第6話

王都で粘土を買ってきた翌日、俺は早速普通の粘土の方で練習をする。

この世界の粘土も地球のと大差なく、いたって普通の粘土だった。

俺は、とくに目的無く適当に犬や猫などをデフォルメした形にこねたりと勘を取り戻すべく練習する。

やはり5年間のブランクがあるというのもあるが前の体と違って今の体は小さく、手も当然小さいので細かい作業は中々難しい。

悪戦苦闘しつつ、なんとかある程度の勘を取り戻し、もう少しフィギュアに近いものを造ろうと考えるが、そこではたと気づく。


「そういえば、この世界ってネット……ていうかパソコンねーじゃん」


地球に居た時は、俺はオリジナルは作らず既存のアニメのヒロインなんかをネットで拾った画像を元に作っていたのだ。

この世界の文明がある程度進んでいるとはいえ、流石にパソコンは無い。

一瞬、自作するかとも考えたがそもそも1台だけあっても仕方ないし、材料があるかどうかも分からない。それに、よく考えたら俺はパソコンを自作できなかった。

せめて、何かモデルになるような写真があれば別だがカメラも無い……


「……いや、待てよ。確かカメラ自体は結構昔から無かったか……?」

 

しかも、この世界では少なくとも造幣技術があるからカメラくらいだったらあるかもしれない。

俺はダメ元で母さんの元へと向かう。

母さんは、王都から帰ってきている父さんと談笑中だった。


「お、アルバ!なんか用か?」


俺の存在に気づいた父さんが、爽やかな笑みを浮かべる。

これが身内じゃなければイケメン死ねと妬んでいたくらいにはイケメンだ。

まあ、美男美女夫婦のおかげで俺も美少年と言っても差支えないくらいにはイケメンだったがな。


いつだったか、自分の顔を見た時は、あやうくナルシストになりそうだったぜ。

両親と同じ赤い髪に中性的な顔立ち。髪を伸ばして女装すれば女の子と言っても違和感がないくらいだった。

前世では、少し甘めに採点して中の下くらいの顔だったので今の両親にはマジ感謝である。

話が少しそれたが、そんなイケメンな父さんに話しかけられ俺は笑顔で答える。


「はい!ねえ、父様。カメラって無いですか?」


「カメラ?」


父さんは、俺の言葉に頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。


「これくらいの大きさでボタンを押すと一枚の精巧な絵が出てくる奴なんですけど……」


説明ベタなりに俺は分かりやすく説明する。

こういう、普段当たり前のように使ってたやつをいざ、異文化で説明しようとすると案外言葉が出ないものだな。


父さんと母さんは、俺の説明にしばし思案し思い当る事があったのかポンと手を叩く。


「ああ、魔導射影機の事か?もしかして」


なんだか、某ホラーゲームで幽霊を撃退しそうな名前である。

なんで日本風の名前かは分からないが、おそらく本来は違う名前なのだろうが、俺の脳が分かりやすく翻訳しているのかもしれない。

父さんが、しばらく席をはずしていたかと思うとポラロイドカメラのような物を持ってくる。


「多分、アルバの言っているのはこれの事じゃないか?この穴から覗きながら保存したい風景を視野に抑えてこのボタンを押すと、その風景を切り取ったかのような絵が描かれた紙が出てくるんだ」


そう言って父さんは、カメラのようなものを構えて俺を見ながらボタンを押す。

カシャリとシャッター音にも似た音がした後、カメラから写真の様な物が出て来て父さんがそれを渡してくる。

渡されたものを見ると、さすがに地球のカメラよりも鮮明度は劣るがそこには、阿呆面した俺の顔が写っていた。


「久々に使ったがまだ動くみたいで良かった良かった」


父さんの話では、この世界では写真を撮ると言う習慣が無くこのカメラもとある変わり者で有名な発明家が作ったらしく世界に数台しかないと言う。

ここで初耳だったのだが、父さんはそういう変わり種な発明品などに目が無いらしく、カメラも昔オークションで競り落としたらしい。


「買ったはいいが、眺めるだけで満足してしまってな。ただのアンティークになっちゃってたよ。それにしてもよくこれの事を知ってたな」


「え?えーと、そ、そう!粘土で誰かをモデルにして作りたかったんですが流石にそれだけの為に誰かを引き留めるわけにはいかないので何か形として残せるものが無いかと思いまして」


我ながら中々、無理矢理な言い訳である。

そもそも、俺はそんなに頭の回転が良い方じゃないので機転とかを期待されても困るのだ。

だが、お人好しな我が両親は、それを疑いも無くあっさり信じる。


「なるほど、そういう理由だったのか。アルバは優しいな」


「ふふ、きっと貴方に似たのね」


「よせよ、照れるじゃないか」


父さんと母さんは、目の前に俺が居るにも関わらずリア充っぷりを発揮してイチャイチャしくさっている。

自分の親のいちゃつきを見るのは何とも複雑な気分だ。


「あ、すまん。アルバ、お前を忘れていたわけじゃないぞ!」


俺の視線に気づいた父さんはゴホンと咳払いをすると取り繕うような笑みを浮かべる。まあ、そういう事にしておいてやろう。



「えー……と、そうだ!お前にこれをやろう!」


父さんは先程の事を誤魔化そうとキョロキョロし魔導射影機に目を留めると笑顔でそれを渡してくる。


「え?いいんですか?」


「ああ、ぶっちゃけ父さんもこれの事を忘れてたくらいだしな。コレクションとして置かれてるよりは有効に活用してもらった方がこいつも喜ぶだろう。父さんからのプレゼントだ」


借りれればいいやと思っていただけにこれは素直に嬉しい。

これがあれば、色んな物を作れるようになるはずだ。

ただ、モデルに関しては自分で用意しなくてはいけないが。


その後、父さんに魔導射影機についての説明を聞く。

名前の通り、これは使用者の魔力を動力としていて写真を撮った際には、魔力を写真に変換して出力するらしい。

話を聞くだけなら、物凄い技術だと思うのだがなにぶん、写真の習慣が無いと言うのと、発明者が変人という事もありマニアックな代物という価値しかないらしい。

実際、父さんも技術に関しては特に気にしてなく、凄いなあ程度にしか認識していなかったようだ。

が、俺はこれの価値がよくわかる為、大事に扱おうと決めた。

俺の魔力が尽きない限りフィルムは必要ないと言うのはかなり有りがたい。

俺は早速、カメラで父さんと母さんを色んな角度から撮る。

最初のモデルは、父さんと母さんにしようと思ったからだ。

何枚か写真を撮ると俺は二人に礼を言い、早速自室に戻り制作を開始する。


何かポーズを付けるなら追加で工程が必要になるが今回はリハビリも兼ねてるのでシンプルに立っているだけのポーズにする。

まずは石粉粘土で人型にして、写真を見つつ彫刻刀などで細かい調整をしていく。

俺も趣味で作っているだけなので自己流の部分もある為、細かい作業工程の説明は省かせてもらう。

久しぶりの本格的なフィギュア作りに俺は悪戦苦闘しつつ時間を忘れ、没頭する。

石粉粘土は紙粘土と同様、空気に触れると硬化してしまうのが特徴だ。

そこから、粘土を足したりして微調整などを繰り返すのだ。

とりあえず、基本の形が出来たところで夕飯の時間になったので、俺は飯を食べ寝る前まで作業を続けた。

次の日は、子犬のような目で一緒に遊ぼうと誘ってくる父さんを、魔法の修行の一環だからと断った。

父さんは、俺と遊びたそうにしていたが魔法の修行と聞けば強くは出れずショボンと項垂れながら部屋から出ていく。これではどっちが子供か分からない。


その後も俺は集中し作業を続け、1日かけてようやく両親のフィギュアが完成した。

色はまだ塗って無いので白いままだが、リアル調に作ったので塗らない方が石膏像っぽくて、どことなく芸術っぽい。

出来に関しては……まあ、5歳児の手とブランクを考慮すれば、良い方だろう。

俺は、早速完成したフィギュアを持って両親に見せに行く。


「あら、アルバ。修行はもういいの?」


廊下で母さんにばったり会うと母さんは話しかけてくる。


「はい。完成したので父様と母様に見せようと思いまして」


「ふふ、あの人ったら貴方が遊んでくれないって子供みたいにいじけてたから後でたっぷり遊んであげなさいね。それで、完成したって言うの……は……」


そういって、母さんは俺のフィギュアをマジマジと眺める。


「ね、ねえ……アルバ。これ、本当に貴方が作ったの?」


「はい、写真を見ながら一生懸命造りました!」


「……メルクリオー!」


母さんは、何を思ったかいきなり叫んで父さんを呼ぶ。


「何だ、そんな大声で呼んだりして……俺は、息子に相手にされなくて寂しい休日を過ごしてたんだぞ」


子供か!

俺は、現れるなり子供みたいなことを言っている父さんに心の中でツッコミを入れる。


「そんなこと良いからほら見てこれ!アルバが造ったのよ!」


「どれどれ……まじ?」


父さんは、母さんに見せられたフィギュアを見て俺とフィギュアを見比べる。


「ねえ、この子ってもしかして芸術の才能があるのかしら……」


「いや……粘土ってのは文字通り土だ。もしかしたら属性に関係してるのかも」


両親は、何やら二人でこそこそと話をしている。

が、俺はしっかり聞こえていたので少し後悔していた。

久しぶりに趣味を満喫していたのでテンションが上がっていたが冷静になって考えてみると5歳児がいきなりこんなのを造ったら事情を知らなければ天才だと思うかもしれない。

俺が得意なのはフィギュア作りであって、絵心があるわけではない。

描けたとしても模写やトレスが精一杯だ。

なので芸術関係で天才と思われても困るので、先程聞こえたことを利用させてもらうことにする。


「え、えっと……なんだか土の気持ちが分かる様な気がしてそれの通りに作ってたらそれが出来たんです。きっと、土属性に関係があるかと思うんですが」


芸術関係で天才と思われるよりは土属性の才能があると思われた方が何倍もマシなのでそんな嘘をつく。


「ほ、ほらやっぱり土属性が関係してたんだ!」


父さんは、俺の言葉に嬉しそうにする。


「この間の件と良い、やはりアルバには土属性の才能があるのかもな」


父さんは納得したようにウンウンと頷く。

その日は、フィギュアの出来を散々褒められて夜を過ごしたのだった。

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