第1話
俺が新しく生を受けてから3年が経った。
何故いきなりこんな時間が経ったかと言うと単純に俺の行動範囲が増えたのが3歳になってからというだけだ。
家の中限定とはいえ、自由に歩き回れるというのは大きい。
赤ん坊のころは情報収集も何もできずただ寝ているだけだったから暇で仕方が無かった。
俺が普通に歩き回れるようになったことで分かった情報がいくつかある。
まず、この世界は俺が居た地球とは別の世界だと言う事。
理由としては、誰もが夢見る『魔法』が普通にあったからだ。
厨房で何もない所から火を出したり雨が降っているときは室内に洗濯物を干して風で乾かしていたりと、使い道は何ともあれだがそれは間違いなく魔法だった。
俺の母さん……メリエラと言うらしい……に聞いたところ、魔法は一般的で魔力の量に差はあれど、全員何かしらの属性の適正はあるらしい。
魔法についてもっと詳しく聞こうと思ったが、俺にはまだ早いと教えてくれなかった。
魔法の適正が分かるのは5歳からでそれまでは、魔力に目覚めてないただの人間らしい。
つまり、俺の属性が分かるまであと2年待たなければならないのだ。
やはり、此処は主人公になりやすく尚且つ強いイメージがある炎属性……はたまた、クールでいざというとき主人公の力になるイメージの氷属性か……
もしくは、大抵の漫画で特別な立ち位置になりやすい光や闇属性……
今から自分の属性が分かる日が楽しみである。
あ、後は……どうやら俺の家は貴族とやららしく家……というか屋敷は広くテレビや漫画の世界でしか見たことが無いメイドや執事などを屋敷内で見かけ、俺を見るとみんなして「ぼっちゃん」や「坊ちゃま」などと笑顔を浮かべ話しかけてくる。
いつかは、大金持ちになってメイドを侍らせたいとかそういう分不相応な夢も持っていたが、いざ大金持ちになってそういう扱いを受けると基本が小市民な俺は、なんだかこそばゆい物がある。
まあ、それは置いといて別世界と言うことで目に映る物すべてが新鮮な俺は毎日、屋敷の探索をしていた。
見た目は3歳児なのでなるべく怪しまれないよう3歳児らしい振る舞いをしつつ、俺は今日も父親の書斎へと向かう。
ちなみに、父の名前は、メルクリオ これまた赤い髪のよく似合う爽やかイケメンである。
俺は、そんな美形夫婦から生まれただけあってこの間、自分の顔を確認したら地球に居た時とは段違いの美形だった。
髪は、両親の血を引き継いで燃えるような赤い髪。
そして、やや中性的な顔立ちでそっち系の趣味を持ってるなら涎ものの顔つきだった。
俺を美形に産んでくれた両親に感謝である。
父は普段、王都と呼ばれる街で仕事らしく基本は不在で週末に帰って来て2日ほど滞在した後、また王都へと向かうらしい。
この世界でも時間の流れは地球と同じらしく、7日で1週間 週末2日は基本休日で30日で1か月 12か月で1年周期との事。
王都からこの街までは馬車などを使えば3日ほどかかる距離だが、なんと空間転移の魔法も確立されているらしく、指定のポイント同士を繋げたらその間だけならば一瞬で行けるらしい。
最も、維持費などが高いらしく貴族などの上流階級じゃないと高くて利用できないらしい。
一般人は馬車や飛行船などを利用して長距離を移動するらしい。
そんなわけで平日は、持ち主不在の書斎で書物を読みふけっている。
元々、活字を読むのが好きな読書少年としては初めて見る書物ばかりで新鮮で楽しかった。
特に魔法関係の書物は興味深く時間を忘れ没頭するほどだった。
そうそう、ちなみに何故か文字も普通に読めた。
勉強した記憶は無いがこれも転生補正と思って納得することにした。
ご都合主義万歳。
魔法に関しては、地球にある常識とほとんど変わらなかった。
属性は、炎(火) 氷(水) 風(雷) 土(大地) の4元素に加え光、闇、何にも属しない無 の七属性が存在する。
この世界では、先天属性と呼ばれ誰しもが必ず何かしらの属性を持っているとのこと。
先天属性は変えることが出来ず、基本はその先天属性を鍛えるらしい。
先天属性は例外なく1つしか持つことしかできず、後天属性として他の属性を鍛えることが出来るらしい。
後天属性は先天属性と違い、才能さえあれば数に限りは無いが、先天属性に比べれば大幅に性能は下がると言うことだ。
ちなみに、うちの両親は父が氷 母が炎という何とも対照的な属性持ちだ。
属性は、遺伝では引き継がれず完全に本人の資質によるところらしい。
親がどちらも氷でも炎属性持ちの子供が生まれたりと法則性が無く、なぜこうなるのかは解明されていない。
また、この世界では派手であれば派手であるほど、また威力が高い魔法を有している魔導士ほど優遇されている。
高火力で派手な魔法が多い炎属性が一番人気で次点で氷、風。
光と闇は、そもそも先天属性が希少なため別格扱い。
そして、一番見た目が地味で守ると言うイメージが強い土属性は一番不人気で先天属性で土となったものは魔導士を諦めるか後天属性で他の属性を死ぬ気で頑張るらしい。
俺の世界でもそうだったが、やはり土と言うのは得てして不遇なのかもしれない。
そして炎属性の主人公率の高さ。
そろそろ炎属性の主人公設定はお腹いっぱいである。
個人的には、闇の力~とかダークヒーロー的なのが好きだったりする。
「アルバおぼっちゃまー。どちらですか~?食事の時間でございますよー!」
俺が本を読みふけっているとメイドの声が聞こえてくる。
ふむ、もうそんな時間だったのか。
俺は読んでいた本を閉じると声のした方へと向かうのだった。
なんだかんだで2年が経ち俺は5歳になった。
魔法が使えないただの日常をただ見せても退屈だしな、うん
やっぱりファンタジーは魔法が使えてなんぼだろう。
……誰に言ってるんだろ、俺
まあ、そんな感じで俺は今、俺の頭くらいありそうなでかい水晶玉の前に座っている。
5歳になった事で先天属性が確定しその属性の確認のためだ。
属性次第で教育方針が決まるので重大だ。
「それでは、アルバ様……水晶玉の上に手を置いてください」
真っ黒いローブを着た鼻の長い、いかにも魔女ですと言った感じの老婆は、そう言って促してくる。
俺は、早く自分の属性を知りたかったので躊躇することなく水晶玉の上に手を置く。
それから数秒程経つと水晶玉の中に茶色い靄のようなものが現れ水晶内を渦巻きはじめる。
すると、俺の後ろで見守っていた両親や周りの使用人達が息を呑むのが伝わってきた。
何だろうか。これはもしかして、転生物にありがちな滅多に無い属性とか、複数属性を持っているとかいうチート展開か?
俺が、内心そんな期待に胸を膨らませているとその期待はあっさりと打ち砕かれることになる。
「アルバ様の先天属性は……土でございます」
へー、土かー。まあ、靄がなんか茶色っぽかったしなー土!?
土ってあれだよな、確かこの世界ではめっちゃ不人気な……
思わず周りを見渡すが両親や使用人たちは顔にこそ出していないが落胆……というよりかは、俺になんて声を掛けたらいいか分からないと言う風な微妙な空気を醸し出していた。
「ア……アルバ!土だってさ!土!土属性はその特性から防御魔法が多い!皆を守る力だぞ!」
父さんは、若干笑顔をひきつらせながら俺の頭を撫でそんな事を言う。
まさか5歳児が既に魔法についての知識をある程度持っているなんて思いもしていない父さんは、それでフォローしているつもりなのだろう。
使用人達や母さんも父さんに合わせるかのようにフォローしてくる。
「ぼ、坊ちゃまは優しい性格でいらっしゃいますから攻撃よりもきっと守りに長けた属性になったのでございますよ!」
「そうね、アルバが優しい子だってのは私たちが一番分かってるものね」
大人達は俺の事を大切に思ってくれてるからこそ、必死にフォローしているというのが伝わってきたので俺は、何とも言えない複雑な気持ちになる。
「うん!ありがとう!僕ね、皆を守れる力が手に入ってよかったよ!いっぱい勉強するね!」
俺は、あくまで見た目は5歳児という事を忘れずなるべく不自然にならないように無邪気なフリをして礼を言う。
その言葉を聞いた両親は、笑っているのか泣きそうになっているのかの中間くらいな微妙な表情を浮かべる。
「僕、ちょっと緊張して疲れちゃったからお部屋に戻ってるね!」
その場の空気に耐えられなくなった俺は、笑顔のまま自室へと走っていく。
後ろで両親が何か言っていたようだったが俺の耳には入らなかった。
俺は、自室に戻りベッドに横になると先程の事を思い出す。
本で土属性が不遇の扱いを受けているとは知っていたが、まさかあそこまで露骨に不遇だとは予想していなかった。
この世界では、派手な魔法ほど好まれる傾向がある。
もちろん、それは個人差があり回復魔法などはまた別の需要がある為一概には言えないが、基本は派手な魔法=ステータスという風潮はある。
「それにしても土……かあ」
俺は先程の結果を思い出す。
少なくとも主人公の持つ属性ではないわな。
まあ、俺自身、自分が主人公だとかおこがましいことは思ってないのである意味妥当かもしれない。
美形に生まれただけでも充分勝ち組なのでそれで良しとしよう。
それに逆転の発想だ。
それだけ不遇な扱いを受けている土属性だからこそ極めて誰も何も言えない様な功績を成し遂げれば土属性に対する見方も変わるかもしれない。
俺は少々、捻くれた性格で不人気、不遇であればあるほど燃える性質なのだ。
格ゲーだと一般では弱いとされているキャラを好んで使ったりネトゲではいわゆる地雷職、不遇職と言われる職業にわざとなったりという感じである。
そんな俺だからこそ、最初は土属性と聞いて驚いたが今冷静になってみるとなんかこう……ふつふつとやる気が湧いてくる。
どん底からの成り上がり……なんかの物語の主人公っぽくてかっこいいじゃないか。
先程は、主人公だとは思っていないとカッコつけて言いはしたが、やはり俺も男。
主人公というのには憧れるものがある。
幸いにも俺は、地球でのオタク知識がある。
この世界の人間が思いつかない様な魔法の使い方も、今は思いつかないがいずれは思いついてみんなの注目を集められるかもしれない。
俺は、そこまで考えると立ち上がり土魔法の地位を向上させる決意をしたのだった。
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