第26話
「これが僕の新しい魔法具……」
「かっこいいねー!ピカピカしてるよ!」
銀色に輝く2つの籠手に俺とアルディが見惚れつつ、手を伸ばし装備してみると違和感なくぴったりと収まる。
その籠手は手のひらの部分が露出しており手の甲までは金属で覆っている感じだった。
「どうかな?」
「はい!とてもしっくりきます。でも……本当に良かったんですか?こんな高価な物……」
感想を聞いてくるハインさんに答えるが、それと同時に高価な物を貰ったことで好意に甘えると言っていたがそれを撤回しそうなくらい申し訳なくなる。
俺が今装備しているのは、ファンタジーでは定番で魔法と相性が良いと言うみんな大好きミスリル鉱石で出来ている。
あれから、魔法具について考えていて両手が空いて防御にも使えそうなものという条件で考えたところ、試行錯誤の末籠手に落ち着いた。
見た目も良い感じに無骨でカッコいいし近接では攻撃にも使える。ただ、俺がハインさんに頼んだのは鋼製の籠手だったのだが、恩人にそれは申し訳ないと言ってハインさんが気を利かせてミスリルにしてくれたのだ。
挙句の果てに、格安になればいいくらいの考えだったのにハインさんは無料で良いと申し出たのだ。ハインさんまじ紳士。
「構わないよ。こちらとしては、まだ恩返しがしたりないくらいだよ」
「い、いえ!これだけで充分ですよ!」
これ以上、恩返しをされたら貴族歴9年の癖に未だに貧乏性が抜けない俺にはキツイものがある。
「そうかい?まあ、これからアルバ君は成長して籠手もきつくなると思うからその都度、調整くらいはさせてもらうよ?」
それくらいなら、なんとか素直に受けれるな。
「それじゃ、私はもう行くよ。何か不都合があったらまた連絡するといい」
「はい!ありがとうございました!」
ハインさんは、手を振りながら学園から去っていく。基本、学園は関係者以外立ち入り禁止だが魔法具の納入などの関係で商人は許可されているのだ。
「良かったですわね、アルバ様」
俺の隣に居たフラムが自分の事の様に嬉しそうにしながら話しかけてくる。最初、フラムにハインさんに連絡を取ってもらうよう頼みに行ったら、まるで何かに憑りつかれたようにげっそりとしていたが2週間もすれば、今の様にすっかりと元気になっていた。
「はい、フラムのおかげですよ。ありがとうございます」
「そんな!私は、アルバ様のお役に立てるだけで幸せですわ!何せ、命の恩人ですもの」
フラムは、本当にそれが幸せだと言うような表情を浮かべて興奮しながら話す。
「でも、あんまり僕にばかり構ってても大変じゃないですか?」
いくら俺が結果的に命の恩人になったからといって、そのせいでフラムが俺に束縛されるような形になるのは、あまり好ましくない。
フラムは同年代では間違いなく可愛い部類だし、俺に構わなければさぞモテる事だろう。
「そんな事ないですわよ?むしろ、もっとお役に立ちたいくらいですわ。たとえばめいきゅ……」
「おーい、アルバー!」
フラムが何か言いかけたところで、ヤツフサが向こうから手を振りながらやってくる。
「あ、ヤツフサさん。用事は終わったんですか?」
本当は、ヤツフサも俺が魔法具を受け取るところに立ち会いたかったそうなのだが、用事があるという事で遅れて来たのだ。
「うん、さっき終わって急いで来たんだ。ってフラムさん、どうしたの?」
ヤツフサのセリフにフラムを見てみると何故か不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「別に、何でもありませんわ」
何でもないってことは無いだろうに……。ふと俺はイタズラ心が芽生え、フラムの膨らんでいる頬を指でつつく。
これが前世の俺なら通報ものだが、現在の見た目は同い年であるので合法だ。これくらいの茶目っ気は許してほしい。
「ぷひゅっ!? な、何するんですの!」
口から空気を吐き出したフラムはプンスカと怒る。
「あはは、すみません」
俺は、ポカポカと軽く叩いてくるフラムに笑いながら謝る。なぜか、アルディもフラムと一緒になって叩いていたのでやめさせた。
「で、それが例の魔法具?」
ひと段落つくとヤツフサが俺の腕を見ながら尋ねてくる。
「はい、本当は鋼とかで良かったんですがフラムさんのお父上が気を利かせてくれまして、こんな高価な物をいただいたんですよ」
「へー、優しい人なんだね。フラムさんのお父さんって」
「当然ですわ!」
ヤツフサの感心したようなセリフにフラムは、ムフーと鼻息を荒くしながらドヤ顔を披露する。
「それにしてもミスリル鉱石かー。確か、魔法をよく通すんだっけ?」
「そうですわね。魔石とも相性が良いので魔法具としては最上級のものですわ。これで、アルバ様も益々強くなりますわよ」
フラムの言葉を鵜呑みにするわけではないが、確かにこの籠手は不思議な魅力も持っていて強くなりそうな気はする。
「ヤツフサさん、軽く戦ってみませんか?これの性能も知りたいですし、半年後の迷宮解禁に備えて実力も知りたいので」
「え?戦うの?良いけど……アルバは強いからなあ」
2週間前の決闘の結果を知ってるからかヤツフサは不安そうな顔をする。
「決闘で勝てたのは、まだお互いに魔法についてちゃんと学んで無かったから運ですよ運。それにヤツフサさんの戦い方も知りたいですし」
果たして戦うときは、狼形態になるのか。それが最重要案件である。
「フラムさんも一緒に来ますか?」
なにやら、一緒に行きたそうな顔をしていたフラムに声を掛けるとフラムはパッと顔を輝かせる。
「良いんですの?」
「はい、もちろんですよ。フラムさんには僕たちのパーティに入ってほしいですし」
「……え?」
「あ、嫌でしたか?先生に聞いたら同じ学部ならパーティを組めると聞いたんですが……フラムさんとは、気心が知れた仲ですし……あ、そうか。もうパーティ組んでますよね」
「い、いいえ!嫌ではありませんわ!むしろ私の方からお願いしますわ!」
フラムは、俺が若干ひくくらいの勢いで鼻息を荒くしながらずいずい近づいてくる。
「で、でもフラムさんのパーティは……」
「それは……事情を話しますわ!幸い、あと半年ありますもの。それまでには私の代わりも見つかりますわ!」
フラムは、俺が土属性でも馬鹿にしないし2年飛び級するくらいには優秀だ。なので、戦力に欲しいなと思ってダメ元で聞いてみたが、まさかこんな食いつきが良いとは思わなかった。
「え……と、じゃ、じゃあ……半年後よろしくお願いしますね?」
半ば、フラムの勢いに押されつつも俺は喋る。
「ええ!ええ!こちらこそよろしくお願いしますわ!ひゃっほー!」
女の子としてどうなんだと言いたくなるような喜び方をするフラムに少しだけ呆れたように見ていると我に返ったフラムは真っ赤になりながらゴホンと咳払いをする。
「さて、行きますわよ」
何でもなかったかのように取り繕いながらフラムは歩き出す。俺とアルディ、ヤツフサはお互いに顔を見合わせながらフラムについて行った。
俺達が来たのは学園に複数あるうちの1つの訓練場だ。ここにも特殊な結界が張ってありどんなに強力な魔法を使っても平気と言う場所だ。
便利すぎだろ魔法。
「それでは、ヤツフサさん。本気で来てくださいね?怪我しても文句は言いませんから」
俺は拳を作り両手でガンガンと軽く叩きながら構える。籠手装備して両手でガンガン叩くのって熟練者っぽくて一度やってみたかったんだよね。ちなみに、今回アルディはフラムと一緒に見学である。
アルディばっかりに頼っているといざというときに困ると言うのもあるが、俺の素の力でどこまで戦えるかというのにも興味があるからだ。
「ていうか、俺が勝てる気配がまるでしないんだよね」
ヤツフサは、俺の言葉にポリポリと頬を掻きながら困ったように言う。
うーん、ヤツフサは少し優しすぎるんだよなあ。全力でって言うのは無理な話かもしれないな。
「まあ、これはあくまで訓練なので気軽に行きましょうよ。とりあえず、へ、変身とかすればいいんじゃないんでしょうか?」
俺は、極々自然に変身を進める。
「え?ああ、うんそうだね。じゃあ、ちょっと待っててね。……あ、変身すると怖いかもしれないけど嫌いにならないでね」
俺の完全な策略に気づかないヤツフサは、若干不安そうな顔をしながらも変身をするためか四つん這いになる。
「んんーーーーーー!」
ヤツフサが力を入れると顔や手に黒い毛が生えて来て顔の形も獣になってくる。
「アオーーーーーーン!」
やがて数秒の後、2足歩行の獣になるとヤツフサは遠吠えを上げる。
「あ……あ……」
口から見える凶悪な白い牙、制服の間から見える闇色の毛。そして獲物を逃がさないとばかりに鋭い眼光の黄色い瞳。そのどれもが完全な人外だと証明しており、その姿に俺は声が出ないでいた。
「や、やっぱり怖いよね……き、嫌いになっちゃった?」
俺の様子を見て、ヤツフサは耳や尻尾をシュンとさせる。
「も……」
俺は、つっかえつっかえになりながらも震える体を抑えつつ言葉を絞り出そうとする。落ち着け、俺の体!
「モフモフ様じゃーーーーーーー!」
気づけば、俺は我を忘れてヤツフサの体に突撃しモッフモフな黒い毛皮を堪能していたのだった。
恐ろしきモフモフの魔力!
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