第58話 紛糾する実行委員会

 昼休み、俺たちは会議室にいた。

 今日は第一回のトキコー祭実行委員会だ。今回だけはクラス委員と実行委員の両方が出席する必要があるので、俺は2年A組実行委員として村田さんと共に会議に参加している。藍は生徒会執行部の一員として参加しているし、唯は副会長なのでトキコー祭実行委員長としての参加だ。

 トキコー祭は伝統的に6月の最終土日に行われ、各クラスや各部・同好会もトキコー祭に合わせて色々なイベントを行うが、部・同好会の一部は活動を行わず、展示などで済ます事もある。当たり前だが、夏にスケート教室やスキー教室をやる訳にはいかないからなあ。

 俺たち2年A組は喫茶店をやるという話は一切出ず、今年は別のイベントをやる事に決め、既に山口先生経由で実行委員会に提出している。販売系ではないので細かな計画を立てる必要もないし、ましてや目標を決める必要もないので、今年の実行委員はある意味、気が楽である。

 因みに、昨年の実行委員は泰介であった。俺は泰介から実行委員のノウハウを色々と教わって、今日の実行委員会に出席している。

 トキコー祭も20年以上も行われていると、半ば伝統となっている行事、慣例となっている決まり事も存在する。そして、ポスター作りや計画表の作成、各部・同好会の役割も前年の踏襲という形が多く、スムーズに終わる・・・と思っていたのだが、終わらなかったのだ。


「・・・以上、これらは生徒会からの提案ですが、特に今まで異論がなかったので、実行委員の皆さんの了承を得て、各クラス・各部・各同好会に下ろしたいと思います。賛成の挙手をお願いします」

「ちょっと待ってください」

 唯が実行委員長として発言した直後、突然、3年D組の実行委員が手を上げた。

「あー、どうぞ」

 唯がこう言うと、3年D組の実行委員は座ったまま発言した。

「正直に言いますが、実行委員長、昨年の『ミス・トキコー』での発言の件で、うちのクラスでは特に男子を中心に『ミス・トキコー』の規定を明文化すべし、という声があがりました。もちろん、あえて明文化する必要はないという意見もありましたが、女子からの賛成意見も多く、俺とクラス委員を除いた34人のうち27人という圧倒的多数の生徒の意見は無視できません。それに、3年F組・G組も同じような意見がD組と同じくらい上がっていると聞いています。これについては実行委員長が一番御存知の筈ですし、生徒会長の相沢さん、風紀委員長の藤本さんも知っている筈です。なのに、それについて何も触れられていない点を説明して頂けませんか?」

「そ、それは・・・」

 唯は口籠ってしまった。相沢先輩も藤本先輩もさっきまではずっと笑顔でいたのに、この話を聞いた途端、ムスッとした表情に変わった。

「おーい、『あの件』についての事だろ?『あの件』については私は気にしていないし、それはみさきちも同じだ。あまり佐藤唯を責めては本人に気の毒だ」

「私も真姫と同じ意見です」

「しかし、大多数の生徒はそう思ってないという事です。俺個人は佐藤唯さんを責める気はありませんが、このままだとクラスの収拾がつきませんし、黒田先生もご存知だと思いますが、佐藤唯さんの今年の出場資格を剥奪すべしという強硬意見が上がっていたのも事実ですよね。あまり過激な意見に対しては藤本さんを中心にした風紀委員会が指導しているは俺も知っていますが、個人的な感情までは押さえる事が出来ません。まあ、うちのクラスに藤本さんファンクラブ会長と相沢さんファンクラブ会長ともいうべき存在が両方いるという事も、うちのクラスが最強硬派になってしまった一因でもあり、そこはちょっと反省すべき点でもありますが、他のクラスの実行委員やクラス委員の方はどうなのですか?そのような意見は上がってないのですか?」

 この発言に対し、特に3年生を中心に、あくまで個人的意見と断った上で、ある程度の決まりや規定をつくるのは仕方ないないだろうという意見が上がったし、2年生の中にもそのような意見が上がっているのを否定できないという意見が上がった。1年生の実行委員やクラス委員は何の事か分からないので、お互いの顔を見合わせて「一体、何を話しているの?」と言わんばかりの反応だ。

 当然、一番の矢面に立っている唯は沈黙せざるを得ない。相沢先輩や藤本先輩は個人的に唯を擁護する態度を表明しているが、それで全体が納得していないのは明白だ。俺と村田さんはクラスの仲間を擁護するという立場で「規定は不要」という意見を述べたが、不要という意見を述べたのは2年A組だけだった。唯の立場は相当悪いとしか言いようがない状況だ。

 その時、舞が手を上げた。舞は1年B組の実行委員の代理という立場での出席だ。

「あのー、2年生と3年生だけで盛り合っている感じで、私たち1年生には何の事かさっぱり分かりません。実行委員長の唯先輩が批判の矢面に立っているというのは容易に想像できますが、もし差し支えなければ、内容を説明して頂けないでしょうか?」

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