188話
俺達は門番に連れられて、何故かクバサ皇国にある城の謁見広場まで来ていた。
目の前にある玉座には、赤毛で三、四十代くらいの男が座っていた。
豪華な服装と態度から、この国の王だと分かる。
「そなたがアルバか?」
「はい、そうです」
「ふむ……確かに瓜二つだ……事前に聞いていなかったら、分からなかったな」
質問に答えると、王様は何やらブツブツと呟き始める。
「っと、まだ自己紹介をしていなかったな。私の名は、エピタフ・キュレ・シフォン・カーメン。この国の王だ」
王様がエピタフと名乗ると、ノブナガがズイッと前に出る。
「お初にお目にかかる、エピタフ王。ワシは、ヤマトを治めるノブナガと申す。以後お見知りおきを」
ああ、そっか。ノブナガも一応、王っつーか殿だから、挨拶しとかなきゃいけないのか。
「なんと、ヤマトの……それは、遠路はるばるご苦労だった」
「いや、ワシはこの者達にたまたまついてきただけなので、苦労ではなかった」
その後も、ノブナガの後に続いて自己紹介をする。
キリエが聖女だというのは、こっちでは有名らしく彼女が名乗るとエピタフ王は驚いていた。
そして、リーベが親愛の証だとか抜かして全裸になろうとしたので、全力で阻止した。
王の前で全裸になるとか、無礼ってレベルじゃない。
ノブナガの前では、全裸だったじゃんとかそういうツッコミは受け付けない。
「それで……俺達は、何故呼ばれたのでしょうか?」
自己紹介も一通り終わったので、俺は気になっていた事を尋ねる。
エピタフ王の雰囲気から察するに、そんな悪い事では無さそうだが。
「おお、そうだったな。実は、ある者達からそなたの事を聞いていてな。近い内にクバサに来るだろうと聞いていたから、待っていたのだ」
「待っていた……? あの、なんで俺みたいなのを待ってたんでしょうか?」
「それなんだが……口で説明するよりも実際に会った方が良いだろう。おい、アルカ達を此処へ」
エピタフ王が、近くに居た兵にそう命令すると、兵はガチャガチャと金属音を鳴らしながら広場から出ていく。
そして、大体五分くらい待っただろうか。
どこかに行っていた兵が戻ってくる。
「お連れいたしました!」
誰が来たんだろうかと気になって振り向いた瞬間、腹部に物凄い衝撃が加わり吹き飛ばされて地面に転がってしまう。
「げふぅ⁉ い、一体何が……?」
「アルバ! 会いたかったよ!」
俺にぶつかってきた何かの正体を探ろうと首だけ動かせば、そこには相変わらずメイド服のアルディが抱き着いていた。
「アルディ! 無事だったんだ……」
信頼はしていたが、心のどこかで不安だった俺は、見慣れた顔を見れて心底安堵する。
「ワシも居るぞ」
「グラさん!」
アルディの顔を見て安心していると、褐色肌のダンディじーさんことグラさんも現れる。
「アルディと一緒に飛ばされていてな。二人で此処に来たんじゃ。アルディ曰く、アルバ達は絶対此処に来ると言ってな」
「実際、来たでしょ? さっすが、私!」
グラさんの言葉に、アルディは胸を張りながら答える。
やっぱり、皆も同じ考えだったか。俺の考えが外れてなくて良かった。
「あ。てことは、ある者達ってのはアルディ達の事? フラムは来てる?」
「そうだねー。ちょっと、事情があって今、このお城で働いてるから王様に説明してたんだよー。フラムは……まだ来てないかなー」
フラムがまだ来てないと聞いて、内心残念な気持ちになるが、それよりも気になった事があったので聞いてみる。
「ん? 今、この城で働いてるの? なんでまた」
言っては何だが、アルディは自由奔放というか天真爛漫というか……つまりは、こういう城みたいな堅苦しい所で働くような性格じゃないので、素直に気になった。
「それは、私が理由ですね」
俺の質問に、予想外の所から声が掛かる。
声の方を見ると、俺は思わず固まってしまう。
「初めまして。クバサ皇国、第一皇女のアルカーリア・キュレ・シフォン・カーメンと言います。アルカ、とお呼びください」
そう言って、声の主はペコリと頭を下げる。
「俺が……居る?」
そう、その声の主は俺と瓜二つだった。
「アルバが……二人だと?」
「ほぉ、これまた生き写しじゃのう」
ジャスティナやノブナガも俺と同じ感想抱いたようで驚いていた。
「そうそう。私も、最初見た時驚いたんだよねー。ただ、なんかおかしいと思って確認したら、アルバのアルバが無かったから、違うって確信したんだよ」
アルバのアルバて。ん? ってことは、アルディは股間を確認したのかよ!
皇女と名乗る相手になんたる不敬。よく怒られなかったな。
「まあ、いきなり確認された時は驚きましたけどね」
そう言って、俺のそっくりさんであるアルカはクスリと笑う。
なんて心の広い皇女様なんだ。流石、俺と顔が同じだけある。
「まあ、そういった縁もあり、アルディ達は実力もあるというのでな。期間限定でアルカの護衛をやってもらっていたのだ。そなたらが、クバサに来るというのなら門番が必ず困惑すると思ったので、あらかじめ通達しておいたのだ。此処へ連れてくるようにとな」
なるほどな。確かに第一皇女様と同じ顔の人物が来たら、あらかじめ聞いていないとびっくりするわな。
「とりあえず、自分達が呼ばれた経緯は分かりました。……そういえば、門番の方が言っていたんですが、何か今ゴタゴタしてるとか」
そういえばと、門番が何か言っていたのを思い出したので尋ねてみる。
「ああ……まあ、それがアルディ達に護衛を依頼している理由でもあるな。……すまぬが、ちょっと近くへ来てくれるか」
エピタフ王に手招きされたので、俺達は近くに寄る。
ついでにアルカも一緒に近づいてくる。近くで見ると、ますます俺そっくりだ。
「実は、そこのアルカ。ワシの娘がもうじき成人の儀を行う。成人の儀が終われば、この国の王として段々と準備を進めていくのだ。ちなみに、わが国では成人の儀は十五で行う」
あー、色々納得。
王位継承とか、そこら辺は本当に面倒だからなぁ。
ていうか、十五だったのかアルカ。
「一応、下に皇子も居るのだが年齢的に……な」
おそらく、上にも皇子が居たのだろう。
が、王位継承問題で亡き者にされたとかそんな感じだと予想がつく。
流石に、冒険者風情にそこまで突っ込んだことは話せないだろうが。
「それで、そなたらに頼みたい事があるのだ」
「頼み……ですか」
「うむ。来月にアルカの成人の儀があるのだが、アルカが王位を継ぐのを快く思わない連中が居てだな」
「そいつらを皆殺しにすれば良いんだな?」
と、ジャスティナが爆弾発言。
「い、いや……そこまでは言っておらんぞ」
ジャスティナのトンデモ発言に、エピタフ王も若干引いたように言う。
「ジャスティナさん……流石にそれは物騒すぎですよ」
「俺もそう思う」
キリエや……あろうことかリーベにまで突っ込まれてしまい、ジャスティナはシュンとしてしまう。
お前、ホントに正義なのかよ。
「こ、こほん! それでだな。もちろん、皆殺しなどいう事をしては、これからの政治にも多大な影響が出てしまう」
だろうな。
「だから、そなたらにはアルカの護衛をしてもらいたい。あわよくば、良からぬことを企んでいる輩を」
「皆殺しに」
ジャスティナ、お前どんだけ殺したいんだよ。
「だから違うぞ? 捕まえて欲しいのだよ。もちろん、然るべき罰は与えるつもりだがな。それに……アルカとそっくりなそなたが居ればめくらましにもなると思ってな」
あー、確かにそっくりな奴が二人居れば、向こうも戸惑うよな。
だが、もし強硬派ならばどっちも殺してしまえとかなるかもしれない。
「もちろん、アルバが一番命の危険があるだろう。だから、これは強制ではない。断ってくれても良い。だが、もし受けてくれるなら報酬もはずもう」
正直、金には困っていないので報酬はどうでも良い。
それに、似てるというだけで血縁関係も何も無いので断っても良いのだが……アルディ達が世話になった恩もある。
それに、そこら辺の奴らにやられるような俺では無い。
「分かりました、依頼はお受けします。ただ、報酬なんですが……実は、バトロアという街の方の厚意でこちらで魔導船を造船したらしいんですよ。可能なら、その何割かで良いんでバトロアの方に返金してもらえればなと」
「そんなもので良いのか?」
俺の提案に、エピタフ王は驚いた表情を浮かべる。
「別にかまわないよな?」
俺の問いに、全員が頷く。
まあ、元々俺以外の奴も特に金に執着が無い奴らばかりだからな。
「……すまない、礼を言う」
「私からも礼を言わせてください。命の危険があるにもかかわらず、受けてくれてありがとうございます」
エピタフ王とアルカは、そう言って深々と頭を下げる。
まあ、俺としても土属性を向上させるという、ほとんどの人が忘れてそうな目的というか打算があるからってだけなんだけどな。
そんな思惑をよそに、俺達はアルカの護衛依頼を受けることになったのだった。
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