第50話

「フラム、おはよう」 

 

 学校に向かう途中、前方でフラムが歩いていたので俺は肩を軽くポンッと叩き挨拶をする。


「ふわっ!?あ、アルバ様。おはようございます。いきなり声をかけられて驚きましたわ」


 フラムは、ビクンと体を揺らし驚くと何事かとこちらを見て俺だと分かると微笑みながら挨拶を返す。


「ごめんね、フラムの姿が見えたからさ。次からは気を付けるよ」


「そうしていただけると助かりますわ。って、あら?なんだか見慣れない方がいらっしゃいますわね」


 フラムがカルネージの姿に気づくと俺は軽く紹介する。


「彼はカルネージさん。昨日から僕とヤツフサのルームメイトだよ」


 そう紹介しつつカルネージの方を見ると、何やらカルネージは焦ったような雰囲気を出している。


「フ……フラムちゃん」


「あら?貴方とどこかでお会いしましたかしら?」


「い、いや!会った事ないぞ!うん、今が初めてだ!」


 フラムがカルネージに近づいて尋ねると、彼は首をブンブンと横に振り必死に否定する。

 人の幼馴染を気軽にちゃん付けしといて初対面だとこの野郎。って、俺は何にムカついてるんだ。


「そうですの?うーん、それにしては聞き覚えのある声の様な気がするんですが……」


「気のせいだ気のせい!似たような声などいくらでも居るからな!」


 フラムが記憶を探りながらなおも問いかけるがカルネージは、何をそんなに焦っているのかひたすらに否定しかしない。

 しかも微妙に声色変えてるし。


「ちなみに属性は何ですの?」


「闇属せ「光属性で回復が得意だそうです」何をバラしてるんだ貴様ぁぁぁぁぁぁ!」


 カルネージが答えようとしたところで俺がセリフを被せてすかさず素直に答えてやる。

 折角代わりに答えてあげたのに、カルネージは何故かお怒りの様子で叫びながら俺の制服を掴んでガクガク揺らしてくる。

 

「こらー、中二病!アルバをイジメるなぁ!」


 俺が揺れるという事は、鞄の中のアルディも揺れるという事で何事かと顔を出したアルディが状況を把握すると、カルネージの頭をポカポカ叩いてくる。

 アルディさん、その呼び方はやめてください。地味に俺にもダメージ来るんです。


「はぁ……はぁ……。すまない、俺様としたことが取り乱してしまった。だが、今後は俺様の許可なしに勝手に紹介するな、良いな!」


 カルネージは、何とか落ち着くとビシッと指を差して釘をさしてくる。


「分かりました、気を付けます」


 俺の答えにカルネージは満足そうにうなずく。


「分かればいいのだ、分かれば」


 俺とカルネージがそんなやり取りをしていると、フラムは顎に手を当てて何やらウンウン考え込んでいる。


「どうしたんですー?頭痛いんですかぁ?」


「いえ、少し気になりまして……。光属性で回復が得意な方って言うと心当たりがありまして」


 スターディが、悩むフラムに心配そうに話しかけるとフラムはそんな事を言う。


「光属性だったら回復得意な人ってそんな珍しくないんじゃないの?」


 ヤツフサは、キョトンとしながら聞いてくる。

 確かにそうかもな。

 回復魔法が使える属性は、現在は氷(水)属性と光属性の2つ。

 この世界では光属性は聖属性っていう認識があるから回復が得意でも何も不思議ではないな。


「もうこの話は良いだろう!貴様の思う人物と俺様は別人だ。いいな?」


「うーん、まあそうですわね。そもそもあの方は、今此方に居ないはずですもの」


 カルネージの言葉にフラムは納得したように言う。

 何だ違うのか。

 カルネージが無駄に焦るから実は、フラムの知り合いだと思ったがフラムの言葉によると此処に居るのは有り得ないみたいだしな。

 まったく、紛らわしい奴だ。


 俺達がそんな会話をしていると、遠くから予鈴の鐘の音が聞こえてくる。


「って、こんなところで立ち話をしている場合じゃないよ!遅刻しちゃう!」


 俺は慌てながら皆に向かって叫び、全員で走り出した。



「な、何とか間に合った……」


 俺は、全身汗だくになりながら自分の席で力なく項垂れる。

 横では、アルディがパタパタと小さな手で仰いで微弱な風を送ってくれている。

 正直、焼け石に水だがアルディの気持ちは嬉しいのでそのままにしておく。


 カルネージはクラスが違うので途中で別れたのだが、俺より疲労困憊だったから無事にたどり着いたか心配だ。

 ていうか、あんなキャラでクラスで孤立してないのだろうか。


「進級した次の日に遅刻ギリギリとか余裕だな、アルバー」


 俺が息を整えながらカルネージの事を考えていると、ベーチェルがニヤニヤしながら話しかけてくる。


「結構余裕持って出て来たんですけど、ちょっと色々ありましてね」


「色々って?」


「まあ……とにかく色々です」


 全部説明するのは面倒くさいので俺は、適当にはぐらかして答える。


「ふーん。ま、いいや。それよりも選択コースって決めてあるか?」


「選択コース?」


「ほら、前から言われてたろ?高等学部に上がったら将来なりたい職業に合わせた選択コースがあるって」


 あー、そういえばそんなのもあったな。

 なりたい職業に合わせてコースを決めるなんて年齢的にはまだ中学生くらいの俺らにとっては早すぎる気がするが、それは地球にとっての常識だしこの世界ではもっと早い時期から働いてる子もいるだろうし、これが普通なのだろう。

 この学園の選択コースはいくつかあり、一番人気があるのはやはり騎士団や宮廷魔導士などの国で働く職業だ。

 他にも、様々な分野で活躍できるコースが用意されている。

 ちなみに俺は冒険者コースだ。

 家に帰った時に父さん達とも相談して決めたのだ。

 せっかく異世界に転生したのだから、世界を見て周りたいと言うのもあるが土魔法を普及させるには、1つの場所に留まっていては効率が悪いと言うのもある。

 その旨を父さん達に伝えたら、俺の好きなようにしなさいと二つ返事で了承してくれた。

 

 そもそも、父さん達は当代貴族で1世代限りの地位なので後を継ぐなんて事も考えなくていいそうだ。

 補足すると、当代貴族でも権利を買う事で貴族を続けることが出来るそうなのだが、1世代で充分だと父さん達は考えてるので買わないそうだ。

 俺が望むならそっちの道もあると言われたが、俺自身も貴族自体には特に固執していないので断った。


「僕は、冒険者コースですね」


 俺は、冬休みの事を思い出しながら答える。


「え?本当かよ。アルバって長男じゃなかったっけ?跡継ぎとか良いのか?」


 俺の言葉にベーチェルが驚いたように言う。


「ええ、うちは当代貴族なので跡継ぎの心配はいらないんですよ。お父様達も権力や地位に興味ないので1世代限りと考えてるみたいですし」


「ふーん、お前もそうだけどお前の父さん達も変わった人っぽいな。権力に興味ないって普通は居ないぞ?」


 まあ、言われてみればそうかもしれない。

 誰しも権力やお金、地位などが欲しいと思うのが普通だ。

 が、父さん達の真意は分からないが少なくとも俺はそれほど興味が無い。

 元来、俺は小市民体質なのであまり大きい権力や金を持ってたりすると逆に落ち着かないのだ。

 まあ、地位に関しては土魔法を普及させたいと考える程度には興味ある……のかな?

 ただ、流石に一国一城の主になりたいとまではいかないが。


「まあ、そういう人たちも居るって事ですよ」


「そういうもんかなぁ」


「そういうもんです」


 いまいち納得のいっていないような表情を浮かべるベーチェルと雑談していると先生がやってくる。

 選択コースを決めるらしく、俺達は1人ずつ呼ばれ先生に希望を伝えていった。



「ねえ、アルバは選択コース何にした?」


 昼休み。

 学食でいつものメンバー+カルネージを加え食事をしているとヤツフサが口を開く。

 ちなみに、なぜカルネージが居るのかというと一人ぼっちで寂しそうに食べていて、あまりに哀愁が漂っていたので俺が誘ったのだ。


「僕は冒険者コースだね」


「え?そうなの?てっきり、騎士団とか選ぶのかと思ってた」


 俺の言葉にヤツフサは驚いたように言う。

 

「世界を見て周りたいと言うのもあるけど、僕には土魔法を広めるって目的があるしね」


「……あー、確かにそれがあるなら冒険者の方が良いかもね。皆はどうなの?」


 ヤツフサは、納得したように頷くと他の面々にも尋ねる。


「私は、アルバ様と同じ冒険者コースですわね。私は経験が足りませんからアルバ様を手助けしながら見聞を広めたいんですの」


 フラムは、当然と言ったような顔をしながらそう言う。

 ちなみに卒業したら俺に同行すると言うのは決定事項である。

 というのも、俺が冒険者を目指すと言う話をしたのがフラムやハインさんと食事をした時で、その話を聞いたハインさんがフラムも一緒にと勧めてきたのだ。

 それに便乗したうちの両親もそれが良いと妙に押してきてフラムも乗り気だったため、了承したのだ。

 まあ、一人旅より気心知れた仲間が居た方が楽しいしから良いんだけどな。


「私は、少し悩んだのですけど冒険者コースですー。私のこの防御力をもっといろんな人の為に役立たせたいんですよぉ」


 スターディは、笑顔を浮かべながらそんな事を言う。

 ……ホントに、戦闘さえ始まらなければすげえ良い子なんだけどなぁ。


「当然、俺様も冒険者だ。この闇の力を愚かな民衆共に広めたいからな!」


「闇じゃなくてひか「何か言ったか?」ナンデモナイデス」


 俺がカルネージの間違いを訂正してあげようとしたら睨まれたので何も言わないことにする。

 カルネージって、なんかイジりたくなるんだよな。色々面白いし。

 痛いけどな!


「えー、皆冒険者コースなの?」


 ヤツフサは、なんだか残念そうな顔をしながら言う。

 うん、俺も正直まさか全員冒険者コースだとは思わなかった。


「そういえば、ヤツフサはどれにしたの?」


「俺は、騎士団コースなんだよね。本当は冒険者がやりたかったけど、故郷の皆の恩を返すには安定した収入がある職業につきたいかなって」


 あー、地球で言う公務員みたいなもんか。

 というか、子供の内から随分立派な考えだ事。

 俺がヤツフサの年くらいは友達と下ネタで喜んでたり河原でお宝発見して祭りになったりとか阿呆な事しかしてなかったのに。

 まあ、それが地球とこの世界の差でもあるか。

 そもそも働き始める年齢が違うわけだし。


「というこは、ヤツフサさんとは卒業したらお別れなんですのね。少し寂しいですわ」


「まあ、今コース決めてもまだ3年あるし。途中で変更とかもできるんだっけ?」


「確かそうですねぇー」


 俺の問いにスターディが答える。

 まあ、今決めてコースが変更できないってなったら、事情があってその道を諦めた時とか辛いしな。

 それにしてもヤツフサは騎士団か……。

 もしかしたら皆でこのまま一緒になんて考えてたが甘かったかもな。

  

 出会いがあれば別れもある。

 そんな当たり前の事を忘れてた俺は、少し寂しく思いながらも食事をするのだった。

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