第67話

 鬱陶しいミリアーナに塩攻撃して黙らせつつ、メイド&執事カフェの準備は着々と進んでいった。


「そこ、声が小さい! 恥じらうな! 開き直れ!」


「お、お帰りなさいませ。ご主人様ぁ!」


「そしてそこぉ! そのドジの仕方はわざとらしい! もっと自然に! 何もない所で躓くようなどんくささを全面に押し出して!」


 メイド服(呪)で常時メイド状態の俺は、最初は恥ずかしさも有ったがもはや吹っ切れてよりよい萌え喫茶を作ろうと尽力する。

 俺の地球での萌え知識をふんだんに活かし、クラスメイト達に覚え込ませていく。


「執事組の方は、君はもっと耽美に……その君はもっと無邪気な子犬風を演出して……そうそう、良い感じ」


 男装執事の方も中々良い感じに進んでいる。

 女の子たちは全員美少女揃いなので男装すると普通にイケメンばかりで男の俺の立つ瀬がなくなってしまう程だ。

 ちなみに、女装メイドの方はと言うと……本番を楽しみにしておいてくれと言うしかない。


「おいアルバ。なんで女の方には優しいんだよ。男……特に俺には厳しい癖に」


 男女の扱いの違いに不満があるのかベーチェルが唇尖らせながらも文句を言ってくる。


「女性に優しくが僕のモットーですから。それに……ベーチェルさんに厳しいのは元凶なので僕の恨みが入ってるからです」


「私怨かよ!」


「自業自得です」


 貴様がこんな提案をしなければ、俺はオカマのマッチョ。略してオカマッチョに憑りつかれる事も無かったのだ。

 むしろ、厳しくするだけで済んでるのに感謝してもらいたい。

 そしてその肝心のオカマッチョだが……。


「あぁん、男の娘達がこんなに沢山……アタシ、幸せすぎて死んじゃいそう……」


 恍惚の表情を浮かべて男子共を眺めていた。


「もう死んでるだろ……。いっそそのまま消えてくれたらありがたいんだけど」


 俺の後ろでうっとりとしているミリアーナに俺はげんなりしながら言う。

 一応、塩効果で少し大人しくなったのはせめてもの救いか。

 

「夢が叶うまでは、まだ消えないわよん。アタシのメイド服を着た貴方が武闘大会で戦う。そう、戦うメイドさんをこの目で見るまでは絶対に消えないわ!」


 ミリアーナは、グッと拳に力を込めて言う。

 この服で戦うとか超辞退したいところだが、それだとそもそもミリアーナが成仏してくれないので俺に選択権は無い。


 そして、ついに大学園祭当日がやってきた。


「ううー、緊張してきたよー」


 俺の隣で天然物の犬耳と尻尾を生やした長身のメイドが不安そうにしている。

 そう、ヤツフサである。

 ヤツフサは、結構体格がカッチリしてるのでメイド服を着るとアンバランスで違和感バリバリなのだが、元々気が弱い性格というのもあってかメイド服効果で凄い女の子らしく見えてしまうのだ。

 なんというか……守ってあげたい感じになる。

 他の女装メイドも、数名を除いて思ったよりひどくはない感じだった。が、あくまで思ったよりであって、異様な光景ではある。

 まあ、後ろのオカマッチョは涎を垂らしてたが……。


「私も緊張してきましたわ……」


「頑張るぞー」


 ヤツフサの反対側に居る長い金髪をポニーテールにしている執事服に身を包んだショタも緊張にぶるっと体を震わせる。

 説明するまでも無くフラムである。

 普段の縦ロールに慣れてしまっているせいか、ポニーテールがすごく新鮮だ。

 フラムの肩には同じく執事服を着たアルディが乗っていてやる気にあふれていた。

 アルディもカフェをやりたかったらしく、参加できないか提案されたのだ。

 アルディの服については、母さんに連絡して『アルディ用衣装セット』からそれっぽいのを借りた。

 なんでも、アルディに色んな服を着せたいという事でこつこつ作り続けていて今は結構な数になったらしい。

 まだ先の話だが、アルディが人間サイズになったときどうするのだろうと思わずにはいられなかった。

 ちなみに、アルディの服を頼む上でどうしても俺達がやる模擬店の説明をせざるを得なく、俺がメイドをやるのをバレてしまった。

 手紙では、声の様子とか分からなかったがほぼ確実にテンションが鰻登りだろうという予想は出来た。

 多分、今日も速攻で此処に来るんだろうな……。


「大丈夫大丈夫、結局は学生の出し物なんだし失敗しても大丈夫だよ」

 

 憂鬱になりそうな気持ちを払拭するため、フラムに話しかける。

 まあ、失敗の内容によってはプライドの高い貴族なんかは怒るかもしれないが、そこら辺は中身は最年長の俺がフォローしてやればいい。

 最悪の場合、教師が出張ってくるだろうしそう心配する必要も無かろう。


「そんな甘い事をは許さねーぞ! 目指すはトップだぜ!」


 俺達が会話をしていると同じくメイド服に身を包んだベーチェルが会話に入ってくる。


「まあまあ、そんな気負ったってプレッシャーが掛かって逆に失敗しちゃいますよ。もっと気楽にいきましょうよ」


 俺は、なるべくベーチェルの方を見ずに話す。


「…………おい、人と喋るときは相手の目を見て話しましょうって教わらなかったか?」


 無茶言わないでください。

 直視したらまず間違いなく笑ってしまう。

 とりあえず、ベーチェルの方をちらっと見てみる。

 

「んふ……っ」


 俺は吹き出すのを堪えて顔をそむける。


「おう、文句があるなら言えよ」


「そ……んな、事……あ、ありませんよ」


「肩振るわせながら言っても説得力ねーよ!」


 ベーチェルは、メイド&執事カフェの発案者なので俺がお礼を込めて他の人より萌え度を高くしてあげたのだ。

 まず、髪の長さが足りなかったので学園からロングヘアのウィッグを借りてツインテールにし、胸には詰め物を入れて巨乳。

 そして、俺以外のメイド服は普通のロングスカートだったのだがベーチェル君は特別に俺と同じミニスカートに改造してあげた。

 そして、極めつけはニーソックスである。

 ニーソックスから見える絶対領域は、やはり萌えを語るには外せないニーソックスはこの世界に無かったのでそれっぽい材質でオーダーして作ってもらった。

 形が簡単なのと1足だけだったのですぐ手に入れることが出来た。

 そうして出来たのが究極の萌えメイド『ベーチェルちゃん』である。

 ちなみに、男の娘大好きミリアーナ曰く


「そそる! そそるわぁ! いたいけな少年が顔を赤らめながらメイド服を着る! お持ち帰りをしたいわ!」


 と、絶賛いただいた。

 じゃあ、ベーチェルに乗り換えても良いよと言ったのだが……。


「それとこれとは別。かわいさで言えば貴方の方が上だもの」


 などとあっさり却下されてしまった。

 俺が女なら可愛いと言う言葉が嬉しかったのだが、残念ながら俺は男なので皮肉にしかならなかった。


「くそう……なんで俺がこんな恰好を……」


「よ、よく似合っていましてよ」


「う、うん。か……可愛いと思うよ」


 空気の読める心優しい俺の友人2人は、肩を落とすベーチェルを慰める。


「可愛いって言われても嬉しくねーよー……」


 ふはははは! 俺の辛さが分かったか!

 ベーチェルの様子を見て多少気分が晴れたところで、学園祭開始の鐘が鳴る。


「いよいよ始まるのか……」


 フラムには、気負うなとか言っといてアレだが俺は結構緊張に弱いタイプなので結構腹がグルグル鳴っている。

 不特定多数の人間に、女装姿を見られる。

 吹っ切れたとはいえ、緊張するなと言うのが無理な話である。


「えーい、切り替えろ俺!」


 俺は気を引き締めるべくバチバチと自分の頬を叩く。

 こう見えて、前世では高校の時に演劇部に入ってたのだ。演技には多少なりとも自信がある。

 主にやったことのある役? 察してくれると助かるな!

 俺が役を演じようと切り替えていると、学園外からやってきた来客で廊下が賑やかになり始めた。


「逆転メイド&執事カフェ? なにかしらこれ」


「何が逆転なんだろうな?」


 廊下では、俺達の模擬店に興味を示す声が聞こえて来てしばし相談したと思ったら入ってみようという事になった。

 扉を開けて、入ってきた記念すべき初の来客は、中年の男女の2人組だった。

 雰囲気からして夫婦だろう。あまり華美でない服装から平民だと分かる。

 逆転メイド&執事カフェのモットーは、『分け隔てなく奉仕せよ』だ。

 俺は、満面の笑みを浮かべこう言い放つ。


「お帰りなさいませ! ご主人様! 奥様!」


さぁ、祭りの始まりだ。

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