第8話 雑学王と漢字数学王と文学王
ロングホームルームが終わり下校となった後、俺は待ち合わせ場所として指定された、大通りの地下街にある
その指定のWcDに行ったら、既にそいつらは来ていた。
「おーい、こっちだ」
「早くしろ。時間がもったいない」
「あー、わりーわりー」
そう言って、俺はそいつらに向かって手を上げた。既にそいつらはポテトやドリンクなどを注文していたので、俺も注文を済ませ、品物を受け取ったらそいつらの席に行った。
『そいつら』という表現をするという事は複数だ。しかも男だ。
一人は2年B組の
「いやー、待たせてすまなかった」
「ああ。ホントに待たせたぞ」
「時間がもったいない。早く済ませようぜ」
「じゃあ、始めるか。明日の説明会の件だろ?」
「そうだ。誰がやる?」
長田は俺に聞いてきた。俺はこういうのは苦手だから、頼みの綱と言えばこいつになるのだが・・・
「どう見たって、部長である篠原だろ?」
そう言って、俺はコーラを飲みながら篠原の顔を見た。
「俺は出来れば断りたいな。俺の専門分野ではないし・・・」
「そういうなよ、『雑学王』」
「弁論は雑学の分野ではないからな。そういう分野は、むしろ『文学王』の長田の方が向いてると思うぞ」
「おいおい、いくら俺でもこれは苦手だぞ。それなら『漢字数学王』の拓真の方がA組だから慣れてるんじゃないか?」
「えー!A組と弁論は関係ないだろ?」
「くだらないダジャレを言う前に考えろ!」
「あー、スマンスマン」
そう言って俺たち三人は頭を抱えた。
俺たち三人は『クイズ同好会』のメンバーだ。形の上では部長は『雑学王』篠原で、副部長は『漢字数学王』の俺、『文学王』の長田は平の部員だ。だが、俺たちは三人しかいない同好会なので、これは形式的な物であって、体をなしてない。
トキコーの規則では、10人以上が部、5人から9人が同好会、4人以下は活動休止又は廃部だ。この基準は部・同好会説明会の2週間後の時点の人数で決まる。
俺たち以外の部員は卒業したから三人しかいない・・・のではなく、俺たちは最初から三人しかいないのだ。
昨年、俺たち三人は『高校生クイズキング選手権』の北海道代表となり、全国大会の準決勝まで勝ち残った。最後は俺のミスで決勝進出を逃した訳だが、その時の活躍と、篠原と長田の担任であった
ただ、その同好会も今年新たに2人以上の加入がないと、せっかく認められた同好会が休止扱いもしくは廃部になってしまう。
そのためには、まずは明日の説明会で加入者を呼び掛ける事が重要だ。あと、明日の朝は加入を呼びかけるため勧誘を行う必要がある。勧誘は三人そろってやる事で合意しているが、部・同好会説明会は特別参加の形なので、一番最後、それも一人でやるというのが条件になっている。
それを誰がやるのか・・・実は、俺たち三人には致命的な欠点がある。それはアピール力というか説明力が無いのだ。昨年の準決勝で敗れたのは、メンバーの一人が『どんな
「それにしても・・・『佐藤姉妹』は俺たちにとんでもない条件を突き付けてきたな。お前も『佐藤きょうだい』の一員として何か言ってくれればよかったのに」
そう篠原は言うとため息をついた。
俺は一瞬だがドキッとしたが、別にこれはおかしい事ではない。俺と藍、唯は入学して間もなくから『佐藤きょうだい』と言われるようになったからだ。
俺が篠原と長田を知ったのは、昨年のトキコー祭で行われたクイズ大会で、優勝が篠原、準優勝が俺、三位が長田だったからだ。その後に篠原の呼びかけで『高校生クイズキング選手権』に三人で出てみようという話になり、あれよあれよという間に北海道代表になり、ついでに全国大会セミファイナリストになってしまった。
篠原は『雑学王』の名の通り、雑学全般、古今東西の時事問題、小ネタだけでなく、歴史・地理・公民・政治経済に至るまで社会科問題について超がつく程詳しく、その実力はトキコーの教師陣も優勝したチームも脱帽していた位で総合力では間違いなく篠原が一番上だ。俺は漢字の読み書きと計算力に関してはずば抜けていて、この手の問題は正答率百パーセントの上、最速だったので司会者も唖然としていた。長田は古今東西の文学小説や諺、四字熟語、外国語についても詳しく、この辺りはゲストの人や司会者も目を見張っていた位だ。
だが、その三人が揃いも揃って説明力が小学生並みかそれ以下という信じられない実力なのだから、どうしようもない。本当は春休みのうちに誰にするか決めたかったのだが、俺の都合で引き延ばしてもらってたのだ。
俺は、元々校内では藍と唯の三人で行動している事が多かったので、篠原がその様子を見て『佐藤きょうだい』と勝手に名付け、それがいつの間にかA組で、1年生で、やがて校内で使われれるようになり、特に藍と唯は『佐藤姉妹』とまで言われるようになり、一部では双子であるという誤った噂が流れた位である。蛇足であるが『仲良し5人組』と勝手に名付けたのも篠原である。
まあ、双子ではないが、藍も唯も校内有数の美少女として入学当初から人気があったのも事実だ。藍は身長が165センチもあり、ハイヒールを履いたら俺と同じ位の背になる。その美貌と抜群のスタイル、女王様を彷彿させるような言動から『A組の女王様』として、唯はまさに妹キャラを地で行くような言動と容姿から、藍の女王様に対抗して『A組の姫様』として、クラスだけでなく1年生の中でも人気を二分していた。しかも藍も唯も学年で1・2位を争う才女としても知られているし、藍は主席入学者として栄えある新入生代表挨拶をやったので、入学式が終わった次の日から校内中の男子が1年A組にひっきりなしに来る騒ぎにまで発展した程だ。そのついでと言っては何だが、唯も同じクラスにいるから、こちらもいつの間にか人気が高まっていったという感じだ。
しかも、この二人の凄い所は『すっぴん』である事だ。
だが、1年生の1学期中間テストから学年末テストまで、藍は学年総合2位だ。唯は学年総合3位か4位だ。
その藍や唯を押しのけて総合1位を年間通して維持していたのが、目の前にいる篠原だ。普通科の生徒が学年1位を年間通して維持したのは過去に例がなく、そのため2年生になってから特例として成績優秀特待生扱いになったという奴だが、A組への編入は『面倒くさい』の一言で断ったという変わり者だ。因みにその話は春休み中に篠原の所へ電話した時に本人が言っていた。篠原は2年生の時の成績如何によっては3年生になっても成績優秀特待生でいられる。成績優秀特待生は年間通して、ある一定以上の成績を収めていれば翌年も特待生になれるが、一定以下だと特待生の資格を剥奪されるのだ。これは入学当初から成績優秀特待生であった藍と唯も同じだ。
俺はというと・・・数学や物理といった計算に関する問題と国語はほぼ満点だが、芸術系と英語、社会は自慢できるような物ではない。長田も国語と英語は毎回満点なのに、こちらは理数系は平均並みか、それ以下という奴だ。
部・同好会説明会への参加条件が三人ならまだ方法はあった。クイズを出題して答え合うとか、全国大会の時の様子を講堂のスクリーンで流すとか、色々方法はあったが、特別参加なので『持ち時間は他の同好会の半分で、しかも一人でやれ、特別な出し物も禁止』と言われた。ついでに言えば、それを篠原に言ってきた相手が藤本先輩と藍の風紀委員会最強の女王様コンビなのだ。仕方なく唯を通して篠原が抗議しようとしたが、唯が問答無用に門前払いしたのだ。先輩でもあり『トキコーの女王様』である藤本先輩に文句が言えないのは俺でも分かるから、篠原が『佐藤姉妹』を恨むのも無理ない。
だが、俺と藍、唯の関係が本当の『佐藤きょうだい』になった事は当然この二人は知らない。
「あのなー、いくら俺が『佐藤きょうだい』唯一の男でも、こればかりは無理だぞ?」
「まあ、あれは冗談だ。気にするな」
「どうするー?この際、くじ引きとかジャンケンのような物で決めるか?」
「どうせ誰がやっても同じになりそうだから、それにするか?」
「ああ。いいだろう。面倒だからジャンケンにしようぜ」
「ああ、そうしよう」
そういうと、俺たちはWcDの店内で高校生男子三人だけのジャンケンという、端から見たら小学生並みの事を始めた。
「「「最初はグー、ジャンケンポン!」」」
俺はパー、長田もパー。だが、篠原はグー。一回で勝負は決まった。
「よーし、説明するのは部長の『雑学王』に決定だあ」
「頼んだぞ、篠原」
「はー、俺はジャンケンだけは昔から弱かったからなあ。あみだくじにしておけば良かったかも・・・まあ『後悔先に立たず』だ。やるだけの事はやってみるかあ」
そう篠原は言うと、俺たち三人は残ったポテトやジュースを飲みながら暫く雑談をして、くだらない話や校内の面白い話、春休み中のエピソードを色々と話していた。
考えてみればここ数日は藍や唯の事で振り回されていたような感じで、男同士で話すという機会がなかった。ある意味、今日は気分転換になったのも事実だ。何か久しぶりに心から笑えたような気がする。
多分WcDには1時間半位いたと思うが、さすがにそろそろ帰ろうという事になり、篠原と長田はそのまま歩いてJR札幌駅へ向かった。二人ともJRと南北線を使って通学している為だ。ただし、JRに乗る方向は別だ。
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