第37話 音楽の女神は幼気な女子高生の為に
俺たちはマイスドの店の中で向かい合わせに座っている。俺の左に藍、正面に山口先生、藍の正面に高崎さんという具合に並び、俺たちはコーヒーとドーナツを注文して、それをつまんだり飲んだりしている。山口先生は「遠慮しなくていいから、もっと食べろ」と言ってけど、さすがに申し訳なくて俺も藍も2個ずつだ。そういう山口先生も高崎さんも2個ずつだから、合計8個のドーナツがテーブルの上には置かれている。
山口先生が言っていた「俺たちに関係ある話」とは一体何だ?それに、高崎さんをどこで見たのだろう・・・なかなか思い出せない。
やがて山口先生はコーヒーを半分ほど飲み終わった所でカップをテーブルの上に置き、話し始めた。
「お前たち、『トキコー七不思議』の6番目、音楽の女神の話は知っているか?」
「ああ、俺は知ってるぞ」
「え?私は『トキコー七不思議』は聞いた事はあるけど、具体的な内容までは知らないわよ」
「じゃあ、丁度いいや。佐藤拓真、姉に6番目の内容を教えてやれ」
「トキコー七不思議の6番目は『音楽の女神は
「へえ、そうなんだあ。私は知らなかったわ。山口先生、この話と、私たちに関係あるという話と、どう結びつくんですか?」
「・・・今から3年前のゴールデンウィーク直前、学校事務宛に宅配で荷物が届いた。札幌市内の楽器店から送られてきたものだが、差出人の名前は楽器店だった。楽器と一緒に手紙も同封されていて、そこには『トキコーOGから軽音楽同好会へのプレゼント』としか書かれていなかったんだ。一応、その楽器店にも問い合わせたのだが、
「・・・たしかに七不思議になってもおかしくない話ですね」
「・・・うちの学校は札幌教育大学と協定を結んでいて、毎年、教育実習生を受け入れている事は知ってるよな」
「知ってるわ。毎年春と秋に1名ないし2名の実習生が来て、基本的に2年生か1年生のクラスで実習するんですよね。去年の1年A組には実習生は来なかったけど、他のクラスで実習があった事だけは知ってるわ」
「あー、その事だがな・・・今月の中間テストが終わった後、うちのクラスを中心にやる事が既に決まっているんだ。先生が指導役として、その実習生の国語の授業を受け持つ事になる」
「そうですか・・・私も初めて聞きました」
「・・・話を七不思議の件に戻すけど、この話が元で、そのOGの性格が変わってしまったんだ。そのOGはトキコー在学中は正義感溢れる優等生として知られ、校内でも有数の有名人で、札幌教育大学へ進学し高校教師になる事を夢見ていたんだ。でも、この話が神格化されるにつれて、本人が逆に女神様扱いされる事に恐怖し萎縮してしまったんだ。その結果、いわゆるドジっ子のようになってしまい、優等生の面影がすっかりなくなってしまったんだ。さらに、そのOGが昨年の秋、大学3年生になってトキコーに教育実習に来た時、初日にとんでもない大チョンボをやらかした事で、すっかり落ち込んでしまい、ますますドジっ子が酷くなったのさ。そのOGというのが、ここにいる高崎みなみだ」
ここで俺は「あっ」と声を上げた。高崎さんをどこかで見た事があるなと思っていたけど、去年の秋、特に男子を中心に「物凄いロリ巨乳の実習生がきた」と話題になって一部は昼休みに職員室へ押し掛ける騒ぎにもなっていた、あの実習生だったんだ。その騒ぎに俺は直接かかわってないけど、実習生の姿は廊下や職員室で何度か見た事があった。何しろ、どこへ行っても男子生徒が取り囲んでいたから、実習期間中は女子が男子を睨みつける事もしばしばあった位だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます