夕食前に食べすぎると母さんから文句言われそうだからな」
「へえ、じゃあ、オレは遠慮なく食べさせてもらうぞ」
「兄貴、ゴチになります!」
そう言って泰介と歩美ちゃんは揃ってチーズダブルバーガーを食べ始めた。俺はポテトだけで我慢するのも辛いから、この際だからコーヒーだけはお替りしまくってやるぞ!
やがて藍も合流したけど、藍は自分で注文したチキンバーガーセットを持っての登場だ。
「ごめんなさい、無理矢理来たような形になってしまって」
「あー、いや、オレは問題ないぞ」
「そうだよー、藍ちゃんが来てくれた事で賑やかになるから嬉しいよ」
はああー・・・泰介も歩美ちゃんも藍の本当の目的を知ったら卒倒するぞ。でも、この場で俺がそれを言う訳にはいかないから無理して愛想笑いで誤魔化すしかなかった。
藍の奴、夕食前に結構ボリュームあるセットを注文したけど、大丈夫なのかな?いや、藍も唯も基本的に食べても太らない体質だからクラスの連中から羨ましがられていたのも事実だ。歩美ちゃんは「痩せの大食い」でA組随一の大食漢(?)にも関わらず唯と同じくらいの体型だ。特に藍はそのモデル並みのスタイルな事もあり、殆どダイエットマニアになりつつある村田さんから「太らない秘訣を教えてくれ!」といつも羨ましがられてたなあ。俺は元々男にしては食が細いからスラリと見えるだけで実際にはもう少し筋肉をつけたい位だ。
「ところで、どうして歩美さんたちは拓真君と一緒にWcDに行く事になったの?」
「あー、それはだなあ・・・」
ここから先は泰介の自慢話が続き、俺はまさに穴が入ったら入りたい状態だった。歩美ちゃんも藍もあまりの俺の不甲斐なさに「またですかあ?」とか言い出すから俺も苦笑いするしかなかった。
それにしても、俺がトキコー祭実行委員として活動するとほぼ毎回のようにロクな目にあわないから、俺自身も呪われてるのかもしれないなあ。ひょっとしたら、唯だけでなく俺も北海道神宮でお祓いを受けた方がいいかもしれない。
結局、俺たちはWcDで1時間くらい喋った後にお開きとなり、泰介と歩美ちゃんの二人は歩いて札幌駅へ、俺と藍はそのまま東西線のホームへ降りて行った。
藍は東西線の車内では大人しかったが、いつもの駅で降りて地上にでた途端、俺と腕を組んで歩き出した。ただし、俺の左手を握っている力が尋常ではない位に強い。
「あのー、藍さん・・・ちょっと腕が痺れてるんですけれどー」
「あったり前でしょ!どうして何の連絡もなく先に帰ったのか説明して頂戴!!」
「だーかーら、それは悪かったって。俺だって好きでインストールに失敗した訳じゃあないし、それに泰介に助けてもらったのは事実なんだからさあ」
「なら、私にメールで一言連絡すれば済んだ話でしょ?それをしなかったから私が怒ってるんです!」
「スマン、反省してる」
「罰として明日も一緒に帰ってもらうわよ!」
「えー!明日は篠原たちと伊勢国書店でクイズ同好会の活動が・・・」
「問答無用!」
「すみませんでしたあ!明日も藍と一緒に帰ります!!」
「分かればいいわ。まあ、今日はこれ位で勘弁してあげる」
そう言うと藍はようやく俺の左腕を解放してくれた。さすがにその後は腕を組んだり手を繋いだりする事はなかったけど、殆ど肩を寄せ合って歩いて事には違いない。
藍は家につく直前の曲がり角からは俺と少し離れて歩き、家に入る時は俺がドアを開け
「「ただいまー」」
と二人で元気よく挨拶した。
「おー、おかえりー」
と父さんが返事をした。そう言えば父さんは出張帰りだったのをすっかり忘れてた。その父さんの前に唯が座ってコーヒーを飲んでいた。どうやら俺たちが帰ってくるのを待ってたみたいだ。
「あー、お義父さん、お帰りなさい」
「おー、一緒に帰って来たのか?どこかで待ち合わせでもしてたのか?」
「私が拓真君に『これから帰るけどまだ学校にいるの?』ってメールをしたら泰介君と歩美さんの三人で大通りのWcDで喋ってるって連絡がきたので、私も一緒になってWcDでお喋りしてきたのよ」
「あー、羨ましいなあ。唯も行きたかったなあ」
「じゃあ、早く足を治してね」
「はいはい。でも、今週の土曜日に検査して問題なければ普通に歩けるようになるよ」
「それじゃあ、来週の月曜にでもWcDに行くか?」
「賛成!もちろん、たっくんのおごりでね」
「おいおい、今回の怪我は唯の不注意なんだから、逆に迷惑料という事で唯が俺と藍におごるべきだぞー」
「そうそう、私も拓真君の意見に賛成よ」
「そんなあ、ぷんぷーん!」
「まあまあ、じゃあ、父さんが出すから三人で行ってこい」
「うっそー、お義父さんが出してくれるの?」
「いいぞ。ただし唯ちゃんが松葉杖なしで歩けるようになったらという条件つきだぞ」
「やったあ!ぜーったいに治してみせまーす」
「はいはい、お喋りはこのくらいにして夕飯にしましょうね。拓真も藍ちゃんも着替えてきなさい」
「「はーい」」
そう言われたので俺も藍も自分の部屋に戻って着替えてから1階へ戻り、久しぶりに五人揃っての夕食となった。
夕食後は父さんが東京土産で買ってきた和菓子を食べたが、さすがに和菓子にコーヒーでは場違いという事で番茶で和菓子を食べた。おいおい、たしか藍はさっきからずっと食べ続けだけど、マジで大丈夫なのか?それとも、食べた分は全て胸に行くのか?俺はマジで聞いてみたいぞ。
その後は昨日と同じく藍と唯は1階の客間で寝るから遅くまでお喋りをしていた。唯はまだシャワーも出来ない状態だから体を濡らしたタオルで拭くだけだったけど、背中を拭くのは今日は藍がやったみたいだ。
でもなあ、2階にいても丸聞こえだったから、ある意味、耳の毒だぞ!ただでさえ最近は眠りが浅いのに、ますますヤバイ状態にさせられたぞ!!
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