123話

「なんだこれ……」


 テンソちゃんに案内され、盗賊団の拠点らしき砦に到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。


「これは……金の像でしょうか?」


「なんか趣味が悪いなぁ……」


 確かに趣味が悪い。

 目の前には、苦悶の表情を浮かべた人間の金の像がそこかしこに立っていた。

 

「これらは……全て元人間でゴザルよ」


 ……まじで?

 ざっと見回しただけで10体くらいあるんだが、これ全部が元人間とか狂気じみてるんだが。


「テンソさん、どうしてわかったの?」


「これらの像からは心臓の音が聞こえてるでゴザル。つまり、彼らは生きたまま金の像になって動けなくなってるのでゴザろうな」

 

 ヤツフサの質問に対し、テンソちゃんはサラッととんでもない事を言う。

 うわぁ……なんていうか、うわぁ……。

 生きたままとか悪趣味すぎんだろ。


「テンソさんがそう言うなら、そうなんだろうね……。一体、誰がこんな酷い事を……」


「これはあくまで俺の予想だけど、盗賊団のボスがやったんだと思うよ」


「どうしてそう思うんだ、リーベ」


「盗賊団のボスこそが、俺の目的だったからね。とある事情で俺達から逃げ出して好き勝手やってたから、迎えに来たんだよ。ただ、この調子だとちょっとまずいかもしれないねぇ」


 リーベは、珍しく真面目な顔をして説明する。


「まずいって、どうまずいんですの?」


「うんとね、俺の持ってる情報だと生物は金化できないはずなんだよ。それができるようになったって事は……」


 そいつに何かしらの変化が起きたって事か。


「でも、そんな魔法あったかなぁ……石化魔法ならあるが、金化魔法なんて魔物くらいしか使えなかったような気がするんだけど」


「相手を金化してくる魔物なんて居るんですか? ラビさん」


 ラビさんが、不思議そうな顔をしながら話していたことが気になり、俺は尋ねる。


「石化をしてくる魔物でゴーゴンって居るでしょ?」


 ああ、地球でも有名なあの魔物か。

 蛇の頭を持つ女の魔物で、そいつの目を見ると石化してしまうって奴だ。

 この世界でも、同じ容姿でゴーゴンが存在しているのだ。


「んで、金化をしてくる奴はゴールデンゴーゴンって言うのよ」


 まんまやんけ。

 まあ、そっちの方が分かりやすくていいけどもさ。


「これをやったのが人間にしろ魔物にしろ注意は必要だね。ベアさんとアデリーさんは右側。タイガさんとテンソさんは左側。ラビさんは俺と一緒に調査をしよう。ピンチになったら、無理せず他と合流する事」


「「「了解」」」


 ヤツフサがテキパキと指示を出すと、それぞれ分かれて調査を始める。

 ずいぶんリーダーシップを発揮するようになったものだ。

 まあ、元々狼はリーダーシップが強い生き物だし、当然の結果かもしれない。


「アルバ達はどうする?」


「ヤツフサ達と一緒に行くことにするよ。皆も異論は無い?」


 俺がフラム達の方を見て尋ねると、全員が頷くのでヤツフサ達と一緒に中央を進んでいくことにする。


 

 俺達は、全方位に神経を張り巡らせながらゆっくりと進んでいく。

 砦の中は静まり返っており、それが一層不気味さを際立たせていた。


「うわぁ……ここにも金の像があるよ」


 通路の途中で、何かから逃げるような姿勢の苦悶の表情を浮かべた金の像がある。

 おそらく、盗賊団の1人だろう。


「……」


「アルバ、どうかしたの?」


 俺が考え事をしていると、ヤツフサが尋ねてくる。


「あ、いやちょっと考え事をね……思い過ごしかもしれないから気にしなくていいよ」


「そう? でも、何かあったら絶対言ってね?」


「うん、ありがとう。ヤツフサ」


「ふえへへ、男同士のれん……友情はいつ見ても良いのう」


 俺とヤツフサが話していると、ラビさんが涎を垂らしながら何か喋っている。

 一瞬、不穏な事を言おうとしていた気がしたが、気のせいだと思う事にする。


「同感だよ。良ければ、ぜひ俺も入れて欲しいものだね。そして、3人で愛を育もう」


「本気で気持ち悪いんで、そういう発言はやめてもらっていいですかね。そんな事よりも、あんたに話があるんだ」


 気色の悪い事を言うリーベを隊列から離し、俺は小声で尋ねる。


「リーベ、少し聞きたいことがあるんだが……盗賊団のボスは、何かしら“改造”をされているか?」


 救済者グレイトフル・デッドの七元徳がわざわざ出向いたり、本来は有り得ないはずの金化魔法。

 そして、無生物限定だったのが突然生物にも効くようになった。

 なんとなくだが、そのボスって言うのは、以前戦ったフロッグの様に改造をされているのではないかと思ったのだ。

 そして、それが正しければ非常に厄介な状況になっているかもしれない。


「……流石はアルバ君。その通りだよ。俺の仲間の検体だったんだけど、ある日逃げ出してね。その回収に俺が名乗り出たってわけさ」


「そいつは……邪神因子を体内に取り込んでいるのか?」


「ああ、そう言えば君は以前、邪神因子を取り込んだ相手と戦ったことがあるんだっけ?」


「良いから答えろ」


「答えはイエス……かな。本当は覚醒する前に捕まえたかったんだけど、この調子じゃ覚醒しちゃってるんだろうなぁ」


 リーベは、特に隠す様子もなく素直に答える。

 覚醒……おそらくは俺達が言っている魔人化の事だろう。

 魔人化したばかりのフロッグでさえ、あの強さだったのだ。

 今回の奴が、魔人化してからどれくらい経っているか分からないが戦力はまとめた方が良いかもしれない。


「ヤツフサ、それに皆。ちょっと話があるんだけど……」


 俺は、この先に居るのが魔人かもしれないという事を伝える。

 ヤツフサ達もフロッグの件は聞いていたらしく魔人についても知っていたので、そっちの説明は省けた。


「もしそれが本当なら、確かに戦力は纏めた方が良いかもしれないね。よし、一旦戻ろうか。それにしても、よく分かったね」


「ああ、それはリーベがもがごご」


 リーベが救済者グレイトフル・デッドだから。

 そう答えようとしたところでリーベが俺の口を塞いでくる。


「もっがご……ぷはっ! 何するんだ、リーベ」


 解放された俺は、恨めしそうに睨みながらリーベに小声で抗議する。


「今はまだ内緒にしておいてもらえると助かるなぁ。今は素直に協力した方が良いと思うよ。もし、本当に覚醒してたら仲間割れしてる場合じゃないし」


 ……確かにリーベの言う通りだな。

 こいつの強さがどの程度か分からないが、魔人が相手なら戦力は多い方が良い。

 ここで下手に仲間割れして、その隙を突かれたら大変だ。


「リーベさんがどうかしたの?」


「……リーベが以前、魔人と戦ったことがあって似たような状況だって教えてくれたから、もしかしてって思ってね」


「そうそう。他の国で戦ったことがあってね。その時の状況に似てたからさ」


 俺が咄嗟に誤魔化すと、リーベもそれに話を合わせて適当な事を言う。

 フラムとアルディは、それが嘘だと分かっていたようだが特に何も言わなかった。

 多分、俺と同じことを考えていたのだろう。


「ああ、そういうことか」


 お人好しなヤツフサはあっさりと信じてしまう。

 我が親友ながら、そのお人好しっぷりは少々不安になるが、今はありがたいので黙っておくことにする。


「それにしても、魔人ってそんな強いの? 前に聞いた話だと、結構あっさり倒せたみたいだけど」


「あの時は、まだ魔人になりたてだったので上手く行っただけですよ。今回の奴は、どれくらい時間が経ってるか分からないですし、念を入れて損は無いですね」


 ラビさんの問いに俺はそう答える。

 とはいえ、今回はフロッグの時よりも戦力が多いし、非常に癪だが七元徳の1人も居る。

 よっぽどの事が無い限り、さほど苦戦はしないだろう……と信じたい。


「ふーん、そんなものかなぁ」


 魔人に遭遇していないラビさんは、いまいち実感が湧かないようで微妙な表情を浮かべている。


「とりあえず、一旦もどろ……危ない!」


 戻ろう。そう言いかけたヤツフサは、突然俺達に体当たりをする。

 すると、横の壁がいきなり壊れ、鱗を纏った腕がヤツフサを突き飛ばす。


「ヤツフサ!」


「俺は大丈夫!」


 壁に叩きつけられたせいか、少しふらついているが怪我らしい怪我はしていないようだった。

 壁から現れたそれは……一言で言えば異形だった。

 上半身は金色の鱗で覆われた人間の女性の体、髪の毛は無数の金色の蛇。下半身は完全に蛇となっていた。

 

「アハハハハハ! 獲物がたくさん! アナタ達全員、金にしてコレクションの一部にしてあげる!」


 蛇型の魔物は、甲高い笑い声を上げながら俺達の方を向く。


「リーベ、こいつがそうか?」


「そう……だねえ。それで、やっぱり覚醒……君達の言う魔人化をしてるね」


 皆と合流する前に向こうからやってくるのはマズいな。

 通路も狭いのでまともに連携を取ることも出来ない。


「……なーんて言ってられないか」


 敵は目の前に居るのだ。

 魔人になっている以上、もはや奴は人では無い。

 ならば、被害が広がる前に倒す必要がある。


「フラム、アルディ。盗賊団討伐改め魔人退治だ。気を引き締めていこう」


「了解ですわ!」


「おっけー!」


 こうして、2回目の魔人戦が始まるのだった。

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