155話

「アルバ様ー‼」


 拍手の嵐の中、エレメアと共に地上に降り立つとフラムが抱き着いてくる。


「アルバ様! 凄いですわ、あのような巨大な魔物をお倒しになるなんて!」


 俺に抱き着きながら、フラムは尊敬のまなざしでこちらを見つめてくる。


「はは、まあ俺だけの力じゃないんだけどね……」


「……? それじゃあ、どなたの力なんですの?」


「それは……此処に居る皆だよ。俺だけじゃなく、他の人達も一緒に戦ってくれた結果だよ」


 一瞬、アキリの名前を出そうかと思ったが、この世界では主神だし言っても信じないだろう。

 俺の言葉に、フラムは益々目を輝かせる。

 周りの人達も、心なしか感心したような瞳でこちらを見ている。

 まあ、完全に嘘ではないが言い訳に使ってしまったので、少しばかり心苦しい。

 しっかし、実際のアキリがあんなキャラだなんて思いもよらなかったな。

 まさかの地球からの転生者とはな。そう考えれば、この世界が妙に地球……というか日本っぽい思考なのも納得がいく。


「よぉー、にーちゃん! お前、土属性の癖にやるじゃねーか!」


「あたっ⁉」


 俺が考え事をしていると、後ろから肩を思いっきり叩きながら話しかけてくる奴が居た。


「そーそー! あんなでっけー奴相手によくやるよな。俺なんか、最初びびっちまってたもんよぉ」


 後ろから話しかけきた奴に便乗して、他の奴らも話しかけてくる。


「まぁでも、俺らより年下の……しかも土属性の子が頑張ってんだ。なら、俺達もってなってな」


 目の前の男は、頬を掻きながら照れくさそうに言う。

 それを皮切りに、俺の周りの奴らは自分の武勇伝を語ったりなど大いに盛り上がった。

 今まで、身内にしか褒められてなかったので、こうやって大勢から認められるとなんだかこそばゆくなってしまう。


「……‼」


 俺が、周りの雰囲気にほっこりとしていると唐突に嫌な気配が背中を走る。

 

「あ、ぐ……⁉」


「頭が、わ、割れそうだ……っ」


 それと同時に、周りに居た奴らが頭を抱えてうずくまる。

 この現象は、何度か目にしているので誰が犯人かは容易に予想がつく。


「いやー、流石はアルバ君だ。君なら、奴を倒せると信じてたよ……」


「エスペーロ!」


 そう。そこには、いつものようにネットリとした嫌な笑みを浮かべているエスペーロが大剣を構えながら立っていた。


「いやー、本当なら俺も任務があるから、ギガがやられた時点で帰らなきゃいけないんだけどね……あんなの見ちゃったら興奮がっと」


 エスペーロが話している途中で、乾いた音が響いたと思うと俺の横を掠めて何かが奴へと向かっていく。

 

「危ないなぁ。今、俺が話してるんだから大人しくしておきなよ……リスパルミオ」


 飛んできた何かを難なく避けると、エスペーロは自分の話を中断されたせいか不機嫌そうな表情を浮かべる。

 後ろを見れば、左手で頭を押さえているリズが苦しげな表情を浮かべてこちらを睨んでいた。

 いや、正確にはエスペーロの方を見ていた。


「エスペーロ……貴様、アルバ殿に何をしようとしていでありますか」


「何って……俺はただ、ギガを倒したアルバ君と戦ってみたいだけだよ。それにしても……流石だね。アルバ君以外には、結構きつめに魔法を掛けたんだけど」


「ふ、侮るなであります。こう見えて、かつての仲間でありますよ」


 リズは、脂汗を流しながらも再び銃を構える。


「うーん。君とも戦ってみたいけど、今はアルバ君なんだよね。だから……大人しくしててよ」


「あがぁ⁉」


 エスペーロが手を振るとキィンと空気が震える音が聞こえ、リズが涎をダラダラ垂らしながら地面に倒れ伏す。

 どことなく頬を紅潮させてるように見えたのは気のせいだと信じたい。


「さぁ、アルバ君……邪魔者も消えたし、戦おうか?」


「ア、ルバ殿……っ」


「大丈夫です、リズさん」


 俺は、リズさんを手で制すると前に出る。今の俺は、アキリから力を貰ってブースト状態だ。

 

「あは、あははははは! 流石はアルバ君! カッコいいよぉ!」


 エスペーロは、涎をダラダラと垂らしながら興奮して喋る。ついでに、鼻血もダラダラ流しているのでドン引きである。

 

「さぁ、命のやり取りを始めよう……!」


 エスペーロは、鼻血を垂れならしながら剣を構える。


「……が⁉」


 が、俺はまともにやりあうつもりはない。

 折角、一時的とはいえ神様から直接チートを貰ったのだ。それを活用しない手は無い。

 俺は、一瞬でエスペーロの四肢を岩で捕縛すると動けないように骨を砕く。

 骨の折れる嫌な音が聞こえ、俺は一瞬眉をひそめるが、相手が相手だけに非情になる事にする。

 

「あはぁ……流石はアルバ君だ……容赦ない所がステキだぁ」


 四肢を折られたにもかかわらず、嬉しそうな表情を浮かべるエスペーロに俺は少なからず嫌悪感を覚える。

 こいつは……もう、人としてどこか壊れてしまってるんじゃないだろうか?

 そう錯覚しそうになるほど、こいつの雰囲気は常軌を逸していた。


「だけど甘いよ……手足を折ったくらいじゃ、俺はまだ折れないよ。骨折だけにね!」


 鼻血出してドヤ顔してるところ悪いが、何も上手くないからな。

 ていうか、こいつ本当に余裕そうだな。


「はあああああああぁ!」


 エスペーロは突如叫びだすと背中が盛り上がり、羽が飛び出す。

 その羽は黒く、悪魔を連想させる形をしていた。


「そ、れは……」


「はは、凄いでしょ? 大体、予想がついていると思うけど……君の言う魔人って所かな」


 エスペーロは、自分を拘束していた岩を易々と砕き嬉しそうにしながら説明する。

 間違いなく骨を折ったはずなんだが、エスペーロの様子からは骨が折れてるようには見えない。

 これも魔人化の影響か……。


「最初はどうかと思ったけどね。実際なってみると凄い心地いいんだ。さぁ……続きを……ん? なぁにぃ? 今、良い所なんだけどぉ」


 エスペーロがゆっくりとこちらへ近づこうとしたことろで、何やら耳元を押さえて会話をし始める。


「え? ああ、それは持ってるよ? 後ででいーじゃーん。 もうそんな怒らないでよぉ。分かったから、持ってくから……うん、それじゃ」


 会話が終わったのか、耳元から手を離すとエスペーロはこちらを向く。


「ごめんね、アルバ君。先に任務の方を終わらせないといけないや。申し訳ないけど、続きはまた今度ね」


「行かせると思うか?」


「ぐっ⁉」


 エスペーロが飛び立とうしたところで、炎の槍が奴の心臓に突き刺さる。


「エ、エレメアさん……なにもいきなり殺さなくても……」


 奴からは、色々情報が聞きたかったのに随分容赦がないお人である。


「ふん、邪神を取り込んで魔物になり下がった奴が、これくらいで死ぬわけないでしょ」


 俺の言葉に対し、エレメアは鼻を鳴らしながら答える。


「その通りだよ。ちょっと痛かったけど、これくらいじゃ俺は死なないよ」


 エスペーロは、胸に刺さっている炎の槍を掻き消しながら平然と言い放つ。

 その異様な光景に俺は少しだけ後ずさりしてしまう。


「化物が……」


「貴女だって魔女でしょうに」


 忌々しげに言うエレメアに対し、エスペーロは涼しげな顔で答える。


「俺は、ちょっと帰らなくちゃいけないから見逃してくれると助かるんだけどなぁ」


「もう一度言おう。行かせる思うか?」


「思ってるよ。何せ……此処に居る人達全員が人質だからね」


 エスペーロがそう言って右手を上げると、周りの人達がより一層苦しそうにのたうち回る。


「このまま放って置けば、脳みそが茹っちゃうかもねー」


「……くっ」


 エスペーロのあまりに外道なやり口にエレメアは歯噛みをする。

 下手に手を出せない以上、俺もただ見守ることしか出来ない。

 折角、強い力を手に入れたのにこれではまるで意味が無い。


「それじゃあね」


 エスペーロは笑顔で別れを言うと、翼をはためかせて飛んで行ってしまう。

 魔法の効果が切れたのか、倒れていた人達は徐々に落ち着いていった。


「ふむ、どうやら命に別状はないみたいだな」


 エスペーロが飛び去った後、エレメアが近くで倒れている人の症状を確認するとそう言った。


「良かった……っと、なんか急に眠気が」


 緊張の糸が切れたのか知らんが、急に抗いがたい眠気に襲われる。

 魔力はまだ充分に残っているはずなので、魔力切れではないはずだ。

 俺は、眠気に抗いつつも力が抜けていきそのまま地面に倒れ伏すとゆっくりと瞼を閉じて眠りへと落ちていった。


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