154話
すみません。少しよろしいですか?
「お、なんだい? ねーちゃん」
三ヵ月前、こちらの街で巨大な魔物が出たと聞いたのですが……。
「ああ、あの時は凄かったね。俺も戦ったんだけどよ……なんせ大きさが違いすぎるから全然歯が立たなかったんだよな。街もかなり壊されちまったし」
その割には、三ヶ月でほとんど街が綺麗になってますよね?
それに……噂では土魔法の少年が、その魔物を倒したと聞いたのですが……。
「まぁ……普通は信じられないよな。あの“土魔法”が魔物を倒すなんてな。正直、俺もあれを見るまでは土魔法を馬鹿にしてたんだよ。後、街が綺麗になったのもその土魔法使いのお蔭なんだよ」
ほほう。それは中々興味深いですね。
その方は、まだ街に滞在されているんですか?
「ああ、そうだと思うぜ? 今日から、武闘大会も再開されるしな。そいつは、大会参加者なんだ。ねーちゃんも良かったら見てったらどうだ?」
そうすることにします。そういえば……その土魔法の少年の名前は何て仰るんですか?
「ああ、そいつはアルバって名前だ。二つ名は……
◆
「うらああああああああ!」
魔装を身に纏った俺は、ギガに向かって拳を突き出す。
「ギシャアアアア!」
ギガは、目の前から迫る俺に気づくと同じく拳を突き出してくる。
大質量の物体同士がぶつかる激しい音が辺り一帯に響き渡る。
魔装
今は、ギガと同じくらいのサイズだと思ってもらえばいい。
傍から見たら、怪獣大決戦状態だろう。
魔人モード限定で使えるチート魔装だ。魔人モード限定なので、三分間しか使えないのがネックだが、ウルトラな男ヒーローも同じ条件で戦ってるので、まあ大丈夫だろう。
ギガの周りに居た冒険者も、グラさんの手により避難させられているので遠慮なく戦える。
街も既に辺り一帯は廃墟状態なので、気にする必要が無い。
「ちぇすとおおおお!」
「ぐぎゃぅ⁉」
拳と拳がぶつかり合った瞬間に俺はすぐに相手の力をいなすと、その隙を利用しギガの脇腹に回し蹴りを喰らわせる。
俺のような戦い方に不慣れなのか、あっさり攻撃が決まるとギガは叫びながら吹き飛ばされる。
まあ、普通はこのサイズで肉弾戦なんてしないからな。それに、今は目覚めたばっからしいし、倒すなら今しかない。
「お前には悪いけど、速攻決めさせてもらうぞ!」
吹き飛ばされて、地面に叩きつけられたギガに俺は飛びかかる。
目標は額の赤い石だ。エレメア曰く、これを壊せば奴を倒せるというので遠慮なくねらわせてもらう。
「……っ! やばっ」
ギガがこちらを睨むと、先程のように額に雷が集約し始める。
また同じ攻撃が来ると判断した俺は、両手をクロスさせて防御する。
「ギシャアアアア!」
予想通り、額の石から黒い電撃が放たれ俺の体を包む。
しかし、魔装で防御力が格段に上がっている俺には殆どダメージが無い。
「へっ、ちょっとビビったけど大したことは……うぉ⁉」
電撃が収まり、両腕のガードを解いたところで不可視の斬撃が俺の右腕を斬りおとす。
とはいっても、魔装部分だったので俺自体にはダメージは無かったが。
「そうか……そういえば、エレメアは風属性がダメって言ってたな」
二度の雷攻撃で失念していたが、風属性って事は当然風の攻撃もあるのだ。
これは、普通に俺のポカだろう。
「くそ、ミスったな……流石に、修復する余裕はないぞ」
ただでさえ、この魔装は魔力を消費するのだ。魔人モード中でさえも、結構ぎりぎりだったりするので、修復する余裕などない。
残った左腕でなんとかするしかないだろう。
そうこうしている内に、ギガは体勢を立て直し再び額に雷を集約させている。
どうやら、あれがギガの通常攻撃のようだな。
あれに関しては、今の俺ならば問題ない事が分かったので、そのまま突っ込む。
「どっせえええええい!」
助走をつけてからダッシュをすると、俺はそのままギガに体当たりを喰らわせる。
攻撃準備中のギガは無防備になるのか、そのまま地面に倒れ伏す。
俺は、そのままギガの上に馬乗りになる。
「さぁ、覚悟しろよ?」
「ぎゃぅ! ガアアア! ンギャアアアアウ!」
ギガは、俺から逃れようと必死に暴れている。しかし、完全に抑え込んでいるので俺からは逃げられない。
「正直、お前には同情しているよ」
邪神の欠片を取り込んじゃったばっかりに、こんな凶悪な魔物になってしまったのだ。
元々は、大人しい魔物と聞いていただけに同情してしまう。
だが、だからといって放って置くことはできない。可哀そうだが、このまま額の石を砕かせてもらう。
「ッガアアアアアア!」
「っ‼」
最後のあがきとばかりに、今まで最大威力の黒い電撃をギガが放ってくる。
至近距離で喰らうと、流石に俺自身にもダメージが来るので意識が飛びそうになる。
「だけど……耐えられない程じゃない!」
俺は、電撃を喰らいながらも左腕を振り上げる。狙うは、額の石。俺は、そのまま左腕を勢いよく振り下ろした。
「……あ?」
しかし、振り下ろしたはずの左腕はどこにも無かった。
あれ……俺の腕、どこに行ったんだ?
「ぐぅ⁉」
瞬間、俺の胸に訪れる激痛。これは、魔人モードが切れかかっている証拠だ。
「まじかよ……もう三分すぎたのか……!」
あのヒーローは、よく毎回三分で勝負つけられたな……。
そう考えている間にも、魔装はどんどん崩れて霧散していく。
「まだだ……まだ倒してないんだよ! 頼むから持ってくれよ、俺の体ぁ!」
必死に魔装を保とうとするが、体に激痛が走るばかりでまともに集中できない。
体が崩れ始めたことで、ギガも容易に俺の下から抜け出してしまった。
そして、まるで今までの恨みとばかりにギガの攻撃が俺の魔装を貫く。それが、トドメとばかりに完全に魔装を維持できなくなった俺は地面へと向かって落下をしていく。
「フラム達と……約束したんだ……必ず帰るって……!」
俺は落ちていく中、最後の力を振り絞り魔法を放つ。
しかし、そんな最後っ屁のような攻撃がギガに効くはずもなく、あっさりと弾かれてしまう。
「ゴメン……フラム……約束、守れ……」
今ので魔力を使い果たしてしまった俺は、落下を続けながら意識を失うのだった。
◆
「……此処は、何処だ?」
あれからどれくらいだったのだろうか?
気が付くと、俺は真っ白な空間に立っていた。
「残念ながら、君は神の手違いによって死んでしまったのじゃ……」
真っ白い空間から、同じく真っ白い格好をした爺さんが現れて、唐突にそんな事を言いだす。
白い服に、白髪、白い髭と白一色の姿は神々しさを感じる。
「故にお詫びとして、チートを授けて異世界に送って進ぜよう」
爺さんは、某小説投稿サイトの異世界転生物のテンプレみたいなセリフを吐く。
「俺は……死んだのか」
神の手違いで死ぬって本当にあるんだな。
爺さんの言葉は、ひどく胡散臭いがあの状況から判断すると生きているとも思えない。
「もしかして……あんたは神様か?」
「いかにも」
目の前の爺さんは、俺の問いに鷹揚に頷く。
「だったら、俺をそのまま生き返らせてくれよ。手違いで死んだんだろ? だったら、それくらい良いじゃねーか」
「それは出来ん。一度、死んだら同じ世界には連続で転生出来ないというのが決まりでのう」
「そんなのは関係ないんだよ……っ! 俺には、守らなきゃいけない約束があるんだ……! 頼むよ……俺を生き返らせてくれよ……」
無慈悲な答えに、俺は納得できず爺さんに縋り付きながら訴えかける。
俺がギガを倒さなきゃ、フラム達が危ないんだ……! それに、約束したんだよ……必ず生きて帰るって!
「チートも要らない! 土魔法の地位もそのままでいい! 主人公みたいになりたいとか思わない! だから! 俺を……」
叫びながら訴えかけるうちに、自然と涙があふれ出してきてその後の言葉が紡げなかった。
「……ぶふっ。あーっはっは! 良いなぁ、青春だねぇ」
爺さんは、突然笑い出したかと思うと若い口調になるとそんな事を言いだす。
「いやー、ごめんごめん。ちょっとテンプレな事をやりたくてね」
爺さんは、そう言いながら煙に包まれる。少しして煙が晴れると眼鏡を掛けた黒髪の青年が現れる。
「大丈夫。君は死んでないよ。現実世界では、気を失っているだけだ」
俺は……死んでない?
「そう、バリバリ生きてる。だから、目を覚ませば元の世界に普通に戻ればぁ⁉」
俺は、あまりと言えばあまりの冗談に対しブチ切れて、目の前の男を遠慮なく殴り飛ばしていたのだった。
◆
「えー、この度は大変不快な冗談で気分を害してしまい、大変申し訳ありませんでした」
眼鏡を掛けた青年は、俺により鉄拳制裁を喰らって顔をボコボコにしながらも謝ってくる。
「それで? アンタは一体何者なんだ?」
「この世界を作った者です。本名は、
目の前の青年は、真面目な表情をしながらそう言い放つのだった。
「そ、んな事信じられるわけないだろ!」
主神アキリだと? たとえ、本当だったとしても何でそんなのが俺の目の前に?
「……そうだね。少し昔話をしようか」
アキリと名乗る男は、ゆっくりとした口調で話し出す。
「昔々、地球という星の日本という場所に至極平凡なオタクな青年が居ました。ところが、ある日神様の手違いというテンプレも真っ青な展開で死にました。お詫びにチートを貰って異世界に行ける事になった青年は考えました」
俺がだまって聞いていると、アキリは淡々と話し続ける。
「青年は、シミュレーションゲームが好きだったので世界を創造するチート貰い、ファンタジー世界を作る事にしました。魔法や魔物が普通に存在する世界。彼は、自分の作った世界に満足していました。……しかし、問題が一つ。青年は土魔法が地味で格好悪いなという認識を持っていたせいで、創造した世界にもそれが反映されてしまいました」
俺は、その説明を聞いて一つの嫌な予感が頭をよぎる。
「結果、その世界では土魔法の地位が最底辺になってしまいましたばぁ⁉」
「お前のせいかぁぁぁぁぁ! お前のせいで、俺はこんな苦労してんのかよ!」
「ま、待って! 最後まで! 最後まで話を聞いて!」
予想が的中し、怒りの鉄拳がアキリに炸裂する。
アキリは、殴られた頬を押さえながら必死に弁解を始める。
「ぼ、僕だってそれは予想外だったんだよ! ただ、一度作った以上もうそれは覆せない。もう、その世界に愛着があった僕にはリセットなんて出来るはずもなかったし!」
……確かに、本人に悪気が無いなら仕方ない場合もあるが……。
「そこで僕は考えたんだ。なら、僕の意識が反映されてない種族を迎えればいいって……それが、地球からの転生さ。幸い、この力を得たことで僕も神の一人になったから、それは容易だったよ」
「……結果は?」
「とりあえずは成功だよ。それは君も理解しているだろ? 実際、君は土魔法を見下してはいない」
確かに、土魔法は地味だなとは思ったが、露骨に見下したりはしていない。
「それを繰り返した結果、一部では土魔法を見下していない人達が出来たんだ。君も出会ったことがあるだろう? 土魔法を認めている人達を。そういう人達は、先祖に地球から転生した人が居るか、転生した本人なんだ」
なるほどな。だから、土魔法を極端に見下している人も居れば、普通に認めている人も居るわけか。
「……まあ、とりあえず辻褄は合う……合うのか? まあ、合ったと仮定してアンタをアキリ本人と認めよう。それで、どうしてそれを俺に話すんだ?」
「それなんだけどね。土魔法の認識は改善されつつあるけど、君みたいに地位を向上させようって人が居なかったんだよね。僕としては、属性に格差が生まれちゃったのは本意じゃないから、君みたいな人には頑張ってほしいんだ」
それは分かったが、アキリの言わんとしていることがいまいち分からない。
「土魔法の地位の向上として手っ取り早いのは活躍する事。だから、君にはギガを倒してほしい」
元々、ギガは倒すつもりだったんだけどな……。
「実は、邪神は僕の意図しないバグなんだよ」
それは、以前に女神達に聞いたな。
「奴は、既に世界の中枢に根を張っちゃってるから、もう僕にはどうにもできない。奴を倒せるのは、地球出身の人だけだ」
「だから俺に倒せって?」
邪神の一部を取り込んだギガにさえ勝てないのに?
「だから、まずはギガを倒すんだ。邪神に関しては……まあ、追々強くなって倒してくれれば。とりあえず、今はギガを倒せるように少しだけ力を貸そう。本当はダメなんだけど、今回だけね。君には期待しているから」
アキリがそう言うと、俺の体が光りに包まれ始める。
「そろそろ目を覚ます時間だね。それじゃ頼んだよ」
「あんたがこの世界を作ったってんなら、最後に聞きたいことがある」
「なんだい?」
「……なんで、あの世界には変態が多いんだ? あんたの意思が反映されてるって事は、あんたの趣味か?」
「あれ……電波が悪いな……よく聞こえないや」
アキリは、すっとぼけた顔でそう言い放つ。
俺は、そのムカつく顔を最後に意識を再び手放した。
◆
「あんのやろう! 誤魔化しやがった!」
「うぉ⁉ 起きたと思ったら、何だ急に」
「……あれ? もしかして、エレメアさん?」
目が覚めると、俺は箒に乗っていた。
目の前には、大人姿のスレンダー美人のエレメアが居た。
「ああ、そうだよ。幸い、今夜は満月。おかげで、元の姿に戻れたという訳さ」
空を見上げれば、もう日が沈んでおり満月が顔を出していた。
「まったく、空から落ちて来た時は冷や汗を掻いたぞ。まあ、なんとか間に合ったから良しとするが」
「すみません……俺、どれくらい気を失ってました?」
「ほんの一分程だ」
一分か。もっと長い間、アキリと話していたような気がするが、時間の流れが違うのかもしれないな。ファンタジーだし、それくらい不思議の現象はどうってことない。
「一人で戦うなんて無茶をするなよな。戦えるのは君だけじゃないんだ」
エレメアの言葉に下を見れば、グラさんが避難をさせたはずの冒険者達が再び集まってギガと戦っていた。
だが、あれではギガを倒すことはできないだろう。
「……エレメアさん。奴の頭上まで運んでください」
「君は、先程魔力を使い切って気絶したばかりだろう? 何が出来ると……」
エレメアは、空を旋回しながらそんな事を言いつつ俺の方を振り向くと言葉を途切れさせる。
「大丈夫です」
俺は、しっかりとエレメアを見ながらそう言う。
アキリの言う通りなら、今の俺ならギガを倒せるはずだ。実際、使い切ったはずの魔力が体から溢れだしているのを感じる。
「…………分かった」
俺の魔力を感じ取ったのか、エレメアは頷くとそのままギガの頭上へと飛んでいく。
「奴を倒したら、俺の回収お願いしますね」
俺は、エレメアの答えを聞かずにそのまま箒から飛び降りる。
「すぅー……はぁー……」
俺は、深呼吸しながら全魔力を集中させる。
大丈夫。上手く行くはずだ。
「
巨大。ただひたすらに巨大な岩のドリルを作り出す。
空中から落ちてくる俺に気が付いたギガは、両腕で掴もうと手を伸ばしてくる。
「回転しろ!」
俺の言葉に答えるように、巨大なドリルは轟音を響かせながら超高速で回転し始める。
まるで粘土でも突き破るかのようにギガの腕を消し飛ばすとそのままギガの額の石へとドリルを突き立てる。
最後の悪あがきと、ギガが雷の魔法を放とうとするが遅い。
石が壊れる方が早かったのか、ビキビキとひびが入っていきバキンっと音を立てて石が崩れ去る。
「―――――!」
ギガは、額の石を砕かれたことにより、言葉にならない悲鳴をあげる。
「
光の粒子となって消えていくギガを見ながら、俺は落下をしていく。
落下していく途中、エレメアが回収をしてくれたので地面に落ちて潰れたトマトのようにならずにすんだ。
「まったく、お前には驚かせられてばっかりだな」
俺を箒に乗せながら、エレメアは呆れたように言う。
「はは、すみません」
「はぁ……ほら、英雄のお出迎えだぞ。英雄らしく堂々と構えるがいい」
エレメアの声に、下を見れば大歓声が上がっていた。
俺は、歓声に応えるべく笑みを浮かべて手を振るのだった。
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