第46話

 俺達が難度10を攻略したと言う情報は、あっという間に広まった。

 特に俺達が吹聴したわけではないのだが、どうやら難度10をクリアするとアナウンスが流れるらしい。

 分かりやすく言えば、ネトゲでレアボス等を倒した時にワールド中にチャットが流れるみたいな感じだ。

 おかげで、医務室から帰ってきたらジョナンドさん達に興奮気味に話しかけられた。


「アルバ!お前、ほんとすげーな!」


「うん、難度10なんて普通は無理だよ。しかも5人フルじゃなくて4人でしょ?素直に尊敬しちゃうよ」


「……同じ属性として鼻が高い」


 上からジョナンドさん、コーニール、ランドリクさんの順だ。


「いやでも、結構ぎりぎりだったんですよ?なんというか……今までの魔物と違う雰囲気で本気で怖かったんです。死ぬかと思いましたもの。勝てたのはアルディや皆のお蔭ですよ」


 俺の言葉に、アルディは「いやぁ、それほどでも」と頭を掻きつつ照れている。

 実際、アルディが時間を稼いでくれなかったら俺は完全に諦めていたしな。


「またまたぁ、そんな大げさな。学園迷宮は、どんなに大怪我負っても死なないって」


 俺の言葉にジョナンドさんは、笑いながら俺の言葉を否定する。

 いや、確かにジョナンドさんの言う通りなのだが、あの黒騎士と対峙した時は、本気で死を覚悟したのだ。


「それで……難度10の魔物は、どんな奴だった……?」


 ランドリクさんが、そんな事を聞いてくる。


「えーと、一言で言えば黒騎士……ですかね」


「「「黒騎士?」」」


 3人が綺麗にハモって尋ねてきたので、俺は戦った黒騎士の詳細を話す。


「……という感じなんです。そういう魔物って学園迷宮で戦ったことありますか?」


「いやぁ……少なくとも俺はねーな。獲物をジワジワ嬲るなんて知性のある魔物は、少なくとも学園迷宮内では聞いたことが無いな。世界中を探せば居ると思うが」


 ジョナンドさんは、顎に手を当てて思案しながら答える。


「僕も見たことないなぁ」


「……俺もだ」


 3人とも見たことないと答える。

 うーん、やっぱり明日学園長に直接聞いてみるか。

 その日は、ランドリクさん達とお祝いと称して夜遅くまで盛り上がった。

 

 ◆

 

 翌日、いつもと同じように朝食を食べ終えてお馴染みのメンバーで教室へと向かう。


「アルバ様、体のお加減はいかがですか?」


 登校途中、フラムが心配そうな顔をして話しかけてくる。

 昨日は、俺はかなりボロボロだったし心配する気持ちも分からなくもない。


「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ。学園の治療術士が優秀だからこの通り、少しは傷が残ってるけどすっかり元気になったよ」


 俺は、その場でピョンピョンと跳ねて元気さをアピールする。


「はう~、良かったのです。昨日は、あの黒い騎士の魔物にたくさん殴られてたから心配しましたぁ」


 スターディもホッと胸を撫で下ろし安堵の声を漏らす。


「そういえば、スターディはほとんど傷が無いよね。やっぱり魔法が関係してるの?」


 フラムやヤツフサも、俺程では無いとはいえ無傷じゃなかったのに対しスターディはまるで戦い前の様に完全に無傷だった。


「え、えーと、まあ、そういう感じですねぇ」


 スターディは、俺の質問に対し何故か目を泳がせながら答える。

 何か言いたくない事でもあるのだろうか?


「何か言えない事でもあるの?」


 悪気はないのだろうが、ヤツフサはストレートにズバッと聞いてくる。


「うーん……まぁ、アルバさん達には隠す必要ないですね。私たちは強大な敵と戦った仲間ですし……」


 ヤツフサの質問に対し、スターディは少し悩む素振りを見せつつそんな事を言う。


「えーとですね、私は防御力が上がる魔法の他に治癒能力が上がる魔法も常に発動しているんです。ちょっと切ったくらいの傷なら一瞬で治っちゃいます」


 何それ凄い。


「それでですね。お母さんに信用できる人以外には、治癒の方は教えちゃダメって言われてるんですよぉ。アルバさん達は信頼してるので教えましたが言い触らしちゃダメですからね?」


「当たり前ですわ。私の口は岩より硬いですわ!」


 フラムは、スターディの言葉に自分の胸をドンと叩きそう話す。


「俺も喋らないよ」


「私も内緒にできるー!」


 続いてヤツフサとアルディも約束する。


「僕ももちろん言わないよ。でも、なんで内緒なんだろうね」


「さぁ~?お母さんは理由を教えてくれないんですよねぇ」


 俺の問いにスターディは、頭にハテナを浮かべながら首を傾げる。

 うーん、娘に理由を伝えずに自分の能力を内緒にさせるのか……。

 ここでテンプレな理由を挙げるとすれば、実はその能力は伝説の能力で……とかそんな感じなんだろうけど、フラム達の反応を見る限りそんな珍しい能力でもなさそうだしなぁ。


 ん……?待てよ。


「ちょっと聞いていい?」


「え?なんですかぁ?」


「防御って常に発動してるんだよね?」


「そうですよぉ」


 スターディは、俺の問いに対して笑顔で答える。


「それで治癒も常時発動、と」


 俺の次の質問にもスターディは肯定する。

 ……もしかして、秘密にしてる理由ってスターディの魔力量じゃね?

 どのくらいの魔力を消費してるか分からないが、2つの魔法を常に発動っていうのはとんでもない魔力量なんじゃないか?

 んで、スターディのお母さんは、その魔力量を他の奴に知られないために秘密にさせてるとか。

 そんだけ魔力があるなら、もしかしたら良からぬことに利用されるかも、などと考えてるのかもしれない。

 スターディ達にこの予想を伝えようとも思ったが、親の許可無しで勝手な憶測を言ってもしこれが当たってた場合、面倒くさい事になりそうなので黙っておくことにする。

 あくまで俺の予想だし、いい加減な事を言って混乱させても仕方ないしな。

 その後、俺達は雑談をしながら教室へと向かった。


 教室に着くと、俺達はクラスメイトに一気に囲まれた。


「難度10クリアって聞いたんだけど本当!?」


「流石フラムさん!炎属性の誇りですよ!」


「ヤツフサ君が、訓練場を半壊させた魔法で最後にトドメ刺したって聞いたんだけど」


「おっぱい!おっぱい!」 


 そんな感じで皆が皆、我先にと難度10攻略パーティに話を聞こうと群がってくる。

 ……なんか、関係ない奴も混じっていた気がするが気のせいだと信じたい。


「皆さん、落ち着いてくださいませ。難度10のボスを倒したのは、私たちのリーダであるアルバ様ですわ」


 フラムが、騒ぐ皆を落ち着かせコホンと咳払いをすると俺を前に押しやりそう紹介する。

 すると、先程まで賑やかだった教室はシンと静まり返る。

 何やら皆、信じられないと言った感じで顔を見合わせている。


「どうしましたの?」


 皆の様子にフラムが怪訝な顔をしながら問いかける。


「だって……なぁ?」


「うん、アルバ君って確か土属性だよね……アルバ君は弱いとは思わないけど難度10のボスを倒すってのは流石に無理があるかなぁ……」


「そ、そんな事ないよ!ホントにアルバが頑張ったから俺達は勝てたんだよ!」


「そーだそーだ!アルバは凄い頑張ったんだぞ!」


「そうですよぉ!」


 クラスメイトの反応にヤツフサ達が反論する。

 しかし、その結果はあまり芳しく無いようで反応はいまいちだ。


「ヤツフサ君たちは、アルバ君のパーティでしょ?正直、庇ってるようにしか見えないんだよね」


 なんとも辛辣な言葉である。

 まあ、でも正直予想はしていたのでそれほどショックではない。

 底辺の土属性が、初等学部とはいえ最高難度の迷宮のボスを倒す。

 この世界の人間からすれば、それは信じられない事なのだろう。

 地球で言えば、UMAは実在した!ていうくらい信憑性が無い。


「皆、そこまで頑張って説得しなくていいよ。分かってた事だし」


 これ以上、皆にフォローしてもらうのは申し訳ないので俺はそう言って止める。


「でも……」


「今は無理でも少しずつ認めさせればいいんだよ。急ぐ必要はないんだ」


 渋るフラムに俺は優しく説得する。


「アルバ様がそう言うのでしたら……」


 皆は、俺の言葉に渋々ながらも納得したようだった。

 教室に何とも言えない微妙な空気が漂っていた所に担任が入ってきたのでホームルームが始まった。

 担任までもが難度10攻略の話題に触れて来たので再び微妙な空気になったのは言うまでも無かった。


 昼休み、針のムシロのような教室を抜出して俺は屋上で一息ついていた。

 心労で腹が減ってないので、屋上でゆっくりしたかったのだ。


「ふぅー……」


「若人よ、何か悩み事かな?」


 俺がため息をつくと、学園長がいつものように唐突に現れる。


「でたな、もじゃもじゃー」


 アルディは、学園長の髭にダイブし髭で遊び始める。

 最近のアルディは、学園長の髭で遊ぶのがお気に入りなのだ。最初は俺も辞めるように言ったが、学園長本人が構わないと言ってきたので今は好きにさせている。


「いえ、土魔法の地位向上は道のりが大変だなぁって思いましてね」


 俺は、学園長に今朝の事を話す。


「ふぉっふぉっふぉ、まあそんなもんじゃて。じゃが、大勢は無理でも少しずつ認められて行ってるんじゃから気を落とさずにな。現にワシも期待しとるしのう」


 学園長に期待されるとかめっちゃプレッシャーなんですけどぉ。


「あ、そうだ。お聞きしたいことがあったんです」


「ふむ?」


 俺は、最下層に居た黒騎士について尋ねる。


「ほほう、お主の時は人型じゃったか」


「人によって変わるんですか?っていうか、何なんですかあれは……。あきらかに他の迷宮より凶悪でしたよ」


「難度10のボスは少々特殊でな。パーティの中で最も実力のある人間が戦いにくいタイプになるんじゃ」


 ってことは、俺のパーティで人型が戦いにくいって思っている奴が居るのか。

 俺も苦手っちゃ苦手だな。ヤツフサにも負けてるし冬休み中は母さんにボッコボコにされてたから若干の苦手意識はある。

 知能が低い魔物を相手にしてた方が変な駆け引きが無いからずっと楽だ。

 

「それで、難度10のボスは本質的には他の迷宮の魔物と一緒じゃ」


「それにしては、殺気とか凄かったですよ?」


「まあ、色々とな?教えたいのは山々じゃが今のおぬしにはまだ早いから教えることは出来ん」


「そう言われると気になっちゃいますよ」


「ふぉっふぉっふぉ、機が熟したら教えてやるから待っとるがいい」


 学園長は、笑いながらはぐらかす。

 うーん、あの黒騎士は別にイレギュラーなわけじゃなかったのか。

 学園長の話は気になるが、今は話す気が無いよう出し考えても仕方あるまい。

 その後も学園長と話をしていると昼休みの終わりを告げる鐘が鳴ったので教室へと戻る事にする。


「そうそう、来年期は楽しいイベントがあるから楽しみにしておくがいいぞ」


 別れ際に学園長が、そんな事を言ってきたので何か聞こうとしたらもうすでに居なくなっていた。

 楽しいイベント……ねえ。

 学園長の性格が性格だけにあんまりいい予感はしない。


 その後、俺はアルディと一緒に教室に戻った。

 放課後は、昨日が昨日だっただけに今日は迷宮探索は休みとなった。


 ◆


 そして、時間は流れて3月。

 ランドリクさん達は、無事に卒業し4月までの短い間部屋は俺とアルディの2人だけとなった。


「なんだか、一気に部屋が広くなったねぇ」


 アルディが、空いたベッドで飛び跳ねながら言う。


「そうだね。学園に来てまだ1年半くらいだけど随分密度が濃かった気がするよ」


 決闘から始まり学園迷宮探索、修行にデートとかなり充実していたと思う。

 そして、それに伴い強くなったと実感できる。

 あと1か月で俺は高等学部へ進級だ。

 俺らのパーティは皆仲良く春から高等学部である。


「アルディ」


「なーにー?」


 ベッドで遊んでいるアルディに話しかけるとアルディは、間延びした声で返事をする。


「これからもよろしくな。多分、俺はアルディ居ないと弱いから今後も頼りにさせてもらうよ」


「あはは、なあに今更ー。そんなの、アルバと出会った時から一蓮托生って運命は決まってるんだよ。アルバが嫌って言ってもずっと一緒だからね」


 アルディはベッドから顔だけ出すと笑いながら言う。


「そうだな、今更だったな。それじゃ改めてよろしく」


「おうよ!どんと任せたまえー!」


 俺とアルディはお互いに笑い合い握手を交わすのだった。

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