120話

「アルバ様ー、お部屋から出てきてくださいな」


「アルバー、出てこーい! 君は完全に包囲されているぞー。田舎のおっかさんも泣いてるぞ!」


「……アルディさん。その台詞はなんですの?」


「んえ? ああ、これは閉じこもった人を部屋から出す為の特別なセリフだよ。これを言えば、大抵の人は出てくるね!」


「なるほど……っ」


 いや、なるほど。じゃねーよ。

 信じるフラムもフラムだが、しれっと嘘をつくアルディもアルディだ。

 あの風呂場でのぱおーん事件により、心に深い傷を負った俺は、部屋に引きこもっていた。

 

「んああああああ! 恥ずかしいいいいい!」


 いくら、フラムが彼女とはいえ、まだそういう行為はしてない。

 故に、見られたのはさっきのが初めてである。


「アルバ様……わ、私はその……気にしてませんわ!」


 部屋の外でフラムがフォローしてくるが、好きな女の子に思いっきり見られるというのは、年頃の男子にはきっついのである。

 いや、中身はおっさんじゃねーかとツッコミが入りそうだが、見た目は見目麗しい男子おのこなのでセーフだ。


「アルバー。フラムがね、アルバのを見ちゃったお詫びにフラムも見せるって」


「そこんとこもっと詳しく」


「アルディさん⁉ きゅ、急に何をおっしゃるんですの! ていうか、アルバ様も何で反応してるんですの!」


 だって、ほら……ねえ?


「まぁまぁフラム。おかげで、アルバを部屋から出せたから良いじゃん。嘘も方便だよ」


「嘘……だと? おのれ、謀ったな孔明!」


「ふははは、勝てばよかろうなのだ!」


 くそう、男の純情返せよ!

 ちょっとでも期待したむっつり読者諸君の希望も返せよ!

 

「絶望を乗り越えた先に希望があるんだよ。私は、アルバ達が絶望を乗り越えてくれることを信じてる」


 どこぞの希望厨みたいな事を言うなっつーの。


「相変わらず、お2人とも仲がよろしいですわね?」


 俺とアルディがやりとりをしていると、フラムは呆れたようにため息をつきながら話しかけてくる。


「まぁ、伊達に10年近く一緒に居ないね」


 もはや、アルディが居ない生活というのは考えられない。

 一心同体と言っても過言ではないだろう。


「それはさておき、アルディの策略で出ちゃったわけだけど、気分転換に依頼でも受けに行こうか」


 あの事件のせいで、風呂もすぐに上がっちゃったし、またすぐ入るにも精神が回復しきっていない。

 今日は依頼を受ける予定は無かったが、動いてこのモヤモヤした気分を発散しないとやってられない。

 汗を掻いてしまうが、また入ればいい話だしな。


「私は構いませんわ」


「私もー」


 2人の同意が得られたので、俺達は早速ギルドへ向かう事にする。


「あ、フラム。さっきの脱ぐって話だけどさ」


「脱ぎませんわよ!」


 俺が、先程の話をぶり返そうとするとフラムは茹蛸の様に顔を赤くして否定するのだった。

 ちっ。



 観光がてら街を歩きつつ、俺達はギルドへとやってくる。

 この街のギルドもそれなりに賑わっており、人でごった返していた。

 やはり、どこに行っても魔物が居るし、依頼に事欠かないのだろう。


「さて、どんな依頼があるかな……」


 とりあえず、討伐系の依頼を受けたい。

 このモヤモヤを魔物にぶつけてすっきりしたいのだ。


「ということで、目標は討伐系依頼。各自、散開し目標をゲットせよ!」


「了解ですわ」


「サー、イエッサー!」


 俺が指示を出すと、フラムとアルディは思い思いの場所に行き、目ぼしい依頼を探し始める。

 俺は俺で、情報を集める為、受付の所に行く。

 直接、人に聞くことでこのあたりの情報を仕入れるのだ。

 

「すみません、ちょっと良いですか?」


「はい、何でしょうか?」


 大きめの丸眼鏡を掛けた若い男の職員が笑顔で対応する。


「この辺りの情報について聞きたいんですけど、魔物が大量発生してるとかそういうのありません? ちょっと、討伐系の依頼を受けたくて……」


「うーん、魔物が大量発生してるってのは、今は無いですねー」


 職員が、書類を見ながら頭を掻いて答える。

 うーん、やっぱそう上手くは行かないかー。


「あ、でも最近になって、とある盗賊団が出没して我々の手を焼いているんですよね」


 職員は、思い出したかのように手をポンと叩き、そんな情報を出してくる。

 

「盗賊団?」


 盗賊団という単語を聞いて、一瞬あの3人組か? と嫌な予感がしつつ尋ねる。


「はい、2,30名ほどのそれ程大きい規模では無いんですが、最近そこのボスになった人物が、かなり強いらしくて、何人もの冒険者が返り討ちにあってるんですよ」


「それって、どの辺りを根城にしてるんですか?」


「東の街道を1時間ほど進んだところですね。王都の方にも救援を要請してるのですが、その時に限って尻尾を出さない強かな連中なんですよ。おかげで、東の街道は、今は誰も通らないですね」


 ふむ……盗賊団か。

 普通の冒険者ならいざ知らず、土属性の俺ならば、いくらでもやりようはあるな。


「やられた冒険者は身ぐるみを剥がされるだけで、誰も死んだり、奴隷にされたとか辱められたとかないので緊急性もそれほど高くない為か、王都の騎士団もいまいち本腰を入れないんですよ」


 盗賊団の癖に、珍しいな。

 普通は殺したり奴隷にしたりするもんなのだが。

 ……まあ、単純に騎士団が本腰入れたら困るからとかそんな理由だろうな。


「まあ、そんなわけで盗賊団討伐の依頼は、誰でも受けれますので、身ぐるみ剥がされても良いなら受けてみてはどうですか? 報酬もそれなりですよ」


「分かりました。わざわざ、ありがとうございます」


「いえいえ、また何かありましたら気楽にどうぞ」


 職員との話を切り上げ、俺はフラム達の元へと向かい、先程聞いた話を2人に伝える。


「盗賊団……ですか」


「うん、東の街道で暴れてるらしいから、依頼を受けようと思うんだよね。聞いた話じゃ、命の危険までは無いみたいだし」


 万が一、危ないようだったら逃げればいいしな。


「そうですわね……。そういう不届きな連中が居るならば、懲らしめなければいけませんわね。ですので、私は賛成ですわ」


「私も良いよー。アルディちゃんの必殺パンチをお見舞いしてやるぜー」


 フラムもアルディも乗り気なようだ。

 特にアルディは、ファイティングポーズを取り、シュッシュッとシャドウボクシングをしてやる気をアピールしている。


「よし、それじゃあ盗賊団退治と行こうか」


 俺達は、盗賊団退治の依頼を受けることにし、東の街道へと出発するのだった。



「……何も起こりませんわね」


 街道を進んで1時間後。

 俺達は、盗賊団に出会う事無く順調に歩を進めていた。

 出たといえば、雑魚魔物ばかりだ。こんなんでは、俺の気分はとてもじゃないが晴れそうにない。

 あからさまに何か出て来そうな森の中に入っても、状況は一緒だった。


「んうー、こらー! 盗賊団、出てこーい!」


 暴れたりないのか、しびれを切らしたアルディが叫ぶ。

 そんな叫んで出てくるなら苦労はしないっての。


 ガサッ


「っ!」


 アルディが叫ぶと同時に近くの茂みが揺れ、俺達は一斉に戦闘態勢を取り、警戒をする。


「まさか……本当に出て来たんですの?」


「僕としては……実は、兎とかベタなオチだと思うな……」


 そんな軽口を言いつつも、両手の籠手をギュッと握り、いつでも魔法を放てるようにする。

 俺達が息をひそめる中、茂みはなおも動き続ける。

 そして、金色の何かが見えた瞬間、俺達は絶句することになる。


「い、いやあああああああああ!」


「目が、目がああああぁぁぁぁ!」


 現れたそれを直視してしまった女性陣は、両眼を覆って地面を転げまわっている。

 俺は、直視こそしてしまったが、女性陣程ダメージは無く、何とか正気を保てていた。

 敵かと思い、俺は完全に攻撃態勢へと入る。


「待ってくれ。怪しい者じゃない、俺は冒険者だ!」


 サラリとしたストレートな金色の髪を肩より少しした程度に切り揃え、印象的なサファイアの瞳。典型的な優男風な男は、そう叫ぶのだった、

 どちらかというと、イケメンな部類で、その甘いマスクで色んな女を惑わしそうな雰囲気だった。

 しかし、今の彼の格好は、それを全てぶち壊しにしていた。

 全裸。

 そう、彼は今生まれたままの姿だったのだ。

 当然、アレを直視してしまった2人は精神に多大なダメージを受けている。

 まさかのぱおーん事件2連発だ。誰得だよ!

 ていうか、2人とも。俺のは平気だったくせに、こいつのはダメなのかよ。


「いきなり、全裸の男が現れて怪しい者じゃないって言っても、信憑性がまるで無いのですが?」


「……うむ。言いたいことは嫌という程分かる。だが、俺の話も聞いてほしい。これには、やむを得ない事情があるんだ」


 全裸になるやむを得ない事情ってなんだよ。


「君達は、盗賊団については知ってるかい?」


 男は、全裸のまま話し始める。

 いやまずは前を隠せよ。自信満々すぎるだろ。


「あ、もしかして……」


 こいつも、身ぐるみを剥された被害者なのだろうか。


「ああ、盗賊団に出会ってしまったんだ。彼らは、身ぐるみを要求してきてね……素直に渡してしまったというわけだ」


「素直に渡したんかい」


 冒険者なら、少しは抵抗しようぜ。


「いやほら、どんな人間にも愛を持って接しないとダメだろ? 相手が何かを求めるなら、愛で答えるのが俺なんだよ」


 いや、意味分かんねーよ


「もっとも、うっかり全裸になっちゃったから、帰るに帰れないってわけさ。いやー、まいったね」


 男は、そう言うと何がおかしいのかハハハとアメリカンに笑う。


「……とりあえず、うちの女性陣の目に毒なので、応急措置を取ります」


 俺は、両手を地面に置いて魔力を流すと、男に石の鎧を纏わせる。

 素肌が当たって痛いかもしれないが、男の肌色成分を見続けるよりはましだ。


「はぁ……はぁ……何かとてつもない物を見てしまいましたわ」


「うえええ、アルバぁ。目、腐ってない?」


 全裸状態ではなくなったので、フラムとアルディはようやく復活してくる。

 とはいえ、精神状態は非常にボロボロのようだが。


「ははは、すまないね。レディー達。後で愛あるお詫びをすると誓おう」


「遠慮しますわ」


「私も、アルバ以外からの愛は要らない」


「おう、つれないお嬢さんたちだ。まあ、それはさておき……自己紹介が遅れたね」


 2人のそっけない態度にもめげず、男は笑顔で流すと俺の方へと向き直る。


「俺は、救済者グレイトフル・デッドの七元徳が1人。愛のリーベ。リーベ・ラヴァーズだ。よろしくね、土魔法使いのアルバ君」

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