第3話

魔法について教わり始めて1か月が過ぎた。

魔法の教師……アルマンドさんからはこの1か月の間、ひたすら魔力のコントロールの仕方について教わっていた。

おかげで、魔力のコントロールについてはしっかりと覚えることが出来た。


「本格的な魔法は入学してから教わるので私が教えるのは初歩中の初歩です。魔法とは、そもそもどういうものか分かりますか?」


魔法……ゲームかなんかだとMPを消費して放つ技だ。

呪文を唱えて発動。漫画なんかでは自然の精霊と契約して放ったりと色々設定がある。

俺はこれらの知識をまとめて考えてから自分なりの答えを言う。


「自然の力を借りて放つ術……ですか?」


「簡単に言えばそうですね。しかし、その自然の力も元は四神と主神の力。私たちは神から力を貸していただいているのです。呪文とはいわば、神との契約のようなものです。炎の魔法を放ちたいなら火の女神 アグニ様の力を借りて放つ。 簡単に言ってしまえば、呪文は神に“今から貴方の力を借りますよー”って許可を取っているようなものです」


アルマンドさんは、見た目は5歳児の俺に出来るだけ分かりやすく説明する。


「中には、無詠唱と呼ばれる呪文を唱えずに魔法を放つ技術もありますが、あれは先天属性のみ……つまり後天属性を会得せずそれぞれの女神に気に入られた者のみが扱えるとされています。無詠唱を会得している者は少なくありませんがより高度な技術が必要になるので使いこなすのは難しいですね」


なるほど、要は浮気せず一途に女神さまに貢献すれば一々許可を取らなくても魔法が使えるようになるって事か。

無詠唱……何とも中二心をくすぐる単語である。

他属性も気になるが、もともと俺は土属性で成り上がろうと決めていたしどうせなら後天属性には手を出さず土オンリーで勝負するのも良いかもしれない。


「それと魔法を使う際には想像力が鍵になります。炎の魔法を放つなら炎のイメージを明確に氷の魔法なら氷のイメージを明確に……こればかりは個人の想像力により異なるので確実な助言はできません。完全に本人の資質になります。極端な例を挙げるとすれば炎の魔法を放つのに氷のイメージをすれば魔法は発動しないってことです」


あー、要はあれか。

よく小説なんかである火の魔法ならライターの火が付く現象を思い浮かべるとかそんなんか。

火とか水とかならわかるが……土のイメージって何だろうな……

硬いとかそんなんか?

後は……砂とかか。

まあ、そこらへんはおいおい考えていくか。


「ちなみに呪文が必要なのは高度な攻撃魔法や回復魔法で無から有を生み出す場合です。元からある……つまり燃えている火を操ったりなどはより集中力と魔力を使いますが慣れれば詠唱なしで術を行使することも可能です。ですが、やはり詠唱ありの魔法よりは格段に効果が劣るので日常生活以外では使われることはありませんが」


なるほど……と言うことは、土に分類されるものなら慣れればある程度操れるって事か。

ここらへんは使いようによっちゃ大きなアドバンテージになるかもな。

広義的に考えると土……というか地ってのは色んな所にあるからな。

岩、砂、土、石。自然界に置いてはおそらく他の属性よりは自由度が広いかもしれない。

それでも不人気なのは、やはりどうしても見た目が地味だから研究がされないのだろう。


「アルバ様は土属性ですので、生憎私は細かく教えることが出来ないのです。王都の魔術学園ならば居るとは思いますが、そもそも土属性を習おうって方が少ないので」


まあ、わざわざ不人気な属性を極めようってやつは居ないわな。

それだったら望みのある後天属性にかけるだろう。


その日は、軽い魔法の知識について教わり授業は終わりとなった。

魔法のコントロールを覚えてからは毎日、コントロールの鍛錬がメインとなりそれも1日2、3時間くらいで終わる。

理由としては俺がまだ5歳と言うのと学園に入る前に変な癖がつかないようにと言うことらしい。

あくまで本格的に習う前に魔力が暴発しないための勉強だと言うことだ。


そうそう、言い忘れていたがこの世界では科学の代わりに魔法が発達していて電気ではなく魔力を使った電化製品ならぬ魔化製品がいくつかある。

魔力をため込む性質のある魔石というのを使い、例えば冷気を込めれば冷蔵庫が出来上がり、定期的に魔力を込めることにより継続的に使用できるらしい。

それの応用で時計もあり、1日24時間で計算され現代っ子の俺も随時時間が確認できるというわけだ。

魔法も科学も最終的に行きつくところは同じとよく言われるがまさにその通りだと思った。


授業が終わり、俺は屋敷の庭で何か簡単な魔法を使えないかと思案していた。

詠唱が必要となる魔法は、学園に入るまでは禁止だとアルマンドさんから言われていたので必要とならない魔法で練習しようと言うことだ。

不遇な土属性を極めようと言うのだから他の属性と同じカリキュラムで進んでいたらそんな夢も叶わない。

まずは、土属性について理解しなければいけないのだ。


俺は、一握りの土を掴むとベンチに座って土を眺める。

アルマンドさんは、確か詠唱なしでも慣れれば詠唱有よりは劣るが操れるようになると言っていた。

あくまで俺の予想だが、鍛錬すれば某忍者漫画の様に砂で自動防御とかそういう事も可能になるかもしれない。


まずは土を動かしてみようと思い眺めていた土に動けと念じてみる。

しかし、土は動く気配が全くない。

想像力が大事と言うだけあって漠然とした命令ではやはりダメなようだ。

次に俺は精神を集中させ、土の動きを鮮明にイメージする。

土が盛り上がり山のような形に動き出すイメージをし、魔力のコントロールの応用で魔力を手の上の土に流し込むイメージをする。

最初は全く反応せず、何度か試してそろそろ集中力が切れ始めた頃、それは起こった。


目を閉じていたので、明確なのは分からなかったが僅かながら確かに土が動いたのを感じたのである。

一瞬、風かとも思ったが現在は無風だったので、それは無い。

俺は逸る気持ちを抑え、一度深呼吸して集中しなおし、今度はしっかりと土を見ながらさっきと同じ工程を繰り返す。

すると、土は確かに動いていた。

ずずずと、土は手の中央に集まりだし微妙ながらも山……のようなものになる。

結果としては何とも言えないがそれでも俺が土を操ったと言う事実は大きい。


「おっ……やっ……」


感動を口にしたかったが、感情が先行してうまく言葉が出なかった。

実質、俺の初めての魔法なのだからそれも当然だ。

俺は嬉しくて、その後何度も何度も挑戦する。

回数をこなすごとにそれは動きが活発になり、ちゃんと山とわかる様な形になり、その後も手の上の土ならある程度好きな形に出来るようになった。


俺はすっかり夢中になり時間を忘れて土で遊んでいたら、いきなりそこで意識が途絶えたのだった。

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