第69話 わたしって、そんなに有名人になっていたんですか?

 その日の放課後、俺は『クイズ同好会』としての活動をする為、篠原、長田の三人でに行った。

 俺はA組なので普通科クラス所属の篠原、長田より1時間授業が多い。2年B組はミステリー研究会の活動場所になっていて、今日はミステリー研究会が活動をしているから、俺たち3人は長田のクラスであるC組に集合し、全員そろった段階で南北線に乗り込んだ。

 今日の俺たちクイズ同好会の活動は『立ち読み』だ。

 トキコーの図書室に購入希望を出した本の全てを図書室側が購入してくれる事はない。あちら側にも予算の都合という物があるし、だいたい、図書室に置ける本の数にも限りがある。だから人気の本はすぐにでも図書室側が手配してくれるし、中には文芸部の予算で揃える文庫本もある。だが、俺たちクイズ同好会が求める本の大半は、毎回審査の段階でボツになり、トキコーの図書室に入ってくる事はない。希望が通るのは1割にも満たない。まあ、俺たちは形の上では個人で図書室側に申請を上げているし、しかも大半の生徒から見たら「なんだそりゃあ?」というような本ばかりを申請しているのだから、審査に通らないのも当たり前だな。

 そんな俺たちの貴重な『活動場所』になっているのが、札幌駅の近くにある道内最大の書店の伊勢国書店だ。正確には、立ち読みしながらお互いにクイズを出し合う、あるいはクイズの問題をアレンジして互いに出し合うなど、『お店側にとっては非情に迷惑な客』以外の何者でもない行為を2時間も3時間も繰り広げているのだ。この『お店にとって非常に迷惑な客』の活動(?)は、ほぼ毎月のように行われていて、伊勢国書店は半ば俺たちクイズ同好会の『第三の活動場所』になっているのだ。

 今日も午後7時近くまで、色々なクイズ番組の過去問題集を使ってクイズ合戦をした後、俺は篠原、長田と別れて大通駅に向かって歩いて行った。篠原と長田はJRと南北線を使って通学しているのでそのまま札幌駅へ向かう事になるが、俺の定期券では南北線を札幌まで乗れないので、札幌駅に行く時は、いつも大通駅で降りてそこから徒歩という事になる。因みに篠原も長田も俺に合わせて、いつも大通駅で降りてそこから徒歩で伊勢国書店へ移動だ。まあ、大通駅と札幌駅は南北線の隣り合わせの駅であり、しかも駅間の所要時間がわずか1分という距離だから、これを徒歩で移動しても全然問題ない。

 歩きながらスマホを確認したら、30分程前に藍からメールが入っていて唯と二人で帰ると書いてあった。この時間なら既に南北線も降りて東西線に乗っている筈だから、今から連絡しても遅い。だから俺も「これから帰る」と、唯と藍にしてから大通駅に急いだ。

 そして、俺が東西線ホームについた時、そこに見知った人物がスマホを操作しながら列に並んでいる事に気付いた。

 今朝は一緒に登校しなかった舞である。しかも舞は俺に気付いてない。

 俺はゆっくりと舞に近付いたが、それでも舞は気付かない。だからホントに舞の真横に立って、小声で

「おーい、舞」

とだけ言ったら、舞はびっくりして顔を上げた。

「うわっ・・・た、拓真先輩じゃあないですかあ。驚かせないで下さいよお。スマホを落とすかと思いましたよ」

「いやー、スマンスマン」

「ったくー。ところで、どうしてこんな時間にここにいるんですか?」

「いやー、篠原と長田の三人で、伊勢国書店で長々とクイズ合戦をしてたからなあ」

「そうだったんですか。まあ、おおかた学校の図書室にないクイズ本を使って、それを『クイズ同好会の活動』とか言ってたんじゃあないですか?」

「おー、よく分かったなあ」

「まあ、メンバーと、クイズ同好会の実情を照らし合わせれば、おおよその見当は付きますよ」

「まったく、お前の読みの鋭さには敵わないなあ」

「まあ、与えられた情報を整理して正しい答えを導き出すのが、推理小説を読んでいく上で必須ですからね」

 ここで東西線の電車がホームに入ってきたので、俺と舞は一緒に乗る形になった。まあ、舞の方が1駅先に降りるので、それまでの間だけだ。

 さすがに混んでいるので最初から座る気はない。だけど、さすがに舞と二人並んで座席に座るのはもっと気が引けるから、仮に空いたとしても俺は立っているつもりだ。多分、舞も同じだろう。それに、心なしか舞の顔がいつもと違うような気がする。何となくだが普段より・・・まあ、その原因はこれだろうな。

「ところで、今朝、一緒に登校しなかったけど、何かあったのか?」

「あ、あのー、そ、その事ですけどね・・・お恥ずかしい話ですが、目覚まし時計をセットするのを忘れて寝過ごしましたあ。しかも昨夜はお母さんが夜勤だったので起こしてくれなかったから、いつもの東西線に乗れませんでしたー」

「へえ、そうだったんだあ」

「すみません、連絡もしてなくて・・・結構遅刻ギリギリでしたから」

「今朝は舞がいない事を不思議に思ってる奴が『どうしたんだ?』って俺たちの所に聞きに来たくらいだぞ」

「え?わたしって、そんなに有名人になっていたんですか?」

「そういう事だ」

「すみません、わたし、実感がないんですよ」

「あいつらに言わせれば『佐藤三姉妹』が一緒に登校してくるのは当たり前らしい。藍は風紀委員だからいない時があるのは納得できるが、舞がいないと逆に違和感を感じる奴が多いという事だ」

「なるほど」

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