亀裂と結束

第67話 小心者の大胆な行動

 俺たち佐藤きょうだいは毎朝三人一緒に登校する訳ではない。

 それは藍が風紀委員をやっているからだ。風紀委員は、委員長である藤本先輩を含めて22名いる。だが、藤本先輩も藍も生徒会執行部の一員なので、トキコー祭の準備のため、4月からは基本的に放課後の巡回担当から外れ、代わりに朝の担当が多くなっている。そのため、俺と唯だけで登校する日が週に1度は少なくともある。

 今朝も藍が朝の担当だったので、俺と唯は二人だけで登校している。

 唯としてみれば、三人で登校する時は末っ子であるが故に大人しくしているが、俺と二人だけで登校する時はまさに彼氏彼女の関係であり、とうとうゴールデンウィークが始まる少し前からは、俺と肩を寄せ合う位の距離で歩くようになった。ただ、当然ではあるが、こうやって歩くのは地下鉄に乗るまでである。次の駅からは必ず舞が乗車するので、乗車したら以前の唯に戻る。ほとんどの場合、俺が立っていて、唯と舞が二人で座って女子トークを繰り広げている。藍が乗っている時は、藍と唯が座っていて、俺と舞がその前に立っているパターンがほとんどだ。

 だが、今朝の唯は大胆な行動に出た。家を出た途端、俺の左手を自分の右手で握ったかと思うと、そのまま俺と一緒に歩き出した。そう、俺たちは手を繋いで歩き始めたのだ。

「おい、唯、お前、いいのか?」

「別にいいでしょ?唯がやりたいようにやってるだけだよ」

「じゃあ、このまま学校に行くまで手を繋いでいるつもりか?」

「・・・それはまだ無理だよー。だから駅まで」

「ゆーいー、お前、案外小心者だな」

「悪かったわね!これでも結構勇気がいる行動だよ。どうせ唯は舞ちゃんに見せつける勇気は持ち合わせてないですよーだ」

「でも、以前は堂々と繋いでただろ?」

「あれは夕方や夜だったから、目立たないからだよ。だから堂々と手を繋いでいても平気だったけど、昼間は前も繋いだ事が無かったよ」

「まあ、たしかに言われてみればそうだったなあ。それにしても、こんな所を誰かに見られたらどうする気だ?」

「あー、それは大丈夫だよ。だって、今まで1回も見られたことがないでしょ?だいたい、二人で一緒に東西線に乗ったというだけで噂話になりそうなのに、そんな話はこれっぽっちも出てないでしょ?」

「まあ、そうだが・・・」

 たしかに、俺たち『佐藤きょうだい』が義理とはいえ、本当のきょうだいになってから、俺は藍、唯と二人だけで登校、もしくは下校した事は何回かある。藍よりは唯と一緒の時が多いが、それでも一回も噂話になった事はない。

 先週、唯が自暴自棄になっていたとはいえ、俺たちはまで行ったが、その日の夜から、あきらかに唯の行動パターンが変化している。義理の両親である俺の父さん、母さんのいる前では特に今までと変わった様子はないが、父さんと母さんがいない時は藍の目の前でも俺にベタベタとくっつくようになった。手を繋ぐようになったのも、その延長だろうか?

 このままだと勘の鋭い藍に感づかれそうだ。いや、もしかしたら既に藍は気付いているかもしれない。まさに修羅場へ一直線の様相を呈してきた。

 そんな唯だが、東西線のホームで待っている間はずっと俺と手を繋いでいたが、地下鉄に乗り込むと同時に、いつもの唯に戻った。そして、次の駅で舞が・・・と思ったが、何故か舞は乗ってこなかった。俺も唯も目を見合わせて「あれっ」とハモッたくらいだ。まあ、日直の可能性もあるし、風邪で欠席とかも考えられるから、あえてそこは何も言わないでおこうと思った。

「ところで唯、あっちの噂はあっという間に校内中を駆け巡ったな」

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