第103話 今や俺の存在は・・・

 時間は進み放課後。

 藍と唯は当たり前だが生徒会室へ行ってる。唯の鞄は藍が持って行ったが、さすがに今日の唯は自分で松葉杖を使って生徒会室へ向かった。それに学校での唯は優等生そのものであり、相沢先輩たちの前で今朝のような態度を示す事は絶対にあり得ないから、俺もその点は心配してない。

 俺の方はというと、今日はトキコー祭のクラスイベント準備のため、泰介と共に放課後に居残りで頑張っている。昨年の泰介はかなり苦労して実行委員をやったが、今年は昨年ほど難しくない・・・はずだったのだが、俺が序盤からミスを連発した事で、周りが俺の作業に手を出してきた。

 実行計画表を作成するにあたっては唯がかなり修正、いや、実際には唯が大半を作成している。細かい修正なども「唯、どうしたらいい?」などと聞いている始末で、どっちが実行委員なのか分からない状態だ

 女子が使う衣装、つまりコスプレのレンタルは最初から歩美ちゃんと村田さんの新旧クラス委員コンビが「兄貴にやらせると女の子が可哀そう」と訳の分からない理由を並べて女子のアンケートや業者への手配まですべて取り仕切っている。

 クラスイベントの担当割り振り表の作成にあたっては、藍が『A組の女王様』の顔を使って各人の調整だけでなく部・同好会にまで乗り込んで交渉を行ってくれた事で割り振り表を作る事が出来たので俺はますます藍に頭が上がらなくなった。

 当日のA組のレイアウトや飾りつけは、俺の提案したものは酷評どころか速攻でボツにされ、美術部所属の伊藤さんが色鉛筆を鮮やかに使って描きあげた絵が男子に、SEを目指している神谷がCGで見事に作り上げた物が女子に圧倒的に支持され、口論になる寸前に山口先生が仲裁に乗り出して初日は伊藤さん、二日目は神谷の案のように部屋を作り変える事になり、これが逆に「面白そう」「リピーターを確保できる」とみんなに好評で仲裁すら出来なかった俺は縮こまっているしかなかった。

 消耗品や飾りつけに使う物の手配も、とある商社の支店長をしている平野さんの父親のコネを使ってかなり格安で手に入れられる事になり、その浮いた費用でレンタル衣装の種類を増やす事が出来て、山口先生からも他の女子からも「平野さんは神様だ」と崇められ、俺は面目丸潰れだ。

 他にも細かいところを上げればキリがない状態で、今や俺の存在は『名誉実行委員』『名ばかり実行委員』『会議担当実行委員』のようなものだ。

 今日もそうだ。本来の作業はパソコンにソフトをインストールしてそれをプリンターと連動し印刷できるようにするだけだ。それを3台のパソコンにやるだけの特に難しい作業ではない。泰介はただ暇潰し、正確には歩美ちゃんの同好会が終わったら一緒に帰る約束をしていたらしく暇を持て余していただけなのだが、俺が大チョンボをやらかした事で泰介が奮闘する羽目になっている。

 俺としては正しくインストールしたつもりだったが、実際にはデータやソフトの一部を消去していて他のシステムが動かなくなっていた。そのため、泰介が修復作業を行っている。

「たくまー、お前は遊ぶ専門でないと駄目だなー」

「たいすけー、分かってるなら俺にやらせるなよー」

「これくらいなら拓真のミジンコ並みの脳でも出来ると思ったんだがなあ」

「悪かったな。どうせ俺はミジンコ以下だよ」

「真面目な質問だが、お前から漢字と計算を取ったら何が残るんだ?」

「うーん・・・恐らく毎日ゲームして過ごす三流高校生だな。お前に反論できない自分が情けないぞ」

「だろうな、って言っても始まらないぞ。それにしても、どうしてここを消去したんだあ?」

「いやー、このパソコン、かなり旧型の上に空き容量がすくないんだよなー。しかもそのせいで動きがかなり遅いんだ。仕方ないから表計算ソフトとか学習ツールを片っ端から消していって、しかも訳の分からないゲームとかのツールも沢山詰め込んであるから片っ端から消していったら、いつのまにか本当に必要な所まで消してたんだ・・・スマン」

「まあ、どうせ平野さんの父親のコネでタダで譲り受けた代物だからなあ・・・でもなあ、トキコー祭が終わった後、内山たちに二束三文だけど売る約束になってるんだから立派な商品なんだぜ。オレがいなかったらどうするつもりだったんだ?」

「スマン・・・後でWcDのハピネスセットを奢るよ」

「たくまー、おれは幼稚園児じゃあないんだぞ。Bigワックセットにして欲しいなあ」

「それは勘弁してくれよー。せめてチーズダブルバーガーセットにしてくれー」

「おーし、それで手を打とう。当然、歩美の分もな」

「えー!それは勘弁してくれー」

「じゃあ、お前が修復しろ」

「わーかったってー。ただし、絶対に動くようにしてくれよ」

「あいよー。もう1台のパソコンの中から必要なデータをCDを使ってインストールすれば楽勝だ」

「お前さあ、そうやってゲームを増やしてたのか?」

「いやあ、兄貴はオレ以上の凄腕だぞ」

「マジかよ!?」

 とか言ってる間に泰介は見事にパソコンが動くように修復させ、さらにプリンターとの連動を確認するためのテスト印刷も行い、問題ない事も確認できた。

「おーい、拓真、OKだぞ」

「スマン、迷惑かけた」

「なーに、気にするな。特別サービスで残りの2台のインストールもやってやるぞ」

「いいのか?」

「どうせ歩美がまだ来てないから暇つぶしにやってやる。それにチーズダブルバーガーセット3つなんてセコイ事を言わないから安心しろ」

「じゃあ、泰介に任せる」

「おっけー」

 結局、泰介は歩美ちゃんが来る前に3台のパソコンのインストールとプリンターとの連動をすべて完璧に終わらせ、ドヤ顔をしていた。

 さらに泰介は「どうせ暇だから」と言って、何やら2台のパソコンのデータの一部をハードディスクからCDに移し替えている。

「おーい、泰介、何をやってるんだ?」

「あー、これはだなあ。さっきお前が言った通り、容量に余裕がなくて動きが遅くなってるから、トキコー祭の時には使わない表計算ソフトやゲームなんかをCDに移し替えてるのさ。もちろん、俺たちが使わないようなソフトは消去だけどな」

「へえ、それで軽くした後、CDに移したソフトをどうするんだ?」

「ん?俺の部屋のパソコンで使えるものは外付けハードに入れるのさ。ゲームなんかは内山たちに安値で売りつける。もう手に入らない貴重なゲームもいくつかあったからなあ」

「あー、きったねえ!」

「まあ、あまり高値で売りつけると最初から買ってくれないから、購買のパン1個程度の値段でいいから買ってくれ、って言えばスンナリOKしてくれるさ。これならCDの元値も回収できるからな」

「はー・・・お前、その道で食っているぞ」

「そうかもな」

 そう言って俺たちは二人で笑った。

 その後、俺と泰介はしばらく男だけの会話をしていたが、しばらくして歩美ちゃんがA組に入ってきた。

「おっまたせー、って拓真君もいたんだあ。という事は唯ちゃんでも待ってるの?」

「いやあ、違う違う、さっきまでこのパソコンとプリンターの調整をやってたのさ」

「あらー、実行委員のお仕事ご苦労さまです。ちゃんと仕事をやってて偉いわよ」

「おい、歩美。実際にやったのはオレだぞ。オレには何かないのか?」

「えっ、そうなの?」

「ああ、本当だ。俺が1台目で失敗したからデータの修復は泰介がやってくれて動くようにしてくれた。残る2台も泰介が全部やってくれた」

「しかも喜べ歩美、この礼にWcDのチーズダブルバーガーセットを拓真のおごりで食いに行く事になった。しかも歩美の分の拓真が出してくれるぞ」

「うっそー、ラッキー!」

「はー・・・で、いつ行くんだ」

「「すぐ行くに決まってるでしょ!」」

「はいはい、じゃあすぐに行きましょう」

 結局、俺は泰介と歩美ちゃんと一緒に帰る事となり、パソコンとプリンターは盗難防止のため学校事務に依頼して機材室に入れてもらい、そのまま靴を履き替えて下校した。

 WcDは札幌駅の地下街にもあるが俺の定期券では札幌駅まで南北線で行けないので、いつも通り大通駅で降りて、大通りの地下街にあるWcDに入った。そこで注文をしようと並んでいた時に俺のスマホに1件のメールが入った。


『唯さんは先ほど車で帰りました。でも、拓真君が図書室にも教室に残っていないのは何故ですか?靴もないので帰ったようですが、まさか忘れたとは言わせません!即刻連絡しなさい  藍より』

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