第48話
「さて、早速だが貴様ら。この俺様の為に自己しょうかぺっ!?」
カルネージとか名乗る痛い黒ローブ野郎は、不遜な口調で喋りながら部屋に入ろうとすると自分のローブの裾を踏んづけて綺麗にずっこける。
「……」
カルネージは、鼻を押さえながら無言で立ち上がりローブをパンパンと叩く。
「だ、大丈夫?」
「……ふ、これしきの事で狼狽える俺様ではない。だがまぁ、深遠なる闇の使い手である俺様を心配すると言う気配りは褒めてやろう」
心配するヤツフサに対し、カルネージはフードから見える金髪の髪の毛をファサっとかき上げそんな事を言う。
あー、こいつあれだ。上から目線タイプのめんどくさい中二病だ。
「ねえ、アルバ。これって中二病ってやつ?」
先程から、カルネージの奇行を見ていたアルディは俺に尋ねてくる。
「「中二病?」」
聞きなれない単語にヤツフサとカルネージが首を傾げてくる。
ああ、そっか。
この世界にはそんな言葉ないもんな。
「えーと、特別な力を持ってる人の事……かな」
馬鹿正直に、自分に特別な力があると思い込んでいる痛い人。と説明してもよかったのだが、それがきっかけで暴れられても困るので適当に誤魔化しておく。
この世界の場合、マジで力があるのも考えられるしな。
それに、せっかくのルームメイトなのだから自分から進んで空気を悪くする必要もあるまい。
「くくく、確かに俺様には特別な力があるしな……中二病!良い言葉ではないか!フハハハハ!」
俺は、吹き出しそうになるのを堪えながらカルネージの様子を眺める。
「おっと、俺様としたことが話が逸れていた。さぁ、貴様ら。深遠なる闇の使い手たる俺様を満足させる自己紹介をするがいい。俺様を満足させることが出来なかったときは闇よりの使者が貴様らを死へと誘うだろう」
カルネージは、部屋にズカズカと入ってくると近くの椅子を引き寄せると偉そうに座り足を組む。
だめだ、体が超痒い!
こういう、無理して難しい言い回しをしたり闇系の単語を連発するのは身に覚えがあるだけに体が拒否反応を起こす。
「ど、どうしよう。アルバ……あの人を満足させられなかったら俺達死んじゃうんだって……」
中二病と言う概念が無いせいなのかそれとも単にヤツフサが純粋なだけなのか、ヤツフサは怯えながら俺に耳打ちしてくる。
「いや……大丈夫だと思うよ」
本当に力があるなら別だが、あの類は多分口だけだと元中二病としての俺の勘が告げている。
「そうなの?まあ、アルバが言うならそうなんだろうね」
ヤツフサは、俺に対して全幅の信頼を寄せているのかあっさりと信じる。
「えっと、俺はヤツフサ。ワーウルフで得意属性は風属性……と言っても雷の方だけど」
「ふむ、その闇色の髪……黒毛種か。くくく、闇の眷属たる魔獣の血を引きし一族か……興味深い」
「え?あ、うん」
ヤツフサは、カルネージの言葉がいまいち意味が分かってないのか頭に大量の疑問符を浮かべている。
あれだ、要約するとワーウルフカッコいいという事なんだろう、多分。
……こんな風にわかる自分が嫌だ。
「さて、次は燃える炎を纏う貴様だ」
カルネージは俺の方を見ると促してくる。
燃える炎ってのは、俺の髪の色を言っているのだろうか。
やだもう、ホントにこいつめんどくさい。
「えーと、僕はアルバと言います。土属性ですね。それでこちらはアルディ。僕の契約した精霊です」
「よろしくなー」
「アルバ……だと」
俺とアルディが自己紹介をすると、カルネージは急に真剣な声色になりガタンと立ち上がる。
「アルバとは……アルバ・フォンテシウム・ランバートか?」
「そ、そうですけど……」
急に何なんだ。俺の名前を聞いた途端態度が変わりやがった。
「確かによく見れば、俺様が使い魔を使い集めた情報と酷似している……」
カルネージは、近づいてくると無遠慮に俺の事をジロジロと見てくる。
「あの……何か?」
「そうか、貴様が訓練場の破壊神か!」
「それはやめてええええええええ!」
ズビシッと指を差すカルネージに対し、俺は叫ぶ。
「え?アルバ、そんな2つ名で呼ばれてたの?」
ヤツフサも初耳だったのか驚いたようにこちらを見ている。
ていうか、あれはヤツフサも原因だったのに何で俺ばっかがその2つ名で有名なんだよ!
「貴様とは、前々から話をしたいと思っていたのだ。俺様を差し置いて破壊神を名乗るなど分不相応にも程がある!」
「いや、欲しいならあげますんで勘弁してくださいお願いします」
「そんな情けで貰うなど俺様の誇りが許せん!」
どないせっちゅーねん。
「いずれ、俺様が実力で貴様から破壊神の称号を奪ってやるから覚悟するがいい!」
そんな価値の無いプライドにこだわらなくていいからさっさと貰ってくれたら楽なんだけどなぁ。
「あ、そ、そうだ!カルネージさんの属性は何なの?」
カルネージのヒートアップぶりに焦ったヤツフサは、話題を変えようとそんな事を聞いてくる。
すると、カルネージは先程までの興奮が嘘のように大人しくなる。
「……言わなきゃダメか?」
「え?ま、まあ、気になるし……」
カルネージは何やら悩みだす。
なんだろう、先程まで傲岸不遜だったわりに随分しおらしくなったな。
「……だ」
聞こえるか聞こえないかくらいの声量でカルネージは、ぼそりと答える。
「え?」
「光属性だ……」
流石のヤツフサでも聞き取れなかったのか聞き返すと、カルネージは先程よりも聞こえる声で答える。
光属性かよ!
いや、光属性もそこそこ珍しいんだけど散々深遠なる闇の使い手とか言っといて光とか真逆じゃねーか。
「あれ?でも、さっき闇の使い手とかって言ってなかったっけ?」
そこで純粋なヤツフサは、悪気が無いが確実に精神にダメージを与える質問をぶつけてくる。
ヤツフサ……恐ろしい子。
「ち、違う!それは、なんというか本当の俺様ではないのだ!本当の俺様の力は封印されていて覚醒すれば闇の魔法が使えるようになるのだ!」
カルネージがワタワタと慌てながら言い訳をする。
「えー?じゃあ、得意魔法は?」
「……回復魔法」
アルディの疑問にカルネージがまたもや言いにくそうにぼそりと答える。
すげーな。ギャップってレベルじゃねーぞ。
破壊の申し子っていうか破壊の申し子(笑)じゃねーか。絶対キャラづくり間違ってるってこれ。
「あはは、おっかしいー!破壊の申し子が回復魔法だって!」
アルディの無慈悲な一言!
カルネージにこうかはばつぐんだ!
やべえ、空気読めない子が2人居るとこうまで人を傷つけられるのか。
カルネージは、最初の勢いはすっかり無くなりしょげかえってしまっており、少し同情してしまう。
「もういい……、今宵は疲れた。俺様は微睡の闇へと沈もう」
カルネージは、そう言うとまだ決めてないのにさり気なく二段ベッドの上を確保し梯子を登ろうとする。
しかし、梯子を登る際にまたもや長い裾を踏んでしまいそのまま後頭部を床に打ち付ける。
うわ、超痛そう。
「う、うわーーーーーん!も、もうやだーーーーー!」
もう精神が限界だったのか、カルネージは子供の様に手をバタバタとばたつかせて暴れだす。
「うわ、ねえ泣かないでよ。何か気に障る事でもした?」
天然鈍感ボーイヤツフサ君は、自分の発言が一因である事に気づくはずも無くカルネージを宥める。
「頭打ったのが痛かったの?ほら、痛いの痛いのとんでけー」
天然ガールアルディもヤツフサと同じように原因の一つという自覚は無く、カルネージの頭を撫でる。
「慰めんなよぉ!みじめになるだろうがぁ!」
カルネージは、二人の手を払いのけると蹲って嗚咽を漏らしながら泣いてしまう。
まあ、顔が見えないので分からないが俺達と同じくらいの歳だろうからメンタルが弱くても仕方あるまい。
俺は、大人の余裕でその夜はカルネージをあやすのに費やすのだった。
ちなみに、ルームメイトは俺とヤツフサ、カルネージの3人だった。
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