144話

「はい、という事で改めて紹介しますとこちらはブラハリーさん。魔法学園に居た頃、初等学部と高等学部の時に戦って僕にボロクソに負けた人です」


 ブラハリーと再会した俺達は近くの酒場に入ると、彼を知らないであろうエレメア達にブラハリーについて分かりやすく紹介する。


「……貴様は相変わらず人を煽るのが好きだな」


「やだなぁ。ブラハリーさんの事を忘れているであろう方々に分かりやすく説明しただけなので他意はありませんよ」


 ブラハリーが何故か青筋を浮かべているので、俺は他意が無い事を伝えるために笑顔で答える。

 ええ、他意はありませんとも。


「ふーん、アルバに負けたんでちか。てことは、雑魚って事でちね」


 エレメアの遠慮ない一言がブラハリーの胸に突き刺さったのか、彼は呻き声を上げながら蹲る。


黒炎ネロ・フィアンマとかいう二つ名が付いているだけあって、魔法の才能はありそうですが、戦闘自体は得意ではなさそうでありますね」


「おい、アルバ。こいつらは貴様の同類か? なんでこうも的確に人の精神を抉ってくるんだ」


 エレメアはともかく、リズを同類カテゴリーに入れるのはやめてもらおうか。

 それだと俺がドMの変態みたいじゃないか。


「おほん。それにしても、ブラハリーさんは成長しましたね。顔つきもそうですが、身長が高くなってて最初気づきませんでしたよ」


「そうですわね……精悍というか、凛々しくなってて見違えましたわ」


 俺は咳払いをして誤魔化すと、気になっていたことを尋ねる。

 ブラハリーの身長は、近くで見た限りだとヤツフサとあまり変わらないように感じた。

 くそ、同じ年齢なのにどうしてここまで身長に差が付いた! ちきしょーめぃ!


「まぁ、俺も成長するって事だ。特に、お前に負けないようにと努力したからな。あの頃の俺と同じと侮ってると痛い目を見ることになるからな?」


「ふん! アルバだって修行して、超強くなったんだからね!」


 ブラハリーの言葉に対し、何故かアルディが反論する。


「ははは、そいつは楽しみだ。……お前も大会に参加するんだろう? どれに参加するんだ?」


「僕は、なんでもありの大会ですね」


「ほほう? そいつは偶然だな。俺もその大会に参加するところだったのだ。魔法学園の時のリベンジが出来るというわけだな」


 俺の答えを聞いて、ブラハリーは口の端を上げると嬉しそうに言う。

 うええ、マジかよ。魔法学園の時でさえ、若干苦労したのにまた戦う事になるのか。

 今までの相手は、初見という事もあり罠に嵌めたり出来たがブラハリーは違う。

 俺の戦い方を知っているし、何より俺に勝つために努力したと言っているからいつもの手は通用しないだろう。

 これは、面倒な事になってきたな。


「男同士の熱き戦いでありますか……良いでありますな」


 俺達のやり取りを見て、リズは腕組をしながらウンウンと頷く。

 反応が年寄り臭いと思ったが、長年の経験により下手にそういう事を言うとぶっ飛ばされると理解しているので、俺は心の中にしまっておくことにする。


「まぁ、戦う事には異論はありません。……ただ」


 俺は、先程から意識しないようには気を付けていたが、やはり気になってしまい酒場の入口の方をちらりと見る。

 そこには、怨霊も裸足で逃げ出しそうな形相でこちらを恨めしそうに見ている女性陣達の姿があった。


「あいつら何なの……? 私達のブラハリー様と親しげに話して……!」


 うう、こええよぉ。女の嫉妬程怖いものはない。


「すまんな。あれは、俺達のパーティが原因でもあるんだ」


「パーティが原因……ですの?」


 申し訳なさそうにするブラハリーの言葉にフラムは首を傾げる。

 うん、それは俺も気になる。


「それはこういうことよん!」


 疑問に答えるかのように、突如聞こえて来た声に俺達はそちらを見る。

 すると、そこには黒髪をオールバックにし、やたらクネクネ動くおっさんと2人の若い冒険者風の美形が居た。


「……あのオカ……個性的な人は?」


 俺は、また変な輩が出て来たなと内心思いつつもブラハリーに尋ねる。


「あの人はプロドゥさん。俺達をアイドル冒険者としてプロデュースした人だ。だいぶ個性的だが、その能力は確かだぞ」


「アイドル冒険者……だと」


 あまりの突拍子の無い単語に俺は、思わず素に戻ってしまう。


「そうよん! 冒険者は戦うだけの無骨な集団というイメージは古いの! 今の時代は、美形達によって構成された爽やかなイメージが必要!」


 プロドゥは、芝居がかった動きをしながらそう説明する。

 割とイケメンなだけに、動きが様になってるのが少しムカつく。


「ああいう感じの事を言われて誘われたんだ。最初は面倒だったんで断ってたんだが、あの人があまりにしつこいから根負けしてな」


「うふふ、私は狙った獲物は絶対に逃がさないのよ。さぁ、貴方達。この子羊ちゃん達に自己紹介してあげなさい!」


「お、俺もですか?」


 あのブラハリーが、プロドゥに敬語を使いながら尋ねる。どことなく嫌そうだ。


「もちろんよ。1人でも欠けたら意味をなさないわ!」


 その言葉に、ブラハリーは諦めたようにため息をつく。おそらく、エレメアと同じ種類の人間で自分の意見を絶対に曲げないタイプなのだろう。

 ブラハリーは、トボトボと歩きながら2人の冒険者風の男達の元へと行くとこちらを振り向き盛大に咳払いをする。


黒炎ネロ・フィアンマのブラハリー。お前の心も熱く焦がしてやるよ!」


 ブラハリーはそう言うと、髪をかきあげポーズを取る。

 ……は?

 急にこいつは何を言っているんだ。

 隣を見れば、フラム達も俺と同じようにポカンとしていた。

 ただし、入口に居た女性陣は黄色い声を上げていたが。


「氷の貴公子グラソン。私に惚れると凍傷になりますよ?」


 続いて、青髪の優男風のイケメンを同じようにカッコつけポーズを取りながら自己紹介をする。


磁界の王ロワ・エマンドンナーだ! 俺様に掛かれば、どんな女も磁石のように引き付けられるぜ!」


「「「3人揃って、エレメントスリー!」」」


 最後に、紫髪のオラオラ系のオラオラ男子が自己紹介をすると最後は3人がハモって叫ぶ。

 そして、それを見ていた女性陣は一際大きな声で黄色い声援を送る。

 …………うん、なんだこれ。


「いい! いいわよ! アンタ達、相変わらずイケメンなんだから! 私、ノンケだけど惚れちゃいそう!」


 ドン引きものの自己紹介に、プロドゥは満足気にしている。

 うんまぁ、本人達が納得しているならいいんだけどさ。



「……というわけで、改めて紹介するわね。右から炎属性のブラハリーちゃん。氷属性のグラソンちゃんに風属性のドンナーちゃんよ。3つの属性だからエレメントスリーってわけ」


 女性陣達があまりに騒ぎ立てるので、酒場から追い出された俺達はエレメントスリーが泊まっているという宿屋まで移動し、彼らの部屋で話を聞いている。


「あれ? 土属性は居ないんですか?」


 プロドゥの話を聞いてて、俺はふと気になった事を聞いてみる。

 属性縛りをするなら、土属性も入れた方が基本の四元素になるしいいんじゃないかと思ったんだが。


「はん、土属性~? だめよ、あんなダッサイ属性。茶色よ茶色。そんなのアイドルじゃないわ」


 俺の質問に対し、プロドゥは鼻で笑うとそんな事を言う。

 グラソンとドンナーも小馬鹿にしたように笑っていた。


「……そういうわけだから、俺達のパーティには土属性は居ないんだ。俺自身は、お前と戦ってるからその価値を知ってるんだけどな」


 ブラハリーは、申し訳なさそうにしながら謝罪をしてくる。

 俺の両隣に居るフラムとアルディが唸っていて今にも噛みつきそうな勢いだったので、ケットとリズに抑えさせる。

 エレメアは、特に興味が無いようで我関せずといった感じで枝毛を探している。お前は女子高生か。


「あらなに? そこの嬢ちゃんは土属性なの? せっかく可愛らしいのに残念ねぇ。他の属性だったら、女の子のアイドル冒険者で結成出来たのに」


 プロドゥは、本気で同情するような表情でそう言ってくる。


「生憎、土属性には誇りを持っていますので残念だと思いません。それと、僕は男です」


「そうだそうだ! 土属性馬鹿にすんなよ、オカマ野郎めぃ!」


「そうですわー! アルバ様を馬鹿にするとタダじゃおきませんわよー!」

 

 アルディとフラムは、抑えられているので行動に移せてはいないが、その分口での主張が激しかった。


「あらあらまぁまぁ、可哀そうな土属性に同情するなんて優しい子達なのねぇ!」


 しかし、プロドゥは意に介さずといった感じで軽く流す。


「だけど、本当に勿体ないですね。我々“ほど”では無いですが、貴方も充分美形なのに……土属性のせいで全てが台無しです」


「ははは! 守るしか能がない土属性はねーよな!」


 グラソンやドンナーも完全に土属性を見下しているのか、悪気というより完全に同情している感じで言う。

 うーん、あからさまに土属性を馬鹿にされるってのは懐かしいな。

 懐かしいという感覚が大きいので、不思議と怒りは湧かない。まあ、言いたい奴には言わせておくって感じだな。

 それに、後ろの方で無言でブラハリーが謝っていたので、彼の顔を立てるというのもあるし。


 その後、爆発しそうなアルディとフラムだがエレメア達と一緒に街に出かけてもらった。

 少し外の空気を吸って冷静になってもらった方が良いだろう。

 俺はというと、ブラハリーに呼び出されたので宿屋の屋上へと来ていた。


「……奴らがすまんな」


「いえ、学園の頃から似たような事は言われてましたし、気にしていませんよ。それこそ、貴方にも因縁吹っかけられて決闘までしましたし」


「あ、あの頃は悪かったよ。俺もまだガキだったからな」


 俺が皮肉を込めて答えると、ブラハリーは素直に謝る。

 しっかし、まじで別人だろってくらい素直になったな。

 まあ、彼も冒険者として過ごして大人になったという事だろう。


「……あいつらも、俺達と同じ大会に参加はする。……が、お前を倒すのはこの俺だ」


 ブラハリーは、俺をじっと見つめながら言う。


「良いか? 絶対、本戦に上がって来いよ? じゃなきゃ、お前を焼き殺すからな」


「はは、殺されたくはないので頑張りますよ」


 根本は変わってないことが分かり、俺は少し可笑しくなって笑ってしまう。

 ブラハリーとは戦いでしか関わってないが、こいつとはそういう関係で良いと思っている。

 

「約束だからな。……それにしても、お前全然変わってねーのな。相変わらずチビのまんまでやんの」


「なっ⁉ チ、チビじゃないですよ! あれから身長伸びましたから! ブラハリーさんが伸びすぎなだけです!」


 先程までと打って変わって、昔のブラハリーに戻るといきなり悪態をついてくるので俺はすかさず反論する。


「はっはっは、いやー成長期っていいな。おかげで身長が180越えたぜ。やっぱ男は高身長じゃねーとな?」


「こ、小柄な方が小回り利くし戦いやすいんですよ! 的だって大きいより小さい方が良いですし!」


「いやー、それでも身長でかい方がパワーもでかいだろう? いやー、楽しみだなー。俺に負けるお前を見るのが」


 俺達は、そんな感じでしばらく口論するのだった。

 その後、菓子を大量に買い込んで機嫌を治したフラム達と合流し、エレメントスリーとは別の宿を取ったのだった。

 いよいよ、明日から大会の予選が始まるのだ。

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