135話

 それから1週間が経ちました。

 私達は、相変わらず修行を続けていますわ。アルバ様も目覚める気配が有りませんが、エレメア様曰く、女神様の世界で修行でもしているんだろうという話でした。

 次に目覚めた時には、成長した私達を見せて驚かせるのも良いかもしれませんわね。

 などと、そんな平和な事を考えていたのも束の間。それは、突然やってきましたわ。


「エレメア様、どうかなさいましたか?」


 エレメア様から他属性の指導を受けていると、彼女は突然押し黙ってしまいます。


「……フラム。今日の修行はここまででち。いいでちか? 今日は、このまま部屋に戻って絶対に出るなでち」


「え? それはどういう……あ、行ってしまいましたわね」


 エレメア様に真意を聞く前に、彼女は慌てたようにバタバタしながら行ってしまいましたわ。


「一体、何なのでしょうか……?」


 理由を考えてみますが、何か分かるわけでも無いので、仕方なく部屋へと戻ります。


「あれ? フラム、どうしたの?」


 部屋へと戻る途中で、アルディさんとばったり出会います。


「理由は分かりませんが、今日は修行が終わりだというので部屋に戻る途中ですわ」


「あれ? フラムもなの? 私もなんだよね。ケットが急に今日は終わりだって言ってさー」


 アルディさんの方も同じでしたのね。一体、どうしたんでしょうか……?

 そんな事を考えていると、外の方から何やら轟音が聞こえてきます。


「……?」


 私とアルディさんは、顔を見合わせ首を傾げます。

 一体、何の音でしょうか。


「って、アルディさん。どちらへ?」


「さっきの音を確認しにいくのー」


「ですが、今日は部屋にいなさいと……ああもう!」


 私の制止の声を聞かずに、アルディさんは玄関へと走っていってしまいます。

 怒られてはかなわないと思い、私は慌ててアルディさんを追いかけますわ。


「ほら、アルディさん。外に出たらダメです……わ」


 玄関から外を覗いているアルディさんに追いつき、話しかけたところで外の景色が目に入り、絶句してしまいます。


「エレメア様⁉」


 屋敷の前では、エレメア様が頭から血を流しながら蹲っていました。

 ケットさんも横で倒れています。


「フラム……それに、アルディも来たでちか。まったく、部屋に居ろと言ったじゃないでちか」


「お叱りは後で受けますわ。それよりも一体何が……」


「あらあら、また新しい方ですか?」


 エレメア様に駆け寄ろうとしたところで、聞き覚えのない声が聞こえ立ち止まります。

 そこで、初めて向こうに3人の女性が立っている事に気が付きましたわ。

 1人は胸当てを付けた黒髪をポニーテールにした傷が目立つ剣士風の方。

 もう1人は、真っ黒な修道服を着た銀髪のおしとやかそうな女性。

 そして、なにやら見たことの無い服装の金髪を短く切り揃えた、凛々しい女性が立っていました。

 

「貴女がたは……何者ですの?」


 少なくとも、こちらの敵であるというのは雰囲気から分かりましたわ。

 

「普通はそちらから名乗るものでは無いでしょうか? まあ、良いでしょう。私は、救済者グレイトフル・デッド、七元徳が一人、信仰のキリエ・エレイソンです。以後、お見知りおきを」


 修道服の女性がそう自己紹介します。

 先程の声も、キリエと名乗る方の様ですわね。


「同じく救済者グレイトフル・デッド、七元徳が一人、節制のリスパルミオであります! この度は、この地に眠る邪神殿の封印を解きにきたであります!」


 凛々しい女性は、ビシッと敬礼をしながら堅苦しい挨拶をいたします。


「そして、私が……リーダーのジャスティナ。七元徳が一人、正義のジャスティナだ。リスパルミオの言う通りの用件でやってきた」


 剣士風な方の自己紹介まで聞き終えると、私はごくりと唾を呑みます。

 まさか、七元徳が一気に3人もやってくるなんて予想もしませんでしたわ。

 以前出会ったリーベさんという方は、まだ敵らしく見えませんでしたが、こちらの3人は纏っている空気からして違いました。


「フラム、アルディ! ここは、私が食い止めるから早く逃げるでち!」


「で、ですが……」


 血を流しているエレメア様は、そう叫びますが、怪我をしている方を放って置くわけにはいきません。

 それに、屋敷の中にはアルバ様もいらっしゃいます……。


「ふん、かつての五英雄の1人とはいえ、弱体化している貴様に後れをとる我々ではないぞ」


「そうでありますな! 我が銃捌きの前では、赤子に等しいであります!」


「ふふふ、無力な方をいたぶる……なんと、背徳的で楽しいのでしょうか」


 3人の女性は、口々にそんな事を言います。

 この方達は、今までの七元徳と違う。私の直感がそう告げています。

 

「お、おい……何をする気でちか?」


 気づけば、私は3人の女性の前に立ちはだかっていました。

 

「もしかして……貴女みたいな子供が私達にはむかう気ですか?」


「それは無駄というものであります。節制を司る私の前で、そのような無駄は許さないであります」


「……弱者をいたぶる趣味は無い。大人しく道を開けろ」


 正直に言えば怖いですわ。しかし、ここでもしエレメア様を見捨てたら……一生後悔することになります。


「退きません。どうしてもというのなら、私を倒してから行くことですわね!」


「私も加勢するよ!」


 私が魔法銃を構えると、隣にアルディさんもやってきます。


「……私は、エレメアの相手をする。あの子達の相手は任せた」


「了解であります」


「分かりましたー」


 ジャスティナさんという方がそう言うと、両脇に居たキリエさんとリスパルミオさんが前に出てきます。


「私は、あの銃を持っている女の子を相手にするであります。同じ銃使いとして戦ってみたいでありますからな」


「それじゃあ、私はあのメイド服の女の子ねー」


 緊迫した空気の中、相手はまるで遊びだと言わんばかりに余裕たっぷりで会話をしています。

 しかし、それが命とりですわ。

 私は、相手が油断している今がチャンスとばかりに魔法銃を構え、魔法弾を撃ちます。


「甘いでありますな」


 しかし、私より遅く銃を抜いたリスパルミオさんの放った銃弾は、私の放った銃弾を撃ち落とすと、私の銃の銃口へと入り込み爆発させてしまいます。


「あつっ……そ、そんな……」


「これでも魔弾のリスパルミオと恐れられてたことがある私には造作もない事であります。子供とはいえ、もう少し粘って欲しかったでありますな」


 リスパルミオさんは、銃をくるくると回しながらそんな事を言います。

 しかし、銃が無くても魔法は放てますわ。私は、意識を切り替えるとすかさず魔法を放とうとします。


「おっと、それ以上何かやる気なら今度は、脳天を撃ち抜くでありますよ? 私は無駄が嫌いでありますから、たとえ子供であろうと容赦はしないであります」


 私が何かしようとしているのを察したのか、リスパルミオさんは一瞬で私に近づくと、銃口を私の額にくっつけますわ。

 そんな……ここまで、戦力に差があると言うんですの……?

 私は、あまりに圧倒的な戦力差に愕然としてしまいます。

 そうだ、アルディさんは……?


「んがー! なんだこれ、とれなーい!」


 キリエさんに挑んだアルディさんは、何やら光の輪のような物に拘束されてジタバタと暴れておりました。


「おほほほほ、ミノムシみたいで無様ですねぇ! あー、やっぱりこうやって動けない相手を見下すのって最高ですねー」


 キリエさんは、なんとも素敵な性格なようでアルディさんを見下しながら高笑いをしていましたわ。


「ぐっ……力さえ、戻っていたなら……」


 エレメア様もジャスティナさんという方に斬り伏せられて、先程よりも怪我を増やしていました。


「英雄と言えど、弱体化していればこんなものか……」


 ジャスティナさんは、つまらなそうにそう呟くと、倒れたエレメア様を気にする事無く屋敷の方へと歩を進めます。

 ダメですわ……っ。中にはアルバ様が!

 今、まともに動けるのは私しか居ません。

 なんとか、リスパルミオさんの意識を逸らして、ジャスティナさんの進行を止めなければ……。


「……!」


 しかし、ジャスティナさんは何かに気づいたのかすかさず後ろへと下がります。

 すると、間髪入れずに空から鋭く尖った黒曜石のような黒光りした岩がジャスティナさんの居たところに降ってきます。


「まったく……目が覚めてみれば、これは一体どういう状況なんだ……?」


「「アルバ!(様!)」」


 現れた人物に、私とアルディさんは思わず同時に叫びます。

 屋敷の入口に立っていたのは、私達の大好きなアルバ様でした。


「まあ、とりあえず……アルディとフラムに手を出した報いは受けてもらおうかな?」


 アルバ様は、七元徳の方々を睨みながらそう言い放つのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る