163話
「本当に良いのかい?」
あれから数日後、約束通り優勝したのでクウネの店でスイーツを食べながら市長さんと雑談していると、彼はそんな事を聞いてくる。
「はい。俺達は世界を見て周るのが目的なので厚意はありがたいんですが、旅をしながら向かおうと思います」
何の話かというと、例の魔導船がクバサにあるから転移装置を使ってクバサまで送ってくれると市長さんが申し出てくれたのだ。
ただ、今俺が言ったように一瞬で着いてしまうのも味気ないので、丁重にお断りさせてもらったという訳だ。
フラム達とも相談して決めた事だ。
「ふむ……まあ、そういう事なら君達の意見を尊重することにしよう。それにしても変わってるね。普通なら、楽な方を選ぶものなのだが」
ま、確かに普通の人ならわざわざ料金が高い転移装置で送ってくれると申し出があればそれを受けるだろう。
しかし、それだとあまりにも味気ないではないか。
「まぁ、アルバ様は変わってますからね」
「そうそう。アルバは普通じゃないから」
「確かに、アルバ君は普通の人とは違うよねー」
フラムやアルディはともかく、フォレまでが俺を変な人みたいな言い方をしてくる。
「その言い方だと、俺が変わり者みたいに聞こえるんだけど……」
「だって……」
「ねえ?」
俺が非難の目をフラム達に向けると、彼女達は呆れたような表情を浮かべながら俺の手元の方を見る。
俺の手元には、18号程のサイズのホールケーキが置いてある。
もちろん、これは皆で食べる分ではなく俺一人で食べる用だ。真の甘党ならばこれくらいは普通である。
「少なくとも、そのサイズを一人で食べるのは普通とは言えませんわよ……」
「確かに、見てるだけで胸焼けしそうだよ」
フラムの言葉に市長さんが同意してくる。
「市長さんまで……」
まったく。どうしてこれが普通だと皆分かってくれないんだ。
此処にエレメアが居たら俺の味方になってくれただろうに。
その後も、俺はケーキを軽々平らげ、おかわりをしたら皆にドン引きされたのは言うまでも無かった。
◆
「それでは、色々お世話になりました」
スイーツタイムを終え、旅の支度をした俺達は見送りに来た市長さんに頭を下げる。
ちなみに、スターディやカルネージは次の依頼があるとかで昨日の内に旅立っている。
一緒に旅をしないかと誘ったんだが、怪我人の治療の依頼だから急がなければいけないと言われ断られてしまった。
まあ、一緒に行けないのは残念だが今生の別れという訳でもないし、また機会があればという事になった。
「いやいや、こちらこそ返しきれない程の恩を受けたんだから当たり前だよ。君が居なければ本当に危なかったのだから……」
市長さんは、パタパタと手を振りながら俺の言葉を否定する。
「エレメア様の言葉を最初から信じていればこうはならかったんだがね……まさかエレメア様が呪いで子供の姿になってるなんて思いもよらなかったし」
それは仕方あるまい。後世に伝わってるのは、五英雄が邪神を封印して平和が訪れたという所までだ。
五英雄全員に何かしらの呪いが掛かっているなんて言い伝えは何処にも伝わっていない。
多分だが、そういう影の部分を伝えて大衆を不安にさせないようにしたのだろう。
「ギガに関しては、さらに警備を厳重にするから安心してくれ」
「分かりました。それでは、俺達はこれで「アルバちゅわーん!」……げ」
改めて挨拶をしようとした所で嫌な声が聞こえてくる。
何度も俺が断っても諦めないオカマプロデューサーの声だ。最近は、会わないように細心の注意を払っていたが、何処かで俺達が今日旅立つというのを聞いたのだろう。
「そ、それじゃ俺達は本当にこれで! 色々ありがとうございました! ほ、ほら皆! 早く馬車に乗って!」
「あん! 急かさないでくださいな、アルバ様」
「そうだよ、アルバ君。せっかちな男は嫌われるよ? まあ、そういう強引な所、嫌いじゃないけど!」
フォレの言葉に凄くツッコミを入れたかったが、今はそんな場合ではないのでスルーだ。
市長さんが用意してくれた馬車に全員を押し込むと、御者さんに出発するように伝える。
その直後、息を切らしながらこちらへと走ってくるプロドゥが見えた。
なんとか奴に捕まらずに済んだみたいだな。
俺は、事なきを得たことに安堵するのだった。
それから二時間ほど、特に何もなく馬車は進んでいく。
結構高めの馬車を用意してくれたのか、座る場所もしっかりしておりふかふかなクッションが敷き詰められているので揺れによる痛みも無い。
これが、普通の乗合馬車とかなら尻が痛くて仕方なかったから、手配してくれた市長さんに感謝である。
「ひーまー……ねー、何か面白いことなーいー?」
久しぶりの平和な旅に飽きてきたのか、アルディはぐでっとしながら話しかけてくる。
「て言ってもなぁ……フラム達と話してればいいじゃん」
「飽きたのー! アルバの良い所を話し合おうの会もさっき百五十六回目が終わった所だし」
そんな恥ずかしい会合を君達は開いてたのか。しかも結構歴史長そうだぞ。
「なんかこうさ、トラブルとか起きないかなー」
「滅多な事言うもんじゃないよ、アルディちゃん。確かに何か刺激的な事があれば文句なしだけど、平和ならそれはそれで良いじゃないか」
アルディの言葉に対しフォレが窘める。
マスコミという割には、随分平和な発言だな。てっきりアルディに賛同するとばかり思っていた。
「そうですわ。たまにはこういう旅も良いではありませんか。バトロアでは本当に色々ありましたし……」
本当に色々あったよなぁ。五英雄の修行に超獣ギガに大武闘大会……。
騒々しい毎日だったし、こんな平和な日があっても罰は当たるまい。
「ヒヒーン!」
そんな感じで平和を享受していると、馬車を引っ張っていた馬がけたたましい鳴き声を上げると同時に馬車が急停車してしまう。
「何かあったんですか?」
「そ、それが……」
何事かと思い、馬車から顔を出して御者に話しかけると、彼は青ざめた顔をしながら目の前を指差す。
「げ」
そちらを見れば、およそ三十人くらいは居そうなガラの悪い集団が道を封鎖していた。
それぞれ、手には武器が握られておりとても友好的な態度には見えなかった。
「へっへっへ、俺達はモブ山賊団だ。命が惜しけりゃ身ぐるみ置いていきな」
髭面の不潔そうな男が前に出てくると、そんなテンプレな事をのたまう。
ていうか、モブ山賊団とかこの上なくかませ臭しかしない。
多分、ボスの名前がモブとかそんなんだと思うが……。
「あら? 山賊ですの?」
「うわぁ、凄い人数だねー」
「ほらー、アルディちゃんが刺激が欲しいとか言うから面倒な事になったじゃーん」
「えへへ、めんごめんご」
騒ぎを聞きつけた女性陣が同じように顔を出して現状を把握すると、軽い感じで話している。
普通なら、青ざめたり慌てたりするもんなのだが流石といえば流石である。
「モブ様。どうやら綺麗どころが揃ってるみたいですぜ」
「そのようだな……おい! そこの赤毛の女! 馬車に乗ってるのはお前達だけか?」
モブ様と呼ばれた男が声を荒げながら聞いてくる。
最初に山賊団と名乗った奴が親分か。ていうか、まじで名前がモブなのかよ。
ていうか、赤毛の女ってアルディの事か?
「どこ見てんだ。お前だお前。メイド服の方じゃなくて鎧着たお前だ」
俺がアルディの方を見ているとモブ様とやらが再び話しかけてくる。
……俺かー。髪も短くしたし、女に間違われないだろうと思ったけど考えが甘かったらしい。
「えーと、とりあえずそうですね。乗っているのは俺達四人だけです」
俺は、半ば諦めながら答えるとモブ様はいやらしい笑みを浮かべて嬉しそうにする。
「そうかそうか。男はそこ御者だけか」
「モブ様! 俺っ娘ですぜ!」
隣に居た小柄な男は、嬉しそうな顔をしながらモブ様に話しかける。
俺っ娘とか言うなや。虫唾が走るだろうが!
「くくく、俺っ娘に金髪縦ロールの気の強そうな女にメイドにエルフか。全員俺の好みだぜ」
モブ様は、舌なめずりをしながら嬉しそうに言う。
こんな状況でなければ、なんだかモブ様と仲良くなれそうである。気持ち悪いからあんまり近づきたくないが。
「おい、御者! 喜べ、お前はそのまま逃げて良いぞ。そこの女共を置いていくことで勘弁してやる!」
「で、ですが……」
モブ様の言葉に、御者さんは青ざめた顔のままチラリとこちらを見る。
「大丈夫です。安心してください」
俺は、御者さんにだけ聞こえるように小声で話す。
「フラム、アルディ、フォレ。この人を守っててね」
「分かりましたが……アルバ様はどうなさるんですの?」
「んー? ちょっと話し合いかな」
フラムの問いにそう答えると、震える御者さんを預けてモブ様の前まで近づく。
「へっへっへ、近くで見るとますます可愛いじゃねーか。素直に言う事を聞くなら俺の愛人にしてやっても良いぜ?」
俺は、モブ様の気持ち悪い言葉にグッと堪えながら俺は笑顔で話しかける。
「それなんですが、素直に通していただけないでしょうか? お互い、戦う理由も無い事ですし」
「はぁー? 何言ってんだこの女? その言い方だと、俺達が引かなきゃこの人数相手に戦うって言ってるように聞こえるぞ?」
モブ様の隣に居る小柄な男は、何言ってんだコイツ? みたいな顔をしながら話しかけてくる。
「まぁ、通してくれないならそうなりますね……。ですが、皆さん怪我するのは嫌でしょう? それに、俺って弱い者いじめは嫌いなんですよね」
「ぶははははは! おい、聞いたか⁉ 俺達、弱いらしいぜ!」
モブ様の言葉に、周りに居た山賊共はドッと笑う。
「なあ、嬢ちゃん。俺達は三十人以上居るんだぜ? この人数相手に勝つ気で居るのかよ?」
「まぁそうなりますね。ですが、貴方達が素直に通してくれればお互い幸せになれると思うんですよ」
「……嬢ちゃん。寝言は寝てから良いな。おい! 誰か、見せしめにそっちに居る嬢ちゃん達を少しばかり痛めつけてやんな!」
俺の言葉が癇に障ったのか、モブ様は周りに居る奴に指示を出す。
「辞めた方がいいと思いますよ?」
「はっ! 今更、謝ったって許さねーからな。俺達を馬鹿にした償いはしっかりしてもらわないとなぁ!」
忠告はしたからな。
「ぎゃー⁉」
俺が内心呆れていると、フラム達の居た方から悲鳴が上がる。
「な、なんだ⁉」
やっぱりか。と思いつつ、フラム達の方を見るとちょっとした阿鼻叫喚になっていた。
「手が! 手が燃えてるうううう! 誰か、消してくれええ!」
「手足が石になって動けねぇ!」
「あぐぐ……膝に矢を受けたぁ⁉」
フラム達に手を出そうとした山賊達は見事に返り討ちにあっていた。
あーあ、だから言ったのに。馬鹿な奴らだ。
「お、お前ら一体何者だ……」
あっさりと返り討ちにあっている仲間を見てビビったのか、モブ様は震え声で聞いてくる。
「俺達は、普通の冒険者ですよ。ただまぁ……ちょっとばかし強いですけどね」
「へ、へへ……な、なぁ。俺達が悪かったからよ。素直に通してやるから許してくれねーか?」
俺が優しい口調で話しかけてやると、モブ様は何故か大量の脂汗を流しながら懇願してくる。
が、俺の提案を跳ね除けたのはそっちである。今更それは虫のいい話だ。
それに、何の躊躇もなく女子供に手を出すのは放っておけない。
「……良い言葉を教えてあげましょうか? 俺の愛読書の名セリフなんですけどね」
「……?」
「悪人に人権は無いんですよ」
「ひぎゃああああああああ⁉」
その日、大量の叫び声と共に一つの山賊団が壊滅した。
捕まった山賊団達は、赤い悪魔がとかマ〇ソンマンがどうとかうわ言のように呟いてたらしい。
何があったかは知らないが、余程怖い目にあったのだろう。
可哀そうにな。
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