第9話 きょうだいになった記念
俺はそのまま東西線に・・・という訳ではなく、とある店に行って買い物をしてから東西線に乗り込んだ。家に着いたら既に午後7時に近かったから、藍も唯も帰宅していて俺の帰りを待っていた状態だった。
そのまま夕食になり、それを食べ終わった後、俺は昨日の失敗に懲りているので「俺はこのままシャワーをするから風呂に湯をためるのは待ってくれ」と宣言して一番最初にシャワーをして、さっさと自室へ籠った。
そのまま部屋の中でマンガを読みながら色々と考えをメモして整理していたが、それが纏まったので、午後9時近くになって俺は部屋を出て、先に唯の、次に藍の部屋をノックした後、俺の部屋に来て欲しいと伝えた。
藍も唯も既に入浴を済ませていたが、何の事だと言わんばかりの顔をしつつ俺の部屋に来てくれた。先に来たのは唯で、俺の部屋の床に置いたテーブルの向かい側に用意したクッションに座った。
「ちょっとー、こんな時間に何か用なのー?明日の事に関する苦情はお断りよー」
「違う違う、そうじゃない。それに藍が来たら話すよ」
「え?違うの?唯はてっきり明日の事に関する愚痴を言いたいと思ってたわよ」
「あー、それは篠原がボヤキまくりだぞ。しかも明日は篠原がやる事に決まったから」
「へえ、あの篠原君がねえ。超がつく程苦手にしている藤本先輩に文句が言えないから唯に文句を言ってた位なのに、よくやる気になったわねえ」
「違う違う。ジャンケンで篠原に決まっただけだ」
「あらー、篠原君、可哀そうに」
「ああ。完全にボヤいてたぞ」
そんな感じで藤本先輩や篠原、長田の話をしているうちに藍が来た。
「どうしたの?まさかとは思うけど、これからトランプとか言い出さないでしょ?」
「違う違う。まあ、座ってくれよ」
そう言って、もう1つのクッションに座るよう、促した。二人共、俺に何の目的で呼び出されたか見当がつかないから首をかしげている。
いやー、正直言って、この二人の風呂上りの姿を眺められるという特権に預かっている自分をほめてやりたい気分だが、そんな浮かれた話をしている場合ではない。まずはこの二人と話さないといけない事がある。
「あのー、実は俺から提案があるんだが・・・」
そう俺は切り出した。
「え、何?ひょっとしていい話?それとも悪い話?唯はいい話だったら聞きたいけど、悪い話だったら帰るわよ」
「私も同感よ。話って何?」
「これは俺個人の意見だが・・・家の中でも学校でも、今まで通り俺は『藍』『唯』って言うようにしたいが、どうだ?」
「なーんだ、そんな事かあ。唯は今までと変わらないから、ここはお姉さんに聞いてみたら?」
「・・・私は・・・それでいいです」
そういうと藍はニコッとした。やった、とりあえず藍の機嫌を直す事に成功した。少なくとも藍の望みの一部は叶った訳だ
「それと・・・明日からお弁当を持って行く事になる。俺たち三人と泰介、歩美ちゃんはいつも一緒に弁当を食べてるけど、それを今後も続けるという事でいいか?」
「あー、それは唯は反対しないよ」
「・・・悪いけど、私は反対」
「えー、どうして?」
「だって、お弁当を作るのはお義母さんでしょ?そうなると三人とも同じお弁当を作る事になるから、簡単にバレるわよ」
「あー、それ、唯も気付かなかった。たしかに不自然よね」
「うっ・・・それは俺も気付かなかった」
「でもー、2年生になった途端に一緒に食べなくなったというのも変だよねー」
「じゃあ、俺だけ男で食べる量が多いから1品増やしてもらうか?」
「頼めるの?」
「多分・・・実際、何度か後から増やしてもらってるから大丈夫だと思う」
「じゃあ、それでいきましょう」
やれやれ、自分ひとりで考えると絶対に穴がでるなあ。そうなると『三人寄れば文殊の知恵』だな。
「あと、これは藍と唯に渡しておく」
そう言うと俺は自分の机の上に置いてあった小さな紙袋を藍と唯に渡した。
二人は不思議そうな顔をして受け取り、それを開封した。
中に入っていたのは・・・ストラップだ。
「あれ?これって・・・今人気の『はじっこぐらし』だよね」
「ああ、そうだ」
「これを私たちにどうしろと?」
「俺と唯のスマホにはストラップが1つずつ付けてあるが、それらは個人で買った物であって、一緒に買った物ではない。藍は何もつけてないだろ?それにこの『はじっこぐらし』はクラスの中でも男女問わず使っている人が多いから、俺たち三人が同じ物を持っていても誰一人として疑問に思う事は無いはずだ。だからきょうだいになった記念に使おうと思うがどうだ?」
「あー、それ、唯は賛成!」
「私も構わないわ」
「じゃあ決まりだ。早速つけようぜ」
そういうと藍と唯は自分の部屋に一度戻り、自分のスマホを持って来た。そして、俺たち三人は同じキャラの同じストラップをつけ、それを見せ合った。
「うわー、こういうのを見ると、きょうだいになったって実感が沸くよねー」
「そうね。何もないより、こうやって目に見える形で一体感が沸くっていうのも悪くないわね」
藍も唯も互いのストラップを見せ合って笑っている。どうやら、気に入ってくれたようで俺もホッとした。
だが、最後にこれだけは言わねばならぬ。これは展開が読めないから、ある程度の想定問答を作ったが、うまくいく保証は無い。でも、言わないと始まらない。
「あのー、もう一つ、いいかなあ」
「えー、何?まだ何かプレゼントがあるの?」
「私も興味あるわ。早く言って」
「・・・唯、お前、俺たちに黙っている事があるだろ?」
「・・・ううん、唯は隠し事はしてないよ」
「じゃあ、なぜ今、一瞬答えるのを躊躇ったんだ?」
「そ、それは・・・」
「拓真君、そんなに唯さんを責めないで。お願い」
「あ、ああ、ちょっと言い過ぎた。ゴメン・・・ただ、唯は何か言いたい事があるけど、それを俺や藍に言えなくて自分の中で抱え込んでいるはずだ。それを教えて欲しい」
「・・・が怖い・・・」
「唯さん、聞こえないわよ。どんな事も聞いてあげるし、相談にも乗ってあげるわ。私たち、クラスメイトでもあるし、きょうだいでもあるのよ。お願い」
「・・・夜が怖い・・・夜になって電気を消すと私は一人になったっていう事をしみじみと思うようになる・・・だけど、夜に電気をつけっぱなしで寝るとお義父さんやお義母さんに苦情を言われそうで仕方なく豆球にしているけど、どうしても耐えられなくなって泣き出す時がある・・・唯は本当はこんな子じゃあなかったのに・・・ごめんなさい・・・」
「・・・お前は一人じゃあない。俺もいるし藍もいるぞ。それに、俺は兄貴だぞ」
「そうよ。拓真君はお兄さんだから、心配なら一緒に寝てもらえば?」
「えー、さすがにそれはパス。たっくんに襲われるー」
「おい、藍!冗談はほどほどにしてくれ!」
「じゃあ、私と一緒に寝る?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!それは絶対に唯が許さないわ。いくら何でも唯の隣の部屋であーんな事やこーんな事をしたら許さなーい!」
「じゃあ、その『あーんな事』とか『こーんな事』って何かなあ」
「うわー、さすがにそれは言えないわよー。ていうか、お姉さんって下ネタ好きだったの?」
「あら、そんな事は無いわよ。女子高生として興味があるだけよ」
「頼むから勘弁してくれー。おれはこの家を修羅場にしたくないから」
「じゃあ、ハーレムにするつもりなの?」
「だー!藍が壊れたあ!!」
「冗談よ。それより、唯さんの件をどうするの?」
「はー、さすがに俺が一緒に寝る訳にもいかないし・・・」
「それじゃあ、私と唯さんの部屋の間にある引き戸を、寝る時だけ1枚のみ動かして互いの部屋を見れるようにしておく?どうせベッドはこの引き戸1枚を隔てた隣同士だから」
「あー、それいいかも。女子トーク全開で逆に寝れなくなるかも」
「じゃあ、そうしてくれ。俺は女子トークにはついていけそうもないからな」
どうやら話がまとまったようだ。藍も唯も色々と言いたい事もあるだろうし、実際、今日の俺の提案だって、ほとんど行き当たりばったりの提案に近かったが、それでも藍と唯の不満や不安を一部だけとはいえ解消できた。結果オーライだったが、それで良しとしよう。
結局、この後も1時間位三人で喋っていたけど、さすがに10時になるのでお開きとなった。
当然俺はこの部屋で一人で寝る事になるが・・・昨夜と同じくブラジャーのお世話になるのはさすがに気が引けたし、今日は正直早く寝て体を休めたいから、さっさと寝る事にした。
そして・・・久しぶりに熟睡して、明朝、目覚まし時計が鳴るまで起きる事はなかった。ホントに久しぶりに熟睡できた。
それに引き換え・・・藍と唯は翌朝、二人とも目の下にクマを作って起きてきた。なんでも、二人で延々と女子トークを展開していて時計を見てなかったから午前4時近くまで喋っていたらしい。そのため、完全に寝不足みたいで、朝から生あくびを連発していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます