126話
色々あった魔人戦から帰還した俺達は、盗賊団の引き渡し、魔人の輸送やギルドへの報告などを行っていた。
事が事だっただけに、手続きなどに時間が取られすっかり夜になってしまっていた。
「いやー、それにしても気分転換で受けた依頼がまさかこんなに
「まったくですわねぇ……ですが、おかげで被害を最小限に抑えられたので良いではないでしょうか?」
まあ、そうなんだがなぁ。
「ねーねー、隊長! せっかく、温泉街に来たんだから温泉に入ってかない?」
「え? でも、色々後処理とかもあるし……」
「そんなの後でもいーじゃん! 温泉だよ! ポロリもあるんだよ!」
「まったく、ラビってホント不真面目なんだから。ちょっとは私を見習いなさいよ」
「えー? じゃあ、アデリーは入りたくないの? ここ、混浴もあるから隊長と入れるかもよ?」
「べ、別に私は隊長なんかとその……」
俺とフラムが会話をしていると、少し離れたところでヤツフサ達がそんな話をしている。
これがリア充ならぬリア獣か……。
ていうか、アデリーって絵に描いたようなツンデレ子ちゃんだな。
あいにく、俺にはツンデレ属性は無いのでそうでもないが、マニアには
「ヤツフサ、折角だから一緒に入ろうよ。久々に会ったんだしさ。もちろん混浴は抜きで」
一応、少し気分は晴れたがまだ若干トラウマになっているので、いくら俺と言えども混浴に再び入るには勇気が要る。
「うーん……まあ、たまには良いか。俺もアルバ達と色々話したかったし」
「えー! 混浴ー! 混浴が良いー!」
「ラビ殿は、いつも欲に忠実でゴザルな」
「んだんだ」
「流石は万年発情期」
テンソちゃんやベアさんは呆れながら言い、タイガさんが茶化す。
いつもこんななのか、この人は……。
エロイおねーさんは好きですか? はい、大好きです。
◆
そんなこんなで、ヤツフサ達一行は俺達が泊まっている宿へとやってくる。
非常に惜しいが、混浴ではなく男女別である。とはいえ、隣同士なので露天風呂の方へ行くと普通に声が聞こえてくる。
「ねーねー、少し大きくなったんじゃない? それに胸も……」
「そんな事無いよー。あ、ちょくすぐったいよー!」
「ほほう……これはこれは。中々良いものをお持ちなようで」
よっぽどくすぐったいのか、時々艶めかしい声が聞こえてくる。
まったく、少しは周りの事を考えて欲しい物である。
「ちょっと! ホントにやめてよ、“アルバ”!」
“ヤツフサ”は、風呂に入ってるからなのか恥ずかしいからなのか分からないが、肌を上気させながら抗議をしてくる。
「なはは、ごめんごめん。久しぶりに会ったから、ついね」
俺はヤツフサの抗議を軽く流しながら謝る。
はい、女子トークだと思った人挙手ー。まったく、このスケベどもめ!
え? その割には、台詞が女子っぽかったって?
何をおっしゃる。俺はちゃんと「少し(背が)大きくなったんじゃない? 胸(板)も(厚くなったし)」と言っているので、無実です。
反論は受け付けない。
「まったく! 卒業してから結構経つのにアルバは変わらないんだから!」
俺が手を離してやると、ヤツフサはプリプリと怒りながら湯船に入りなおす。
「そういうヤツフサは変わったよね。今じゃ、いかにも隊長って感じで頼りがいあるし」
とても、出会った当初はオドオドしてたなんて信じられない。
「騎士になってから色々あったからね。それに……俺が変われたのはアルバのお蔭だよ」
「俺は何もしてないよ」
「ううん。土属性を馬鹿にされても頑張るアルバの姿を見て、俺も頑張ろうと思ったんだから、やっぱりアルバのお蔭だよ」
……はは、そうやって面と向かって言われると照れるな。
その後も、俺達はヤツフサと今まで有った事や思い出話などで盛り上がる。
「ねえねえ、フラムちゃんって結構胸おおきくない?」
しばらく会話に花を咲かせていた頃、そんな話が隣から聞こえてくる。
念の為言っておくが、今度は俺じゃない。
声の感じからすると、万年発情期の
「ふぇ⁉ そ、そうでしょうか? た、確かに以前よりは成長はしましたが……」
ラビさんに突然話題を振られ、フラムは困惑しながらも答える。
というか、まだ成長してるのか。すげーな、成長期。
「ねー、大きいよね、フラムのおっぱい。私の体は人形だから成長しないんだよねー。もっと、大きくして作って貰えば良かった」
「あ、ちょ! ア、アルディさん、も、揉まないでください!」
何をやってるんですかね、アルディさーん!
くそ、ここじゃよく聞こえないな。もっと近づかないと……。
「……アルバ?」
俺が男女の浴場を区切っている仕切りの方に移動しようとするとヤツフサがジト目でこちらを見てくる。
「フラムから聞いたときは、まさかと思ったけど……本当にエロバに進化したの?」
フラムは一体、無垢なヤツフサに何を吹き込んでいるのだねまったく。
あとでお話しなきゃな。
「ははは、まさかそんな」
とりあえず、ヤツフサの視線が痛かったので俺は元の場所へと戻る。
いかんなぁ……学園を卒業してから、エロに反応しやすくなってる気がする。
まあ、年齢的に思春期だからと言ってしまえば仕方ない事だが、少しは自重するようにしないと。
「そういえば、アルディちゃんって何なの? ゴーレムとは違うみたいだけど」
「私はアルバの精霊だよ。この体は、アルバが私の為に作ってくれたんだよ!」
「へー。普通、精霊ってのは同じ属性以外には見えないから、それを利用して戦うのに変わったご主人様だねぇ」
アルディの言葉に、ラビさんは心底不思議そうに言う。
「既存の常識には囚われない。そこがアルバ様の良いところですわ。そこに惹かれて集まってくる人達も居ますし」
「常識に囚われなさ過ぎて、変な二つ名がついちゃってるけどねー」
フラム達の会話が聞こえていたヤツフサは、小声でぼそりと言ってくる。
ほっとけ!
「でも、私はそんなアルバ様が大好きですわ」
「私もアルバの事大好きだよー!」
「ふむ……アルバ殿は、このような可愛い
うう、恥ずかしい……。
自分の顔が赤くなっていくのを感じたため、俺はそれを誤魔化すかのように湯船に顔をうずめる。
隣でヤツフサがニヤニヤしてたので、腹をつついてささやかな反撃をする。
「ま! 私も隊長……ヤツフサ君の事が大好きだけどね! いや、愛していると言っても過言ではないかな。多分、オルトロスメンバ―は、皆ヤツフサ君の事好きだね」
「ちょ! なんで、私もそこに入っているのよ! 私以外ってちゃんと訂正しなさいよ!」
「んだどもアデリー。おめさ、この間隊長の……」
「わーわー! ベア! それは内緒だって言ったでしょ!」
フラム達に影響されてか、自分達も負けじとヤツフサに対する愛を暴露している。
隣を再び見れば、俺と同じように顔を真っ赤にして湯船に顔を埋めていた。
女子トークの破壊力やべーな。
「いやー、これも愛だね。本当に素晴らしい」
いつの間にか俺達の近くにリーベが居り、うんうんと満足げに頷いていた。
「あー! リーベ、お前!」
「こらこら、アルバ君。ここは公共の場なんだから騒いじゃダメだよ」
いや、確かにそうなんだがリーベに正論を言われるとすっげぇ腹立つ。
「温泉に浸かっている間は争いを忘れて、平和にね」
「俺としては、ここで捕まえた方が良いって思うんだけどね。アルバから聞いたけど、メドゥさんがああなった元凶が居る組織の人みたいだし」
ヤツフサは、警戒しながら油断なく構える。
「それに、また逃げられたら困るしね」
まあ、確かにそうだな。
わざわざ向こうから現れたのだ。ここで捕まえない手は無い。
「んー、どうやったら俺が敵じゃないって信じてもらえるんだろうね」
リーベは、本気で困ったという風な表情を浮かべ悩んでいると、何を思いついたのかポンと手を叩く。
「そうだ! 君達の為に素晴らしい物を見せてあげよう」
そう言ってリーベが魔法を唱え始めると風が吹き始める。
「っ! ヤツフサ!」
「了解!」
奴が何かをする前に取り押さえようと思い、ヤツフサに合図を出して同時に飛びかかる。
しかし、反応が一瞬遅れたせいで間に合わずリーベの魔法が発動してしまう。
「
突如、俺達の体に空気の塊がぶつかると空中に吹き飛ばされる。
「それじゃ、楽しんでおいで」
リーベがそんな感じの事を言い、意図を問う前に俺達は湯船へと叩きつけられる。
普通なら怪我をするところだが、激突する前に風の塊がクッションになったおかげで怪我をせずに済んだ。
まあ、それでも痛いのは痛いが。
「いてて……くそ、リーベの奴め。ヤツフサ、大丈夫?」
派手に水しぶきが上がっていまいち状況が理解できないので、近くにいるであろうヤツフサに話しかける。
「俺は大丈夫だよ。アルバの方は?」
「僕も大丈夫」
どうやら、お互い無事だったようだ。
しかし、リーベは一体何の意図があってこんなことを……。
「ア、アルバ様」
俺がリーベの行動に困惑していると“近く”からフラムの声が聞こえてくる。
嫌な汗が噴き出すのを感じながら、恐る恐る俺の声のした方を確認すれば生まれたままの姿になっていたフラム達が立っていた。
そこで、リーベが言っていた楽しんでおいで、という言葉の意図を理解する。
「もー、ヤツフサ君ったら混浴がしたいなら最初から言えば良いのにー」
ラビさんは、とくに自分の体を隠すでも恥ずかしがるでもなく、くねくねと体を動かしながら顔を赤くする。
「違うんだフラム……これは、僕達の意思じゃなくてリーベが」
しかし、そんな言葉はラビとアルディ以外の女性陣には届かなかったようで、女性の叫びと何かを殴る音が響き渡ったのだった。
くそう、リーベの野郎め! ありがとうございます!
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