121話

「七元徳……っ」


 その言葉を聞くと、俺達は臨戦態勢を取る。

 エスペーロもあんなに強いのだ。

 全裸で登場というネタ全開だったが、油断はできない。

 今回は、アヤメさんやタマズサさんは居ない。

 俺達だけで、対処しなければならないのだ。


「まあ、落ち着きなよ。俺は、戦うつもりは無いんだから」


「そんな言葉信じられるか!」


 奴が、笑顔で嘘くさい事をほざくがそんな事を簡単に信じられるはずもない。

 先手必勝とばかりに、俺が作った鎧を奴が着ている事を利用させてもらう事にする。

 

「おぐぅ⁉」


 俺が魔力で、奴が着ている鎧を操り強制的に鯖折り状態にする。

 突然の事に対処が出来なかったのか、リーベと名乗るソイツは為す術もなく鯖折り状態になり、変な呻き声を上げる。


「さぁ、どんな目的で先回りしたか教えてもらおうか。素直に答えないと……」


 俺は、奴に詰問しながら、じりじりと角度を上げていく。

 このままいくと曲がっちゃいけない方向に180度曲がってしまうが、ちゃんとその前には止めるつもりだ。

 そんな事になったら、衝撃映像間違いなしでフラム達のトラウマになってしまう。


「ま、待った待った! 俺は別に先回りしたわけじゃない! ここで君達に会ったのは偶然だ!」


「じゃあ、なんで僕が土魔法使いのアルバだと確信を持ってたんだ?」


「こ、こっちにはこっちの情報網があるってことだよ! 君達の姿は、俺達全員が知ってるさ!」


 徐々に後ろに体を逸らされながら、リーベは苦しそうにもがきつつ答える。

 とりあえず嘘を言っている様子は無い。


「じゃあ、もう一つの質問だ。偶然って言ってたけど、何のために来たんだ?」


 もし、邪神に関係する事ならば、こいつを行かせる訳にはいかない。


「そ、その前にこれを解いてくれないか? そ、そろそろ背中とお尻がくっつきそうなんだけど……」


「敵をわざわざ解放するわけないでしょうが」


「そうだそうだ! 全裸の変態なんか解放するわけないだろ!」


 アルディが興奮しながら俺に同意してくるが、少し論点がずれていると思う。

 まあ、あんなものを見てしまえば仕方のない事だが……。


「んぎぎ……これ以上は本当に無理……し、仕方ない……」


 リーベは、そう言いながらモゾモゾと動く。

 もし、魔法を発動しようとしたならば、すぐに口をふさげるように準備をする。

 しかし、奴は魔法を唱えることなく、土の鎧の拘束を解き再び全裸になる。


「ふう、苦しかった。また全裸になっちゃうから、あんまり使いたくなかったんだけどな」


「い、いやあああああああああ! またですのおおおおおお!」


 再来した悪夢に、フラムは再び目を覆って叫び声を上げる。


「お前! 何をしたんだ!」


 魔法を唱える素振りが無かったという事は、無詠唱魔法という事になる。

 俺が再び魔法で拘束しても、奴は難なく解いてしまうだろう。


「とりあえず落ち着こうよ。俺には敵意は無い。まずは、それを信じて欲しい」


「し、信じて欲しいならまずは、その格好を何とかしてくださいませ!」


 俺の後ろに隠れながら、フラムは叫ぶ。

 うーん……こいつは、別の意味で敵だなぁ。

 いまいちしまらない空気の中、俺はそんな事を思ってしまうのだった。



「よし、これで良いかな」


 どこから調達したのか、大きめの葉っぱを股間につけたリーベは、何故か満足そうに頷く。


「うううう、変態ですわぁ……」


 凶悪なアレが見えなくなったので、とりあえず復活したフラムが震え声でぼそりと呟く。


「失敬な。俺だって好きでこんな格好をしてるわけじゃないよ。アルバ君が、あんな激しい責めをするから悪いんだよ」


 誤解を招くような言い方をしないでもらえますかね。


「んん! それで? 説明してもらおうか? まず、戦う気が無いという所から」


 とりあえず、逃げる素振りを見せないので、俺は咳払いをしながらリーベに尋ねる。


「えーと……戦う気が無いってのは、そのまんまの意味だよ。君達が敵意を向けて戦いを挑むって事は、そこに愛は無いんだよ。愛が無い行為は、しない主義なんでね」


 愛が無い行為とか言うな。

 とりあえず、こいつと戦わなくて済みそうなのは助かる。

 色んな意味でこういうタイプとは戦いたくない。


「俺の信念は愛。全ての行動は愛に帰結するんだ」


「邪神復活も……か?」


「まあ、それは色々あるんだよ。色々……ね」


 俺の問いに対し、リーベは答えにくそうな表情を浮かべ、はぐらかす。

 一体、どういう理由があれば邪神復活に加担するのだろうか。

 愛と言うならば、むしろこちらの味方でも良いような気がするんだが。


「んで、本来の目的だけど……この先を根城にしている盗賊団のボスに用事があるんだ。その前に、手下に身ぐるみはがされちゃったけどね。あっはっは」


 リーベは、おかしそうに笑いながらそう説明する。

 こいつは……なんというかエスペーロ程の邪気を感じないせいか、どうも調子が狂ってしまう。

 もちろん、油断はせずこのまま警戒は続けるつもりだ。


「ちょっと、身内の不始末を片付けに来てね。君達も盗賊団の討伐に来たんだろう? 目的も同じだし、一緒に行動しないかい?」


 断るのは簡単だ。

 しかし、もし奴の言っていることが本当なら、戦力の増強にはつながる。

 盗賊団の実力が分からない以上、戦力は多いに越した事は無い。


「……ちょっと作戦タイムだ」


「好きなだけどうぞ?」


 リーベに一言断ると、フラムとアルディを集め、作戦会議をする。


「2人とも、どう思う?」


「嘘を言っているようには見えませんが、全て鵜呑みにしない方がよろしいかと思いますわ。仮にもあの救済者グレイトフル・デッドですし……。とりあえず、しばらく同行して隙を見て捕まえるのが良いのでは?」


 ふむ、フラムの言う事にも一理あるな。

 とりあえずは、戦力として数えるのが良いか……。こちらとしても、ボスに辿り着く前の消耗は極力避けたいところだしな。


「私もフラムの意見に賛成かな。用が済んだら去勢して、衛兵に突き出しちゃおうよ!」


 2度もアレを見てしまったのがよほど嫌だったのか、アルディは興奮しながら、男なら思わず股を押さえてしまいそうな発言をする。


「じゃあ、とりあえずは同行するって事でいいね? そして、隙を見て捕まえる」


「分かりましたわ」


「おっけー」


 ただ、捕まえると簡単に言うが、奴には謎の魔法がある。

 まずはそれを何とかしなくてはならないな。


「とりあえずは、協力するが……その前に、さっきの拘束を解いた魔法を教える事。それが条件だ」


 これが飲めないなら、奴は此処で何とかして捕まえる。


「ああ、それくらいなら構わないよ。さっきのは、武装解除の魔法さ。敵味方問わず、武装を解除する魔法だね。殺傷能力は全然ないかな」


 なるほど。それで拘束を解けたのか。

 どこまでが武装と定義するか分からないが、普通の縄とか武装と判断されない拘束をすれば行けるかもしれないな。


「……ずいぶん素直に答えるんだな」


「全ての者に愛で返す。が俺のモットーだしね」


 リーベは笑顔で、そう返す。

 なんとも喰えない奴だ。


「さて、話もまとまった所で早く行こうか。いくら俺でも、この格好のままだと風邪をひいてしまうよ」


 リーベは、ぶるりと体を震わせながら言う。

 こちらとしても、いつまでもその格好のままで居られると目に毒なので、再び土の鎧を着せてやる。


「……良いのかい?」


「さっきの格好よりはマシだ。どうせ、そのまま拘束してもまた解くだろうし」


「はは、君は優しいね。うんうん、実に俺好みだ」


 リーベの不穏な言葉を聞き、俺は思わず後ずさる。


「ま、まさかエスペーロと同じ……ホモか!」


 ホモはこれ以上はノーサンキューだ。

 エスペーロですら、持て余しているというのに。


「まさか、誤解だよ。俺は、敵味方老若男女問わず、全ての生きとし生ける存在を愛しているんだよ」


 警戒しながら尋ねる俺に対し、リーベは恍惚の表情を浮かべながら答える。

 奴の表情から、それが心の底から言っているのだということが分かる。

 ……七元徳は変態しか居ないのか!



 紆余曲折あったが俺達は今、リーベを先頭にして進んでいる。

 リーベが先頭の理由は、単に貞操を守るためだ。

 最初は、リーベを真ん中にしてたのだが、俺の尻を眺める視線がやばくて鼻息も荒かったので先頭にしたのだ。


「あー、もっとアルバ君の可愛いお尻を眺めてたかったなぁ。フラムちゃん達のお尻でも良いけど」


「御託は良いからさっさと歩け、変態」


 冷たいなー、とぶつくさ文句を言いながらもリーベは素直に歩き続ける。

 特に魔物や盗賊団に会わず、順調に進んでいく。

 順調に進み過ぎて怖いくらいだ。こういう時に限って、何か起こるものである。


「……ちょっとストップ」


 前を歩いていたリーベが、突如険しい顔をして制止してくる。


「誰か居るね……凄い殺気が漏れてるよ」


 リーベに言われて気配を探ってみれば、確かに前方の茂みから殺気がだだ漏れである。

 一瞬、こいつの罠かとも疑ったが、だったらわざわざ教える必要はない。


「フラム、アルディ。一応、戦闘準備を」


 俺の言葉に頷く2人を見ながら、俺は鉄の槍を生成する。

 剣なども捨てがたいが、俺が小柄なので自然とリーチの長い槍をチョイスすることが多い。

 俺達は、その場にとどまり向こうの出方を探る。

 

「……」


 向こうも警戒しているのか動く気配が無い。

 先に動いた方がやられる。まさに、一触即発の状態だった。


「ふぇ、ふぇっくし!」


 と、そこへ空気を読まないリーベが唐突にくしゃみをかましてくれる。


「ちょ、何してるんだよ!」


「ご、ごめん! 肌寒くて!」


 リーベを責めたいところだが、そうしている暇もない。

 こちらの警戒が緩んだところを狙って、前方に潜んでいた何者かが動き出す。


「くそっ! フラム! アルディ!」


 俺は、後方に控えていた2人に声を掛けながら、槍で牽制しようと前方に出て構える。

 前方から出てきたのは、2mはありそうな大柄な女だった。

 乱雑に切った赤みがかったショートヘアで頭からは丸っこいクマの耳のようなものが覗いている。

 両手も毛皮でおおわれており、右手には俺の身長くらいありそうなデカい両刃斧が握られていた。

 俺の槍は、丁度彼女の心臓辺りをピタリと狙いを付けていた。

 どうやら牽制は上手く行ったようだった。


「子供か……? なんで、こげな所に子供が?」


 微妙に女は、俺を見て拍子抜けした顔をする。

 

「ベアさん! ストップストップ! その人達は、俺の知り合いだよ!」


 再びガサゴソと茂みをかき分けて現れたのは、懐かしい姿だった。

 

「……ヤツフサ?」


 そう、そこには長身で黒髪が良く似合う我が親友。ヤツフサが居たのだった。


「どうしたベア子ー。盗賊団の下っ端でも居たかー?」


 さらに、そこから続々と女性ばかりが現れる。

 巨乳ウサ耳や猫耳メイド、両目に包帯を巻いたクノイチ少女に一見人間っぽいヤツフサと同じ黒髪の少女などバリエーションは豊かだった。

 え? これ、どういう事?



「えー、ヤツフサ隊長の第一ハーレム要員。ラビ・ボーパルでーす。兎人族でーす」


 ウサ耳おっぱい眼鏡さんが、元気よく手を挙げながら自己紹介をする。


「同じぐ、第二ハーレム要員の熊人族、ベア・レッドメットだず。さっぎは、すまんがったな。お嬢ちゃん」


「……男です」


 先程の大柄な赤毛の熊人族の女性に対し、またかと思いつつ訂正する。

 ていうか、ハーレムて。


「第三ハーレム要員の虎人族。タイガ・ベンガルです。以前は、王宮でメイドをしておりましたが、現在はヤツフサさんの色々なお世話をさせていただいてます」


「第四ハーレム要員。鳥人族のアデリー・ピンギーノ。べ、別に隊長の事は好きじゃないんだから! し、仕方なくハーレムに入ってあげてるだけなんだから!」


「第五はぁれむ要員の翼手族。テンソでござる。以後お見知りおきを」


 上から順に虎耳メイド、黒髪の少女、クノイチの順で自己紹介していく。


「ちょっと皆! またそんな悪ふざけして! 俺はハーレムなんて作ってないでしょうが!」


「えー、私はハーレムのつもりなんだけどー」


 ヤツフサのツッコミに対し、ラビと名乗るウサ耳おっぱいの眼鏡……略してうおのめさんは、どこ吹く風で答える。

 まあ、あれだ。彼女たちの言っていることが事実にしろ嘘にしろケモフサ女性達に囲まれてる時点で、


「ヤツフサは爆発すればいいと思う」


「久しぶりの言葉がそれって酷くない⁉」


俺のトドメの一撃にヤツフサは涙目でツッコミを入れるのだった。

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