第102話 そこは感心するぞ

 ところが・・・3つ先の駅で乗り込んできたのは内山と堀江さんだけだった。

 俺は中村がいなかったから「あれっ?」と思ったし、それは藍や舞も同じのようで、俺たちは三人そろって首をかしげている。

 そんな俺たちを見ながら、内山がやや申し訳なさそうに

「や、やあ、おはよう・・・」

と、あいつにしては珍しく口ごもってしまった。それに堀江さんも困惑したような顔をしている。

 そんな二人を見ていた舞が「あっ!」と声を上げた。

「堀江先輩、まさかとは思いますが中村先輩は既に登校して唯先輩を学校で待ち構えているんじゃあないですか?」

 そう大声を上げたから俺もびっくりして舞の方を見た。当然、藍も舞の方を見ている。

 堀江さんはため息をついたかと思うと

「・・・そうなのよねえ。昨日の夜9時頃だったかな、中村君からメールで『俺は明日は学校で唯さんを出迎える。でも何時頃にくるか分からないから風紀委員よりも早く学校へ行く』とか言ってきてね。私は思わず『アホか!』と返信したけど、本人は至って大真面目よ」

「そうなんだよ。おれのところにも堀江さんと同じような内容のメールが届いてるぞ。しかもどうやら神谷やE組の福山も早く行ってるみたいだぞ」

 おいおい、神谷もE組の福山も唯派の副会長と言われてる奴らだぞ。そいつらが先に行ってるってことは・・・俺は思わず藍の方を見たけど、藍も俺の方を見ていた。そして、俺はに気付いた。思わず俺は内山に向かって大声で

「おい、まさかとは思うけど、唯派の連中がお客様駐車場付近で大挙して早朝から唯が来るのを待っているって事じゃあないだろうなあ!」

と叫んでしまった。それに対し内山は再び申し訳なさそうな顔をして

「・・・その通りだ、スマン」

「・・・そうなのよねえ。私も内山君から聞いて耳を疑ったわ」

 おいおい、勘弁してくれよお。そんな事をしたら間違いなく『トキコーの女王様』藤本先輩が乗り込んでくるぞ。絶対にあいつら全員、朝からゲッソリした顔をして教室に入ってくるはずだ。嘘であって欲しいぞ・・・

 だが、俺の期待も空しく今日の南北線に乗っていたトキコーの生徒の数はあきらかにいつもより少ない。それは南北線を降りて地上に出てからも同じだった・・・だから正門に立っていた3年生の男子二人の風紀委員も揃って「おや?」という顔をしていた。

 俺たちが教室に行ったら既に唯は来ていてクラスの女子とお喋りをしていたが中村も神谷もいなかった。藍はそのお喋りの輪に加わったが俺は男が一人だけ輪に入るのは気が引けたから廊下へ出た。当然だが中村がいないので内山も俺に続いて廊下に出た。

 ところが、俺が廊下へ行ったら中村や神谷、それに唯派の連中が揃って登校してきたが、全員朝からゲッソリしたような顔をしている。

 おいおい、まさかとは思うけど・・・俺は恐る恐る中村たちに声を掛けた

「おーい、中村、それに神谷。どうしたんだ?朝から元気ないぞ」

 それに対し中村は深いため息をついたかと思うと

「・・・どうしたもこうしたもないぞ。おれたちは正門が開くと同時にお客様駐車場で唯さんを待っていたんだけど、なぜか植村先生と斎藤先生、さらには藤本先輩が揃ってやってきて、全員そのまま生徒指導室へ連れていかれて植村先生と斎藤先生のダブルで説教タイムだ。しかもお客様駐車場には藤本先輩が残っていたから、恐らく後から来た連中は藤本先輩に説教された筈だぞ。おかげでおれは今朝は唯さんが登校してくる所を見られなかった挙句説教させられたから最悪だ。まさに悪夢だな」

 神谷も同じようにゲッソリした顔をして

「おれも中村と同じだ。どうやらおれたちの行動は読まれていたらしいな」

そう言ってため息をついた。

 俺は中村に「生徒指導担当と風紀委員会顧問の先生のありがたーいお話を聞けた感想は?」と揶揄ったけど中村は「藤本先輩の方がまだマシだったかも・・・」とボヤいた。でも中村たちの後ろにいたB組の櫻井が「俺は生徒指導室に連れて行かされた方がマシだったと思ってるぞ」とゲッソリした顔で答えた。どうやら藤本先輩の説教も相当凄まじかったようだ。まさに『トキコーの女王様』の本領発揮といったところだな。

 内山は苦笑いしながら中村に声を掛け、「おーい、中村、明日もやるのか?」と聞いたが、さすがに中村が「いや、今日は説教で済んだけど、明日も同じ事をやったら説教では済まないからやめておく。明日は素直にいつもの時間の東西線に乗る」と答えたから、俺も苦笑いするしかなかった。

 どうやら唯を待ち構えていた連中は全員同じ目にあったようだ。そう考えるとこいつらは気の毒だけど、いい薬になったのは事実だ。それにしても唯の人気は凄いなあ。そこは感心するぞ。

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