第19話 廃部か休止か・・・それとも存続か
昨日で各部・同好会の体験入部期間が終わった。
昨日の段階で入部届を提出していない人は部員・同好会員とはみなされないので、人数にはカウントされない。既に俺は唯を経由して情報を得ていたが、クイズ同好会へ入部届を出した人はゼロであった。つまり、俺たちの同好会は1年を持たずに休止もしくは廃部が決定した。
ただ、休止にするか廃部にするかは、同好会の部長と顧問が決める事になっている。一応、生徒会側も意見を出す事は可能だが、実際には部長と顧問との話し合いで決まった事を生徒会側が追認する形が殆どだ。
俺、篠原、長田の三人が出した結論は『廃部』だ。元々、俺たちの同好会は特例で作られた物だから、無くなった所で未練はない。それに、活動実績もゼロだったし、さらに言えば活動予算も活動場所の無いのだから、無くなった所で誰にも迷惑を掛けない。昨日の放課後の段階で既に松岡先生に廃部する旨伝え、松岡先生も廃部に同意し、書類にサインをした。後は職員会議の了承を得るだけだ。
ところが・・・
「生徒会よりお知らせします。2年B組の篠原一樹君、2年A組の佐藤拓真君、2年C組の長田良平君、以上3名は大至急生徒会室へ来てください。繰り返します・・・」
俺たち三人は昼休みにいきなり校内放送で呼び出された。しかも、校内放送の主は、生徒会長の相沢先輩である。
俺はいつもの通り藍や唯たちと一緒にお弁当を食べ終わった後、五人で雑談をしていた最中に呼び出しを喰らった形になり、当然の如く驚いた。副会長である唯でさえ生徒会長自らが校内放送で俺を呼びだす意味が分からないのだから、放送を聞いた瞬間、唖然としていた位だ。それは藍も同様であり、泰介や歩美ちゃんも目を丸くしていた。
とにかく、呼び出されたからには行くしかない。俺は会話を中断して席を立ちあがり、生徒会室に向かった。
生徒会室に行ったら既に篠原と長田は来ていた。そして、俺たちを放送で呼び出した相沢先輩も来ていて、まあ、生徒会室にある校内放送のマイクを使って呼び出したのだから当たり前だが、俺たち三人に席に座るように促した。
当然だが俺たちが呼び出される理由が思い浮かばない。篠原や長田も同じであり、お互いに顔を見合わせて『どうして俺たちは呼び出されたんだ?』と言わんばかりである。
その俺たちの心配をよそに、相沢先輩は喋り始めた。
「今日、ここに呼び出したのは他でもありません、クイズ同好会の事です」
そう相沢先輩は切り出した。
「相沢先輩、既に俺たちは廃部する事に決め、松岡先生も同意してます。今更何を言われても、その決定を変える気はありません」
そう篠原は言った。俺も長田も同様な意見を相沢先輩に言ったが、相沢先輩は笑顔を絶やさず、俺たちの説得に当たった。
「生徒会は、全ての部・同好会に対して助言する権限があり、また、廃部や休止の同意書にコメントする義務があります。私個人の意見で申し訳ないのですが、せめて休止扱いにする訳にはいかないでしょうか?」
「あのー、休止にするメリットはありますか?」
俺は素朴な疑問を相沢先輩にした。
「それは、一度廃部にしてしまうと、再び立ち上げるのが大変です。ですが、休止ならば、来年、二人以上の加入があれば同好会として認める事が出来ます。それに、休止の同好会は説明会に特別参加できる権利が残ります。だから、私個人としては廃部ではなく休止をお勧めします」
「あー、それは俺たちも考えました。ですが、既に俺たち三人の中では廃部にするという事で結論を出し、松岡先生も同意しています。ですから、会長が休止を勧めても俺たちの意見は変わりません」
篠原はいつものように淡々とした口調で相沢先輩に言った。相沢先輩はなおも休止を主張して俺たちの説得を続けたが、篠原が頑として受け入れず、最後には相沢先輩も廃部やむなしと思ったようで説得を諦めたみたいだ。
「・・・分かりました。篠原君たちの意志がそこまで固いとは私も知りませんでした。これ以上言うとあなた方に失礼だと思うので、ここはあなた方の意見を尊重したいと・・・」
「ちょっと待ったあ!!」
いきなり生徒会室のドアが勢いよく開かれ、藤本先輩が入ってきた。
「みさきち、なんでこんな時にこいつらを呼び出すんだ!どうしても更衣室に行かざるを得なくなったから、行くに行けなかったんだぞ!少しは私の事を考えろ!」
「そんな事を言われたって、昼休みに勝手に更衣室に行く人が悪いんでしょ?私のせいではありません!」
「仕方ないだろ?今日はアレの日で、気付いたらナプキンだけでは押さえきれなくなっていたんだぞ。だからストッキングも含めて全部交換せざるを得なくなったっていう経験はみさきちだってあるだろ!」
「あのー、俺たちの前でそんな話をされても困るんだけど・・・」
「「男のお前に女の苦労が分かるのか!!」」
いきなり二人にハモられて篠原も黙るしかなくなった。それにしても、そんな話を俺たちの前で、しかも大声で、ドアを開け放しだから廊下にまで丸聞こえなのに、よく話せたなあと我ながら感心するぞ。
さすがに藤本先輩もドアを開け放しだった事に気付いて、顔を真っ赤にして生徒会室のドアを勢いよく閉め、さらにヒートアップした恰好になった。
「篠原!私は休止も廃部も認めないぞ!クイズ同好会は存続だあ!!」
「「「「はあ?」」」」
「私が今日の職員会議で存続を主張する!反対するなら校長も教頭も後でまとめて説教してやるから安心しろ!!」
「ちょ、ちょっと真姫、そんな無茶苦茶な事を言わないでよ。風紀委員長自らそんな事をしてもいいの?ちょっとは立場を考えなさいよ!」
「みさきちが同意しても、この私は同意しないぞ。みさきちが行くなと言っても私は一人でも行くぞ」
「そんな事をされたら、私の立場はどうなるのよ!」
「全ての責任は私が持つ!みさきちに迷惑はかけぬ!!」
「そんな馬鹿な事を言わないでよ!」
「ちょっと、二人共落ち着いて下さいよ」
たまらず俺と長田が立ち上がって、相沢先輩と藤本先輩の間に入り、二人を無理やり遠ざけた。二人はまだ話したかったみたいだが、さすがにこれ以上話しても平行線だと思ったのか、肩で息しながら睨み合い一時休戦となった。今の藤本先輩は「トキコーの女王様」と呼ばれているクールな藤本先輩とはまるで別人で、松岡先生顔負けの熱血ぶりである。
でも、こうなった一端は篠原の頑固さにある。相沢先輩も藤本先輩も、説明会の時に個人応援をしてもまで俺たちクイズ同好会に協力してくれたというのに、それをあっさり廃部にすると言われたら納得いかないだろうというのは俺にも分かる。ついでに言えば俺は藍と唯から聞かされて内情を知っているが、あの後、相沢先輩も藤本先輩も、生徒会の顧問である
だから、俺は篠原を説得した。さすがに篠原も申し訳ないと思ったのか、妥協案として「もし存続が認められるのなら存続、ダメなら休止にする」と提案し、藤本先輩も受け入れたので、相沢先輩が同意書にその旨の記述をして今日の職員会議に提出する事となった。当然、相沢先輩は休止やむなしという考えだが藤本先輩は存続を主張するつもりでいるから、今日の放課後は大荒れになりそうだ。だいたい、職員会議で生徒会が意見を述べるというのがタブーなのだから。
そして放課後。
俺たち三人は生徒会室で結果を待つ事にした。その理由は藍から俺にメールが入り、なんと、そこには相沢先輩、藤本先輩、それと唯の生徒会三役が職員会議に呼び出されたと書いてあったからだ。俺は唯まで呼び出される事になるとは思ってなかったので、まさに風雲急を告げる事態になっていた。
唯まで呼び出された理由はもう1つあるのだ。
実は昨日、ミステリー研究会の廃部勧告が出されており、それに対し、生徒会三役はこぞって反対の意見書を出したからである。ただ、ミステリー研究会への廃部勧告はこれが最初ではなく3回目だという。過去に2回出されているが、その時は顧問である平川先生の反対で撤回されているが、今回は平川先生も廃部やむなしと事前に同意しており、勧告受け入れの意見書を出していたからだ。当然、ミステリー研究会側は廃部に反対する意見書を出したが、生徒会三役もこぞって反対の意見書を出したから、職員会議に呼び出されたという訳だ。
平川先生が廃部やむなしという意見書を出した理由は篠原が教えてくれた。さすがにトキコー七不思議を調査しただけでは活動した事にならないのは誰でも分かる。平川先生は過去何度も廃部を免れる為の裏技、具体的には、人数が4人しかいない時に帰宅部の生徒の同意を得て、名前だけの幽霊部員としてミステリー研究会に入部してもらったとか、七不思議のいくつかが解明されて、不思議が6個以下になった時に、新たな怪奇現象を見つけ出して七不思議を維持したりしてミステリー研究会を守ってきたが、さすがに剛腕をもって知られる平川先生でも限界だと漏らしていた事を篠原は知っていたのだ。
藍や宇津井先輩、本岡先輩はその話を知らなかったが、もし篠原の言っている話が事実なら、平川先生をもってしても廃部やむなしと言っている所に生徒会側が反対しても、決定は覆らないだろう。
だが、そうなると、舞はどうなる?折角トキコーの中に自分の居場所を見つけたのに、それがなくなってしまうのだ。個人的に村山先輩と推理小説を語り合う事より、ミステリー研究会という枠組みの中で、他の同好会員と一緒に語り合った方がいいに決まっている。平川先生は異端児たちのオアシスを守るために頑張ってきたが、活動実績の無い同好会に予算や場所を提供できないというのは俺でも分かる。舞には申し訳ないが、廃部せざるを得ないと思う。
時間だけがジリジリと過ぎて行く。俺たちがここでどんなに叫ぼうが喚こうが、職員会議に意見する事が出来ない以上、相沢先輩たちに頑張ってもらうしかない。ある意味、俺たちとミステリー研究会の生死は生徒会三役にかかっていると言っても過言でないのだ。
俺たちが生徒会室に来てからまもなく1時間になろうとしている。今、生徒会室で喋っている人は誰もいない。非情に重苦しい空気が室内を支配している。
その時、生徒会室のドアがゆっくりとではあるが開かれた。ドアを開けたのは唯だった。そして、相沢先輩と藤本先輩も一緒だった。
三人共、一言も喋らない。それに、明らかに疲れているというのが分かる。特に藤本先輩の疲労はかなりのようだ。憔悴してきっていると表現するのは失礼だが、なんとなく生気を感じられない。その三人がそれぞれ空いている椅子に座った。
誰もが口を開くのも憚っていたが、さすがに誰かが話し始めないと時の歯車が回らない。仕方なく、俺が口を開いた。
「・・・あのー、俺たちの同好会はどうなりましたか?」
それを聞いた相沢先輩は、俺の方を見ると
「・・・存続が決まりました」
とだけ言った。だが、ニコリともしなかった。
「・・・あのー、何かあったのですか?」
「・・・クイズ同好会は真姫が頑張ったので存続が決まりました。殆ど重箱の隅を突っ突くような屁理屈を並べて強行突破したような物です。ただ、当然ですが昨年度と同様、予算も活動場所も無しです。それでも存続できたんだから、篠原君も長田君も、それに拓真君も真姫に感謝しなさいね」
「「「・・・・・」」」
「・・・ただ、ミステリー研究会については条件付き存続です」
「「「「「「条件付き?」」」」」」
俺たちは、相沢先輩の言った意味が分からなかった。
相変わらず相沢先輩は表情を変える事なく、いや、ますます疲れたような顔をして話し始めた。
「・・・ミステリー研究会の存続は認められましたが、活動実績がない以上、同規模の同好会と同じ条件で存続させられないとの意見を覆す事が出来ず、やむなく、ミステリー研究会の活動予算の減額、それも二分の一への減額、同じくトキコー祭活動費の二分の一への減額を飲まされました。顧問の平川先生は減額に同意しましたが、ミステリー研究会のメンバーに説明するのは私たちの責任においてやる事になりました」
「だけど、どうやって話をすればいいのか、私にも分からないのよね」
「女王様たる藤本先輩でも説得する自信がないのに、相沢先輩や唯に説得する自信はありませんよ。だから悩んでるんです」
そう言うと唯はため息をついた。藤本先輩は自慢のロングヘアーが額にくっついているが、それを払いのける気力もない位に疲労しているみたいだ。相沢先輩も普段はニコニコしていて笑顔を絶やさない人だが、今は笑顔を見せない。
さすがに相沢先輩以下、三役がやる気ゼロなのでその場で解散となり、俺たちは生徒会室をバラバラと出た。最後に生徒会室を出て鍵を閉めたのは相沢先輩だが、全員無言のまま校舎を出て、それぞれの家へ帰り始めた。
俺は最初は篠原、長田と一緒に歩いて地下鉄の駅へ向かった。が、正門付近で生徒会メンバーが追い付いてくる形になったので地下鉄の駅までは全員一緒だった。宇津井先輩と本岡先輩は乗る方向が逆なのでそこで分かれ、さらに篠原たちは札幌駅まで乗るので大通駅で分かれ、その後は藍、唯と一緒に東西線のホームに降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます