第30話 昨年の秋②~一世一代の大勝負
「だってえ、拓真君、藍を見る目と、歩美ちゃんや唯を見る目が明らかに違ってたからね」
「そうかあ?俺は別に藍を特別な目で見たような覚えはないけどな」
「拓真君、あなた、ひょっとして大きい方が好きなんでしょ?」
「ちょ、ちょっと待て、いきなりそっちに話を振らないでくれよ。俺は別に大きい、小さいには拘ってないし、だいたい、そんな目で藍を見ていたら、絶対に藍は俺をシバくぞ」
「まあ、それもそうね。藍がそんな目で自分を見ている奴を放っておくとは思えないしねー」
「分かってるなら俺をからかうなよ」
「あー、ゴメンゴメン」
「でもなあ、よく気付いたな」
「唯はこう見えても、拓真君の事を毎日観察してたからねー」
「観察?毎日?」
「そう、観察。毎日ね」
「何で?」
「だってさあ、拓真君、唯のタイプだもん」
「はあ?」
「拓真君さあ、いつ唯の事に気付いてくれるのかなあって思っていたけど全然気付いてくれないんだもん」
「・・・・・」
「それでさあ、拓真君の態度が月曜日からずっとおかしかったから、絶対にカノジョにフラれたか、藍にコクってゴメンナサイっていう結果になったかのどっちかだと自分なりに結論付けていたの。それで、今なら確実に唯の物になると思って勝負を掛けてみたって訳ね」
「おいおい、俺は物扱いかよ」
「あー、それはゴメン。で、どうなの?唯の一世一代の大勝負、さっさと返事して頂戴」
「・・・即答しないとダメか?」
「・・・明日から11月だけどいきなり三連休だからねえ。三日も待ってたら、誰か別の人が唯にコクって来るかもしれないわよ」
「はあ?お前、そんなに人気があるのか?」
「当たり前でしょ?藍も唯も、もう両手両足では数えきれない程の人からコクられたけど、ぜーんぶ断ってるんだよ。歩美ちゃんが面白がってリストを作っていて、どっちが多く振ったかというのをチェックしている位よ」
「うわっ、俺、全然知らなかった」
「まあ、男の子は自分が興味を示した子の事しか考えてないからね。唯は最初から拓真君なら付き合っていいなと思ってたんだけど、なかなか気付いてくれなかったから、魅力がないのかなあって、唯の方が凹んでた時もあったんだよー」
「なーんだ、そうだと分かってたら、さっさと唯にコクっておけばよかったんだ」
「じゃあ、今すぐコクリなさいよー。そうしたら返事してあげるわよ」
「わかった・・・唯、俺と付き合ってくれ」
「いいわよー」
「おーい、随分かるーい返事だけど、大丈夫かあ?」
「大丈夫だよ。唯はこう見えても真面目だから、絶対に裏切らない自信があるよ」
「なーんか、物凄く嬉しい発言だねえ。校内ナンバー1美少女が俺と付き合ってくれるんだからさあ」
「あー、その事だけど、やっぱり藤本先輩には申し訳ない事をしたと思ってるよ」
「ん?あの事か?」
「うーん、元々唯は藤本先輩には敵わないと思ってたし、藍も同じ事を言ってたからね。藤本先輩にはあの後ちゃんと謝ったし、もちろん相沢先輩にも謝った。藍とはどっちが上だという事で争わない約束をしていたから別に怒ってなかったけど、藤本先輩のファンからは影で結構言われたのを唯も承知してるからね」
「ただ、その事は藤本先輩が先輩としての貫禄を見せているから、誰も唯を責めないって話だろ?俺もその話は聞いた事があるぞ」
「まあ、そんな訳で疑惑のミス・トキコー佐藤唯ですけど、これからヨロシクね」
「ああ、まかされたぞ」
その後、俺たちは2時間近くマイスドの店内で喋っていた。ドーナツ1個でコーヒーを6~7杯くらいお替りして、しかも長々と喋っていたのだから、お店側としてはさぞかし迷惑な客だったろうな。
ただ、この時に唯と確認しあって、校内では今まで通りの関係でいようとの話になり、また、藍・泰介・歩美ちゃんにも暫くは黙っていようとの話もした(ただし、藍にはこのあと一週間でバレた。仕方なく、泰介・歩美ちゃんにも話して、5人だけの秘密という事にしてもらった)。
唯は婆ちゃんのお見舞いに行く時は必ず俺に一声かけるようになった。そして、俺はほぼ毎回のように唯に連絡して、そのお見舞いの帰りに必ず新札幌駅周辺の店で俺と待ち合わせをして、2時間近く二人だけで話しをしてから帰るのがお決まりになった。でも、俺自身が藍との事がトラウマになっていて唯に積極的になれなかったのは事実だ。だから、こうやって話をする機会はあっても、それ以上の段階に進むには時間がかかった。唯も婆ちゃんの事があって、俺にだけ構っていられる程の精神的余裕がこの時期にはなかった。
唯が俺の事を「たっくん」と呼ぶようになるのは、冬休み直前だ。
その理由は・・・ちょっと恥ずかしいから詳しくは言いたくないが、俺と唯の仲が少しだけ進んだからだ。クリスマスイルミネーションに魅せられて・・・。
ただ、この頃から唯の婆ちゃんの容態が芳しくない状態が続いて、唯の方に心のゆとりがなくなった事と、俺も藍の時の二の舞を避けようとして慎重だった事もあり、これ以上は進展しなかった。結局、唯の婆ちゃんが退院する事はなく、冬休みが終わって間もなく亡くなったという事もあり、俺たちの新札幌周辺でのデートは無くなった。この後からは場所を色々と変えて会う事となる。
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