第35話

 翌日、俺達は再び難度10の迷宮に挑んでいた。

 もちろん、入口のトラップは回避している。また、初見殺しのトラップに引っかかってもムカつくので今回の俺は地形探査ソナーメインで行き、戦闘はヤツフサ、フラム、アルディ主体で行くことにする。

 俺も魔力は増えたが、何度も地形探査ソナーをやっていると流石に最下層まで魔力がもたないからだ。

 もちろん、魔力ポーションはあるがそれなりに高価なので節約できるなら節約したい。

 俺が地形探査ソナーに集中できるおかげでトラップの類は回避できるようになったのだが、これがまあ多い多い。

 覚えゲーかよと突っ込みたくなるようなトラップの配置で安全な場所が点々として普通に歩けないとかザラである。

 まあ、それは結局場所も分かってるので引っかからなければいいのだが問題は……


「いやあああああああ!!こっち来ましたわあああああああ!?」


「無理無理無理!生理的に受け付けない!!」


「ちょ!?俺とアルディちゃんだけじゃ対応しきれないよ!」


 俺とフラムが逃げ惑っている中、ヤツフサとアルディが応戦するが数の暴力により押され気味だ。


「初代学園長って本当におかしいんじゃないんですの!普通、こんな魔物配置しませんわよ!」


 劣勢になった俺達は撤退を余儀なくされ、走り出すとフラムが叫ぶ。

 確かに、普通の感性ならまず“あんな魔物”は配置しようと思わない。そう考えながらダメだと頭ではわかってても怖いもの見たさというものでチラリと後ろを見てしまう。

 そこには1m程の体躯で全身が黒光りする硬い殻に覆われていて長い触角をミョンミョン動かしている大量の魔物が居た。

 これがまた妙にタフで嫌悪感を催すのだ。勘の良い方なら分かるかもしれないが、この魔物は……名前を呼ぶのも恐ろしい五穀噛ごきかぶりさんである。

 とある生物用語集の誤表記によりゴキブリという名の方で有名になったあれだ。ゴキブリだけに誤記。ってやかましいわ。

 そんな巨大なゴキブリさんたちがギチギチ鳴きながらゾゾゾと迫ってくる。

 ヤツフサとアルディは平気だったのだが俺とフラムはもう完全に戦意喪失状態で戦うのを完全に放棄である。


「アルバー!追いつかれちゃうよー!」


 ヤツフサが殿を務めているので後ろから叫んできたのでそちらを向くともう近くまで迫っていた。


「ひぃっ!?」


 俺は思わず叫んで身を竦ませるが、そこで俺は思いつく。


「ア、アルディ!壁だ!壁を作るんだ!」


「え?あ!分かった!」


 俺の言葉の意図を素早く理解したアルディは壁に手をついて、俺は床に手をついて魔力を流す。

 ゴキブリ達の前方に通路いっぱいの穴が出来て奴らを足止めするとアルディにより壁が生み出され俺達とゴキブリ達の間が完全に遮断される。

 滅茶苦茶タフだが攻撃力はそれほどないのか、鳴き声は聞こえるものの壁を破る気配は無かった。 


「……ブハッ!助かっ……たぁ」


 奴らが来ないのを確認すると俺は、息を吐き出しへたり込む。

 もっと早くにこの方法が思いついていれば良かったのだが、慌ててたのでそれどころじゃなかったのだ。


「も、もう嫌ですわ……まだ2階層目でいきなりあんな……あんなものが居るだなんて……!」


 フラムは涙でグシャグシャになった顔でそんな事を叫ぶ。


「そういえば、ヤツフサ達は平気だったんだよね」


「まあ、俺は狩りとかでもっとキモイのとか見てるし」


「私は、そもそも気持ち悪いとかそういうのが分からないしなあ」


 俺の言葉にヤツフサとアルディがそんな事を言う。何とも頼もしい2人である。


「でも、流石に2人だけだとあいつらを相手にするのはきついかもね」


 確かに、俺とフラムが役に立たないので戦力が2人と言うのは厳しい。せめてもう1人ああいうのが平気な戦力が欲しい。


「これは、やっぱり新しい仲間が必要かもね」


 俺の言葉に全員が合意し、今日はそのまま攻略を諦めることとなった。


 その後、俺達は迷宮学舎の仲間を探す為のエリアへ来ていた。ここでは、どういう人材が欲しいかなどの希望を出すと学園の方で条件に合う生徒を探してくれたり、仲間を探している奴が直接スカウトを待ったりスカウトしたりする場所だ。


「ふぅ……」


 俺達は、一息つくために2階部分のカフェテラスで落ち着いていた。

 ここのエリアは、冒険者ギルドをイメージしていて1階部分が受け付け、2階部分がカフェ(ギルドでは酒場)となっている。


「なんだか精神的に疲れましたわ……」


 席に着くなりフラムは柄にもなくテーブルに突っ伏してぐったりとしている。精神は大人である俺でさえアレは衝撃映像だったのだ。

 女の子でしかも子供のフラムにはさぞかしトラと馬がこんにちはしてしまう映像だっただろう。


「……難度10って何階層だっけ」


「確か15階層だったはず」


「15階層かー……」


 ヤツフサも疲れているのかぐったりしつつ尋ねて来たので俺が答えると更にぐったりとする。

 確かに、2階層であれなのだからもっと階層を重ねるとどんな魔物が待っているのか考えるだけで鬱になる。


「とりあえず、ああいう数が多いのを一気に倒せるようにしたいなー」


「それなら、私の魔法で何とかなりますわ。ただ、見た目のせいで集中できませんでしたの」


「なら、敵を引き付ける盾役が欲しいねー」


 ヤツフサは盾と言うよりはどっちかというと攻撃側だ。ヤツフサ自身人間より頑丈とは言え限界がある。ここはやはり盾役が欲しい所だ。

 一応、希望も虫が平気で盾役が得意な奴で出している。

 もっとも、あまり期待は出来ないが。

 希望自体はそれだけだが、万が一希望に合う奴が居ても仲間になるかどうかは別問題である。

 土魔法に偏見が無く難度10に挑めるほどの実力者……この2つの条件が増えるだけで難易度が格段に上がっているような気がする。

 

 俺達は、動く気力が無くしばらくはカフェでジュースを飲んだり軽く物を食べたりと過ごしていた。


「ちょっとよろしいですかー?」


 なんだか間延びした声がして、そちらを見ると白銀の鎧に身を包んだ女の子が立っていた。

 学園で過ごす際は制服が基本だが、迷宮攻略に至っては自身の好きな装備で挑むことが出来る。実際、俺達も自分達の動きやすい装備だ。

 その女の子は、ピンク色のショートカットヘアでファンタジーらしい美少女だった。

 フラムも美少女だがフラムがキュート系だとすると目の前の少女は清楚系だった。

 そして鎧の金型から分かるが中々立派な物をお持ちである。あえて何がとは言わないが。


「貴方達でしょうかー?盾職を募集してるのは……」


「そうですが……貴女は?」


「あ、申し遅れましたー。私、ウィルダネス寮で初等学部6年13歳のスターディと申しますー。見ての通り大盾士シールダーをやってますー」


 ぽわぽわとした喋り方でスターディと名乗る少女は後ろに背負っていた彼女と同じくらいの巨大な盾を見せる。


「……大盾士シールダー?」


「文字通り、盾をメインとして扱う防御専門の方ですわ。大抵は男性の方がやるような職業なのですが」


 俺の問いにフラムが答えてくれる。


「ああ、それでしたら私の属性が関係してるんですよー」


 スターディがフラムの言葉に反応し口を開く。


「私、無属性なんですけど自動発動型で防御力が非常に高いんですよー。なので皆さんを守れる大盾士シールダーをやらせてもらっていますー」


 ほほう、無属性では自動発動型なんてのもあるのか。盾職が欲しいとは思ってたがまさか、まんまなのが来るとは思っていなかった。

 こちらとしても欲しい所だが、いくつか確認したいことがある。


「あの、なぜこちらの仲間になろうと思ったのですか?」


「実は私、何度かパーティを転々としてるんですけど皆さん、何故か私の戦ってる姿を見ると私を外してしまうんですよー。それで、さっきも外されてしまって困っていた所に貴方達の募集を見つけたんですー」


 何度もパーティを外されるという事は、彼女に何か問題でもあるのだろうか?

 性格面に関しては、少々ポヤンとしているが性格が悪そうには見えない。単に馬が合わなかったのか?


「理由はとりあえず、分かりました。あと、虫は平気ですか?希望にも書いてあったので大丈夫だとは思いますが」


「平気ですよー。基本、苦手な物とかは無いですー」


 ふむふむ、中々有望かもしれない。


「えーと……僕は土属性なんですが抵抗はありますか?あと、僕たちは難度10に挑んでいる最中ですが大丈夫ですか?」


 これが一番のネックである。特に土属性に関しては嫌だと言う奴がほとんどだ。


「まあ、土属性ですかー?土属性っていいですよね。それこそ仲間達を守れる屈強なイメージがありますしー。それと難度に関しても大丈夫ですよー。どんな相手でも攻撃を防げる自信がありますから―」


 自分が他人を守る職業だからか、同じく防御のイメージが強い土属性には好感を持ってるらしい。

 それに自分の力に自信もあるようだ。

 話を聞く限りは特に問題があるようには思えない。俺はフラムとヤツフサ、アルディの3人と小声で相談する。


「……どう思う?」


「私は良いと思いますわ。恐らくこれ以上ない適任の盾職だと思いますわ」


「俺も良いと思う。土属性にも抵抗ないってのは大きいと思うよ」


「んー、私はアルバの決定に従うよ」


 とりあえず、3人とも異論は無いようである。

 まあ、確かに土属性に抵抗が無いのは大きい。とりあえずお試しで入ってもらってという感じだな。

 俺達は相談を終えるとスターディの方を振り向く、


「えーと皆と相談した結果、貴女をパーティに歓迎します。ただ、貴女の実力が分からないので明日、試しに一度迷宮に挑んで見せてもらうことになりますがよろしいですか?」


「わーありがとうございますー。はい、それで大丈夫ですよ-」


 俺の言葉にスターディは嬉しそうにポヤンと笑う。

 その後、俺達は改めて自己紹介をし新たな仲間スターディを迎えたのだった。

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