第36話 大学4年生

「ところで山口先生はこんな所で何をしていたんですか?もしかして先生もデートですか?」

 藍は山口先生に満面の笑顔で質問した。それに対し山口先生は

「おー、いい質問だなあ。実は先生もデートさ」

「「えー!!」」

「というのは嘘だ」

「ちょ、ちょっと山口先生、揶揄わないで下さいよー。山口先生に浮いた話が出るのはいつだという賭けまで行われているという噂がある位なんですから、変な事を言わないで下さい!」

「あー、スマンスマン・・・実は、ここで従妹と待ち合わせをしてるのさ」

「「いとこー!?」」

「ああ、従妹だ」

「きっと、山口先生みたいにグラマラスでセクシーで、それでいて超がつく美人なんでしょうね」

「あ、ああ・・・まあ、たしかにグラマラスでセクシーで美人なんだが・・・」

 あれ?山口先生が珍しく口籠っている。何か変だぞ?

 そんな山口先生を尻目に藍は無邪気に

「えー、勿体ぶらないで教えて下さいよー」

 おいおい、藍のやつ、さっきまでの涙顔はどこへ行ったんだ?いつの間にか目をキラキラと輝かせて普通の女子高生をやってるぞ。

 その時だ。信号機が青になり、横断歩道の向こう側から右手を上げながら走ってくる小学生位の女の子が目についた。

「久仁子さーん、遅くなりましたー」

「おー、待ってたぞー」

 そう言うと山口先生も右手を上げて答えた。その子は山口先生の所へ来るとニコッと微笑んで、俺たちと向かい合う形になった。

 その子は・・・いや、あれが小学生かあ?

 俺は思わず目を自分の手でこすってしまった。だが、それは藍も同じようであり、俺たち二人はほぼ同じタイミングで目をこすったあと、お互いの顔を見ながら

「「嘘だろー!!」」

と、思わず叫んでしまった。

 たしかに身長だけでいえば、多分小学校3年生か4年生くらいの女の子だ。だが、信じられない位の巨乳で、胸の大きさだけなら藍を上回っているし、山口先生も敵わない。それでいて綺麗、というよりは可愛い女の子であり、着ている服装も一見すれば小学生そのものだ。

「ちょ、ちょっと待ってください山口先生!この子、小学生ですよね?それでいて、あんな巨乳なんて信じられません!!私よりも胸の大きい小学生がいるんですかあ!?」

「えー!ちょっとー、それは酷いですー。たしかに私は身長だけで言ったら小学校4年生並みですけど、4年生は4年生でも、大学4年生ですよー。因みに先月に誕生日だったので22歳になりました」

「「大学4年生で22歳だとお!?」」

 俺と藍はこの発言に再び揃って叫び声をあげてしまった。おいおい、これで22歳の大学4年生なら、俺たちよりも5学年も上って事だぞ。それなのに身長は小学校3、4年生並みでありながら藍を上回る巨乳の持ち主だとは、超がつく程のアンバランスな、まさに『ロリ巨乳』という言葉がピッタリの大学生だ。

「おーい、お前ら、あんまり先輩をからかうなよ。こう見えてもトキコーOG、つまりお前たちの先輩だからな」

「「トキコーOG!?」」

「はーい、こう見えてもトキコーのOGでーす。という事は久仁子さんの学校の生徒さんですかあ?」

「学校どころか、こいつら二人共、うちのクラスの生徒で、佐藤藍と佐藤拓真の姉弟だ」

「あー、双子さんですかあ。私の名前は『高崎みなみ』、久仁子さんは私の従姉にあたる人ですー」

「『タカサキミナミ』?あの超有名グループ、BKA48のメンバーと同じ名前なんですか?」

「そうでーす。いっつも言われますけどー、私、あの人と同姓同名でーす」

「それと、みなみ!こいつらは双子じゃあないぞ。義理の姉弟だ」

「あー、これは失礼しましたあ。でも、何かの事情があるようですけど、それについては詮索しない事にしますねー」

「ああ。こいつらの事は後で教えてやるから、今は姉弟だと覚えておけばいい」

「はーい、そうしまーす」

 そう言って高崎さんはニコッと微笑んだ。この笑顔も結構可愛いが、どう見ても小学生が微笑んでいるとしか見えないぞ。しかも、その喋り方も小学生みたいで、とてもではないが大学4年生の言葉とは思えないくらいだ。

「あのー、山口先生と高崎さんが従姉妹同士というのは分かりましたが、ここで待ち合わせをした後、どこかに行くつもりだったのですか?」

 藍は疑問を口にした。実は俺もそう思っていた所なので、まさに渡りに船の質問だ。

「あー、まあそうだが・・・丁度いいや、お前たちに話したい事がある・・・お、あそこにマイスドがあるから、そこで話そう。お前たちにも関係ある話だからな」

「俺たちにも関係あるって、どういう意味ですか?」

「まあ、それをここで話すと辛気臭くなるから、ドーナツでも食べながら話そう。もちろん、支払いは先生が持つ。みなみもそれでいいか?」

「あー、私は構いませんよー。ここはお言葉に甘えさせていただきまーす」

「私も構いません。拓真君は?」

「あー、俺もいいです」

「よーし、決まりだ。じゃあ、行こうぜー」

「あ、はーい」

「「・・・・・」」

 俺たち四人は大通り公園に面した場所にあるマイスドの店舗に向かって歩き始めた。山口先生と高崎さんが前を並んで歩き、俺と藍がその後ろに並んで歩く恰好だ。さすがの藍も、俺と腕を組んだり肩が触れ合う位に近付いたりはせず、俺たちが学校でいつも見せている距離で歩いている。それに、山口先生も俺と藍にはあくまで担任教師と生徒として話しているようで、高崎さんの前では先ほどの俺たちがやっていた事を話す気はなさそうだ。もし話す気があるなら、既に高崎さんの前で話をしていた筈だ。

 そういえば・・・大学生だと言われて思い出したけど、高崎さんをどこかで見たような気がする。どこだったかなあ・・・。

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