第11話 とほほ・・・

 俺が2年A組に戻ったら既に藍もA組に戻っていた。どうやら朝の巡回は終わったようだ。そして俺が席に座るとほぼ同じ位に山口久仁子先生が教室に入ってきてショートホームルームが始まり、そのまま引き続いてロングホームルームとなった。

 相変わらずではあるが今日もジーンズ姿の山口先生は教室に入る時に自作の投票箱のような物を持ってきていた。しかもそれをロングホームルームの一番最初に使うと言い出した。何をやるのかというと・・・席替えだ。今の並び方は1年生の時のままなので、2年生になったから席替えをして気分を一新しようというのだ。

「あー、このA組は男女同数の36人。うまい具合に6×6の配置になるので、抽選で新たな席順を決めるぞー。だが、抽選の結果に従って席を決めるから、個人的に番号を交換するなどというチート行為は認めんぞー」

「「「「えー!」」」」

「文句を言うなー!全ては神のお導き、いや、この山口久仁子のお導きによるものだー!」

「じゃあ、この際だから先生がクジを引いて私たちの席を決めてよー」

 と、いきなり歩美ちゃんが言い出した。それに対し殆どの連中が「おー、それはいいねえ」「気付かなかった」「先生が『お導き』とか言ってるのなら先生にやってもらいましょうよ」「賛成!」「意義ナーシ」などと言いだしたから、山口先生が出席番号順に抽選箱の中身を引いて、その番号の席に移動する事になった。

 一応、仮とはいえ歩美ちゃんがクラス委員だから記録係として山口先生が引いた番号を黒板に記入していく事になった。山口先生は次々とクジを引いて行き、次は藍の番になった。

「えー、出席番号14番、佐藤藍・・・6番」

 その瞬間、クラス中が湧いた。何しろ6番は窓際最後方で誰しも憧れる番号である。因みに既に泰介が5番に決まっているから、藍は泰介の後ろという事だ。

「次、出席番号15番、佐藤拓真・・・12番!」

 え?俺は藍の右?という事は今までと同じ・・・まあ、今までは俺はほぼ中央だったから同じという事ではないけど。

「その次、出席番号16番、佐藤唯・・・18番!?」

 おい、ちょっと待て!この三人の並び方は去年の3学期と同じじゃあないか!何で俺たちは本当のきょうだいになった後もこうなるんだ?しかも『おー、佐藤きょうだいのそろい踏みだ!』『ヒュー、さすが兄貴、やるわねえ』『たくまー、また今回も両手に花だなー』『頑張ってね、拓真君』などとクラスの連中は無頓着に俺たち三人を囃し立てるし・・・冗談きついぜ。

「えーと、出席番号17番、杉村歩美・・・11番」

 どっひゃー、泰介と歩美ちゃんが横並びかよお・・・勘弁してくれー、授業中もアツアツになるのが目に見えてるじゃあねえかよお、しかも俺の目の前で・・・とほほ。


 そして時間は過ぎて今は部・同好会説明会。

 もう既に大半の部・同好会は終わり、今は最後から2つ目の文芸部だ。という事は次が最後のクイズ同好会だ。

 俺と長田は講堂の端の方で並んで見ていた。当然ではあるが俺たち二人は安心して見ているのではない。正直、篠原がうまくやれるのかという不安の方が強くてここにいるのだ。

「・・・文芸部、ありがとうざいましたー」

 会場に拍車が起きた。さあ、次だ。

「それでは大トリとなります、特別参加のクイズ同好会、お願いしまーす」

 そう司会の歩美ちゃんが言うと拍手が起きて、篠原が歩美ちゃんの後ろから出てきた。そして、名目上のクイズ同好会の顧問ではあるが、松岡先生も一緒に登場した。たしか相沢先輩と藤本先輩の3年A組の担任であり、俺たち2年A組の数学担当でもある。

 篠原はマイクを手に取ると、ボソボソと喋りだした。

「あー、俺たちクイズ同好会は、昨年の『高校生クイズキング選手権』北海道代表で全国大会セミファイナルまで行った事で特例として認められた同好会です。そのため、メンバーは3人しかいません。どうか皆さんの加入をお待ちしております」

 それだけ言うと篠原は黙ってしまった。松岡先生も唖然としてるし、会場も当然だが唖然としている。まさかこの程度で終わってしまうとは思ってなかったからだ。俺も長田もお互いの顔を見て『マジかよ』『勘弁してくれよ』と言わんばかりだ。

 仕方ないと思ったのか、松岡先生が気合を入れた顔をして自分で持っていたマイクで喋り始めた。

「おーい、お前らー、俺が顧問の松岡だー。本来はテニス部の顧問だけど、名目上、クイズ同好会の顧問も担当してるぞー。この同好会は昨年のテレビ放送でも言った通り、俺が校長先生に掛け合って特例として作り上げた同好会だ。クイズ好きでなくても構わないから加入してみたいと思った奴、それと、本当にクイズ好きな奴、あー、それと篠原に個人的な興味がある奴、あー、篠原だけでなく、佐藤拓真と長田良平に興味がある奴でもいいから、そういう奴は是非クイズ同好会に入ってくれ!みんなー、頼んだぞー。いいかあ、クイズは知力じゃあない、根性だあ!!」

 あーあ、松岡先生、テニス部の時以上に一人で盛り上がってやがる・・・当然、テニス部の時以上にみんな唖然としてるし、歩美ちゃんに至っては笑いを堪えるのに必死になってやがる・・・勘弁してくれよお。

 でも、その時に歩美ちゃんの後ろから会長の相沢先輩が現れ、歩美ちゃんの左手に持っていたマイクを奪い取るようにして喋り始めた。

「えー、生徒会長の相沢美咲です。私はアニ研の部長なのでクイズ同好会に加入できませんが、個人的にクイズ同好会を応援していますので、皆さんも興味があれば体験入部だけでもいいので、よろしくお願いします!」

 と言ってニコッと笑顔を見せた後に頭を下げた。それを見た会場のみんながざわつき始めた。何しろ部外者である筈の生徒会長、しかもアニ研、つまり、アニメ&マンガ研究同好会の部長が他の同好会の応援演説をしたからだ。

 この前代未聞の事態に会場がざわつくのも無理はない。でも、そこに何と藤本先輩までやってきて、しかもこちらはスタスタと歩いていって、ステージの真ん中にいる篠原からマイクを奪い取るかのようにして喋り始めた。しかも、例のごとく、クールな目をして、まさに女王様の風格で話し始めたのだ。

「あー、会場のみなさん、先ほども挨拶しましたが、私が副会長兼風紀委員長の藤本です。私も個人的にクイズ同好会を応援しているから、みなさんも是非クイズ同好会へ加入して下さい。篠原君は私の中学の後輩でもあるから他人事だとは思えません。だから、これは副会長としてではなく藤本真姫個人としての応援演説です。だから、よろしくお願いします」

 そう言って藤本先輩はニコッとしたかと思うと頭を下げた。

 これで盛り上がって・・・という事はなく、講堂内がシーンとなってしまった。無理もないか。篠原が場を盛り下げて、松岡先生が一人だけ盛り上がって会場をシラケさせ、相沢先輩も藤本先輩も、中立であるべき生徒会役員の立場を逸脱した応援演説だからマナー違反であるのは誰しも分かる事だ。いかにトキコーが自主性を重んじ弱者救済の精神を良しとする風潮があるとはいえ、守るべきルールやマナーは存在する。相沢先輩と藤本先輩が俺たちの為に力を貸してくれたのは嬉しいけど、後で職員会議で問題にならなければいいが・・・

「あ、あー、えーと・・・それではクイズ同好会、ありがとうございましたー。これで全ての部・同好会の発表が終わりましたので、合同説明会は終了となりまーす。それと、特に1年生への連絡事項ですが・・・」

 もう既に会場のみんなは帰り始めている。俺と長田は諦めムードで講堂を後にした・・・マジで勘弁して欲しいぞ、とほほ・・・。

 そのまま俺は超がつく程テンションが下がった状態で帰る事にした。さすがに今日は色々な意味で疲れた。特に藤本先輩と藍の二人の女王様に振り回されたからな。

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