186話

 道中は、これといって特に何もなく俺達は、無事にセントマナトスへと到着した。


「……のは、良いんだけどアレってなんだ?」


 セントマナトスは、白く高い壁に囲まれおり、入口らしき場所には大きい門と人が出入りするような門の二つがあった。

 俺達は、その門から少し離れた場所で竜車から降りていた。

 門自体は、特に珍しいものではないのだが、その形状がやや特殊だった。

 材質は分からないが、色は黒で空港の危険物などをチェックするゲートの形に似ていた。


「ふむ、大陸の街は何とも珍妙なものじゃのう」


 ノブナガも不思議がって、興味深そうに門を眺めている。


「ああ、あの黒い部分に魔物などが入り込まない様に結界が張ってあるんですよ。仮にも聖王都ですからね。だから、竜車も入れないんですよ」


 俺の問いに対し、竜車の御者さんが答える。

 ああ、だから此処で降ろされたのか。

 竜車に使っている小型のドラゴンは魔物だしな。


「後は……良からぬ事を企んでる人とかも弾かれますね。だから、セントマナトスでは犯罪が起こった事無いんですよ」


 へー、そいつは凄いな。

 ということは、世界で一番平和な街なんじゃなかろうか。

 ん? ジャスティナとリーベは大丈夫なのか?

 良からぬどころの騒ぎじゃない思想を抱えてるから、絶対弾かれると思うのだが。


「まあ、此処に来るのは初めてだが大丈夫だろう」


「俺も問題ないね」


 俺の視線に気づいたのか、ジャスティナとリーベは自信満々な感じで言う。

 一体、どこからその自信は湧いて来るのだろうか。

 これ以上深く突っ込んだ話は、関係ない人の前では出来ないのでそこで止めておく。

 二台の竜車を見送ると、俺達は早速入口へと向かう事にする。

 入口には、何人か並んでおり、その後ろにノブナガ、フォレ、リーベ、俺、ジャスティナの順で並ぶ。

 特に順番には意味が無く、ただなんとなくだ。

 ゲートの傍には門番が立っており、一人ずつゲートに通してチェックをしている。

 その光景は、ますます空港みたいだった。実際に見たことないけど。

 俺達の番がやってきて、まずはノブナガとフォレがゲートを通る。

 まあ、当然と言えば当然なのだが普通に弾かれる事無く街の中へと入る事が出来た。

 そして、問題のリーベの番である。

 リーベ以外の全員が、奴がゲートを通るのを固唾を飲んで見守る。


「……」


 結果は、無事通れた。

 リーベが何事もなく通れたのは非常に納得がいかないが、今回は良しとしよう。

 

「では、次の方どうぞ」

 

 門番に促され、俺はゲートへと向かう。そして、ゲートを通ろうとした瞬間、バチッという音と共に凄い勢いで弾かれてしまう。


「いってぇ⁉」


 あまりの痛さに、悶絶しながら叫んでしまう。

 ていうか、なんで俺弾かれてんの? 良からぬ事とか考えてないよ?

 リーベが平気で俺がダメなのが物凄く納得いかない。

 門番からも、白い目で見られてしまっている。


「……コホン。ちょっと、俺は調子悪いみたいだからジャスティナからどうぞ」


 俺は、誤魔化すように咳払いをするとジャスティナに順番を譲る。


「お前はエロバだからな。どうせ、スケベ心が反応して弾かれいったぁ⁉」


 ジャスティナは、したり顔で話ながらゲートに向かうが俺と同じように弾かれてしまい、蹲る。


「やーい、ジャスティナも弾かれてやんのー」


「ち、違う! これは何かの間違いだ!」


 俺の言葉に、ジャスティナは慌てながら立ち上がると再びゲートを通ろうとする。

 しかし、結果は先程と同じだった。

 まあ、カルト教団のボスなのだ。当たり前と言えば当たり前だ。普通に通れたリーベが異常なのである。


「……どうやら、そちらのお二人は街へ入る資格が無いようですね。悪しき心を持つ者は通れないので」


「異議あり! こっちのつるペタ娘はまだしも、俺は清廉潔白です!」


「誰がつるペタだ! 良いか、門番。こっちの女男はまだしも、私は己の正義に従って常に行動している! 通れないというのは、何かの間違いだ!」


 門番の言葉に、俺とジャスティナは異議を申し立てる。


「だけど、通れないもんはねぇ……今まで通れなかった人は何人も居たけど、どう頑張っても、その人達が入れた事は無かったよ? 悪いけど、入れない以上は……「その方達は、私の知り合いです」」


 門前払いを喰らおうとしたところで、思わぬところから声が掛かる。


「この方達は、以前悪しき人から呪いを掛けられてしまったんです。恐らく、その呪いが結界に引っかかってしまったのでしょう。身分は、私が証明しますから、通していただけないですか?」


「これは聖女様! 聖女様が、そう仰られるんでしたら信用します」


 門番は、ぺこぺこと頭を下げながらそう話す。

 俺はというと、聖女と呼ばれた人物を見て固まっていた。

 本来なら、便宜を図ってくれた相手に礼を言わなければいけないのだが、それどころでは無かった。

 黒のシスター服に身を包み、長い銀髪が印象的な女性が立っていた。

 門番の話からすると、こいつが噂の聖女様らしい。

 だが、俺はこいつの正体を知っている。聖女なんて、そんな清らかな存在じゃない。


「おお、キリエ。助かったぞ」


 ジャスティナは、シスターを見ると嬉しそうに言う。

 そう、聖女様と呼ばれた人物は……ジャスティナやリーベの仲間で、七元徳の一人、信仰のキリエだった。



「しかし、結界に弾かれた時は、どうしようかと思ったぞ」


「ジャスティナさんとアルバさんは、多分邪神の影響で弾かれたんだと思います」


「ああ、なるほどな」


 現在、俺達は無事に街の中に入り、キリエの所属している教会へと向かっている。


「……」


「どうしたんだい、アルバ君」


 街に入ってから、ずっと無言で考え事をしていたらフォレが話しかけてくる。


「……いや、やっぱり納得できなくてさ」


「あら、何が納得できないんです? ああ、リーベさんが結界を通ってしまった事ですか?」


 俺の言葉に反応し、キリエが近づいてきた。

 端正な顔立ちに豊満な胸。それに加えて光属性ともなれば、知らない人が見れば確かに聖女に見えるだろう。


「いやまぁ、リーベの事も確かに納得いかないんだけどさ」


「君達、俺の扱い酷くないかい?」


 自分の扱いに不満があるのか、リーベが何やら声を掛けてくるが無視をする。


「アンタが聖女だっていうのが、一番納得いかないんだよ。邪教の一員じゃん。ジャスティナの仲間じゃん」


「ああ、なるほど。つまり、アルバさんは私が何故聖女と呼ばれているか気になるんですね?」


「まぁ、そうなるな」


「別に私から名乗ってる訳では無いんですよ? 私、昔から光属性が得意だったので、その影響で回復魔法も得意だったんです。外面良くして、無償で怪我人や病人を治していたら、いつの間にか聖女と呼ばれるようになってたんです。まあ、その呼び名は表の世界では、色々便利なのでありがたく使わせてもらってますが」


 キリエは、えらくぶっちゃけた話をしてくれる。

 確かに、聖女と呼ばれてる人間が、実は裏の組織の一員ですなんて言われても、普通は信じないよな。

 門の所でもそうだったが、聖女というだけでかなり信頼されていたし。


「納得していただけました?」


「……とりあえずは」


 本性を知っているだけに、聖女と認めたくはないが、すれ違う通行人がさっきからキリエの事を聖女様と呼んで挨拶してるので、認めざるを得ない。


「それは良かったです。……それにしても、意外でした。ジャスティナさんとアルバさんが協力しているだなんて」


「まあ、ワイズマンを倒すまでの間だけどな」


 完全に仲間になった訳では無い。あくまで、共通の目的を果たすまでの協力関係だ。


「ああ……ワイズマンさんですね。あの人、私にも彼の側につくよう要請してきたんですよ。私は、ジャスティナさんが好きなので断りましたが。リーベさんの方にも行きましたよね?」


「そうだね。ただ、俺は彼の考えが気に入らなかったら断ったがね」


 おや、愛を信条にしてるリーベにしては珍しいな。誰かを気に入らないだなんて。


「彼の行動には愛が無い。だから、断ったんだよ」


 あー、確かにあいつは自分中心って感じだったしな。

 他愛主義のリーベでは、確かに合わないだろう。


「さ、教会に着きました。詳しい話は、中でしましょう」


 目の前には、みすぼらしい教会が建っていた。聖女の教会というから、立派なのを想像していたんだが。


「なんだか、みすぼらしいのう」


 ノブナガも同じ感想だったのか、空気を気にせずストレートに言い放つ。


「街の人も立派な教会を……って言っていたんですが、あまり大きい教会だと身動きが取れなくなってしまいますからね。聖女は、あくまで表向きなので」


 なるほど。確かに、人目が少ない方が動きやすいしな。


「最近は、この街の教会の方も回復魔法が上達してきてるので、最近は私も暇になって来てるんですよ」


 キリエは、そう説明しながら教会の中へと入る。

 教会の中も、なんだか質素な感じだった。

 その後、奥へと通された俺達は今までの経緯をキリエに説明し、今後の事について話し合う。


「――という訳で、お前にも一緒に来てもらいたくて誘いにきたのだ」


 一通りの説明を終えたジャスティナは、そう締めくくる。


「……分かりました。協力いたします」


「随分、あっさりしてるんだねー。聖女様って言うから自由に街から出れないと思ってたよ」


 キリエがあまりにも簡単に承諾するので、それを不思議に思ったフォレが尋ねる。

 俺も、それは気になったな。


「ああ、そこら辺は融通がきくんですよ。世界中の人達を救うって名目で外に出れるので」


 ああ、確かに噂の聖女様なら、そういう理由でも納得がいくな。

 実際は、その真逆なのだが。


「そういう訳ですので、よろしくお願いしますね?」


 キリエは、そう言うとニッコリと微笑む。

 ……敵組織の幹部三人が期間限定とはいえ、仲間になるって凄い状況だな。


 あまりにも特殊な状況に、俺は内心ツッコむのだった。

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