第4話

「……知らない天井だ」


いや、知ってるけどね。もう5年間も見てる天井だけどね。

俺は、一度言ってみたかったセリフを言った後、起き上り状況を確認する。

確か俺は、土魔法の練習をしていたと思ったんだが気づいたら自室で寝ていた。

もしやこれは、誰かからスタ○ド攻撃を受けたのか……?


「ああ、アルバ!目が覚めたのね!」


俺が阿保なことを考えていると部屋に入ってきた母さんが叫んで俺に駆け寄ってくる。


「庭のベンチで貴方が倒れていたから心配したのよ!お医者様は魔力の使い過ぎが原因だって言ってたけど……」


ああ、そういえばアルマンドさんから教わってたな。

魔力の量は人によって決まっていて、成長や鍛錬によって魔力の量は多くなるけどいずれにしても使いすぎて枯渇すると死んでしまうと。

んで、それの安全装置としてある程度使いすぎると気絶してしまうのだそうだ。

思い出してみれば、初めて上手く行った魔法に興奮してひたすら魔力を垂れ流していたな。

5歳児の魔力量なんてたかが知れているしそりゃ気絶もするわな。


「ごめんなさい……土魔法の練習に夢中になっちゃってたんだ」


俺は素直に頭を下げて謝罪する。


「土魔法の練習?もしかしてアルバ……あなた、詠唱の練習を……」


魔法の練習と聞いて母さんは眉をひそめ、責めるような口調で問いかけてくる。


「違うよ!詠唱が必要になる魔法はダメだって言うから庭で土を操る魔法を練習してたんだ。簡単な魔法なら詠唱が必要ないって先生も言っていたし……それで上手くできたからつい夢中になっちゃって」


俺は、慌てて否定し先程の事を説明する。

年甲斐も無く……まあ、見た目は5歳児なのだが精神年齢は前世から含めもはや30近い……そんな男がはしゃいだというのはいかんともし難い話だが、初めて使った魔法にテンションが上がるのは仕方ない話だと思いたい。


「そうだったの……って、アルバ!あなた、土を操れるようになったの!?」


「うん。といっても、手のひらに乗っけた土を動かすくらいしかできないけどね」


「それって、アルマンドさんからやり方を教わったの?」


「違うよ。先生は土属性じゃないから教えられないって言ってたから自分で考えたの」


まあ、これは嘘ではない。

前世でももし魔法が使えたらと散々シミュレーションしてたのでその結果と言えよう。

魔法のシミュレーションはオタクの必修科目だ。……と思いたい。


「……」


母さんは、俺の言葉を聞くと何か考え込み始める。


「……母様?」


真剣な顔で考え込んでいる母さんを見て、なんだか俺は不安になったので恐る恐る話しかける。


「ああ、御免なさい。ちょっと驚いていたのよ。私たちの子供だから魔法の才能はあると思っていたけどまさか誰にもやり方を教わってないのに出来るようになるなんてね」


まあ、確かに無知な5歳児がいきなり魔法を使えば驚くわな。

少々、思慮が足りなかったかもしれない。

今度からはもう少し誤魔化すようにしよう。


「それにしても……アルバは凄いのね。最初は土属性なんて、って思っていたけどもしかしたらあなたはウィルダネス様に愛されてるのかもね」


そう言うと母さんは、俺の頭をクシャクシャと撫でる。


「あなたの魔法の成果を見せてほしい所だけど、今日はゆっくり休みなさい。魔力の使い過ぎは体に毒だからね」


母さんは優しい笑みを浮かべながら俺を横にする。

魔力は基本休めば回復し、就寝時が一番効率よく回復するらしい。

魔力の使い過ぎの影響か体もだるかったので素直に言う事を聞きそのまま眠る事にした。


次の日、すっかり回復した俺は母さんと一緒に庭に来ている。

母さんに成果を見せるためだ。


「……本当に操れるのね」


俺が昨日のように土を一握り手の上に乗せて同じ要領で動かし始めると母さんは感心したように見つめてくる。

コツを掴んだおかげか昨日よりもスムーズに操れている気がする。

まあ、それでもまだ少量しか動かせないし外から力が加わればすぐに崩れてしまう脆さがある。

これが、慣れれば硬度を上げたりもっと量を多くして操れるようになるのだろうが……またやりすぎてぶっ倒れて心配をかけたくないので少しずつ鍛錬していく。


「アルバの事を疑っていたわけじゃないけど、改めて見るとやっぱりすごいわね。本当に誰にも教わってないのね?」


「うん。なんかこう、魔力を土に流せば操れるかなって思って昨日、練習したら出来るようになってたんだ」


俺の言葉に母さんは、また思案し始める。


「いい?アルバ。敷地内では良いけど他人が居るところでは、それは内緒にしておくのよ?」


「?どうして?」


「どうしても、よ。あなたには嫌な思いをしてほしくないから教えてあげられないの。大きくなった時に教えてあげるわ」


母さんは、そう言って俺の頭を優しく撫でるが何となく予想がついている。

これまた、マンガや小説でよくある話だが小さいころに並はずれた才能があってさらにそれが貴族の子供だったりすると良からぬ輩に目をつけられるかもしれないからだ。

俺の才能が並外れているなんて図々しい事は思わないが、母さんにとっては心配なのだろう。

俺も好きで心配をかけるようなゲスじゃないので素直に頷き、敷地外では内緒にすることを約束した。


「それでいいのよ。それじゃお昼ご飯にしましょうか?ちゃんと手を洗ってからね」


母さんは、そう言うとにっこり笑い俺の手を引くと屋敷へと戻っていくのだった。

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