第5話
「母様、粘土ってありますか?」
土魔法の鍛錬をこなして数日、ある日、俺は食事中に母さんに尋ねる。
「粘土?どうしてまた?」
「想像力を鍛えるために粘土で色々な物を造ろうかと思いまして……」
俺は、質問してくる母さんにそう答える。
実際、粘土で色々な物を造れば自然と想像力……というかイメージ力が鍛えられる。
というのもあるが、そろそろ俺の趣味を再開したいと言うのが本音でもある。
趣味と言うのは、いわゆるフィギュア制作だ。
石粉粘土と呼ばれる石を粒の均等な粉状に砕き、接着剤など薬品を混ぜて粘土状にしたもので主に作ったりする。
性質的には紙粘土に近いものがある。
欲を言えば石粉粘土が欲しい所だがこの世界にあるか分からないし、あくまで趣味だから最悪、普通の粘土でも構わないと思い母さんに聞いてみたのだ。
「こっちでは売ってないわねえ。王都の美術関係の店ならあるかもしれないけど……欲しいの?」
「はい。少しでも想像力を鍛えて土魔法が上手くなりたいんです」
ちなみに、なんで敬語かと言うと最近始まった勉強の影響でもある。
貴族たるもの礼儀あれと礼儀作法を最近習い始めて良い子ちゃんを演じてたのもあり敬語で喋るのが癖になったのだ。
母さんは、俺の言葉を聞いた後しばし思案すると口を開く。
「それじゃあ、明日一緒に王都に買いに行きましょうか。私も久しぶりに王都を見たかったしね」
「本当ですか!?」
俺は、驚いて思わず叫んでしまう。
俺が入学予定の魔術学園のある王都。
父であるメルクリオから王都は素晴らしい所だと散々聞かされていて来年が待ち遠しかったくらいだ。
王都には人間の他にも猫の獣人や鳥人間、エルフなど様々な種族が居るらしい。
異種族と言えばファンタジーの醍醐味の一つなので楽しみにならない方が難しいと言うものだ。
俺は明日の王都を楽しみにしつつ夕食を食べ終えるといつもより早く就寝した。
・
・
・
・
「はぁー……」
翌日、母さんに連れられて転移装置で王都まで来ると俺はその景色に圧倒される。
まず、最初に目に入るのはそれこそ漫画やアニメでしか見たことの無いような立派な西洋の城。そして眼前に広がる城下町では、様々な人種でごった返していた。
頭から角を生やした鬼っぽい人や、頭が牛で体が人間のミノタウロスっぽい人。そして猫耳!リアル猫耳も居た。
ただし、本体はムキムキのおっさんという誰得仕様だったが。
魔法がある時点でファンタジーだと実感していたが、いざ色んな種族を見ると改めてここが地球とは別の世界だと実感する。
「ほらほら、アルバ。珍しいのは分かるけどはしゃぎすぎて迷子にならないようにね」
転送装置で手続きを済ませた母さんが、護衛と一緒にやってくる。
王都は、警備が整っているとはいえ物取りなどの物騒な連中が居る為、護衛を連れてくる必要があるのだ。
ただし、あんまり連れすぎても変に目立ってしまうので屋敷でも腕利きの護衛を2人ほどだ。
母から聞いた話では、魔法抜きで考えれば結構強いとのこと。
その後、俺は母と護衛2人の4人で美術関係の品を扱っている店に向かった。
貴族御用達の店なのか店構えからして高級感があふれていた。
ドアを開けて店内に入ると、そこかしこに地球でも見たことがある様な美術用品がひしめいていた。
店内には、他にも客がおり恰幅の良いおっさんが店員から説明を聞いてたり、いかにも画家と言った感じの男が繁々と商品を眺めていたりしていた。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
俺が店内を見渡していると、丸眼鏡をかけた人当たりのよさそうな若い男が話しかけてくる。
「この子の為に粘土が欲しいのだけれど扱っているかしら?」
「もちろんでございます。粘土はこちらになります」
そう言って案内された先には、何種類かの粘土とパテや彫刻刀などの道具も置いてあった。
好きなのを選びなさいと母さんに促され、俺は売り場の方へ歩いていき、何種類かの粘土を観察する。
粘土は袋に入っており、様々な大きさのものがある。
袋から出さなければ触って確かめても良いと言われたので俺は手に持って粘土を吟味する。
何個か目の粘土を手にしたとき、ふと見覚えのある粘土だと言うことに気づく。
見た目は白い粘土なのだがどことなく普通の粘土と違う。
「それは、石を均等に砕いて接着効果のある特殊な実を混ぜて作った粘土なんですよ。彫刻家なんかが重宝する粘土ですね」
まさかとは思ったが、店員の説明を聞いて確信した。
俺の欲しかった石粉粘土そのものだ。
まさか、この世界にあるとは思わなかった。まあ、細かい材料や製法は違うだろうがそれでもこれは石粉粘土に限りなく近い物だろう。
値段を見ると、この世界での相場は分からないが地球の感覚で見ると少々高いように思えた。
ちなみに、この世界の通貨の単位はリラ 今までの経験則から考えて1円=1リラと考えていいだろう。
ついでに補足すると、この世界では造幣技術もあり普通に紙幣も存在する。
なのでファンタジーにありがちな金貨ジャラジャラと言うことも無い。
「それが欲しいの?」
俺が値段を見て唸っていると母さんが近づいてきて尋ねてくる。
「はい……だけど少し高い?ですよね」
俺は相場に自信が無かったので少し疑問形で尋ねる。
「全く……子供がそんな遠慮をするもんじゃないのよ?それに貴方の魔法がこれで上達するなら安いものだわ。他にも欲しい物や必要な物があったら遠慮なく言いなさい」
母さんは、自分の胸をドンとたたき任せなさいと言わんばかりの笑みを浮かべる。
それならばと、俺は素直に好意を受け取る事にし石粉粘土と練習用の普通の粘土数点。その他、パテや彫刻刀、色を塗るのは絵具しかなかったので絵具と絵筆などの絵画セットを選ぶ。
値段は、怖かったので確認しなかったが母さんは普通に支払いをしていたので我が家にとっては大した金額じゃなかったのだろう。流石は貴族である。
その後、母さんの買い物に付き合いつつ高級そうな料理店で昼食をとりしばらく王都を見学した。
途中、例の魔術学園を外からだが見学したが、王都立だけあってかなりデカく一望しただけでは全貌を見ることはできなかった。
基本、関係者か許可をもらったものしか入れないそうなので中は見れなかったがそれは来年の楽しみにとっておくことにする。
魔術学園を見学した後は、日も沈みかけてたので帰る事にした。
家に帰ると父さんが帰って来てて、王都に行ったという話をしたら一緒に行きたかったと子供みたいに駄々をこねてたのはまた別の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます