第47話

 ついに4月がやってきた。

 今日は、進級式だけだったので半日で終了だ。


 校舎の入り口で掲示板を確認するとヤツフサ達とは当然の如く同級生だった。

 ほんと、まじでこれ誰かわざとやってんじゃないかこれ?

 もしかして学園長の差し金だったりしてな。

 ……自分で言っておいてアレだがあの人ならやりかねないな。

 

「いやー、また皆一緒のクラスになれてよかったね」


「そうだね。まあ、ちょっと作為的な物を感じるけどね」


 教室に向かう途中、ヤツフサが尻尾を振りながら嬉しそうに言ってきたので同意しつつ答える。


「作為的……ですの?」


 俺の言葉にフラムは眉をひそめて尋ねてくる。


「ああ、深い意味は無いよ。ただ、少し都合がよすぎるかなって思ってね。もちろん、皆と一緒なのは凄い嬉しいよ」


 もし、これが俺1人だけ別のクラス……とかだったりしたら孤立する自信がある。

 俺自身は、自分で言うのもなんだがコミュ力は人並みにあると思う。

 だが、土属性というのが予想以上に根が深いため俺単独で交友関係を広げると言うのは難しいだろう。


「確かにそうですねぇ。いくらなんでも全員同じクラスってのは少し出来すぎな気がしますねぇ」


 スターディは、俺の言葉に頷く。

 まあ、結局は憶測だからいくら考えても仕方ないんだけどな。

 別に俺達に何かデメリットがあるわけでもないし。

 

 その後、俺達は軽く雑談しながら教室へとやってくる。

 高等学部だけあって、初等学部よりは年齢が高めなのでそれほど騒がしくはなかった。

 難度10迷宮をクリアしてから、結構時間も経っているのでそれほど注目もされない。

 チラチラとこちらを見てくる奴が何人か居たがその程度だった。

 それぞれが各自の席に着くため机の上に置いてある名札を確認してから座る。


「なぁなぁ、アンタってアルバって名前か?」


 俺が席に着くと前の方に座っていた男子生徒がこちらを向いて話しかけてくる。

 俺と同じ赤毛で天然パーマなのかクルクルと丸まっていて人懐こい笑みを浮かべている。

 中々な爽やかな少年だ。


「そうですけど……なんで知ってるんですか?」


「なはは、結構有名だぜ。名前はアルバで特徴は長髪の赤毛の女みたいな男って感じでな」


 是非とも撤回したい特徴だな。

 俺だって髪の毛は切りたいが、下手に切って魔力ががっつり減ったりすると怖くて切れないのだ。

 最近、母さんに似て来たからそっち(女装)に目覚めそうでちょっと怖い自分が居る。


「んで、それを知ってる理由は、土属性にも関わらず初等学部の難度10迷宮を攻略したって感じの噂が流れてるからだ」


 あー、なるほどな。

 最近聞かなくなったと思ったが、俺の知らないところで噂が一人歩きしてたらしい。

 まあ、別に悪い噂じゃないから良いんだけどな。


「あとは訓練場をボロボロにした破壊神とかな」


「すみません、それは聞かなかったことにしてください」


 それさぁ、もう半年くらい前の奴じゃん!俺の黒歴史だからもうやめてよ!

 人の噂も七十五日じゃなかったのかよ。


「えー?だって破壊神だぜ破壊神。カッコいいあだ名じゃんか」


「単体で聞くとカッコいいのは認めますが、ついた理由が不名誉すぎるので却下です」


 訓練場の破壊神とか響きがカッコ悪すぎる。

 ていうか、俺は陰でそんな名前で呼ばれてたのかよ。初耳すぎるわ。


「えー、仕方ねーな。じゃあ、心の中だけで呼んでおいてやるよ」

 

 少年は、不満そうにしながらもそう言ってくる。

 出来ればそれも勘弁してほしい所だが、人の心まではどうしようもあるまい。


「ねー、アルバ。こいつ、アルバの事イジメるからキュッとしちゃっていい?」


 鞄の中で話を聞いてたのか、アルディがモソモソと這い出てくると少年を指差して物騒な事を言ってくる。

 

「やめなさい。クラスメイトだよ」


 お父さんは、そんな物騒な子に育てた覚えはありませんことよ。


「おー!この子が精霊かー。なに、この見た目ってアルバの趣味?」


 少年は、アルディの発言を気にした様子は無くアルディの頭をツンツン触りながら尋ねてくる。

 

「んもー!触るなよー!アルバの趣味だよ、文句あるかこのやろー」


 なれなれしく触ってくる相手に、アルディは不満そうに離れながらも律儀に答える。


「へー、見た目優等生そうなのに意外だな。なんか仲良くできそうだな」


 少年は、アルディの言葉に感心したように言いながら笑顔で話す。


「そうそう、俺の名前はべーチェル・クライン。アンタと同じ下級貴族だ。同じ赤毛同士仲良くしようぜ」


 ベーチェルと名乗る少年は笑顔で自己紹介をすると握手を求めてくる。


「僕、土属性なんですけど良いんですか?」


 貴族って言うのは、基本体裁を気にするから不遇な土属性と積極的に仲良くしなさそうなもんだが。

 まあ、俺の偏見なんだけどな。


「ああ、俺そーいうの気にしねーんだわ。何の属性が良いとか何の属性がダメとか馬鹿らしくね?」


 ベーチェルは、あっけらかんとした表情でそんな事を言う。

 まあ、確かにどの属性も良い所があるし優劣なんて付ける方が間違ってるのだろうが、そういう流れと言うか風潮って意外と根深いから無くならないんだよなぁ。


「まあ、そういう事でしたらよろしくお願いしますね」


 とりあえず、ベーチェルのいう事を信じることにして俺は握手を交わす。


「えーと、精霊ちゃんもよろしくな」


「アルバの事イジメるからヤダ。それに私にはアルディって名前があるんだい」


 アルディは、さっきのベーチェルの発言が余程嫌だったのかプイッっとそっぽを向いてしまう。

 

「なんだよ、つれないなぁー」


 そんな感じでベーチェルとアルディが小さな戦いを勃発させていると担任がやってくる。

 その後は、特筆すべき点は無かった。

 進級式をやった後は、クラスで自己紹介をし土属性でざわついてアルディが怒ると言う初等学部の時と同じパターンだった。

 それが終わったら必要事項の伝達でその日は終了した。


「それじゃ、アルバ。早く帰ろうよ」


 帰りの身支度をしているとヤツフサが話しかけてくる。


「あー、そういえば部屋替えがあるもんね」


 卒業生が出ていったことで部屋の人数にバラつきが出たため今日は部屋替えがあるのだ。

 入学式は明後日なので、その前にやってしまおうというわけだ。

 なので今日は迷宮探索など放課後の行動は禁止で即帰宅が決まりになっている。

 俺とヤツフサ、スターディは同じ寮だが、フラムだけが別の寮なので別行動である。

 

「あー、寮替えが可能でしたら絶対ウィルダネス寮に行きますのに」


 フラムは恨めしそうにそんな事を言う。

 基本、入学時に決まった寮は原則は変更なしである。

 そんなホイホイと替えられたら寮の人数にバラつきが出てしまうしな。

 その後は、まっすぐ寮へと帰宅すると、寮長のネーヴェ先生から上に丸く穴の開いた箱を差し出される。


「寮生は、一枚引いてくださいな。新しい部屋番号が書いてありますのでそちらの部屋への移動をお願いします」


 俺とヤツフサは、男子生徒用の箱から一枚紙を取り出して中を確認する。


「……」


 もうね。まじでこれ絶対狙ってんだろ。

 どういう事かというと、またもやヤツフサと同じ部屋なのである。


「あはは、今度は部屋も一緒だね」


 ヤツフサは、純粋に喜んでいるようで尻尾や耳をピコピコ揺らして喜んでいる。

 ……まあ、ヤツフサが喜んでいるならいいか。

 俺達は、いったん自分の部屋へと戻り荷物を移動させる。

 荷物を纏めたり、部屋の掃除などはあらかじめやっていたので直ぐに終わる。

 

 新しい部屋に入ると、俺達は一旦荷物を置き他の人を待つ。

 部屋は基本、どこも同じようで前の部屋との違いは特になかった。

 

「他のルームメイトはどんな人なんだろうねぇ」


 ヤツフサは、まだ見ぬ新しい住人に思いをはせてウキウキしている。


「とりあえず、土属性に偏見ない人が良いかな」


 これは切実な思いである。

 これから最大3年間生活をするのだから、そんな人と土属性を見下している奴と一緒になったらギスギスしてしまう。


「でも、最近は意外と土属性馬鹿にする人って目立つところでは少なくなって気がするなぁ」


「本当?その割には、そういう話聞かないけどなぁ」


 ヤツフサの言葉に俺は、信じられないと言う感じで言う。

 いや、俺が気づかないだけでベーチェルみたいなのも居るから前よりはマシになっているのかもしれない。


「アルバが頑張ってるから皆が認めて来てるんだよ、きっと!」


 アルディは能天気な感じで素直に喜びながら喋る。

 そうだと良いんだけどなぁ。


 そんな感じで雑談をしていると、唐突に部屋の扉が開け放たれる。


「フハハハハハ!愚民共、恐れ慄け!泣いて許しを請え!今日からこの部屋に住んでやるカルネージ様だ!」


 そこに立っていたのは漆黒のフード付きローブを着て白いオペラマスクを付けた痛い奴だった。


「えーと……」


 突然の事にヤツフサは驚いているようで二の句がつげないでいた。

 俺もびっくりだよ。


「ふふふ、恐怖で声も出ないか。それも致し方あるまい。この深遠なる闇の使い手……破壊と混沌の申し子であるカルネージ様が同じ部屋になると言うのだからな」


 やだこの人とっても痛い。ていうか、ファンタジー世界でもこういう奴って居るんだな……。

 自分の黒歴史を見てるようで体が痒いよー。

 

 俺やヤツフサ、アルディは相手の痛さにただただ困惑するしかなかった。

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