第4話 さっそくラッキー!?

 そのまま俺は母さんの車に乗って家に帰った。そして早めの昼ご飯を食べると母さんは出勤していった。母さんが帰ってくるのは夕方だ。俺は自分の部屋でゲームをしていたが、そこへ藍と唯が帰ってきた。

 だが、階段をドタバタと走って登ってくる音がする。何事かと思っていたら、いきなり部屋のドアがバタンと開いた。ドアを開けたのは唯だった。当然、制服姿のままだ。

「ちょっと、どういうつもりなの!説明して頂戴!!」

と、物凄い剣幕で唯が俺の所に詰め寄ってきた。

 俺は何のことかさっぱり分からなかったので

「おい、ちょっと落ち着け!一体、何の事だ?」

「とぼけないでよ!さっき、お姉さんと私にメールしたでしょ?なんでお姉さんを先に送信したのよ!」

「はあ?」

「だから、どうしてお姉さんを先に送信したのかって聞いてるのよ!百歩譲って同時送信なら許せるけど、私より先にお姉さん、つまり藍さんに送信した理由を説明して頂戴!」

「おちつけ、唯!」

 とにかく俺は唯を宥めるのに必死だった。俺の心配を他所に藍は呑気に階段を上がってきた。そしてドアが開いているから普通に俺の部屋に入ってきて

「あらー、拓真君、随分と彼女に冷たいわねー」

「ちょっと、藍さん、俺も何の事かさっぱり分からないんですけど」

「とぼけないでよ!さっき、お姉さんのスマホを見せてもらったけど、唯より1分送信時間が早かったわ。今朝二人で時刻合わせをしたばかりだから狂っている事はあり得ないわ。たっくんが先にお姉さんに送信して、まったく同じ文書を唯に送信したという事は、唯の方が下って意味だよね。たしかに唯は藍さんの妹になってますけど、唯より藍さんを優先するのは許せないわ!」

「そういう事みたいです。さっき、地下鉄の中でお互いのスマホを見せ合って確認したから間違いないわ。私も一生懸命宥めて落ち着いたと思っていたけど、家に入ったら不満が爆発したみたいね。まあ、私は気にしてないから安心してください」

 おいおい、そんな事で唯は俺に食って掛かってるのかよ・・・俺は単純に50音順では藍が先だから、先に名前が出てきた藍に送信しただけなんだけど。

 でも、唯にとっては大問題なのだろうな。仕方ないから俺は平身低頭で唯に謝って、今後二人に同じ内容の文書を送信する時は必ず同時送信にすると約束し、何とかこの場は収まった。

 藍の方は「今後は気を付けなさいよ」とだけ言って部屋を出ていき、唯の方は「今度やったら許さないわよ!」と怒鳴って部屋を出て行った。

 一人部屋に残された俺はため息しかつけなかった。


 だが、これは今日のケチのつき始めでしかなかった。


 今日は夕食時に父さんはいなかった。まあ、よくある話なので別に気にしてなかった。それに明日は本当の登校日である。さすがに俺も春休みの怠け癖を直さなないとマズいと思い、早めに風呂に入って寝ようと思った。それに、昨夜はロクに寝てないから早く寝たいというのもあった。

 だから俺は夕食を食べた後、適当な時間に着替えを持って脱衣所のドアを開けた。

 だが、ドアを開けた時、俺は信じられない物を見た。

「!!!!!」

「!!!!!」

 俺はドアを開けた状態で固まった。

 そこには・・・俺に背中を向けてはいたが下着姿の藍がいたからだ。しかも風呂上がりのようで、今まさにブラジャーをつけようとしていた所だった。

 藍は一瞬、何が起きたのか分からないようだったが、状況を理解したようだ。慌てて左手で自分の胸を隠すと顔を真っ赤にしたまま俺に向かってきた。


“バチーン!”


 あたり前ではあるが、俺の頬は藍の右手の跡がくっきりと残る位、真っ赤になっている筈。それ位の全力の平手打ちを食らわせたかと思うと、そのまま脱衣所のドアを勢いよく閉めた。

 ドアが壊れるのではないかと思う位の勢いで閉めたから、リビングにいた唯が何事かと飛んできた。そして、俺の左頬についている物が何なのかを理解したようで

「このスケベ!」

 そう言って、唯はさっきとは逆、俺の右頬に唯の左手の跡がくっきりと残る位の平手打ちを食らわせると、怒り心頭と言った感じで再びリビングに戻っていった。

 俺は茫然と廊下で立っていたが、しばらくすると藍がパジャマの上にセーターを1枚羽織った状態で脱衣室から出てきて、あたり一面にシャンプーのいい香りがしてきた。そのまま俺の顔を見ると

「あら?いつの間にか増えてるわね」

 とだけ言い、ニコッとしたかと思うとリビングに入って行った。そして、リビングからはドライヤーの音がし始めた。

 いかんいかん、姉貴が結婚する前までは脱衣所に誰かいるのかを確認してから入る癖がついてたけど、姉貴が結婚したらやらなくなったからなあ。しかも母さんは基本的に夕食の片付け直後に一番風呂へ入る派だから俺はいつも最後というのが相場だった・・・。

 俺は藍に続いて風呂に・・・と思ったら、栓が抜かれていてお湯は無かった。どうやら藍が風呂の湯を全部抜いてから出てきたようだ。自分の残り湯を俺に使われたくないという事か・・・仕方ないからシャワーだけで俺はさっさと切り上げ、スグに布団に潜り込んだ

 あれは・・・ある意味、ラッキースケベではあったが、藍の白い肌がくっきりと記憶に残ってしまいますます寝付けなくなった。でも、さすがにもう零時になろうとしている。そろそろ寝ないとマズイ。

 俺は仕方なく寝がえりをうち、無心に寝る事だけを考えていたら、どうやら眠くなってきた。これで安心して寝られそうだ。そして、いつの間にか寝ていた。


 俺は寝ている筈・・・夢の中の筈・・・だが、どうも息が苦しい。何か押さえつけられているようにも思える。しかも、ますます息苦しくなってきた。あきらかに夢ではない!俺は目を開けた!!

 だが・・・そこには誰もいなかった。ただ、俺の顔の上、正確には鼻と口の上に何かが乗っている事に気付いた。それを手に取った俺は、豆球の明かりの下、その物が何なのかに気付いた!

 ブラジャーだ・・・しかも、あきらかに使用済で微かに汗の匂いがする。

 慌てて俺は飛び起きて部屋の明かりをつけた。そして、そのブラジャーを手に取って、それが誰の物か気付いた。

 藍だ・・・藍が俺の部屋にこっそり忍び込んで、俺の顔にブラジャーを被せ、多分、それだけした後に部屋を出て行ったんだ。

 その証拠に、この家でブラジャーを使っているのは母さんと藍、それと唯だが、お世辞にも母さんの胸は大きくない。下手をすると唯より小さいかもしれない。それに、唯は俺の推定でBカップ。だが・・・このブラジャーのサイズは『F65』になっている。色は薄い水色。つまり、さっき俺が事故(?)とはいえ、脱衣所で藍の風呂上がりの姿を見てしまった時に使っていたブラジャーだ・・・。

 それにしても・・・あいつ、本当はFカップだったんだ。俺は推定E、本当はDだと思っていたから、まさかFカップだったとは・・・着痩せするタイプだったんだ。まてよ、という事はAで75だから、78、80、83、85、88だ!マジかよ!?

 でも、何で藍は俺にブラジャーを置いて行ったんだ?

 おい、まさかと思うが、これをオカズにしろという意味か?それとも、俺に見られたから使う気が失せたのか?どっちにしろ、俺はもう寝れないぞ!


 結局、俺は2日連続で満足に寝る事が出来ず、外が明るくなるまで寝付けれなかった。ようやく寝られたかと思ったら目覚まし時計が鳴り、再び目の下にクマをつけたまま起きてきて藍たちに笑われた。

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