第36話
翌日、スターディをパーティに加えて難度10の迷宮の前にやってきていた。
「それじゃ、今から迷宮の中に入りますが大丈夫ですか?」
「はーい、大丈夫でーす」
俺はスターディに向かって確認すると彼女は元気よく手を上げて返事をする。何ともまあ、緊張感が無いが自分の防御力に自信があるからかもしれない。
とりあえず、スターディを先頭にして俺達は進むことにする。余計な体力を消費しないため、1階は魔物を避けて2階層目に到達する。
「……来るよ」
ヤツフサが鼻をひくひくさせてそんな事を言う。俺の
やがて数秒ほど経った頃、耳障りな音と共に黒い悪魔どもがやってくる。
「ひっ……」
フラムは、口を両手で押さえ短く悲鳴を上げる。
正直、俺も滅茶苦茶逃げ出したい。肝心のスターディはどうなのかと見たら特に平気な様だった。
むしろどことなく頬を紅潮させてるようにさえ見えた。……もしかして。
「ああ……っ。気色悪い魔物があんなに大量に……!うふ、うふふふ」
スターディは身をくねらせながら、そんな事をブツブツと喋っている。
「あ、あの……スターディさん?」
「も、もう耐えられない!スターディ、逝きまーす!」
俺の声が聞こえてないのか、スターディは身の丈程もある大盾を構えるとGの悪魔共に突撃していく。
「
突撃していったスターディが魔法を唱えると何やらスターディに対して無性にイラついてきたがすぐに収まる。
魔物達も同じようで鳴き声を上げながらスターディに群がっていく。名前からしておそらくはゲーム等でいう所の
盾職らしいといえば盾職らしい魔法である。
あんなに群がられて大丈夫なのかと心配したが……
「ほらほら!根性が足りないわよ!そんなんじゃ私に傷なんて付けられないわよ!んっ そう!そうよ!もっと、もっと強く噛みなさいダメ虫が!」
罵りながら攻撃を受けていると言う何とも斬新な光景が広がっていた。女王でMで巨乳とか属性盛りすぎだろ。
ついでに、性格も変わっておりあのポヤンとした表情は無く恍惚に表情をゆがめる少女がそこにはいた。
……うん、パーティを解雇される理由が分かった。こんなん見たらドン引きするわ。
確かに防御力には自信があると言うだけあり見た目からは、そんなダメージを受けているようには見えないがなんというか、色々残念すぎる。
ヤツフサやフラムも目の前の光景に攻撃を忘れポカンとしていた。アルディに関しては、なんだか分かってないようで「何だか変わった人だね」で済んでしまっている。
「いいわ!その調子よ!ああ……凄い!気色悪いゴミ虫どもに無慈悲に蹂躙されているわっ」
美少女に群がるゴキブリの山……マニアックにも程がある光景である。
これ以上はヤツフサ達の教育上にもよろしくないのでさっさと終わらせるため2人に声を掛ける。
「2人とも、黙ってみてないで早く援護しなきゃ」
俺の言葉に2人は我に返り攻撃態勢に入ろうとしたところでそれは起きた。
「はぁんっ 来た来た来たー!『
盾を構えていたスターディが一度ビクンと震えたかと思うと強烈な光が放たれゴキブリ共を焼き払う。
ゴキブリ共はギシャアアアアと断末魔を上げつつ1匹残らず焼き尽くされる。
「「「……へ?」」」
よく分かっていないアルディを除いた俺達3人は、ただただその光景に茫然とするだけだった。
「……」
俺達が茫然としているとゴキブリ共を殲滅したスターディが突然倒れてしまったので、俺達は慌てて駆け寄り迷宮から脱出したのだった。
「すみませーん、ご迷惑おかけしちゃいましたー」
迷宮内での豹変ぶりが嘘のようにスターディは医務室のベッドの上で申し訳なさそうに笑う。
倒れた原因は魔力の枯渇だったそうだ。魔力ポーションを飲ませることで応急処置をしあとは、自然回復を待つと言う形になる。
まあ、それはいい……それはいいんだが……。
「あの、迷宮での事なんですが……」
俺の言葉にスターディはビクリと体を震わせた後、恐る恐る口を開く。
「えへへー、ごめんね?ひいちゃったでしょー?私ね、昔からああなんだー。戦闘が始まると自分じゃない自分になるっていうか、痛いのがとっても気持ちよくなるって言うか……」
古今東西、普段は大人しくても何かがスイッチになって豹変すると言うのはよく聞く話だ。
分かりやすいのだと運転すると性格が変わるとかが最もよく聞く話だろうか。
「今までパーティ組んだ人たちも私を見て気持ち悪いって言って離れていっちゃうんだー」
仕方ないね、と力なく笑うスターディに俺は少なからず共感を覚える。
頑張っても認めてもらえないと言うのは辛いものだ。俺は土魔法に関してはまだ、認めてくれる人が居るが認めようとしない奴が多い。
彼女は、その少数の認めてくれる人すらも居ない、いわゆるボッチである。
俺は、スターディに聞こえない位置まで皆と移動し小声で相談する。
「3人とも、スターディの件なんだけど……」
「私はアルバ様の意見に従いますわ。それに、戦闘時の性格に多少難はありますが盾としてはかなり優秀ですわ。実際、あのおぞましい黒い悪魔たちに怯みもしませんでしたし」
「俺も同意見かなぁ。あれはちょっとビックリしたけど普段のあの子を見ると突き放すのは何だか可哀そうだし……」
フラムとヤツフサは特に異論はないようで最後にアルディを見るとアルディは笑顔で答える。
「よく分かんないけど面白いから良いと思うよ!」
何ともアホの子みたいな意見だが、アルディらしいといえばアルディらしい。
どうやら満場一致でスターディを正式に仲間に入れることに決まったようだ。
戦闘時のあれはドン引きものだったが、フラムが言ってたように盾役としては、かなり優秀だ。
俺は、決まった事をスターディに伝える為、彼女の元へと近づく。
「あのー、やはり私は失格でしょうかー?」
スターディは、今までが今までだった為、覚悟を決めたような表情でそんな事を言う。
「えーとですね。とりあえず、これからもパーティとしてお願いしたいなぁって思うんですがよろしいですか?」
「へ?ほ、ほんとーですかぁ!?」
スターディは、信じられないと言う風に一瞬呆気に取られるがすぐに我に返ると俺の服を掴み揺らしてくる。
「ほ、本当です!本当ですから揺らさないでください!」
スターディは意外と力も強く俺は為す術も無くグラングランと揺らされる。
「あ、ご、ごめんなさいー。つい、嬉しくてぇ」
俺の言葉にスターディは、顔を赤くしながらパッと手を離す。
「ふぅ……あ、そうだ。
服を離してもらい落ち着いた俺は、例の魔法について尋ねる。
「あの魔法は、私が一定以上ダメージを受けて……ったら自動で今までのダメージを一気に敵に返す魔法なんです」
「何したらですって?」
説明の途中で何故か物凄い小声になり、聞こえなかったので俺は聞き返す。
「だから……ったらです」
「すみません、もう少し大きい声でお願いできます?」
「き、気持ちよくなったらです!は、恥ずかしいので言わせないでください!」
スターディは茹蛸のように顔を真っ赤にしつつそう叫ぶ。
後ろを見ると、なんだか俺が女の子に卑猥な言葉を無理矢理言わせたような雰囲気を漂わせているフラムとヤツフサが居た。
え?これって、俺が悪いの?
「えーと、なんかすみません」
とはいえ、こういう雰囲気の時にはほぼ確実に俺が悪くなるって言うのがテンプレなので悪化する前に素直に謝る事にする。
「い、いえー……こちらこそごめんなさい。あ、それで続きなんですけど
あー、だから放った後に魔力枯渇で倒れたのか……
全魔力と引き換えに強力な攻撃ってまるで某国民的RPGのあの魔法の様だな。
まあ、そこに関しては俺達がスターディに
「そこら辺は、こちらでフォローするから大丈夫ですよ。それでは、よろしくお願いしますね」
「はい!よろしくお願いしますぅ!」
テロテロテーン
女王様系ドМのスターディが仲間になった!
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