第49話

「すまない。俺様としたことが取り乱してしまった」


 泣きわめくカルネージを何とか慰めると、先程までの事を無かったかのように振る舞い、カルネージはファサリと髪をかき上げる。


「はいはい、それじゃー夜も遅いですし寝ましょうか。この部屋もカルネージさんで最後の様ですし」


 俺は、適当に流しつつそう言う。

 そろそろ夜も更けて来たのだが、カルネージ以降誰も来ないので最後と判断しても良いだろう。

 多分、4人目は新入生になると思う。


「そうだね。俺もそろそろ眠いや」


 ヤツフサも、くしくしと目を擦りながら同意してくる。


「ベッドはどうしようか。俺は上でも下でもどっちでもいいよ」


「俺様は、当然上だ!俺様は全てにおいて上だからな!」


 カルネージは、いつのまにやら二段ベッドの上を確保して叫んでいる。

 ……馬鹿と煙はなんとやらという奴か。


「僕は下で良いかな」


「俺も下でいいや」


 特に、上が良いとか拘りが無かったので単純に起きるときに楽な下を選ぶ。

 ヤツフサも多分似たような理由だろう。

 俺とヤツフサがあっさり下を選ぶと、取り合いになると思っていたのかカルネージは「へ?」と間抜けな声を出していた。

 めんどくさいからスルーしたが。


「さて、明りを消すよ」


「ま、待て!」


 ヤツフサが、部屋の明かりを消そうとするとカルネージが慌てたように止めに入る。

 今度は何だよ、もう寝たいんだよ。


「あ……明りは消すな!」


「一応聞きますけど……何でです?」


 カルネージの言葉に、俺は大体の予想がついていたが一応理由を聞いてみる。


「そ、それは暗いのがこわ……じゃなくて!俺様は闇の化身だからな。闇と同化すると力が暴走してしまう恐れがあるのだ!だから明りは消すな!」


「貴方は光属性でしょうが。ヤツフサ、消していいよ」


「え?でも……」


「いいから」


 案の定の理由に俺は内心ため息をつきながらヤツフサに明りを消すように言う。

 暗いのが怖いとかいちいちそんな事を言ってたら社会でやっていけない。

 カルネージには悪いが、少しは明りを消させてもらう。


「ちょ!?ま、待て!知らんぞ!何が起こっても……ギャーー!?」


 カルネージの言葉を無視し、遠慮しているヤツフサに代わって俺が明りを消すとカルネージは叫び声をあげる。


「ほら、あんまりうるさくすると他の部屋に迷惑ですから静かにしてくださいよ」


 叫ぶカルネージを軽く注意しながら俺はベッドに入り込……もうとしたところでベッドの中に何かが居ることに気づく。

 最初、アルディかとも思ったがそれにしてはいくらなんでも大きすぎる。

 暗闇に目が慣れてきて、よく見てみるとカルネージがガタガタと震えながら丸まっていた。


「……何やってるんですか」


「や、や、闇と同化、す、すると、ぼ、暴走すると、言った、だ、だろう……!ひ、人が傍に居ると、お、治まるのだ!」


 カルネージは、歯をカチカチ鳴らしながらそんな事を言う。

 要約すると暗いのが怖いから一緒に寝ろって事か。

 うん、断る。

 女の子ならまだしも、誰が好き好んで中二病の痛い男と一緒に寝なければならんのだ。


「カルネージさんは、深遠なる闇の使い手(笑)なんでしょう?それくらい1人で何とかしてくださいよ」


「い、いやだー!暗いのは怖いー!」


「情けないぞー、それでも男かー!」


「男でも怖いのは怖いんだ、文句あるか!」


 俺は、なんとかベッドから引きずり出そうとするがカルネージは、ベッドの端を掴み頑なに出ようとしない。

 アルディもカルネージにツッコミを入れるが、カルネージも負けじと言い返す。


「ね、ねえアルバ。カルネージ君も本気で暗いの怖いみたいだし一緒に寝てあげたら?」


 悲痛な叫びをあげるカルネージに同情したのか、ヤツフサはそんな事を提案してくる。

 そんな事を言われても、一緒に寝ると言うのは抵抗がある。


「はぁ……仕方ない。明りを付けてあげますよ」


 俺は、明りがあると寝れない派なのだが、ここまで怖がっているのにそのまま我を通すほど非情ではない。


「これくらいでどうですか?」


 俺は、ランプの明りを調整し明るすぎず暗すぎない明るさに調整する。


「う、うむ。これくらいなら俺様の力も暴走しないだろう!世話を掛けたな!」


 カルネージは、納得がいったのか頷くとベッドから這い出て自分の場所へとモソモソと戻っていく。

 まったく、面倒くさい奴がルームメイトになったもんだ。


 俺は、人肌に暖かくなったベッドに眉をしかめつつも眠かったのでそのまま布団に入り眠りについた。



 翌朝、丁度いい時間に目を覚ました俺はもはや日課になった朝の訓練を済ませシャワーを浴びてから部屋に戻ってくる。


「あ、おはようアルバ。どこに行ってたの?」


 ヤツフサは、既に起きていてアルディと雑談をしていたのか俺の方を見ると挨拶をしてくる。


「ちょっと日課の訓練をね。去年から日課になってるんだ」


「アルバは、えっと……ムキムキの先輩に教えてもらった訓練を毎日やってるんだよ」


 アルディが、そんな感じでヤツフサに説明する。

 ムキムキの先輩というのはランドリクさんの事だ。しかし、ヤツフサがそれを知るはずもないので補足する。


「へぇー、アルバは頑張り屋さんなんだねぇ」


 俺の説明が終わるとヤツフサは感心したように言う。


「まぁ、僕の場合は人一倍頑張らないといけない理由があるからね」


「あ~……土魔法で皆を見返すんだもんね。俺も土属性だったらアルバと一緒に頑張れるのに」


「その気持ちだけで充分だよ。って、そういえば、カルネージはまだ起きてないの?」


 俺は、ふとカルネージの姿が見えないことに気づき尋ねる。


「うん、まだ寝てるみたいだね」


 寝てるみたいだねって、時間的にそろそろ起きないとまずい気がする。

 俺は、世話が焼ける奴だと思いながら梯子を登りベッドを覗き込むと、カルネージは例のオペラマスクを付けたままスヤスヤと小さな寝息を立てて寝ていた。

 ていうか、マスク付けたまま寝てたのかよ。


「ねぇ、アルバ。この人の素顔って気にならない?」


 俺がカルネージの寝方に内心ツッコミを入れていると隣に来たアルディがぼそりと耳打ちしてくる。


「あー……確かに気になるなぁ」


 こういう素顔を隠してるキャラってよく見るけど定番ではめっちゃ美形なんだよな。

 ぶっちゃけ、気にならないと言えば嘘になる。

 が、本人の許可なしに勝手に素顔を見るのも失礼な話だ。


「というわけで、素顔を勝手に見るのはいけないことだよ。アルディ」


「えーつまんなーい」


 俺の言葉にアルディは、ぶーぶーと不満そうに文句を言う。


「……だけどまぁ、起こす時に体を揺らしたらうっかりマスクが落ちちゃうかもね」


 うん、不可抗力の場合は仕方ないね。俺は悪くない。

 いつまでも起きないカルネージが悪い。


「ほら、カルネージさん朝ですよぉー」


 俺は、小声で起こしながらカルネージの体をゆする。


「んん……んう」


 体を揺すられてカルネージは、うめき声を出しながら寝返りをうつ。

 するとその拍子にマスクが少しずつずれていく。

 

「んー……はっ!?き、貴様!何をしている!」


 あと少しと言う所で、カルネージは目を覚まし俺達の方を見ると慌てたように起き上がる。チッ


「何って、そろそろ時間なので起こそうとしただけですよ?」


 俺は笑顔でそう答える。ウソハイッテナイヨ。


「う、そ、そうか……。その……見たか?」


 カルネージは、マスクを直しながら尋ねてくる。見た、というのはおそらく素顔の事だろう。


「いや、見てませんよ。見せたくないんです?」


「ま、まあな。俺様の素顔は、崇高すぎて常人が見たら恐れ多すぎて発狂してしまうのだ。故に、俺様は常にこのマスクで顔を隠している。命が惜しいなら俺様の素顔は見るな。いいな?」


 カルネージは、真剣な表情で言ってくる。

 うーん、それほどまでに見せたくないのなら無理してみる必要もあるまい。

 これで、無理してみようとしたらただのゲスだしな。


「分かりました。決して見ようとしません。アルディも良いね?」


「はーい」


 アルディは、納得がいってない表情を浮かべながらも了承する。

 

 

 その後、玄関ホールに行くと食堂に向かおうとするスターディとばったり出会う。


「あー、皆さんおはようございますー」


「おはよう、スターディ」


「あれ、そちらの方はどなたですかぁ?」


 スターディは、カルネージの方を見ると不思議そうに首を傾げる。

 俺はカルネージの事をざっくりと説明してやる。


「えーと、こちらはカルネージさんと言って光属性の「深遠なる闇の使い手、破壊の申し子カルネージ様だ!」」


 俺が説明しようとしたところでカルネージが被せてきた。


「え、と……光属性の闇の使い手さんですかぁ?」


 スターディは、頭に疑問符を浮かべて訳が分からないと言う顔をしている。

 ほらー、急に割り込んでくるからスターディが困ってる。


「えーと、彼は光属性で回復が得意なんだよ。闇の使い手は自称だから気にしないでね」


「え?はあ、よく分からないですがよろしくお願い致しますねー。私はスターディと言います。アルバさん達のパーティで盾役をやらせていただいてますぅ」


 スターディは、キョトンとしながらもカルネージに向かって笑顔で挨拶をする。

 

「ふ、ふはははは!俺様は優しいから仲良くしてやらなくもないぞ!ただ、あんまり俺様に近づくと闇に魅入られるから注意するがいい」


「はいー、気を付けますー」


 カルネージの痛い発言にも、スターディはニコニコと笑顔をで答える。

 これが天使か。


 その後、俺達は食堂に向かって食事をした後学校へと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る