第45話

「シールド・バッシュ!!」


 スターディが、挑発ヘイトを自身にかけた後、盾を構えて敵の方へと突っ込んでいく。

 攻撃は最大の防御はよく聞くが、スターディの場合は防御は最大の攻撃と言った感じだ。

 その硬さを活かした突進と大盾により、敵共はどんどん蹴散らされていく。ていうか、そういう戦い方があったなら最初からやってほしかった。


 俺達は、スターディの討ち漏らした敵を倒していくだけなので楽だった。戦闘が終わると地形探査ソナーを使い、地形とトラップの確認をして、進んで戦闘。そして終わったら再び地形探査ソナーと繰り返して俺達は着々と進んでいく。


 俺達は、どうにかこうにか最下層に辿り着き、重々しい扉の前に立っていた。

 扉には五芒星の魔方陣が描かれており何かを封印しているようなイメージがある。


「ついに来ましたわね……」


 フラムは、扉を見上げながら話す。

 確かにやっと……という感じだ。ここまで来るのに一体何度チャレンジした事だろう。

 俺とアルディは、迷宮内なら魔力無尽蔵だし魔装でツッコめば楽じゃね?って思って前に一度挑戦したら、俺とアルディだけワープの罠に引っかかって戦力分断されてえらい目に合った。

 またある時は、壁を変形させて直接地下まで行ったらどうだろう?と提案されて実行しようとしたらあるはずの無いトラップが作動し、気づいたら保健室に居た、なんてこともあった。

 難度10は、色々な意味で他とは違うらしくそういう裏技的なのは一切使えず、地道に進むしかなかったのだ。

 

 まあ、だからこそ今こうして最下層に辿り着くとどこか感慨深いものがある。


「それじゃあ、開けるよ?」


 俺が扉に手を置いて皆の方を見て確認すると、皆は頷いてくる。俺は、それを確認すると高鳴る鼓動を抑えつつ扉を開く。


「……っ」


 扉を開けると、そこには他の迷宮と同じように広い空間が広がっていたが決定的に違っていたものがあった。


「な、何ですの、この魔力は……凄い恐ろしいですわ」


「アルバ……怖いよぉ」


 フラムやアルディ等も俺と同じ印象を受けたのか青ざめた表情を浮かべて、俺の裾をきゅっと掴んでいた。

 そう……他と明らかに違う点は、この異質と言える魔力だ。

 なんというか……すべての負の感情を煮詰めたようなそんな感じの魔力だ。

 部屋の中央には扉と同じ魔法陣が描かれており、その中心には漆黒の全身鎧を着た騎士が剣を携え立っていた。

 今までは、既存の魔物が大型化したようなのだったが目の前の黒騎士は普通の男性の大人くらいのサイズだった。

 

「……あの黒い人から魔力が溢れてるみたいだね……酷い魔力の匂いだ」


 ヤツフサがスンスンと鼻を鳴らすと顔をしかめながら言う。 


「難度10だけあって、そこらへんの魔物と違うみたいだね。まあ、死ぬわけじゃないし気楽にいこうよ!」


 俺は、内心ビビりまくっているのを表には出さず、明るく言い放つ。魔法を使えるようになって戦いの経験もある程度積んできたとはいえ、感覚は普通の人間である。

 ビビっても仕方ない事だとは思う。思うが、この中では俺が精神的に一番年上だ。しかもリーダーなので俺がしっかりしないといけないと思い、皆を奮起させる。


「そ、そうですわね!負けても何度でもやり直せばいいのですわ。今までもやっていたのですし」


「私も頑張りますよぉ!まだまだ魔力は充分ですからぁ!」


「俺も頑張るよ、どこまでやれるか分からないけど」


「もちろん、私も頑張るからね?」


 各々がそれぞれ思いのたけを喋る。

 なにやら、最終決戦みたいな雰囲気だがまだまだ全然終わりではない。序盤も序盤なのだ。

 俺達の戦いはこれからだ!

 あ、やべ。これじゃ終わるフラグじゃねーか。


「それじゃ、中に入るよ」


 俺は、笑う膝を必死に抑えながら中へと入る。

 中に1歩入るが、黒騎士は動かない。ここは、他と同様一定以上近づかないと反応しないのだろうか?

 俺は油断せず、数歩進んだところでいきなり後ろの扉が閉まる。

 今まではこんなことが無かったので俺は、思わず後ろを向いて確認してしまうがこれがまずかった。


「アルバさん!危ないです!」


 スターディの叫び声が聞こえてきた瞬間、何かがぶつかる音がしてスターディが壁に叩きつけられていた。


「え……。っ!?」


 いきなりの事に一瞬、呆けてしまうが背中にゾクリと嫌な気配がし俺は横へと転がるように避ける。

 俺が避けると、ガキィンッという金属音と共に俺が居た場所に剣が振り下ろされていた。

 攻撃が避けられたと知ると黒騎士は、顔をこちらに向けてゆったりした動作で剣を構える。

 兜の中身は真っ暗で中には何も無いように見えたが、俺はとてつもない何かに睨まれてるような錯覚に陥りその場から動けないでいた。


 ―――怖い。それが正直な感想だった。

 今までの敵は、何だかんだで協力すれば倒せるものだったし死なないという安心感があったからまだ余裕があった。

 しかし、今目の前に居る敵は……冷たく暗い殺気を放ち、無い目でこちらを見据えていた。


 死ぬ。そう確信した瞬間、黒騎士の頭がいきなり爆発し、いきなり地面から現れた円錐状の石柱が黒騎士の腹に突き刺さる。

 俺がその光景に呆気にとられていると誰かに腕を引っ張られる。


「アルバ様!!しっかりしてくださいな!」

 

 声の方を見ると、フラムが油断なく黒騎士の方に銃を向けていた。先程の爆発はフラムの攻撃によるものだったのだろう。

 ちなみに、俺の腕を引いてたのはヤツフサだったみたいだ。


「アルバらしくないよ。何をそんなにビビってるのさ」


 そう言い放つヤツフサも怖いのか俺を掴んでいる手が震えていて汗をかいていた。


「……ヤツフサだってビビってるじゃないか」


 俺は、とりあえず軽く気持ちを落ち着けると軽口を返す。なんとか自力で立つと俺は深呼吸をする。

 黒騎士は、先程の石柱で吹き飛ばされて距離がある。

 

 大丈夫、魔物がこっちを殺そうとして来るのはいつもの事じゃないか。それが、他より強力なだけだ。

 俺はそう自分自身に言い聞かせ、気持ちを立て直す。


「大丈夫?アルバ」


 アルディが心配そうな顔でこちらを見てくる。先程の石柱はアルディの魔法だったのだろう。


「うん、落ち着いたから大丈夫。皆ありがとう……って、スターディ!大丈夫だったのか!?」


 俺はメンバーを見回しお礼を言おうとすると、そこには盾が少し、ひしゃげているが本人自体は無傷なスターディが立っていた。


「ふん!私があれくらいの責めで満足するわけが無いでしょう?責めに愛が無いもの」


 ……ああ、戦闘モードに入ったのか。とりあえず、大丈夫そうだったので俺は安心する。

 ていうか、愛ある攻撃って嫌なんだけど。


「まあ、助かったよ。ありがとう。スターディが助けてくれなきゃ最初の攻撃でやられてたよ」


「ご、ご主人様を助けるのは当然の事よ!でもまだまだね!そこは、あえて罵声を浴びせるのが本当のサディストというものよ!」


「……僕はサディストじゃないので、まだまだで良いです」


 助けてもらって罵声浴びせるとかどんだけ恥知らずなんだよって話だよな。

 とりあえず、スターディのお蔭でいつもの調子を取り戻せた。

 黒騎士も先程のダメージが回復したのか、石柱により空いていた腹の穴は塞がり、獲物をいたぶる猛獣の様にゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「さて、落ち着いたところであいつをどう倒すかなんだけど……」


 倒す手段はあるにはある。

 あいつは今、俺達を完璧に舐めてるのでその隙を利用し大技をぶつければいいのだ。

 大技としては俺の超伝導砲リニアガンとヤツフサの電磁投射砲レールガンなら、奴を倒せる……はず。


 だが、電磁投射砲レールガンの方は距離が足りない。なら、俺の超伝導砲リニアガンという事になる。

 しかし、問題は十分な威力を確保するのに時間がかかると言う所だ。

 皆には、超伝導砲リニアガンを放つまでの時間稼ぎをしてもらわなければならない。


「……皆、少しだけ時間稼ぎをお願いできる?」


 俺の言葉から意図を理解したのか皆は頷く。 


「それじゃ、行こうか!」


 俺の言葉を合図に、まずはヤツフサが先陣を切る。

 雷動により一瞬で黒騎士に距離を詰めると、両手に纏った雷の爪で切り裂こうと腕を振り下ろす。

 が、それを予想していたのか黒騎士は剣であっさりと防ぎ空いた手でヤツフサを殴り飛ばす。


「ぐぁ!?」


 ヤツフサは、防ぐ間もなく吹き飛ばされ黒騎士は走りより追撃しようと剣を振り下ろすがそこへ、スターディが盾で防いでいく。


「さあ!!私を満足させてみなさい!そんなヤワな攻撃じゃ私は何も感じないわ……よ!」


 スターディは、そう叫ぶと盾で剣を押し返し相手のバランスを崩す。


「隙有りですわ!!燃える小さき槍ファイア・ランス!!」


 バランスを崩した黒騎士の隙を見逃さずあらかじめ詠唱していたのか、多くの炎の槍を黒騎士に向かって放ち、その陰になるように魔法銃の銃弾を放つ。

 バランスを崩しているところへ、この攻撃ならば普通は決まったと思うが黒騎士は人間では明らかに不可能な動きで体勢を立て直すと黒い障壁の様な物を貼りそれを防ぐ。


 俺はその様子を見つつ、超伝導砲リニアガンの準備をする。もちろん、迷宮内は魔力無尽蔵なので魔力共鳴は外せない。


磁場領域マグネティック・フィールド!!」


 俺は、自身の周りに磁場領域を発生させる。最初、この空間全てを磁場領域化すれば、黒騎士の動きを止められるかもと考えたが、それだとスターディ達も影響を受けてしまうのでそれは断念した。


 続いて、発射するためのレールと砲弾を作り上げる。目の前で戦う仲間を手助けできない焦燥感に駆られながら俺は必死に超伝導砲リニアガンのイメージを作り上げる。

 魔法はイメージが全てである。このイメージというのは細かければ細かい程、より強固な魔法となる。

 超伝導砲リニアガンに関しても、地球での専門知識がうろ覚えだったにも関わらず発動できたのは、このイメージによる補足が大きかった。

 実際の地球では、おかしい部分もこの世界でなら魔法という部分で補えるのだ。


 超伝導砲リニアガンの弾丸の速度が上がっていくと、その空気を察知したのか黒騎士がこちらを向く。目が無いはずなのに目が合った気がして俺は一瞬怯むが、皆が頑張ってるのに俺が頑張らないわけにはいかず睨み返してやる。


 黒騎士は、それを挑発と受け取ったのかフラム達を無視し、こちらへと向かってくる。


「アルバ様!!」


 フラムが叫び、魔法銃で黒騎士を牽制するが全て剣で斬り落とされてしまう。


(アルディ!)


(オッケー!)


 俺とアルディは、今思考が同期してるのですぐに意図を理解し地面から円錐型の石柱を出現させ、黒騎士を串刺しにしようとする。

 しかし、それもあっさりと打ち砕かれ黒騎士が迫り剣を振りかぶってくる。

 俺は咄嗟に両手の籠手でガードするが、下から物凄い力で蹴り上げられて宙を舞い地面に叩きつけられる。


「が……っ!?」


 背中に衝撃が走り肺から空気が押し出され、一瞬呼吸が出来なくなる。


(アルバ!アルバ!)


 俺のダメージを心配してか、アルディが先程から叫んでいるが俺は大丈夫だと宥める。

 俺は地面に手を付いたまま、ずりずりと黒騎士から遠ざかろうとするが黒騎士は容赦なく俺の腕に剣を突き立てる。


「!?ああああああああああ!!」

 

 腕に走る激痛に俺は背中を仰け反らせ叫ぶ。


「アルバ(様)(さん)!」


 フラム達3人の叫ぶ声が聞こえ、3人が黒騎士に攻撃するがあっさりはじかれてしまい吹き飛ばされてしまう。


「み……んな!ぐぅ!?」


 黒騎士は、容赦なく俺の体を蹴りつけて来てその度に俺は痛みに声を漏らす。

 致命傷にならないことから、どうやらコイツはとことん俺を弄ぶつもりらしい。

 性格の悪い奴だ。


「ア、アルバをいじめるなぁ!」


 我慢できなくなったのか、アルディは魔力共鳴を強制的に解除し俺の体から離れると至近距離で石の矢を放つ。

 流石に至近距離では避けようが無かったのか、頭部にモロに喰らうと兜が外れる。


「……やっぱり中身……は空なのか、よ」


 兜が落ちて、本来頭がある場所には黒い煙の様な物だけがあり他には何もなかった。

 黒騎士は、特に気にしないと言った感じで兜を無視しコバエでも振り払うかのようにアルディを叩き落とす。


「あう!?」


「アル……ディ!」


 くそ、剣さえ地面から抜ければ……。先程から剣を抜こうと頑張るがかなり深く刺さっているらしく簡単に抜けそうにはない。

 父さん達は、こんな奴に勝ったのかよ……やっぱりあの人たちはチートだな。

 ……いっそのこと、一度負けて対策を練ってやり直すか。

 そう諦めかけた時、俺はあるものが目に入る。


「あれは……いけるか?」


 幸か不幸か俺の手は、地面に触れている。黒騎士は、アルディが今必死に足止めをしているのでチャンスだ。

 俺は奴に気づかれないよう地面に魔力を流し込みひたすらイメージをする。

 音で気づかれないか不安だったが、アルディやフラムの魔法の音に混じっていたようで気づかれていなかった。

 そして……準備は完了する。


「アルディ!足だ!足を止めろ!」


「足……?分かった!」


 俺の言葉にアルディは、黒騎士の攻撃をかいくぐり奴の足元を岩で固める。奴ならすぐに壊すだろうが数秒足止め出来ればそれでいい。


「そこから今すぐ離れろ!」


 俺の言葉にアルディはすぐに離れ、俺はそれを確認すると魔法を発動する。


「じゃあな、黒騎士」


 瞬間、凄まじい轟音と共に黒騎士の上半身が消し飛ぶ。

 残った下半身から黒い煙が大量に上ったかと思うと、そのまま光の粒子となって消えていった。

 

 説明するとなんて事は無い。超伝導砲リニアガンを放っただけである。

 磁場領域マグネティック・フィールドは解除されるまで磁場化したままと以前、説明されたことがある。

 つまり、俺が意図的に解除をしなければ俺がそこから離れようがそこは磁場のままなのである。

 おかげで超伝導砲リニアガンは稼働したままだったので、俺は黒騎士に気づかれないように地面に魔力を通し砲身を黒騎士に合わせて放ったと言うわけだ。

 通常なら気づいてもおかしくなかったが、奴がとことん舐めプをしてたおかげで助かった。

 

 俺の腕に刺さっていた剣も黒騎士が消えるのと同時に消えており自由になっていた。


「って、いてええええええええ!」


 蓋になっていた剣が消えたことで俺の腕からは血が溢れだしていた。


「ポ、ポーション!ポーションはどこ!?」


「ア、アルバ様!ポーションは此方に!」


 いち早く、回復したフラム達が走り寄って来て俺の腕にポーションを掛けてくれる。

 結構高めのポーションを使ってくれたのか出血はすぐに止まる。が、これは応急処置なのでちゃんとした治療、もしくは回復魔法が必要である。


「ありがとう」


「いえ、これくらいでしたらいつでも……私達、勝ったのですわよね?」


「多分、ね」


「あうう、私あんまり役に立てませんでしたぁ……」


 この面子の中では、一番傷が浅い……っていうかほとんど傷が無いスターディが嘆く。

 まあ、多対1ならまだしも、あそこまで強いのが相手だと仕方ないとは思う。今回、勝てたのは運が良かったようなものだしな。


「それにしても、あれって何だったんだろうね。あきらかに他の迷宮のボスとは違ったよ」


 ヤツフサも自分自身にポーションを掛けながら言う。


「さぁ?後で学園長にでも聞いてみるか。とりあえず今は、休みたい……」


「アルバ!凄いかっこよかったよ!」


「いてて!分かった!分かったから抱き着かないで!今、凄い痛いから!」


 俺達が会話をしているとアルディが笑顔で抱き着いてくる。が、体中がボロボロなので今は勘弁してほしい。


「ふふ、アルディさんもよく頑張りましたわね」


 俺とアルディの様子を眺めながらフラムは微笑んでそう言う。

 まあ、確かにアルディも頑張ったな。見ればあちこちヒビも入っている。部屋に戻ったら修理してあげなければ。


 そんな事を思いながら、俺達は満身創痍な体を引きずり迷宮を後にしたのだった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る