127話
俺は現在、未曾有の危機を迎えている。
今までに無いくらい体中から汗を掻きながら昨日のことを思い出す。
風呂で肌色祭で盛り上がった後、案の定リーベには逃げられていた。
その後、フラム達のご機嫌をなんとか取った後、久しぶりにヤツフサと再会したこともあり宴会をしていた。
この世界では、未成年は飲酒をしてはいけないという法律が無いので、少し度数が高い酒を飲んでいた。
久しぶりの酒ということもあり、テンションが上がって結構盛り上がっていたと思うのだが、途中からぷっつりと記憶が途絶えている。
おそらくは、その先で何かが起こったはずだ。
「……やっぱり、夢じゃないよな」
俺はもう一度確認するが、何度見てもフラムとアルディが俺の両隣で寝ている。
全裸で。
「これ、つまりアレだよな? そういうことだよな?」
酔っぱらって途中の記憶が無く、朝起きたら全裸の女性と来れば、間違いなくそういうことである。
えー……まさか、こんな形でそういうことをしちゃったのか、俺。
朝起きたら、俺も全裸だったのでほぼ間違いないはずだ。
「……そうだ、ヤツフサ。ヤツフサなら何か覚えているかもしれない」
もしかしたら、暑くて服を脱いで寝てるだけかもしれない。
そう希望を持ちながら、ヤツフサに確認しようと思い隣を見る。
折角だからと、ヤツフサ達と一緒の大部屋に変えたのだ。
「ヤツフサー……起きて……る」
フラム達を起こさないように布団から出ながら確認すると俺はぴしりと固まる。
確かにヤツフサは近くで寝ていたが、それを囲むようにヤツフサの隊のメンバーが寝ていた。
全裸で。
目の前は肌色一色であちこちに酒瓶が転がっている。まさに酒池肉林である。
肝心のヤツフサは、中央でスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。
もしや、ヤツフサも昨夜はおたのしみだったのか⁉ しかも、これだけの人数を相手に!
ちょっと嫉妬心が湧いたが、今はそれどころではない。
なんとか着替えると、なるべく彼女たちの体を見ないようにしながらヤツフサへと近づき、体をゆする。
「ヤツフサ……ヤツフサ。起きて起きて」
「んん……んう? ああ、アルバ。おはよう」
俺に体を揺らされると、ヤツフサは目を擦りながら目を覚ます。
「ヤツフサ君。とりあえず、周りを見てはくれないだろうか」
「周り……? な! なにこもがぐごご」
「しー! 皆が起きちゃうから静かに!」
ようやく自分の状況を把握したヤツフサが、大声を出しそうになったので、俺はすかさず口をふさぐ。
「とりあえず、色々確認したいから皆を起こさないように着替えて廊下に来て」
俺が口を塞ぎながら言うと、ヤツフサはコクコクと頷くのだった。
◆
「お待たせ、アルバ。ねえ、これってどんな状況なの?」
待つこと数分。俺が廊下で待っていると、着替えたヤツフサがやってくる。
「いや、僕にも分からないよ。起きたら、僕の方も似たような状況になってたんだ。ヤツフサは昨日のこと、覚えてる?」
「昨日は、途中までは覚えてるんだけど、そこから先がさっぱりなんだ。さっき、アルバに起こされて初めて気づいたし」
うーむ、ヤツフサも覚えてないのか。
「何かで盛り上がっていた気がするんだけど、どうにも思い出せないんだ。……や、やっぱり責任とか取るべきなのかな? 皆を養えるほど、俺に甲斐性無いよう……」
ヤツフサは、不安そうな表情を浮かべながら耳や尻尾をぺたんとさせる。
正直、酔っぱらった勢いでやってしまったというのは我ながら最悪だが、相手がフラムだというのは僥倖だった。
最終的には結婚するつもりなので、それほど重大ではない。
いや、だからと言って軽いわけでも無いが……何よりも酔った勢いというのは罪悪感というか色々くるものがある。
しかし、ヤツフサは別だ。本人曰く、特にそういう約束はしてないらしいし人数も多いので、俺よりも精神的プレッシャーがやばいだろう。
「……とにかく、まだ決まったわけじゃないから早合点はやめよう。女性陣の話を聞いてからでも遅くは無いと思うよ」
「そ、そうだね。……でも、本当にそうだったらどうしよう……」
もし、そうだった場合、ヤツフサは真面目だから全員と結婚する道を選ぶんだろうな。なにせ、この世界では一夫多妻制が普通だし。
とにかく、審判は彼女たちが起きてからである。
その後、生きた心地がしない俺とヤツフサが廊下で待っていると女性陣たちが起き始めたのか、部屋の中が騒がしくなってきた。
「ちょ、なんで私裸なのよ! ていうかここ、ヤツフサ隊長の部屋じゃない!」
このツンデレちっくな台詞はアデリーか。
あの感じだと、彼女も身に覚えがなさそうだな。
「なるほど、つまりはそういうことだず」
「え? そういう事って何よ、ベア」
「んだからな? ……で……だ」
「い、いやああああああ!」
ベアさんに何を説明されたのか分からないが、アデリーは旅館の浴衣のようなものをはだけさせて、廊下に出てくる。
「……」
廊下に出てくるという事は、当然俺達と鉢合わせるわけでアデリーは、こちらを見ると石になったかのように固まってしまう。
「……や、やあ。アデリーさん、おはよう」
沈黙に耐えられなかったのか、ヤツフサはぎこちなく笑みを浮かべながら挨拶をする。
「……キュウ」
すると、アデリーはみるみる顔が赤くなっていき、のぼせたかのように倒れてしまう。
近年稀に見るベタなツンデレっ子である。
「あー! ヤツフサ君だー、昨日は激しかったねぇ」
音を聞きつけたのか、次に顔を出したのはエロねーさんことラビさんである。
「って、ラビさん。昨日のこと、覚えてるんですか?」
「んー? 覚えてるよー。いやー、アルバ君達も混じって楽しかったねー」
なん……だと?
「え? ちょ、やっぱりそういう……?」
俺は、まさかと思いながらも震えながらラビさんに確認すると、彼女はニヤリと笑う。
「いやー、ヤツフサ君もそうだけど、アルバ君も……。ねー、フラムちゃん」
ラビさんがそう言いながら後ろを向けば、そこには浴衣を着たフラムが立っていた。
「あ、あの……私もよく覚えてないのですが……その、アルバ様と?」
「うん、とっても楽しそうにしてたよ」
「……あ、あばばばば! わ、私としたことがなんとはしたないんですの!」
ラビさんの言葉を聞くと、恥ずかしさからかアデリーの様に顔を真っ赤にすると床をゴロゴロと転がり回る。
正直、俺も転がり回りたいくらいだ。
「うにゅう、皆おはよう……」
皆がギャーギャー騒いでる中、ようやく起きたのか、アルディが近づいてくる。
ていうか、アルディも服を着てないって事は、混じったってことか?
そういう機能が付いてるなんて聞いてないんだが……。
「あ、アルバおはよう! 昨日は楽しかったね!」
アルディは俺を見つけると、ぱあっと表情輝かせて俺に抱き着く。
ちょ! 抱き着く前に服着てくれ! 目のやり場に困るから!
人形サイズの時はそうでもなかったが、人間サイズになるとやはり意識してしまう。
「楽しかったから、またやろうねー。“野球拳”」
「……野球拳?」
というと、あれだよな。 じゃんけんして負けると服を脱ぐという大人の遊び。
「うん、ラビがね、皆にお酒飲ませた後、野球拳やろうって言い始めてね。酔っぱらってテンション高かった皆が全員参加して野球拳やったんだよ。私はお酒で酔わなかったけど、凄い楽しかったよ」
……つまり、あれかい? 俺達が裸なのは野球拳をやったから?
そして、記憶が飛んでるのはラビさんに飲まされたから?
俺とヤツフサがラビさんの方を見ると、彼女は下手な口笛を吹きながらそっぽを向いていた。
「……ラビさん?」
ヤツフサが、今まで見たことの無いくらい冷めた表情でラビさんに話しかけると、彼女はびくりと体を震わせて、油の切れた人形のようにゆっくりとこちらを向く。
「ち、違うんです。べ、別に既成事実欲しかったとかそんなつもりは無かったんです。直接は流石にあれだから自然に裸になって、それっぽく偽装しようとかそんなつもりは無かったんです」
語るに落ちるとはこの事である。
「……ヤツフサ裁判長。判決を」
「皆……ラビさんをくすぐりの刑で」
「ちょ、いや待ってやめ……あ、あーーーー!」
ヤツフサ裁判長の非情な判決により、ラビさんは女性陣……とくにフラムとアデリーによって念入りにくすぐられたのだった。
悪は必ず滅びる運命なのだ。
◆
戦犯を断罪した後、俺達は微妙な空気の中で食事を取り、風呂に入って癒された後、宿の玄関に集合する。
「それじゃ、アルバ。俺達はもう行くね」
ヤツフサ達は、これから王都に戻って魔人の事やらなにやらをしないといけないのだと言う。
ちなみに、ラビさんはすぐそこでぐったりとしている。くすぐりの刑がよっぽと堪えたようだった。
「うん、今度はいつ会えるか分からないけど、また会ったら話そうね」
「ちょっと色々ありましたが……楽しかったですわ。ヤツフサさんも頑張ってくださいな」
「またねー!」
俺達は手を振りながらヤツフサ達を見送る。ラビさんは相変わらず動けなかったようで、ベアさんに抱えられていた。
「……行ってしまいましたわね」
フラムは、ヤツフサ達が見えなくなると寂しそうにぽつりと言う。
まあ、いきなりあんな賑やかだったからね。
1日だけとはいえ、別れると寂しさが一気に押し寄せてくる。
「まあ、今生の別れってわけじゃないんだから、また会えるさ……。ほら! いつまでも寂しがってられないよ。この後は、いよいよ厄災の森なんだから」
このまま馬車で5日程南下すれば、もう目的の場所である。
南には森以外は何もなく、厄災の森を目指すならば此処が最後の場所となる。
「そうですわね……いよいよ、なんですのね」
俺の言葉にフラムは緊張した面持ちで答える。
厄災の森はRPGのボスクラスが雑魚敵として普通にエンカウントする森だ。
緊張しない方が無理というものだ。
「だーじょうぶだって! 私が居るんだから、百人力だよ!」
アルディは、自信たっぷりに言いながら自身の胸をドンと叩く。
いったい、その自信はどっから湧いて出てるのだろうか。
だが、今はその根拠のない自信が頼もしくもある。
「はは、頼りにしてるよアルディ。もちろん、フラムもね」
「ええ、任せてくださいな」
「どーんと任せたまえよ!」
俺の言葉に対し、2人は頼もしい返事をする。
「とまあ、意気込んだのはいいけど……とりあえずは、目を合わせられるようにしなきゃね」
昨日の事や朝の事があり、実は俺とフラムはお互いに目を合わせられなかったりする。
このまんまではマズいと思うのだが、目が合うとどうしてもフラムの裸が浮かんでしまうのだ。
厄災の森に行くまでには、なんとかしたい……なぁ。
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