第32話

「聞いたぞ、アルバ。訓練場滅茶苦茶にしたんだってな」


 俺が自室に帰ってくると、ニヤニヤしながら話しかけてくる。

 今日の事なのに随分と噂が広がるのが早いものだ。


「ちょっと魔法の実験をしてまして、つい夢中になってしまったんですよ」


 まあ、そこでいちいち突っかかるのも大人げないので俺はさらりと答える。


「魔法の実験?どんなのをやってたんだ?」


「えーとですね……」


 実験、という言葉に反応したジョナンドが尋ねてくるので俺は電磁投射砲レールガンについて説明する。


「へー、雷にそんな使い道があったのか。ていうか、良く知ってるな」


「そうだね、僕たちも知らなかったのに」


「あはは、そこはまあ……こうしたらどうだろうっていう予想の元にやったら偶然、上手く行っただけですよ」


 ジョナンドとコーニールのツッコミに対し、まさか地球の知識ですと言うわけにも行かないので俺は笑いながら誤魔化す。


「凄かったんだよ!こう、ドーンといってバーンといってね!」


「アルディ、悪いがその説明じゃわかんねーよ」


 アルディが身振り手振りで電磁投射砲レールガンの説明をするが、ジョナンドは苦笑しながら首を横に振る。


「あ、そうだ。ランドリクさんに聞きたいことが有ったんですよ」


「……なんだ?」


「えっとですね、普通の地面を磁場に変える魔法ってありますか?」


「何?またなんかやんの?」


 アルディの説明を一生懸命理解しようとしていたジョナンドが話しかけてくる。


「ええまあ、電磁投射砲レールガンが上手く行ったので試したいことがあるんですよ」


「……そういう魔法はある。ただ、磁場の強さや広さによって魔力の消費は変わっていく」


 ふむ、やっぱりそういう魔法はあるのか。なら、明日の授業でエストレア先生に教えてもらんなきゃな。


「なあなあ、今度はどんな魔法を作るつもりなんだ?」


「それは内緒です。もし上手く行ったらランドリクさんやジョナンドさんにも教えますよ」


「お!ホントか?学園最後の年に良い魔法が覚えられそうだぜ」


 ジョナンドは俺の言葉を聞いて嬉しそうにする。そうか、今は4月だから今年で卒業なのか……

 俺のルームメイト達は3人とも年齢こそバラバラだが実は全員同学年らしい。部屋割りはあくまで年齢に重点を置いて振り分けているのでこういう事態になる事もあるという。

 来年は、俺以外が総取替という事になる。ちなみに、一応言っておくと俺は9月入学なのでまだ1年生だ。


 次の日、魔法の授業で俺は早速エストレア先生に尋ねてみることにする。


「あの、エストレア先生。地面を磁場に変える魔法を教えてもらいたいのですが……」


「あん?なんでまた」


「まあ、ちょっと試したいことがあるので……」


「また訓練場を滅茶苦茶にするのは勘弁してくれよ?学園長先生は、訓練場は魔法を試す場でもあるから、これくらいの無茶は許容範囲だって言ってたけど、土魔法をよく思わない教師共からお前のとこの生徒が~って嫌味言われてんだ」


「あ……それはすみません……」


 まさか、エストレア先生のとこにまでそんな被害が行っていると思わず俺は素直に頭を下げる。


「……まあ、その嫌味を言ってきたアホの股を蹴り上げてやったがな。私としては魔法は何でも試すべきだと思っているから好きにやっていいという考えだ」


 エストレア先生はそう言うと不敵に笑う。その台詞を聞いて謝罪の矛先がエストレア先生からその蹴り上げられた先生に変わったのは言うまでも無かった。



「さて、地面を磁場に変える魔法だが、本来これは高等学部で教えるような魔法なんだ」


「難しいんですか?」


 気を取り直し、俺はエストレア先生から磁場の魔法を教わっていた。


「いや、難しくは無いが地面の属性を変える魔法ってのは範囲が広い程魔力の消費量が多くなるんだ。それで魔力の少ない初等学部では教えられないってわけだ。まあ……お前に関しては、その年で大人と同等以下の魔力もあるし9歳とは思えないほど博識だ。それに精霊とも契約してるから普通に扱えると判断し教える」


 地面の属性は魔力消費がでかいのか……。なら、地面を泥にしたりとかも結構魔力を消費しそうだな。まあ、とりあえずは磁場が優先だ。


「魔法の名前は磁場領域マグネティック・フィールド。呪文の中に範囲や強さを指定して詠唱するんだ。もちろん、自分の限界を超える範囲は指定できない。それと一度発動したら解除するまでその地面の上にある存在全てがその対象になる。術者本人にも影響があるってわけだ」


 なるほど、例えば俺を中心に発動した場合、特に金属系の装備をしていたらモロに影響を受けるってわけか。

 まあ、今から俺がやろうとしてるのは俺を巻き込まないタイプだからとりあえず気にする必要はないな。


 その後、俺は磁場領域マグネティック・フィールドについて教わるのだった。

 エストレア先生は、さほど難しくないと言っていたが土魔法に慣れている奴にとっては難しくないと言うだけで、なんだかんだで本格的に習い始めて半年ちょいの俺には結構難しく、この日の迷宮攻略は俺抜きでやってもらうことにし魔法の習得に時間を費やした。

 下校の時間になったので寮へと帰ってからもランドリクさんにお願いして時間まで教えてもらいながら修練に励んだ。


 結果、まだ魔力は余分に消費してしまうが何とか形になった。

 そして翌日、俺は再びヤツフサとフラムを呼んで訓練場へと来ていた。昨日は来ていなかったが再び訓練場に訪れると、そこにはあの無残な姿は無く元通りになっていた。

 2日で、ここまで元通りになるとは流石魔法である。というか、おそらくは土魔法の使い手のおかげなのだろう。

 建築に関しては無敵を誇る土魔法が不遇なのは、やはり派手でかっこよくて強い魔法万歳という中二的思考のせいだろう。

 そんな不遇な立場から抜け出せるよう、一層努力しなければならない。


「ね、ねえ、アルバ。今度はどんな魔法を思いついたの?」


 前に怒られたのを引きずっているのか、ヤツフサはややオドオドとしている。


「そんな怯えなくても大丈夫ですよ。あの時は、加減を考えないでやってしまった結果ですから、今回は気を付ければいいんです。それに学園長先生も気にしなくて良いって言ってたじゃないですか」


「で、でも……」


「私はアルバ様に従いますわ。怒られるときは一緒ですわ!」


 渋るヤツフサに対し、フラムはそんな事を言うが怒られる前提というのは、如何なものだろうか。


「今回は予防策も取るので大丈夫ですよ。アルディ、お願い」


「わかったー」


 アルディに呼びかけると、ビシッと敬礼をして分厚い石の壁をいくつも出現させる。


「今回の魔法は理論上は、今回の広さだと電磁投射砲レールガンよりは威力は無いのですがこうやっておけばおそらく大丈夫でしょう」


 電磁投射砲レールガンより威力は無いと聞いて、少し安心したのかヤツフサは口を開く。


「アルバが大丈夫だって言うなら信じるよ……。それで、今回はどんなのなの?」


「ヤツフサさんが電磁力を利用した電磁投射砲レールガンなら、僕は磁場を利用した超伝導砲リニアガンって言った所でしょうかね」


 超伝導砲リニアガンとは、簡単に言ってしまえばリニアモーターカーの原理を応用したものである。車両を弾丸に置き換えてもらうと分かるかもしれない。

 リニアガンは、レールガンと違って大量の電力を使わないという利点があるが初速度が遅いのだ。 長いレールの上を走らせて徐々に速度をあげるものである。

 もっとも、地球にあるリニアガンは架空の物であり、まだ正式に実用化されていなかったはずなので俺も詳しい事は分からない。

 なので、あくまで魔法でそれっぽいものを再現しようと言うものだ。

 まあ、電磁投射砲レールガンも魔法部分に頼った部分が大きいしこちらも行けるだろう。

 俺は雷が使えないので電磁投射砲レールガンは無理だが磁場を操れるなら超伝導砲リニアガンの方は可能だと思い、開発することにしたのだ。


「まず僕だけでやってみますが、もしかしたらヤツフサさんの力も借りることになるかもしれないですが、その時はよろしくお願いします」


 うろ覚えだが、確かリニアモーターカーは電磁力も必要だった気がする。が、もう何年も前に見た情報なので知識が大分穴抜けで間違って覚えている部分もあるかもしれない。まずは、俺だけで出来るか試してみて次はヤツフサの協力を得て……という感じだ。

 電磁投射砲レールガン同様、使えたらいいなくらいの考えなので特に気にせず俺は呪文を唱える。


磁場領域マグネティック・フィールド!」


 俺は地面に手を付き、石壁に向かうよう直線の磁場を作り出し、その両脇に直線に合わせた石壁を作り出しそこにも磁場を作り出す。

 試しに手を軽く近づけると引っ張られるような押し返されるような不思議な感覚を感じる。

 俺は上手く行ったことに内心、喜びつつ続いて磁石の弾丸を生成する。

 ヤツフサの時は、わざわざ装備を集めて弾丸に変えてたが、よく考えたら鉄も一応土魔法で生成できることに気づいたので今回は魔法で作り出した。

 

 磁石の弾丸を砲台に設置し弾丸を回転させる。

 最初はゆっくりと回転していた弾丸は、段々と速度を上げて回転していく。

 俺は頃合いを見て自身の右手の籠手に弾丸が反発する磁場を作り出し、拳を握ると矢を引くように腕を引いて弾丸を思いっきり殴りつける。

 一瞬、バチリと静電気の様なスパークが弾と籠手の間に走ったかと思うと弾丸は、そのまま勢いよく発射され5枚程あった厚さ50㎝の石の壁を突き破り結界にぶつかるとそのまま停止する。


 今回は、訓練場の端から端だったがそれでこの威力。もしこれがもっと距離が伸びれば、威力はもっと上がるだろう。

 とりあえず、超伝導砲リニアガンは成功だ。電磁投射砲レールガンもそうだが、砲台を用意して発射に時間がかかる為、時間の短縮がこれからの課題だろう。


「とりあえず、こんなものですね。ってどうしました?そんな顔をして」


 ヤツフサ達の方を振り向くと3人は俺の頭を見ながらポカンと口を開けている。


「あ、あの……アルバ様……頭が……」


 頭? 俺はフラムの言葉に自分の頭を触ってみると、髪の毛が某戦闘民族の様に逆立っていた。

 後ろの方も確認してみるとポニーテールが完全に逆立っていて傍から見るとおそらくシュールな光景になっているだろう。


「あはは、アルバ変な頭ー!」


 アルディは、そんな俺の頭が面白いのか遠慮せずに笑い転げている。


「さっき、ア、アルバが弾を殴った時に雷みたいなのが出たんだけど ブフッ そ、そっから髪の毛が……凄い事にななってたんだ」


 ヤツフサが、震えながら説明してくる。別にこれはヤツフサが俺を怖がって言っているわけではなく、単に笑いをこらえているのだ。

 いっそアルディの様に遠慮なく笑って貰った方が楽なのだが、ヤツフサの性格上それは難しいだろう。


 俺の髪はおそらく、弾を殴りつけた時の静電気……雷?まあ、どっちか分からないがそれが原因だろう。

 小学校の時に、こすった下敷きを頭に付けたら髪が逆立つだろう?あれを想像すると分かると思う。

 今、特に体に異変は無いから大丈夫だと思うが……


「いつ治るんですかね、これ」


 俺は、バリっバリに逆立った髪の毛を触りながらつぶやくのだった。

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