第33話

「それでは定例会議を始めます」


 多数ある校舎の内の1つの教員学舎にある会議室で司会役の教師がそう告げる。

 定期的にこのような会議を開き学園内の問題点や改善点、飛び級の生徒の選定などを行っている。

 学園長たるワシは、必ずこの会議に出席せねばならないので退屈なこの時間を欠伸が出ない様にやり過ごすのがワシの主な目的となっている。

 学園をより良い方向へ持っていくと言うのには賛成だが、毎回毎回同じような内容を繰り返されると流石のワシも退屈になろうというものだ。

 

 今回もどうでもいい問題点を教師たちが話し合っている。

 やれ、学食メニューで並盛の大盛りは結局大盛りじゃないのか?とか、学園内恋愛は独り身からすれば妬ましいとかそういう問題ばっか話し合っておる。

 子供か!と思わず突っ込みたいところだが、威厳ある学園長のイメージを壊さないためにもワシは意味深に髭を触りつつ会議を傍観する。


「さて、問題点や改善点につきましてはここまででよろしいでしょう。次は飛び級の生徒の選定に移ります」


 ここで、ワシが毎回楽しみにしている議題に移ったので姿勢を正す。飛び級をするという事は、要は優秀な生徒という事になる。

 不出来だろうが何だろうがワシにとっては皆、大事な生徒だがやはり優秀な生徒と言うのは見てて面白い。

 我が学園では飛び級自体は、それほど難しい条件ではない。

 座学、魔法共に優秀で一定条件を満たしていれば比較的簡単に飛び級が出来る。

 極端な例を言えば初等学部1年がいきなり卒業という事も可能だ。

 これは、王の方針で優秀な生徒は早く世に出て世界の役に立ってほしいという事から飛び級は簡単にしてある。

 まあ、どういう道に進むかは生徒の自主性に任せてあるので、どこそこに行けという強制はしないがの。


「学園長。学園長は、推薦の生徒はいらっしゃいますか?」


 司会役の教師がそんな事を言ってくるのでワシは名簿を確認する。

 どの生徒も飛び級の候補に挙がるだけあり成績が優秀な者ばかりだった。

 そこには、以前会ったことのあるヤツフサ君とフラム君の名前があった。まあ、この2人は正直納得だ。フラム君は、先天属性が炎で魔法銃使いという一風変わった戦い方をする。

 あらかじめ銃弾に魔力を込める必要はあるが、戦いのときに詠唱が必要ないという利点がある。

 彼女は、過去にも飛び級の経験があるが今回選ばれた理由は迷宮の攻略点数が一気に増えたからだろう。

 座学の方も特に計算関係が得意だ。これは、父親が商人ギルドのギルドマスターというのも関係しているのだろう。


 次に、ヤツフサ君。彼は、ワーウルフの里の出身で黒毛種という種類の少年だ。

 雷が得意で座学は平均的だがワーウルフだけあり戦闘センスが高くフラム君と同パーティ故に迷宮の攻略点数がフラム君同様高い。

 それに彼は強力な魔法を開発したと言う実績もある。


 1か月程前、訓練場が滅茶苦茶になったという報告を受けその原因が彼に有ったと言う。

 確か、電磁投射砲レールガンとか言ったかのう。実際に見せてもらったがあれは国家レベルの戦術級魔法と言っても過言ではないほどの威力を持っていた。

 噂を聞きつけた教師は、魔法兵器班に技術を売ろうと提案されたがワシが緘口令を敷いてやめさせた。

 理由としては、卒業後は彼が自分の技術をどう使おうが自由だが学園内に居る間は我々が生徒を守る必要がある。

 まだ子供である彼が大人たちの汚い策略にかからないとも言い切れない。戦術級の魔法を開発したことで変に目を付けられても大変だと言う理由で件の教師にも言い触らさないよう厳重注意をしておいた。

 と、そこでワシはもう一人の人物の名前が無い事に気づく。

 数年前に、首席で卒業しながらもかなりの問題児だった奴の息子でアルバ君だ。


「この名簿にアルバ・フォンテシウム・ランバートの名前が無いようじゃが?同パーティのヤツフサ君とフラム君が候補に挙がっているなら彼も入れるべきではないかね?」


 ワシの言葉に司会役の教師が何かを確認すると渋い顔をしながら答える。


「その生徒は……その……土属性でしょう?以前も、訓練場を滅茶苦茶に破壊したと言う報告も受けてます。そのような生徒を飛び級させたら他の生徒に示しが……」


 その言葉を聞きワシは、わざと聞こえるように大きくため息をつく。

 この世界では土属性は、不自然なくらい不遇な立ち位置にある。派手で強くてかっこいい魔法。それがこの世界で好かれている魔法だ。故にこの世界では炎属性が最も好かれている。

 が、ワシは全ての属性が使える故に分かるが土属性は、おそらくもっとも汎用性が高くそして中々強い魔法だと思っている。

 しかし、いくらワシがそれを唱えてもプライドの高い貴族連中はそれを認めようとしない。

 土属性は、かなり昔から不遇の扱いを受けており、もしそれが有用な属性だと認めれば自分たちの先祖や自分達が土属性の本質を見抜けなかった無能だという事になる。

 プライドだけなら高い貴族共は、当然それを良しとしないため土属性はダサくて有用性が無いという風潮を保ち続け、意図的に攻撃魔法分野の研究をせず建築や農業等、およそ貴族とは無関係の平和な分野でしか活用できないようにしている。

 王もこの状況は良くないと、何とか変えようとしているが如何に王と言えども、この問題は根が深いため中々上手く行っていない。


 そんな現状でありながら、アルバ君は土魔法の地位を向上させようと日々努力しているのを知っている。ワシは、そういうひたむきに頑張る生徒が大好きだ。

 故に、ついついアルバ君に肩入れしてしまう。まあ、ワシも人間なので多少の贔屓は大目に見て欲しいものだ。


「君、この学園の基本方針は何だったかね?」


「はい。えーと、実力主義……です。その生徒の出自、環境に関わらず才能があれば正当に評価します」


「アルバ君は、それに該当していると思うがどうかね?土属性にも関わらず決闘で勝利、先程の2人と同パーティで迷宮もかなりの速度で攻略していると聞いている。それに精霊とも契約しているそうじゃないか」


 ワシの言葉に教師は言い返せないようで言葉に詰まり、周りもざわついている。


「それに座学の方も優秀と聞いているぞ?あとは……確か魔力も9歳で有りながら大人の魔力量に比肩しうると聞いている。あの髪の長さは魔力の量が多すぎる証らしいとも聞いておるぞ」


 彼は記憶を失っていたが、おそらくあの世界に行ったのだろう。

 あの世界に行くには2つの方法がある。

 生死の境を彷徨って偶然辿り着くか、悟りを開き自力で辿り着くか……だ。

 前者の場合、あの世界から出るときには情報を漏らさないため記憶を失うようになっている。後者の場合は、そもそも情報を迂闊にばらす様な者はたどり着けないので記憶は失わない。

 ワシは後者で、あの世界で魔力を鍛え全属性を扱えるようになった。あの世界に行けばどんな者でも格段に成長できるのだ。

 そういう理由から、彼がこれからどういう風に育っていくのか非常に興味があるのだ。

 こんな所で無駄に不当な評価を受けさせるわけにはいかないと言うわけだ。


「あの生徒はおそらく……初等学部では納まらないと思うぞ?不当な評価をすると……」


 ワシは自分の立場を理解した上で教師を睨みつける。

 権力を笠に着るようなやり方は好かんのじゃが、こういう手合いには有効なので使わせてもらう。

 今までにも、その生徒の環境から不当な評価を受けていた生徒たちをこうやって救ってきたから、もはや慣れたものである。

 教師もそれを理解しているのか、もしくは解雇になるのが嫌だったのか諦めたような顔をし口を開く。


「……分かりました。アルバ・フォンテシウム・ランバートの飛び級を認めましょう」


 うむ、分かれば良いのだ。


 その後の会議でヤツフサ君は初等学部6年 フラム君とアルバ君は高等学部1年に飛び級と決まった。

 しかし、それを彼らに伝えたら大事な親友と一緒が良いという事で全員、初等学部6年という事になったのだった。

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