第34話

 俺達が電磁投射砲レールガンやら何やらを開発してから半年が過ぎた。

 学園からのお達しで俺とヤツフサは飛び級でいきなり初等学部6年、フラムは普通に進級して俺達と同学年になった。

 この半年の間は、特に魔法の開発はせず既に開発した魔法の研鑽に努めた。おかげで電磁投射砲レールガン超伝導砲リニアガンは威力こそ当初よりも落ちたものの――と言っても充分威力は高いが――まあ、小型化に成功はした。

 ヤツフサの方は、人差し指と中指を2本の伝導体に見立てその間に弾を挟んで高電力で発射すると言うものだ。親指を立てることでまるで拳銃のような形になったので当初の腕挟みよりは見た目もカッコいい。

 ただ、面積が腕より狭いのでその分、電力が必要になるがそもそも雷使いのヤツフサには問題が無い事だった。

 まあ、発射時はその関係でヤツフサの体が物凄い事になるが俺達は近づかなければいい話だし、ヤツフサ本人にも影響はない。

 そして俺の方はというと、ヤツフサ程の小型化は出来なかった。ヤツフサと違って俺は電力等に頼れないので地面に磁場を発生させるしか手が無いのだ。

 そうそう、磁場領域マグネティック・フィールドを使ってて思ったのだが、地球には磁鉄鉱……マグネタイトともいうが天然の磁石があるというのを思い出した。

 これは、磁力を持ってたり持ってなかったりする鉱石で雷に打たれることで永久磁石に変わる。なので、どちらかというと雷、というか風属性オンリーではないかと思って困った時の学園長頼みでそれとなく聞いてみたところ、この世界では魔磁鉱と呼ばれており魔力を含んだ鉱石が強力な磁石となる。何処かには魔磁鉱しかない強力な磁場が発生する洞窟なんかもあるらしい。

 なので、土属性でも問題なく使えると言うわけだ。もちろん、雷に打たれて磁化する鉱石も存在はするそうだ。故に雷と土が磁石や磁場を扱えると言うわけだ。

 まあ、前置きは置いといて俺の超伝導砲リニアガンだが開発初期は理論通り直線で距離を稼ぐようにしていたが、超伝導砲リニアガン電磁投射砲レールガンよりも初速は遅いのでどうしても距離が必要になる。

 前も言ったと思うが磁場領域マグネティック・フィールドは範囲が広がるほど魔力の消費が増えてしまう。

 そこで思いついたのが、自分の周りに環状線の様に磁場を発生させてそこをグルグル回転させて磁場の流れを変えて発射すれば良いのではという事だ。

 折角、魔法の世界に居るのだ。現実では難しい事でも魔法でならあっさりと出来ることもある。

 実際にやってみたところ、時間こそかかるが魔力消費は少なく済み、また掛ける時間で威力も調整できることに気が付いた。

 超伝導砲リニアガンは元の理論がリニアモーターカーと同じなのだが、そちらも理論上は速度に際限がない。

 現実では風の抵抗や建物などの障害物があるのでそこまで速度が出せないが、攻撃として使うなら風の抵抗以外は気にする必要はない。

 もっとも、あんまり速度を出しても目標に当たる前に弾の方が空気の摩擦で燃え尽きてしまうので、そこらへんはまだ研究が必要だが。

 まあ、そんなわけでどちらも実用性は格段に上がったと言えよう。俺の方は、仲間に時間稼ぎをしてもらう必要はあるが少なくとも場所は取らなくなったのは正直大きい。

 2つの強力な魔法を手に入れた俺達は6年になってからも迷宮の快進撃を続けるのだった。

 そして、いよいよ俺達は初等学部での最高難度10の迷宮に挑むことになった。

 難度10だけあって今までとは比べ物にならないほど難しいらしい。難度10は、学園内でもオマケというか力試しな割合が大きいので攻略しているメンバーは歴史を振り返っても3桁は越えないらしい。

 高等学部卒業時に初等学部の難度10に挑んだら半数近くがクリアできるらしいが……どんだけ難しいんだよって話である。


「さて……いよいよですわね」


「俺、な、なんだか緊張してきたよ……」


 難度10の迷宮を前にヤツフサとフラムは緊張した面持ちで入り口の前に立つ。


「大丈夫だよ、2人とも。失敗しても最悪、死にはしないから気軽に挑もうよ」


 俺は2人の緊張をほぐそうと笑顔で話す。

 そうそう、流石に1年以上学園生活を送っているので2人に対する口調もアルディと話す時のようになっている。

 敬語キャラってのは相手の心象は大抵悪くないので表向きは、それで通してたのだが2人から友達だから敬語はやめて、とお願いされたので大分砕けた口調になっている。


「そうだね。失敗してもまた挑めばいいんだし!」


 ヤツフサも俺達と一緒に居たおかげか当初の様なオドオドした雰囲気は無くすっかり明るくなっている。


「でも……結局新しいパーティは増えませんでしたわね」


「そうだねぇ……でもまあ、最終的に難度10に挑むって言えば尻込みしちゃうよ」


 進級してクラスも変わった事で新しい仲間も増えるかと思いきや、やはり土属性と言うのは、相当根深いのか誘ったやつらは皆難色を示した。

 中には、入っても良いと言ってくれた奴は居たのだが目標は難度10に挑むと言ったらまだそこに挑む勇気が無いと言って断られてしまったのだ。

 難度10だけは1つしかなく構造も変わらない。中は遺跡型で映画なんかに出てくる大玉が転がってきたりする遺跡をイメージしてくれればいい。

 ちなみに、初等学部の平均攻略難度は8である。9は普通に難しくて10は学園の悪ふざけかと思いたくなるほど極悪らしい。

 なので9が実質最高難度と言われていて俺達もクリアするのに2ヵ月以上かかった。

 

 迷宮は一定階層ごとに自動的に記録されるらしく、途中で脱出してもその階層から続けられるのだ。つまり記録されない階層から脱出してしまえばまた最初から、もしくは途中からとなるのだ。

 流石に3人ではきつく、アルディも完全に戦力に入れて助けてもらった形となる。

 基本、迷宮はよっぽどの事が無い限りは土属性で操れる材質なので大地の精霊であるアルディ無双なのだ。

 アルディも戦力になったせいなのか、アルディの魔力も当初より格段に上がっている。しかも魔力のある場所に囲まれていれば魔力が回復すると言うチートっぷりだ。

 なので、魔力が充満しまくってる迷宮に関してはアルディの魔力は無尽蔵なのである。……俺が欲しかったな、そんなチート。


「私がついてるから大丈夫だよ!今回も頑張るからね!」


 と、件のアルディが張りきった様子でドヤ顔を披露する。


「ええ、頼りにしてますわ。正直、アルディさんが居なければ9はクリアできませんでしたもの」


「そうだよねー、あの四方からの石の槍とかは凄かったよ」

 

 アルディの言葉にフラムとヤツフサは頷きながら話す。確かにあれは凄かった。俺の語彙が乏しいので詳しく説明できないが……かの有名な串刺し公も真っ青、とだけ言っておこう。


「よし、それじゃ行こうか」


 いつまでも此処に居ても仕方ないので俺は3人に声を掛け入り口を開き中に入る。

 

と思った時には気づいたら俺達は医務室でベッドに横になっていた。特に体が痛くない事から治療はされているのだろう。

 俺は起き上がり両隣で寝ているフラムとヤツフサを見るが2人ともスヤスヤと寝ている。

 あるいは気絶してるだけかもしれないが、意識が無いと言う意味ではどちらも大差が無い。

 それよりもだ……俺達は確か難度10の迷宮に挑んだはずだ。入口までは覚えているから間違いない。

 問題は、その後なんで医務室に居るかだが……。


「あ、アルバ! 目が覚めたんだね!」


 俺が状況把握をしようとしているとアルディが抱き着いてくる。


「アルディ? あ、そうだ。アルディなら何が有ったか分かるか?」


 アルディは、人形の体に入ってはいるが実体はない。気を失うなんて事とは無縁な存在だ。アルディなら何か知ってるかと思い俺は尋ねてみた。


「えっとね……私は飛んでたから大丈夫だったんだけど、迷宮に入った途端に落とし穴が作動してアルバ達が落ちちゃったんだよ。結構深さがあったみたいで骨とか凄い事になってたんだよ?」


 一体、どんだけ深い落とし穴ならそんなになるのだろうか……ていうか、入ってすぐに落とし穴とかマジで性格悪すぎんだろ製作者。

 難度10だけ構造がリセットされないのは納得である。構造が変化してしまえばこういう初見殺しのトラップも場所が変わってしまうからだ。

 地形探査ソナーを使えば場所は分かるが、流石に入口にいきなりトラップがあるなんて予想していなかったので俺は完全に油断をしていた。


「それで皆が迷宮の外に飛ばされたから、急いであの人呼んで回復してもらったんだよ」


「あの人?」


「ワシじゃよ」


 アルディの言葉に俺が首を傾げていると死角になっていた場所から学園長が現れる。


「アルディ君がベルを鳴らしてワシを呼んだんじゃよ。聞いたぞ、入口の罠に引っかかったそうじゃな?」


 学園長はそう言うとニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「あ!それなんですけど、流石にあれは酷くないですか!?入口にいきなり瀕死レベルのトラップって洒落になってませんよ!」


「まあ、あれはのう……初代学園長が直々に創造した奴じゃからなぁ。当初は難度9までだったんじゃが当時あっさり攻略してしまった生徒が居てのう……ムキになった初代学園長が嫌がらせの限りをつくした難度10を創造したんじゃ」


 難度9をあっさりクリアしたと言う生徒も気になるが、それに対してムキになる初代学園長ってどんだけ大人げねーんだよ。


「まあ、難度10はオマケみたいなもんじゃし無理して攻略する必要も無かろう」


「……ちなみに僕の両親は攻略したんですか?」


「ああ、あ奴らは1回目で攻略しとったのう。なんだかんだで天才と呼ばれる2人じゃったからな」


 強いというのは分かってたがまさか1回目で攻略してるとは思わなかった。学園長は無理する必要はないと言っていたが、なんだかんだで負けず嫌いな俺は意地でも攻略してやろうと心に決める。

 父さん達の血を引いてるのだから俺に出来ない事は無いのだ。


「ふぉふぉふぉ、その顔は意地でも攻略してやろうって顔じゃな。まあ、無理しない程度に頑張りなさい」


「はい、頑張ります」


 学園長は笑いながらエールを送ってきたので俺は、目を見据えて返事をするのだった。

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