122話

「はー、ヤツフサが隊長かー。凄い出世だね」


 ヤツフサ爆発騒動が収まり、ようやく落ち着いた頃にヤツフサの状況を聞いて俺は頷く。


「出世って言っても、臭い所に蓋って感じで押し込められただけなんだけどね。実際、“団長”よりも地位は低いし」


 ヤツフサは、頬を掻きながら苦笑するが、それでも一個小隊を率いるというのは、それなりにリーダーシップが無いと無理だ。

 少なくとも、ヤツフサのハーレムメンバー達は彼の事を慕っているようだし、充分凄いと思う。


「ていうか、アルバの噂も聞いてるよ。若い土魔法使いで凄いのが居るって」


「あはは、まあそんな大層なもんじゃないけどね」


 ヤツフサの言葉に、内心鼻高々になるが一応謙遜してみせる。

 俺は嫌みのない紳士だからな。


「へー、この子がアルバ君なんだー。あんな二つ名があるからどんなゲスな顔してるかと思ったけど、結構可愛いじゃん」


 ウサ耳のラビさんが俺の頭をワシャワシャ撫でながらそう言う。


「ええ、とてもあの『卑劣魔導士カワード・メイジ』なんて二つ名を付けられるようには見えませんね」


 メイド服のタイガさんもそんな事を言ってくるが、その言葉を聞いて俺は固まってしまう。

 

「……ちょっと待ってください。その二つ名ってそんな広まってるんですか?」


「あはは……まあね。でも、俺はアルバの戦い方は知ってたからある意味納得だったけど」


 うん、ヤツフサさん。フォローしてるふりして追撃してるよな。

 もしかして、さっきのこと根に持ってんのか?


「まあ、アルバ様に関しては完全に自業自得ですし……」


 フラムも便乗して追撃をしてくる。

 くそー、親友のヤツフサは俺の味方だと信じてたのに……。


「それにしても……アルディは随分大きくなったね」


「えっへへー、私ってアルバより背高いんだよー!」


 人間サイズになった事を言われたのが嬉しかったのか、アルディは笑顔で答える。

 ま、まだ成長期だし! これから伸びて、アルディの事余裕で超えるし!


「あはは、大きくなっても元気いっぱいだね」


「おうよ! 私は、いつでも元気いっぱいだよ!」


 ……うん。なんだか懐かしい雰囲気だな。

 学生だったことを思い出す。


「ちょっと隊長! 思い出話も良いけど、早く話を進めなさいよ!」


「あ、ご、ごめん。そういえば、まだそっちの人の話を聞いてなかったね」

 

 樫の木の杖を持った黒髪のツンデレ発言少女、アデリーに怒鳴られてヤツフサは萎縮しながらもリーベの方を見る。

 あー……コイツの事、どう説明したもんかな。


「初めまして、ヤツフサ君と美しいお嬢さん達。俺の名前はリーベ。今回、盗賊団討伐のためにアルバ君達と一時的に同行してるんだ」


 俺が悩んでいると、空気を読んだリーベが当たり障りのない自己紹介をする。

 

「よろしくお願いします。って、アルバ達も盗賊団討伐に来てたんだ」


「という事は、ヤツフサ達も?」


「うん。この国とは同盟関係みたいで、討伐の要請が来たから、身軽な俺達が来たんだよ」


 なるほど、よその国なのにヤツフサ達が居たのはそういう理由か。

 あれ? 戦力が欲しくてリーベと共闘することにしたけど、ヤツフサ達が居るなら、リーベの奴をこのまま捕まえちゃっても良くないか?


「……アルバ君。まさか、約束を破って俺を捕まえようなんて考えてないよね?」


「あっはっは、まさか」


 小声で話しかけてくるリーベに対し、俺は軽く笑いながら返す。

 くそう、勘の良い奴め。まあいい、約束は約束だ。

 とりあえず、盗賊団を倒すまでは見逃しておいてやるか。


「どうかしたの?」


「いや、何でもないよ。それよりも、目的が同じなら一緒に行かない? 戦力は多い方が良いと思うし」


 俺とリーベのやり取りを見て、ヤツフサは不思議そうな顔をして尋ねてくるが、誤魔化しつつ提案をする。


「俺は別にかまわないよ。ただ、他の皆が……」


「私も良いよー。ヤツフサ隊長の学生時代の話聞きたいし」


「あ、それ私も気になります!」


「べ、別に聞いてあげなくもないんだから!」


 ヤツフサが心配そうに自分のメンバーの方をチラリと見ると、全員特に異論が無いようだった。

 ……ヤツフサは親友だけど、やっぱり爆発すればいいと思う。


「他人から見れば、アルバも爆発対象だよ」


「何を言うアルディ。僕はハーレムなんか作ってないじゃないか」


 今のところ、恋人のフラム以外にモテた記憶は無いしな。

 タマズサさん? あの人はほら、性癖が特殊だから。


「フラムさん、聞きまして? アルバったら自覚が無いようですわ」


「まあ、ある意味純粋な所がアルバ様の良いところかと」


 それって褒めてるのかなぁ……。



「それでタマズサさんがねー」


「うちの姉がご迷惑をおかけします……」


 森の中を進みながら、ヤツフサに再会するまでに有った出来事を俺達は話す。

 タマズサさんの事も色々話したら、耳や尻尾を下げてヤツフサは申し訳なさそうにしている。


「いやいや、こっちとしては戦力的にも問題なかったし助かってたよ。アレさえなければ基本良い人だったし」


「タマ姉は、昔から小さい男の子とか女の子にしか興味が無くてねぇ。弟としては可愛がってくれるけど、基本スパルタだったんだよね」


 ああ、そういえば学園に居たころ、長期の休み明けにやつれてたことがあったな。

 そういうことだったのか。


「へー、ヤツフサ隊長って昔は、そんなオドオドしてたんだー」


「そうですわねぇ。ただ、アルバ様と過ごす内に芯のしっかりした今みたいな方になりましたわ」


「見た目は可憐な少年と素朴な少年の恋……じゃなかった、友情物語か……アリね」


 後ろでは、フラムの話を聞きながらラビさんが涎を垂らしている。

 正直、凄くツッコミたいセリフが聞こえてきたが、俺は堪える。

 なんでも、彼女は『首狩りボーパル』と恐れられているらしいので、下手に怒らせて首と胴体がオサラバになりたくないのだ。

 それを聞いてから、彼女が肩に担いでいる大きな鎌が禍々しく感じてしまって仕方ない。


「それにしでも、盗賊のヤヅら全然いねーだな」


 ノッシノッシと歩く大柄な女性のベアさんは、前方を歩きながら呟く。

 なんでも、この人は一旗揚げようと王都に来たはいいが、騙されて悪事に加担してたところヤツフサに出会ったらしい。

 他の面々も、文字数にしてラノベ1巻分出来るくらい色々あったようだ。

 それも気になるが、今は盗賊団である。


「リーベが身ぐるみ剥されたのって、いつくらいの話?」


「うーん、ざっと4時間くらい前かな。そっから2時間くらいしてアルバ君達に会ったんだよ」


 2時間も全裸だったんかい。

 コイツ、中々つわものだな。


「って事は、その時までは普通に盗賊団は活動してたわけか……」


 それが、どうして今は全然現れないんだろうか……。


「なんか嫌な予感がするなぁ……。まあ、俺の予感はよく当たるんだよねぇ」


 俺が悩んでいるとリーベは不吉なことを言ってくる。


「とりあえず、今はテンソさんに奥まで偵察に行って貰ってるから、それ待ちだねぇ」


 テンソというのは、クノイチの格好をした両目を包帯で覆った女の子である。

 なんでも、蝙蝠の亜人らしい。昔の事故で両目は見えないが、その分耳が良く、蝙蝠でお馴染みの超音波などで目で見るのと変わらないくらいはっきり分かるらしい。

 ヤツフサのオルトロス隊の斥候担当だと言う。

 オルトロスは、確か速いという意味があったはずだ。少数精鋭のヤツフサの隊にはぴったりの名前かもしれない。

 彼らの装備に刻まれているオルトロスを模した双頭の犬の頭の紋章が中々カッコいい。


「今、戻ったでゴザル」


 噂をすればなんとやらで、テンソちゃんがシュタっと華麗に着地して戻ってくる。


「おかえり、テンソさん。どうだった?」


「あい、此処から30分程進んだところに盗賊団のアジトらしきものがあったでゴザル……しかし」


 そこまで言うと、テンソちゃんは何やら言いにくそうにする。

 なにかあったのだろうか。


「ちょっと口では説明しにくいので、直接見てもらった方が良いでゴザル。恐らく、盗賊団の連中は“全滅”でゴザルから、道中も安全でゴザろう」


 なにやら不穏な事を言うテンソちゃんに、俺達は全員顔を見合わせつつも彼女の案内に従って、歩を進めるのだった。

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