第25話

「うーん……」


 決闘の翌日、昼休みに俺は食堂で飯を食いながら悩む。テーブルの上ではアルディが1切れのパンをチビチビ食べている。アルディ曰く、物を食べることで魔力が回復するとのことだ。

 まあ、それは良いとして食った物が一体どこに行ってるのかが不思議である。


「どうしたの?」


 悩みながらアルディの生態について考えたりと脱線していると目の前に座っているヤツフサが首を傾げつつ尋ねてくる。

 ちなみに昨日、ヤツフサやフラム等お世話になった人に結果を伝えたら、まるで自分の事の様に喜んでくれた。


「えっとですね。大した事じゃないんですがちょっと魔法具についてどういう形にするか考えてたんですよ」


「え?でも、アルバの魔法具ってその杖じゃないの?」


 ヤツフサは、不思議そうな顔をしながら俺の隣に立てかけてある杖を見る。確かにこれは俺の魔法具なのだが、あくまでこれは仮で作ったものだ。昨日の戦いでも結局あんまり使わず、両手を地面について戦っていた。

 理由としては直接地面に魔力を流した方が魔法を使う際に効率がいいからだ。ただ、魔法具を使用していなかったので魔力の増幅は無かったが。


 だから俺は、杖では無く何か手に身に着けられる魔法具をと考えていたのだ。最初は腕輪も考えたが、どうせなら他にない魔法具が良い。


「アルバ様は、どういう魔法具を考えているんですの?」


 決闘が決まった日からさり気なく俺の隣をキープして食事をとっているフラムが話しかけてくる。


「とりあえず、両手は自由になるようにしたいんですよね。かといって腕輪は普通すぎるから珍しいタイプが良いんですよ」


 まあ、オンリーワン感を出したいと言うのは俺の中の中二病のせいなのだが、それを言う必要はない。男は永遠の中二病なのだ。異論は認める。


「それなら……指輪とかどうですの?ただ、面積が小さいので杖より格段に効果は落ちますが」


 指輪かー。前世でも俺は指輪を付けたことが無い。なんか指に違和感があるのが嫌なのだ。腕時計はゴツイのが好きで付けてたがな。


「そういえば、フラムはどういう魔法具を使っているんですか?」


 この1ヵ月、ブラハリーが炎属性という事もありフラムが手伝ってくれていたが、魔法具を使うと実力差が出る為魔法具なしで訓練していたので実は、フラムの魔法具をまだ知らない。


「私のはこれですわ」


 そう言って、フラムが出したのは2丁の拳銃だった。拳銃はフリントロック式のリボルバー拳銃だった。リボルバー拳銃自体は確か1800年代の最初に原型が開発されているはずだ。

 フリントロックというのは、簡単に言えば撃鉄の先にフリント……つまり火打石がついており引き金を引くことにより撃鉄から火花が放たれ火皿と呼ばれる場所に火花が閉じ込められてその火花は弾薬に引火し発射されると言う感じだ。

 本当はもっと、工程があるのだが興味ない人にはつまらないので省略する。

 俺は、刀剣類も好きだが実はこういう銃も好きだったりする。なんというかフォルムにロマンを感じるのだ。

 この世界は中世に近いながらもこういう技術は発達している。武器好きの俺としては喜ばしい限りだ。


「これの弾丸が特殊でして弾丸に魔力を込めることで詠唱無しで魔法の弾を放つことが出来るんですわ。まあ、詠唱ありの魔法よりは流石に劣りますが……」


 ふむ、いわゆる魔砲って所だろうか。武器商人らしい。


「ただ迷宮では狭い空間もありますから、そういう状況ではかなり使えるんですのよ」


「「迷宮?」」


 迷宮と言う言葉に俺とヤツフサが首を傾げる。


「ああ、そういえば1年の時は説明されないのでしたわね。迷宮と言うのはこの学園内にある学園迷宮と呼ばれるダンジョンの事ですの。下級ダンジョン、中級ダンジョン、上級ダンジョンがありましてランクが上がるほど階層が増えて敵も強くなりますの」


 へー、そんなのもあるのか。


「ダンジョン自体は、学園用の迷宮ですので死ぬことはありませんがもちろん怪我はしますわ。瀕死以上のダメージを受けた場合は失敗とみなされ迷宮の入り口に戻されますわ」


 闘技場の結界と同じような物か。


「基本的に迷宮は成績の目安とされていますわ。迷宮内では判断力や統率力、応用力などが求められるので最適なんですわ」


「踏破って具体的にどうすれば踏破になるんですか?」


「最下層の敵を倒せば踏破ですわね。ただ、パーティは基本5人までで他のパーティが挑戦中は手を出すことが出来ませんわ。なので数で押すという強引な手段は使えませんわ。まあ、詳しい説明は実際に迷宮が解禁になったときにされると思いますわ」


 ふむ、迷宮か……。恐らくは、フラムの言っていた要素も鍛えられると思うが魔法学園を卒業して冒険者になる生徒の為のものでもあるのだろう。実際に外には魔物が居るので人間とは違う戦い方に若い内から慣れた方が良いと言うのはあるだろう。


「迷宮かー。ねえ、アルバ。もし、解禁になったら怖いし一緒に行かない?」


 ヤツフサは、もぐもぐと飯を食べながらそんな事を提案してくる。


「僕は構いませんよ。他に近い年で親しいものが居ませんし」


 昨日の決闘の結果は、クラスの間にはとっくに広まっているのだが、まだ魔法の習い始めで実力も拮抗していたから、偶然勝てたという憶測が広まっているらしく、特に俺に……というか土魔法の地位は向上していないので大して変わっていない。

 強いて言うならば、決闘終了からブラハリーがやたらこっちをチラチラ見てるくらいか。

 おそらく、格下と侮っていた土に負けて文句を言いたいが契約のせいで言えないため、遠くから見るしかないという所だろう。


「良かった!アルバが一緒なら心強いよ!あと3人集めなきゃね」


「それもですが、僕の魔法具も考えないといけないですね。そういえば解禁っていつごろなんですか?」


「大体半年くらいしたら解禁になりますわ。ただし、怪我は医務室に行けば治療してもらえますのでどんな怪我をしても学園に責任は無く自己責任という形になりますわ」


 半年か。まあ、そんだけあれば流石に魔法具も思いつくだろう。後は残りの3人も考えなければ。

 俺は後衛でヤツフサは前衛。バランス的に前衛と後衛をもう1人ずつといった感じか。最後の1人は回復職が欲しい所だな。


「そういえば、同じ学部なら学年が違ってもパーティが組めますわねー」


 フラムが隣でなんか小声で独り言を言っているが今は、ヤツフサと半年後の迷宮パーティについて相談しているのでフラムには悪いがよく聞こえなかったし無視する。


「とりあえず前衛はヤツフサさんでいけますよね?」


「そうだね。俺の種族は前衛で戦うのが得意だから任せてもらっていいよ」


「そうするとあとはもう1人か2人前衛で後衛にももう1人、回復役も欲しい所ですね」


「銃は詠唱を必要としないから中~遠距離で前衛を補助しつつ後衛でも戦えますわね。しかも私は一応飛び級するほど実力もありますし」


 食事中にも関わらず、フラムが見せつけるように銃を掃除し始めるが構ってる暇はないため、やはりスルーする。


「あー、そうだねー。やっぱり頑丈そうな人とかいいかなあ?魔法も火力が高い人がいいよね」


 ヤツフサも俺の考えに賛同してくれる。


「やはり火力が高いと言えば炎属性ですわね!派手な魔法で敵をバッタバッタと倒しますわ!」


「……フラム」


「なんですの!?あ、パーティのお誘いでしたら……」


「ちょっと今、ヤツフサさんと相談してるから静かにしてくれます?元気があるのは良い事ですが……もし、何か用事があるなら後で聞きますので」


「え?あ、はい……」


 フラムは、何故か目を輝かせてこちらを見るが俺のセリフを聞くと目に見えて落胆してモソモソと食事を再開する。

 よし、これで静かになったと思いヤツフサの方に顔を戻すとヤツフサが何故か冷めた視線でこちらを見ていた。


「? どうしました?」


「いや……意外とアルバって鈍いんだなーって思って」


 空気の読める男略してKY男と呼ばれた俺の何処が鈍いと言うのだろうか?

 一応、何処が鈍いのか聞いてみるが、分からないならいいよと誤魔化されてしまう。


「アルバって、女心がわからないんだねー」


 アルディにも何故かそんな事を言われてしまう。というか、アルディよ。お前はそもそも性別ないだろ。見た目こそ女の子だが。

 

 まあ、分からないのは考えても分からないのでとりあえず、そのことは無視して微妙な空気になりつつも話を続ける。


 話し合いの結果、迷宮解禁までにとりあえず俺の魔法具の決定と目ぼしいパーティ要員を探すという事に決まった。

 話し合いが終わり、丁度飯も食べ終わったのでまだ食事中のフラムに声を掛けたがフラムは何故か上の空だったので、そのままにし俺とアルディ、ヤツフサはその場を後にした。

 

 

 どういうわけか、その後ヤツフサとアルディの視線は益々冷たくなった。まったくもって意味が分からん。

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