第57話 とんでもない先輩たちに・・・

 俺たち六人は会場を後にした。会場の外に出たところで「どこかでお昼ご飯を食べて行こう」という話をしていた時に、村山先輩、宇津井先輩、本岡先輩が俺たちの所へ歩いてきた。

「おーい、もしよければ、このままどこかでお昼ご飯を食べていかないか?」

 宇津井先輩が声を掛けて来たので、折角だから一緒に食べていこうという話になり、そのまま9人でファミレス「ボスト」に行った。

 さすがにお昼の時間帯だったので結構混んでいたが、何とか9人が座れる場所を確保し、全員が適当なメニューとドリンクバーを注文し、それを食べながら今日のリアル脱出ゲームでの感想を言い合った。

「いやあ、今日のリアル脱出ゲームは異色だったよ」

 と宇津井先輩が最初に率直な感想を言った。

「ああ、さすがに今回は鉄道の知識がないと解けない問題があったからなあ」

 本岡先輩も宇津井先輩に同調した。

「私も自作の推理小説で鉄道ネタを扱う事がなかったので、今回は苦戦しました。まあ、さすがに篠原君には脱帽しましたよ」

 と、村山先輩も今回は苦戦した事を認めた。

「あのー、ところで宇津井先輩たちは、クリアまでの時間はどの位だったんですか?」

 藍が宇津井先輩に質問した。それは俺も気になっていたところだ。

「ああ、その事か・・・いやー、じつはだなあ・・・」

「うーん、多分『あの件』がなければ、52、3分くらいでクリア出来たかもしれないけど、村山はどう思った?」

「たしかに『あの件』がなければ本当に55分前後だったと思うわ」

 ん?『あの件』って・・・なんだ?

 俺たち2年生チームの六人はお互いに顔を見合せた後、恐る恐る聞いてみた。

「あのー、宇津井先輩、『あの件』って何ですか?一体なにがあったんですか?」

 唯がこう言うと、宇津井先輩は照れ臭そうに頭を掻きながら

「正直に言うけど、ホントに篠原の直感の鋭さと状況判断、それに情報整理力には感心したぞ。だけどなあ・・・」

「ああ。相沢も藤本も、お互いに自分の推理が正しいと主張して譲らないんだ。しかも篠原の奴、オドオドしちゃって自分が正しいって言い出せないから、変な所で時間をロスしてしまったんだ」

「結局、わたしたちが相沢さんたちを無理矢理黙らせて篠原君の案を採用する、というパターンが最後まで続いたからね。ホント、あの二人、篠原君の前ではまるで別人ね」

「そうだよな。宇津井もそう思うだろ?」

「あ、ああ・・・」

「どうしたの宇津井君、何か元気ないけど?」

「あー、いやー、別に?」

「「???」」

 ところで、その肝心な篠原はどこへ行ったんだ?それに相沢先輩と藤本先輩も見当たらないけどどこへ行ったんだろう・・・それともこの後は別行動にしたのか?

「あのー、篠原はどこへ行ったんですか?もう帰ったんですか?」

 俺は素朴な疑問を口にした。それに対して宇津井先輩たち三人は互いの顔を見合わせた後、ため息をつきつつ

「あー、篠原かあ・・・あいつもかわいそうに」

「そうそう、俺もあの話を藤本から切り出された時にはとっさに嘘をついて誤魔化したから助かったけど・・・以前、生徒会執行部の3年生だけで行った事があったが、マジで死ぬかと思ったぞ」

「ああ、本岡の言う通りだ。さすがに『アレ』だけは勘弁して欲しいぞ。マジで命に関わるから、篠原の奴、生きて帰ってくる事を祈るぞ」

「篠原君もお気の毒にねえ・・・私も宇津井君たちが顔を真っ青にしていたから絶対に何かあるって思って断って正解だったわ。私もさっき本岡君が教えてくれるまで知らなかったけど、宇津井君も本岡君もトラウマになる寸前だったらしいわよ」

「ああ、マジであの二人と一緒に『アレ』に行くのは二度とゴメンだ」

「俺もだ」

「それにしてもあの二人、篠原君の前だとまるで別人ね。篠原君自身が気付いてない所が、余計に二人をヒートアップさせているとしか思えないわ。篠原君も面と向かって嫌だと言えない性格だから、二人に凄まれたら断れないのよねー。まあ、無事に帰ってくる事を祈るわ」

 と、何かあったかのような口ぶりだった。どうやら篠原は相沢先輩と藤本先輩に無理矢理連れ出されたみたいだ。

 俺は恐る恐ると言った感じで

「あのー、篠原の奴は、相沢先輩と藤本先輩に、どこへ連れていかれたんですか?」

 と、宇津井先輩に聞いてみた。

「うーん・・・じゃあ、絶対に口外しないって約束してくれよ。情報源が俺たちだという事が分かると、後でこっちにも被害が及ぶ可能性があるからなあ」

「あー、いいですよ。藍や唯もそれでいいよな」

「そうね。宇津井先輩たちが恐れる程の『アレ』の正体を知っておいた方が後々の為だと思うから、私は口外しません」

「唯も絶対に喋りませんよー」

「わたしも先輩たちと同じで口外しません」

「オレも約束します。勿論歩美もそうだよな」

「はい、約束します」

 俺たち六人は絶対に口外しないと約束した。

 そして、本岡先輩から語られた『アレ』とは・・・

「「「「「「えーーー!!!」」」」」」

「そうなんだよ・・・はー」

「「「「「「マジですかあ?」」」」」」

「ああ・・・勘弁して欲しいぞ・・・」

「3年生の知性、美貌の双璧で、学年を問わず男子生徒だけでなく女子生徒からも熱い眼差しを受けている相沢先輩と藤本先輩に、そんな欠点があったんですかあ!?」

「そうなのさ。あの二人、『アレ』好きなんだけど、お互いに同レベルだから多分、いや、間違いなく分かってないのさ。だけど、俺たちから見たら地獄そのものだ。篠原の奴、まだ生きてるかなあ・・・」

 おいおい、篠原の奴、とんでもない先輩たちに連れていかれたんだなあ・・・俺、あいつの境遇に同情するぞ。

「あ、そうそう・・・佐藤きょうだいに言っておくわ。今日の勝負はあなた方の勝ちよ」

「はあ?ちょ、ちょっと、どう意味なんですかあ?」

 いきなり村山先輩が俺たちに訳の分からない事を言ってきたから、俺は思わず聞き返してしまった。それは藍たちも同感のようで、お互いに「どうしてなんだ?」と言わんばかりの顔をしている。

 それに対し村山先輩はニコッと微笑んで俺の顔を見ながら

「わたしたち3年生チームのテーブルは、スタッフがいるテーブルのすぐ隣よ。だから立ち上がって5歩もすれば解答用紙を出せました。だけど、佐藤きょうだいたちのチームのテーブルは、どんなに急いでも片道10秒以上、往復すれば最低30秒はかかるわ。しかも、わたしたち3年生チームが最後の解答用紙を出したのは、終了5秒前。つまり、実際に問題を解いて立ち上がったのは佐藤きょうだいのチームの方が早かったという事になるし、だいたい、移動中は問題を見る事が出来ないのだから、圧倒的に3年生チームよりも不利な条件で先に最後の問題を解いたという事は、あなたがたの勝ちと判断せざるをえないわ。まあ、個の力では私たちの方が上回っていたかもしれないけど、チーム力というか組織力での勝利ね」

と言って、紅茶を飲み始めた。

 俺は藍と唯の二人と顔を見合わせた後

「そ、それじゃあ、七不思議の6番目は・・・」

「ええ、いいわよ。ただし、別の超常現象とか怪奇現象が校内で発見されたらという条件付きではありますが、その時にはこの村山美沙、責任を持って部長以下男子3人を説得して書き換える事をお約束します」

「あー、ありがとうございます!」

「まだ早いわよ。だから、超常現象や怪奇現象があったら、具体的な内容をミステリー研究会のメンバーに、まあ、三姉妹の末っ子でいいから伝えてね。後は私と舞ちゃんで肉付けしてあげるから」

 どうやら、七不思議の6番目『音楽の女神は幼気いたいけな女子高生の為に楽器を与えた』の話を書き換えるという山口先生と高崎さんのお願いは、相沢先輩と藤本先輩の活躍(?)によって書き換える事に一歩近づいた訳だ。だが、その為に篠原がリアル脱出ゲームでも、それが終わった後でも犠牲になっているのだから、俺も複雑な気分だ。


 俺たち9人はその後1時間半くらいボストで喋っていたけど、その後は解散となった。宇津井先輩と本岡先輩は2人で帰り、泰介と歩美ちゃんも二人で帰り、舞は村山先輩と一緒に帰ったので、俺は藍と唯の三人で帰った。だが、篠原に連絡を取ろうとして、あいつにメールしたり電話したりしたが、結局その日は連絡がつかなかった。だから、俺も藍も、それに唯もマジで篠原の奴が相沢先輩と藤本先輩の『アレ』で死んだのかと心配した。

 翌日は五連休最後の日であり、事前の約束通り、俺は泰介の家に朝から夕方まで籠って過ごした。これで俺が恐れていたゴールデンウィークの五連休は無事(?)に終了した。


 そして、五連休明けの朝、俺たち『佐藤きょうだい』は偶然、南北線の車内で篠原とばったり会った。

 篠原は普段通りクールな態度で1人で乗っていたが、もしかしたら内心は結構なダメージを受けているかもしれない。

 藍も唯も話しかけるのを躊躇していたが、どういう理由かは分からないが、篠原の方から俺に話しかけてきた。

「よー、拓真。一昨日は楽しかったな」

「あ、ああ・・・」

「どうした、朝から元気がないぞ」

「い、いやあ・・・単なる連休疲れだ。それより篠原、一昨日は相沢先輩と藤本先輩と一緒に『カラオケ』に行ったと聞いたが、どうだった?」

「あー、楽しかったぞ」

「「「「はあ?」」」」

「おいおい、何をそんなに驚いてるんだ?」

「い、いや・・・お前、頭がおかしくなったのか?」

「たくまー、冗談も休み休み言え。俺は相沢先輩と藤本先輩のあまりの美声に惚れ惚れしたぞ。正直、少し見直したというのが本音だ」

「あまりの美声・・・マジかあ!?」

「ああ。女神様とまではいかないが、天使くらいの美声かなあ。少なくともストーカーでは失礼だから、先日の表現は取り消しだな」

「「「「・・・・・」」」」

 おい、篠原・・・お前、まさかとは思うが、相沢先輩や藤本先輩と同等か、あるいはそれ以上だったという訳か・・・お前も相沢先輩も、それに藤本先輩も、ウルトラ級の智謀とを併せ持つ「」だったとは・・・まさに『類は友を呼ぶ』『たで食う虫も好き好き』の格言通りだな。

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