187話
キリエの教会に泊まった翌日、俺達はクバサに行くための準備を整える。
なにせ、砂漠越えをするのだ。水分系は、きっちり用意しておかないといけない。
あいにく、この街からは魔導船は出ていないので砂漠まで馬車で行くことになる。
そこからは、また別の乗り物に乗り換えないといけないらしい。
まあ、砂漠の上を馬車で通れないからな。車輪が砂にとられちゃうし。
セントマナトスから砂漠までは半日。そっからクバサまで二、三時間とのことだ。
なので、朝から出れば夜までには到着する計算だ。
「そういえば、ワイズマンさん達の場所は分かってるのですか?」
準備を終えて馬車へと向かう途中、キリエが口を開く。
「いや、奴の居場所は今分かっていない。だから、一先ずはアルバと同行し、向こうから仕掛けてくるのを待つしかない。向こうには、エスペーロが居るから近い内に来るだろう」
「なんで、エスペーロが居ると近い内に来るんだ?」
ジャスティナの言葉を不思議に思った俺は、尋ねる。
「あら、それは分かり切ってる事ではありませんか。ねぇ?」
キリエが何かを含んだ笑みを浮かべながらジャスティナに同意を求めると、彼女も肯定するように頷く。
「だって、ほら……エスペーロさんはアルバさんにゾッコンラ・ブですもの! 愛する者の元へ、必ず現れますよ!」
瞬間、俺の背筋を冷たい何かが駆け抜ける。
「ああ! 背徳的な同性の恋……ただでさえ、障害が大きいのに二人は何と敵同士! これは、物語の良いネタになりますよ、うぇへへ」
キリエは、涎を垂らしながら興奮して話し続ける。
……そうだ、そうだった。キリエは、腐女子だった。
見た目“だけ”は美人なので、すっかり忘れていた。
「俺もアルバ君の事は愛してるから、エスペーロと同じ立場なら、そうするだろうね」
リーベは、キリエの言葉に納得したように頷く。くそ、まともな奴は居ないのかよ!
「おい、ジャスティナ。お前の所の幹部にまともな奴は居ないのか?」
「……言わないでくれ」
俺が、ジャスティナの方をジロリと睨むと、彼女はフイッと顔をそむけながらポツリと呟く。
どうやら、ジャスティナはジャスティナなりに苦労してるらしい。
「そ、そういえばさ! そのエスペーロ……だっけ? 彼がアルバ君の事を好きなら、どうして敵側に回ったんだろうね?」
気まずい空気が流れる中、そんな空気を変えようとすべくフォレが話しかけてくる。
「ふむ、そういえばそうじゃな。わざわざ敵になる理由は無いような気がするが……」
ノブナガも同意見なのか、フォレに賛同する。
あー、そういえば何でだろう。
「エスペーロって、ジャスティナに心酔してるように見えたから、そっちから考えても裏切るように見えなかったんだよなぁ。ジャスティナは、何か心当たりがあるか?」
「いや……正直、今の奴が何を考えてるかは分からん。ただ、お前に出会ってからは、酷くご執心だったようだが」
聞きたくなかった、そんな情報。
あー、どっかで事故って自滅しないかな、エスペーロ。
そんな会話を繰り広げつつ、俺達は馬車に乗り込むとクバサに向けて出発する。
◆
「これが、クバサに行くための乗り物?」
昼過ぎ、砂漠の入口に到着した俺は目の前の乗り物を見ながら口を開く。
「うん、これに乗って行く感じだね。此処には、休憩所もあるから、先に昼食にしてから行こうか」
俺の問いに対し、フォレはそう答える。
フォレが指差す先には、木造の建物が建っており、海の家を彷彿とさせた。
ちなみに、乗り物というのはホバークラフトに似ていた。
仕組みを聞いたら、風の魔石で本体を浮かせて移動するらしい。
まさかファンタジー世界で、ホバークラフトを見ることになるとは思わなかったな。
昼食を取った俺達は、早速ホバークラフトを借りることにする。
どうやら、ホバークラフトも四人乗りのようで、運転手プラス三人という形になるらしい。
俺とフォレ、ノブナガ組とジャスティナ達、七元徳組で分かれて乗る事になった。
「それじゃ、出発しますねー。危険なので、身を乗り出さないようにお願いしますー」
運転手がそう言うと、ホバークラフトが浮いて前進し始める。
フワフワ浮いていてなんだか不思議な気分だ。
速度は、大体時速五十km程だろうか。熱い風が頬を撫でていく。
日差しの強さに辟易しながら、しばらくボーっと遠くを眺めていると遠くで何かが見えてくる。
空では魔導船っぽいのが行き来しているのが見えてるので、多分あれがクバサだろう。
「すみません、あれってクバサですか?」
「ああ、はい。そうですよ。あと十分程で到着しますね」
運転手のその言葉を聞いて、俺はようやくかと一息つく。
皆とバラバラになってから此処まで一ヵ月も経ってないが、凄く久しぶりな感じがする。
思えば、フラムとアルディとは俺が小さい頃から一緒だったからな。
無事に辿り着いていれば良いんだけど。
「大丈夫、フラムちゃん達なら絶対無事さ」
俺の心情を察したのか、フォレが話しかけてくる。
「……そうだな。ありがとう」
「いやいや、夫を気遣うのも妻の務めさ」
俺がお礼を言うと、フォレはほんのり顔を赤くして照れながら手をパタパタと振る。
「ふむ、アルバの仲間に会うのが楽しみじゃのう」
「ノブナガと同じ口調の仲間も居るから、もしかしたら気が合うかもね」
口調が同じ過ぎて、絵面が無いと分かりづらいかもしれないけどな。
そんな会話をしていると、俺達はついにクバサへと到着する。
クバサもセントマナトスと同じように壁で囲まれており、正面には大きな入口があり、両脇に門番が立っていた。
ホバークラフトの停留所のような場所で降ろされると、俺達は運転手に礼を言って入口へと向かう。
「一応聞くけど、クバサには結界とか無いよな?」
セントマナトスでの出来事を思い出し、不安になった俺は尋ねる。
「確か無かったと思うよ。まあ、入れなかったら別の方法を考えればいいでしょ」
俺の問いに、フォレは気楽に答える。
まあ……最悪の場合、土魔法で穴掘ってこっそり入るのも手だな。
なーに、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ。
「旅の者か?」
入口にやってくると、近くに居た門番が話しかけてくる。
「はい、そうです。中で、他の仲間と待ち合わせしてるんですよ」
嘘は言ってない。約束こそしてないが、他の皆も此処へ来ると信じているからこその言葉である。
「なるほど。まあ、入るのは構わんが、問題は起こさないようにな。今、事情があって少しピリピリしてるからな」
「何かあったんですか?」
「ああ、第一皇女であるアルカーリア様の……」
門番は、そこまで喋った所でピタリと止まる。心なしか、俺の顔を見て驚いているようにも見える。
どうしたんだろうか?
不思議に思っていると、門番は脇にあった詰所に急いで入っていくと、他の門番達を数名連れて戻ってくる。
「何があったんだろうね?」
「さぁ?」
フォレの言葉に、俺は肩を竦めて答える。俺も理由を知りたいくらいだ。
「すまぬが、そこの赤毛の少女……いや、少年? 名前を聞かせてもらっていいか?」
「俺は男です。えっと、名前はアルバですね。アルバ・フォンテシウム・ランバート」
突然の質問に戸惑いながらも、俺は素直に答える。
ここで渋ったって、何もならないからな。
「なぁ、これって……」
「ああ、にわかには信じられないが……」
俺の名前を聞いた門番達は、なにやらヒソヒソと話し始める。
「アルバ、もしかしてお前指名手配か何かされてたんじゃないのか?」
「お前らと一緒にすんなよ」
コソッと耳打ちしてくるジャスティナを、俺はバッサリと斬り捨てる。
こいつらならまだしも、俺は犯罪には手を染めてないので指名手配される謂れはない。
「えーと、すまないが、アルバ殿の後ろに居る人達も仲間か?」
「そう……ですね、ええ」
俺の言葉に、門番の一人が考え込む。
「申し訳ないが君達全員、城へ来てくれ」
門番のその言葉に俺達は、顔を見合わせながら首を傾げるのだった。
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